枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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大華繚乱

陰間と客 壱 ❁

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   大蛇姫は大人気で、華屋のこれまでの演目収入を大きく上回る成果を収めた。

   一幕見世は、合間の休みを除いて五日間で第一幕~第五幕を四クールやって終わりにするのを、その人気の高さから、繰り返しての上演が決まったほどだ。

  俺も俺で「華屋に大華百合之丞あり」と瓦版に書かれるほどになり、今では他の見世劇場の芸子達にも一目置かれるようになった。
  おかげで以前楓がされていたように、俺が華屋に出入りする時には出待ち客が待ち構えて道に溢れている。

  「百合さーん」
  「大華~」
  黄色い声と野郎の太い声に名を呼ばれれば、振り向きざまに顔を斜めにしてにこり、と微笑む。
  それだけでまた歓声が上がり、多くの贈り物が俺に差し出されるのだ。
  それを金剛まわしが引き受け、背に背負った籠に入れていく……んだけど、やっぱりかたわらには宗光がいて、客が俺に触らないよう牽制して、金剛よりもマネージャーらしさを振りまいているのである。

  「いや、宗光さ、ありがたいよ? いっつも俺を守ってくれるのはありがたいけどさ。マジで仕事に行きなよ仕事にさ」

  宗光の思惑通り、宗光の舞台演出は他の見世や本歌舞伎座だけでなく、江戸での様々な催しに使われ始め、まさに「大儲け」状態。
  だから忙しいはずなのに、この男は影のようにぴたりと俺に寄り添っている。

  「仕事ならちゃんとしてるって。だから金もちゃんと収めてるやろ? 仕事なんざ下の者を上手く使ってなんぼなんやで」

  「俺は商売は良くわかんないけど……宗光、他にも仕事があるんだろ? 俺にばっかかまけてないで、自分の時間も取れよ……」

  華屋に着いて、部屋まで送り届けてくれた宗光に言う。すると宗光は、ぱあぁぁぁぁと顔を輝かせた。

  「百合ちゃん、俺のこと心配してくれてるんやなぁぁ。感激や」
  腕が伸びてギュム、と抱きしめられる。

  「く、苦しい、宗光」

  「あ、悪い。つい。百合ちゃん疲れてるのにな。ほら、風呂入っといで。俺もすぐ帰ってくるから。……明日は舞台休みやし、今日は久しぶりに仲良ししよな」

  ちゅっ、っと、髪の上から頭に口付けて、宗光は部屋から出て行った。

  茶屋には客用の風呂はないから、宗光は江戸ならではの湯屋銭湯に行くのだ。

  それにしても甘い。あいつも大概甘い。二十四時間四六時中、俺を甘やかしにかかる。そして、前々から気づいてはいたけど、俺は甘やかしにめっぽう弱い! なんだかんだ言って、優しくされると情が湧いてしまうところがあるんだよな、俺。

  でも……相手はお客だから。情は湧いても恋心にしたりはしないんだ。

  陰間と客の関係は期間限定の疑似恋愛だ。このあいだは舞台後の気持ちの昂りと疲れで一瞬流されそうになったけど、俺が華屋から上がったら契約は終わる。宗光だっていつかは大阪に帰るんだろ?

  「これからは俺に甘えろ」だなんて……俺はもう、叶えられない約束はいらないよ。

  「ぐわぁぁ、ネガティブ、ダメ、絶対!」
  暗くなっていると幸せが逃げちゃう! 不幸体質呼び寄せ要注意!

  頭を振って風呂道具を掴み、湯殿へと早足で向かった。頭の中ではマインドコントロール。

  俺は陰間。俺は陰間! 俺は陰間だ!! ひとときの時間をお客と共に楽しむ。契約のあいだはお客がしてくれることに喜び、幸せを返す。それが俺の仕事。
  それで、華屋を出たら売れっ子の役者になって……きっと可愛い女の子のファンが今よりたくさんつくから選りどりみどり。今度は「ちゃんと男として」恋をするんだ。
  あわよくば結婚して、永遠の愛を囁いたりしてさ。

  ──うん、いいね。このイメージでいこう。女形や陰間をやってるせいで気持ちが女の子になるから気が弱くなるんだよ。
  「しかし問題はこの体型……」

  自分で言うと本当に虚しいけど、江戸に来てから全く成長していない。
  とっくに成長期を過ぎているし、陰間の粗食は現代人の俺には栄養が足らなかったのか、身長は五六寸169cm程度、稽古で鍛えているはずなのに筋肉は薄いし、肌は薄くて真っ白け。

  女形を張るには最適なんだろうけど、これで将来女の子を抱けるのか……楓なんかは奥女中さんおおおくのお客もいたけど、俺は男のお客しか経験がないし、なんなら現代でも未経験。想像しようにも全くできないな……。


  「なんや? そんなに俺の体、魅力的か?」
  湯屋から戻ると食事もそこそこに、俺の体を求める宗光の胸筋をぺたぺたと触り、観察していた。
  保科様より少し背が高い宗光もまた、男らしいしなやかな筋骨を持っている。

  「どうやったらこんな筋肉つくのかなって」

  「? なんで筋肉?」

  「だって、俺、あまりにも軟弱過ぎない? ペラッペラ」

  「んー。でもこの辺とかめちゃめちゃ可愛いけど」

  「ひゃっ」

  緋襦袢に忍び込んた大きな手で臀の片側を掴まれ、指が食い込む。まるで女の子の胸を触るように指は開き、優しく揉みほぐして菊座に触れた。

  「ん……」

  人差し指が菊座を撫でる。宗光の乾いた冷たい指に俺の体温が移り、段々と互いの熱が同じになっていく。
  宗光の唇が瞼に落ちるのと、俺の腕が宗光の首に回るのは同時だ。

  「今のままでも可愛い。薄い胸も細い腰も、丸くて柔い臀も全部好きや」
  言いながら唇は小さな水音を奏でて頬や額を愛撫した。
  菊座に円を描いていた指は会陰を撫で上げ陰嚢に到達する。

  「……むねみつ……」
  丁寧に、優しく、慈しむように陰嚢を包み解されても、既にそり立った熱だけは置いてけぼりにされていて、焦れったくて名前を呼んだ。

  「百合ちゃん、男らしくなりたいんか? 俺は別にそれでも構わんけど、なんでかなぁ」
  焦れったさに腰が浮くのを見ているくせに、手はその部分だけを際どく避けて下半身を撫でる。

  「ふ……んン……も……焦らさないで……」
 
  「あかん。おあずけや。俺以外に体を見せる必要なんかないのに、なに考えてるん?」

  とうとう手は下から離れ、帯をほどいて合わせを開くと、臍から胸骨に向けて中指を走らせ、そのまま胸の周りだけをくるり、くるり、と大きくゆっくりと遊ぶ。
  敏感な部分からはほど遠い触れなのに、俺の胸の先端はピン、と尖っていた。

  「やだ、もう、早くして」

  「答えを聞いてないで。ほら、なに考えてるんか言ってみ」

  俺は首を左右に振った。
  絶対言わない。
「亭主」に契約が切れたあとのことなんか。口にすれば陰間として失格だ。

  「百合ちゃん」
  宗光がふうっと胸の尖りに息を吹く。触れそうで触れない唇。

  「百合ちゃん、言って」
  宗光が口を開くと、唇が微かに先端に触れて、それだけで体がピクンと反応した。

  「百合」

  「~~~~宗光も最後はいなくなるじゃん!」
  焦れったさが気持ちの余裕を奪い、心の声を漏れさせる。
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