事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ

文字の大きさ
32 / 76
事故つがいの夫は僕を愛してる

初めての巣作り③

しおりを挟む
 「あーあ……。パートに行ったのに予定外の出費だ。全然家計の役に立てないや。やっぱり僕って駄目だな」

 ため息をついて玄関の鍵を開け、扉を開く。少し身体はだるいけれど、発情期前症候群というほどでもない。これなら問題なく仕事ができたのに……。

 オメガの僕をいつも気遣ってくれるのはありがたいのだけど、真鍋さんという人も、理人に匹敵するくらいに心配性だ。

 そう思いながら廊下を進み、リビングに入るドアを開けた瞬間だった。

「――あっ……!」

 部屋のどこからか理人の匂いが香ってきて、鼻や喉を通り、僕の中に入ってきた。
 すぐに身体の力が抜けて、がくんと膝が折れてしまう。

「は、はつじょ、き……?」

 もう来てしまったのか。真鍋さんの言うとおりだった。

 それにしても久しぶりにきついかも。酷い風邪をひいたときみたいに全身がざわざわして、すごく喉が乾く。

 ううん、違う。これ、身体が乾いているんだ……アルファりひとのフェロモンが欲しいって、僕の体中の細胞が叫んでいる。

「りひと、りひとぉ」

 理人に連絡しようと、デイバックの中からスマートフォンを取り出した。
 電話アプリをタップして、理人の番号を表示する。

「帰ってきて、理人、今すぐ帰ってきて……」

 ──駄目、やめるんだ。
 理人は今、大事なときなんだ。邪魔しちゃいけない。
 遅くなっても夜には帰ってくるんだから、薬を飲んで自分でなんとかしないと。

 甘えが出ないように、スマートフォンを電源ごと切った。次にバックの中に入れておいた抑制剤を口に放りこむ。冷蔵庫に水を取りに行く余裕もないから、かじって飲み込んだ。

「苦い。理人にキスしてほしい……」

 甘い甘い、理人のキスを思い浮かべる。
 最初は口に、それから首を通って鎖骨や胸の真ん中、胸のふたつの飾りにも運んでくれるあの唇……。
 
 ──理人が欲しい。

「ん、はぁ、はぁ」

 息を切らしながら胸に手を伸ばし、先をいじった。もうコリッと硬くなっていて、ちょっと触るだけでオメガの子宮が疼いた。
 けれど疼くだけ疼いて、余計に苦しくなる。

「理人、理人、理人っ」

 僕は理人を求めて理人の部屋に入った。理人が使っていたベッドは使えなくなって処分したから、四畳半の部屋はすっきりとしている。それでもここには理人が勉強する机や日用品が置いてあるから、大好きな匂いがした。

「理人の……家でいつも使ってるペン……でもこれじゃ足りない……」

 フラフラとクローゼットを開ける。

 ──ああ……理人の匂いだ……。

 僕はハンガーにかかった理人の服を中央に集めて抱きしめ、深く息を吸った。洗濯はしてあるけれど、アルファのフェロモンは強いから、匂いが残っている。

「えっと、これと、これと、これも」

 目につく服から順にハンガーを外して手に取る。

「あ……これ、初めてのデートのときの服……あのときの理人、かっこよすぎて、僕はまた目をそらしちゃったっけ」

 くんくんすんすんと匂いを嗅いで、床に置く。皺になったら嫌だから、綺麗に伸ばした。

「こっちは……お気に入りのパーカーだ。オーガニックコットンだから肌当たりがよくて、僕も好き」

 すりすりと頬ずりをして、さっきの服の下に広げて置く。

「この上着は……もうずいぶん長いこと着てるかも。高校のときもこれを着て家に会いにきてくれた……申しわけなそうに目をそらしてばかりで寂しかったけど、スマートフォンメッセージをたくさんくれてたよね」

 ぎゅう、と抱きしめて、高校生の頃の理人を思い浮かべる。ひとしきり匂いを嗅いでから、これも綺麗に伸ばして床に置いた。

 次の服も、靴下も下着も、全部取り出して同じように並べていく。

 体は辛いけれど、理人の衣類が道みたいに延びていくのが楽しくて……衣類が、理人の歩んできた道や僕と生活してきた道を示してくれるようで、僕はふたりの思い出を噛みしめながら、リビングまで服を繋げて置いていった。

「あ……もう、服がない……」

 僕が誕生日にプレゼントをして、特別なときにだけ着けると言ってくれたネクタイを置くと、道が途絶えてしまった。

 急激に寂しさが溢れて、同時に劣情がぶり返す。

「あ……ぁ……どうしよう。どうしよう……。……そうだ……!」

 僕は手に持ったままの理人のペンを握りしめながら、自分の部屋に向かった。

 あった! 家の中で、理人の匂いが一番強く残っているもの。

 理人のパジャマに枕、それからシーツに夏用のコットンケット。

 ふたりのベッドの上にそれらを見つけることができて、嬉しくて涙が出てくる。
 
 胸がいっぱいになるくらいに匂いを吸い込むと、恥ずかしいけれど涙だけじゃなく、先走りも孔液も出てきてしまう。

 僕は見つけた全部を抱えてリビングに戻り、床に最後に置いたネクタイの下に枕とシーツを置いて、その上に座った。それから服を全部脱ぎ、理人のパジャマを着る。

「へへ。ぶかぶかぁ」

 理人の匂いがいっぱいのパジャマ。こうしていると抱きしめられてるみたい。下着を着けずにズボンをはいたから、少し体を動かすと布がこすれる。
 なんだか、じれったく愛撫してくれる手に似ている。

「ん、理人……」

 僕は枕に横顔をうずめてシーツに寝転び、コットンケットを頭からかぶった。

 ──まるで、鳥の巣の中みたい。理人の匂いがいっぱいの、理人の巣。

 充足感に満たされながら、ぶかぶかのパジャマの袖を引っ張る。
 指先が隠れたら、袖口を口に含んだ。

 赤ちゃんみたいかな。でもいいや、吸っていると落ち着く。

 ボタンは締めなかったから、パジャマの裾の硬い部分を手で摘まんで、肌に滑らせる。

 気持ちいい。身体が震えちゃう。

 ペンは後ろの丸いところを使って胸の先をつついた。握っていたから温かくて、理人の指で触られているみたいな錯覚を起こした。

「理人、触って。僕のここ、触って……ん、んん……」

 ペンで胸の先をクニッと潰したり、ピン、と弾いてみたりする。

 これだけでイっちゃいそう……でも、どうせイくなら、理人の手でイかされたい。

「触って、理人。僕のここと後ろ、気持ちよくして……!」

 理人はここにいないけれど、理人の代わりをしてくれるものたちで生身の理人を想像して、懇願した。

「お願い、理人、強くして。欲しいんだ、理人が……」

 ペンで熱芯をこする。
 お尻の中には、口から出してぐちょぐちょに濡れた袖先を突っ込んだ。

「ぁ、あ、ふぅぅん……理人……すきっ」
「──俺もだよ、天音。でも、代替品じゃなくて、ちゃんと俺で感じて?」

 ………え?

しおりを挟む
感想 309

あなたにおすすめの小説

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

事故つがいの夫が俺を離さない!

カミヤルイ
BL
事故から始まったつがいの二人がすれ違いを経て、両思いのつがい夫夫になるまでのオメガバースラブストーリー。 *オメガバース自己設定あり 【あらすじ】 華やかな恋に憧れるオメガのエルフィーは、アカデミーのアイドルアルファとつがいになりたいと、卒業パーティーの夜に彼を呼び出し告白を決行する。だがなぜかやって来たのはアルファの幼馴染のクラウス。クラウスは堅物の唐変木でなぜかエルフィーを嫌っている上、双子の弟の想い人だ。 エルフィーは好きな人が来ないショックでお守りとして持っていたヒート誘発剤を誤発させ、ヒートを起こしてしまう。 そして目覚めると、明らかに事後であり、うなじには番成立の咬み痕が! ダブルショックのエルフィーと怒り心頭の弟。エルフィーは治癒魔法で番解消薬を作ると誓うが、すぐにクラウスがやってきて求婚され、半ば強制的に婚約生活が始まって──── 【登場人物】 受け:エルフィー・セルドラン(20)幼馴染のアルファと事故つがいになってしまった治癒魔力持ちのオメガ。王立アカデミーを卒業したばかりで、家業の医薬品ラボで仕事をしている 攻め:クラウス・モンテカルスト(20)エルフィーと事故つがいになったアルファ。公爵家の跡継ぎで王都騎士団の精鋭騎士。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...