事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ

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事故つがいの夫は僕を愛してる

初めての巣作り②

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 何度も僕に振り返って手を振る理人に手を振り返して、背中が見えなくなると急いで家の中に戻る。
 休日は理人が全部やってくれる家事を、不器用な僕なりにこなすには時間がかかる。

 理人はまとめてやるからしなくてもいいよ、と言ってくれるけれど、僕がやりたいんだ。仕事も勉強も頑張っている理人が少しでも寛げる場所を、僕が作りたい。

 これとパートの仕事だけは、僕たちの関係が修復されて甘えられるようになっても、甘えたくないこだわりの部分。

「ふぅ……これで、いつでも帰って来たいと理人が思ってくれる部屋になったかな」

 ひと息ついたら次は自分の身支度。
 自分の部屋……と言っても初デートのあとに買った大きいベッドが僕の部屋にあるから、今や理人との部屋と言っても過言じゃないのだけれど、こっちのクローゼットには僕のものが入っているから、中に入って着替えを始める。

「……あっ! 理人ったら!」

 白いシャツに腕を通しながら鏡を見ると、左側の首筋に赤い痕!
 出かける前に吸い付かれたときのだ。
 強めに吸われた気はしていたけど、キスマークになっているなんて。

「こんな、耳のすぐ下に付けられたら隠せないよ……どうしよう……」

 人差し指と中指でキスマークに触れる。その途端。
 吸われたときの感触を思い出して、背中がゾクゾクした。ゾクゾクはお尻の骨まで響いてきて、その下にある後孔がひとりでにすぼまる。

「……どうしよう……仕事に行く前なのに、変な気分になっちゃった……」

 太ももの間のものも兆し始めて、スウェットズボンの前が膨らんでいる。
 僕はキスマークから指を外し、それを口の中に入れた。

「理人……」

 そこに理人の名残がある気がして、ちゅう、ちゅる、と指を吸って唾液をしたたらせる。
 その間に膝から下をカーペットに付けて座り、反対の手でスウェットズボンをずらした。シャツは羽織っただけだから、ズボンをずらせば熱を持った芯があらわになる。
 もう先がピンク色に染まって、鈴口から透明な雫が垂れていた。

「ふ……」

 右手で熱芯を握り、とろりと流れてくる先走りを広げるように上下する。唾液で濡れた指は後ろに回し、理人のことを思うだけでヒクヒクする孔の中に入れた。

「は、あ、っんん……理人、理人ぉ……」

 目を閉じて大好きな理人を思った。最近の理人はいつも、最初はゆっくりと、長い長い時間をかけて僕の感じるところを愛してくれる。触れ方もすごく優しくて……優しすぎて、僕から求めてしまうんだ。
「ねえ、もっと強くして」って。そうしたら「なにを強くしてほしいの」と言って、「言えないならできないよ」と意地悪を言う。
 
 じれったくてもどかしくて、僕は言ってしまうんだ。「僕の感じるとこ、もっと強くこすって」って……。

「ん、ん、理人、強くしてっ……!」

 頭の中の理人に懇願する。すると僕の手は理人が乗り移ったみたいに動いて、前と後ろを一気に高みへと導いた。

 「は……ぁ、あ……仕事に行く前にしちゃった……」

 右手の中に白濁、左手にはねっとりとした孔液。罪悪感に似た恥ずかしさを感じながらティッシュで片づけた。
 身体の熱さが気になったけど、自慰をしたからだろう。僕はのろりと立ち上がって服の着替えを終えた。




「高梨君、おはよう! ……どうした、寝違えたか?」

 仕事場の洋食屋に入って挨拶するなり、真鍋さんに怪訝に見られた。
 左耳の下に付いたキスマークに気づかれないようにするために、小首を傾げたような状態でいるからだろう。

「真鍋さん、おはようございます。いえ、そういうわけじゃ。あはは……」

 理人~。服でも髪でも隠せない位置につけるなんてどうしたんだよ~。

 性行為のとき、どこかしらにキスマークや咬み痕を残す理人だけど、分別がある人だからいつもは見えないところに付けるんだ。
 お臍の下とか、太ももの付け根とか……「俺にしかつけられないところだね」なんて言って。

 「キスマークをつけるのも理人しかいないよ」と言うと、「天音は俺のつがいだっていう印」とくすっと笑う。
 「つがいの印はうなじの咬み痕があるよ?」と首をかしげれば、「いいのいいの。俺の自己満足だから」とまたひとつ、誰にも見えない場所にキスマークを増やす。

 なのに今日は、しているときでもなく、それも目立つところにするなんてどうして……。

「なんだ? ずっと首が曲ってるじゃないか。それに心なしか顔が赤いし、目が潤んで……」

 真鍋さんが僕に顔を寄せて手を伸ばしてくる。

 すると飲み物を飲んだわけでもないのに真鍋さんの喉仏が大きく上下し、ゴクリと喉が鳴った。
 どうしてしまったのか、そのまま僕をじっと見下ろしたままで、硬直してしまう。

「真鍋さん?」
 
 なんだかいつもの真鍋さんじゃない。硬直しているのに息遣いが少し荒くて、お腹を空かせた熊さんみたい……なんてたとえ、失礼だよね……。

 だけどちょっと怖くて、僕は曲げていた首を伸ばしてしまった。
 
「……! 悪い。近づきすぎた!」

 すると真鍋さんは、はっとしたように言って顔と手を引いた。すっかり元の真鍋さんに……いや、なんだか急によそよそしくなって目をそらし、言いにくそうに続ける。

「それ、すごい威嚇だな。旦那か。……旦那しかいねえけど」

 威嚇……それ? 旦那……理人?

「あっ……!」

 急いで左の首筋を手のひらで覆う。キスマークを見られてしまった!

「そこからあいつのアルファフェロモンを感じる。すっげえしゅうちゃ……あ、いや。高梨君のこと、心配してるんだな。発情期、近いんだっけ。来週頭から一週間、休み希望出してたもんな」
「あ、はい、そうですけど」

 え? どうしてどうして? "キスマーク"と"心配"がどうしてすぐに結びつくの? 理人のすること、僕でもわからないときがあるのに、真鍋さんにはわかるんだ?

「でも、さ……今日から休んだ方がいいかも。多分、発情期の兆候出てるぞ?」
「え? そんなはずないです。最近はずっと順調だったし、自分でもそんな感じはしないです」

 と言いつつ、ここにくる前に自慰をしてしまったからだろうか。なんとなく体が怠い。それに、隠していたキスマークを見られてしまったからか、そこがジンジンしてきて、首や顔が熱くなってきた。

「ほら、もう、さ。高梨君、無自覚過ぎるんだよ。ヤバいってそんな顔してたら。フェロモンが旦那以外に作用しなくても、アルファだけじゃなくベータの男もフラフラするって!」
「そんな顔……?」

 そう言えば真鍋さん、会うなり「顔が赤くて目が潤んでる」って言っていたような……。いったいどんな顔になっているんだろう。

「あ~。まずい、これ以上はまずい。とにかく帰んな。タクシーで! オメガの運転手のとこに電話してやるから! 店長ー! 高梨君、緊急で帰りまーす!」
「えー? まあ仕方ないな。今仕込みで手が離せないから、真鍋頼んだぞー」
「うっす」

 ええ? 今からランチで忙しいのに、欠勤? 

「大丈夫です! これくらいなら常備の抑制剤を飲めば収まりますから、働かせてください!」

 そう言ったけれど、真鍋さんはさっさとタクシーを手配すると、僕の顔も見ないで車内に押し込め、家に帰らせてしまった。

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