事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ

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俺が恋するオメガには事故つがいの夫がいる

羊は熊の皮をかぶらない④

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 つがいがいる相手への不毛な恋は終わらせたそのつもりだったのだが……。

 高梨君が可愛い。
 愛されていると感じると、人はもっと輝くらしい。

 高梨君は以前にも増して可愛くなり、サラサラツヤツヤキラキラ。内面から光が溢れている。
 俺は決して熊にはならないから友人に徹するが、姿を目で追い、癒やし享受するくらいならいいよな?

「――真鍋さん、ラストオーダーです。バレンタインスペシャル四名様分」

 おっと、仕事に集中しないと。

「了解」

 あー、やっとこれで終わりか。今日も忙しかった。
 終わったら自分で作ったフォンダンショコラでも食うか……虚しいバレンタインだ。

「真鍋、調理が終わったらホールに出れるか?」 

 ふう、とマスクの中でため息をつくと、店長に声をかけられた。

「え? 俺がホールっすか?」

 やれやれ。忙しかったからって片付けにまで駆り出されるのか。行けと言われれば行くが、身体が重い。
 これが高梨君からのお願いならふたつ返事なんだが。

「少し前に高梨くんがきててな。最後でいいから、落ち着いたら真鍋に声をかけてほしいと言われたんだ」
「えっ」

 高梨君? 高梨君が俺を呼んでるのか? バレンタインに? どうした、ゴリラとなにかあったか?

「どうする? 疲れてんなら断わ」
「行きます。待っててもらって下さい」

 訊ね切られる前に即答だ。
 調理を終えればすぐにホールに向かった。

 ……いる。高梨君が。いる!
 だが。

 なんだよ、ゴリラも一緒かよ……。
 てかバレンタインスペシャルセット食ってるし。
 ふたりでひとつのハート型フォンダンショコラ食ってるし。

「あ、真鍋さん!」

 高梨君が俺に気づき、手を振ってくれる。
 その向かいのゴリラは余裕げに微笑んで、軽く会釈をしてきた。

「理人が秘密で予約を取っててくれたんです」
「真鍋さんの料理はいつもおいしいけど、今年のバレンタインフェアのフォンダンショコラがまた最高傑作だって天音が褒めちぎるので、是非頂きたくて」

 どこか棘があるように感じるのは俺の思い過ごしだろうか。
 俺が作ったものが高梨君の身体に入るのも嫌だと言っているように聞こえるんだけどなぁ。

「料理を楽しんでいただけたなら良かったです」

 ゴリラには作り笑いをする。

「わざわざ礼を言うために呼んでくれたのか?」

 高梨君には心からの笑みを向けて言った。
 すると高梨君は、斜めかけのショルダーバッグから十センチ角の箱を出した。

「あ、そうなんですけど、これ。これを渡したくて」
「え……これって」 

 箱は白地にピンクの小さなハート模様の包装がしてあって、明らかにバレンタイン仕様だった。

 高梨君が俺に?
 もちろん義理だろうが、ゴリラの前で俺に渡してくれるのか?

「理人が作ったんです! 包装も、僕が不器用だから理人がしてくれて」
「げ」

 つい真顔になってしまうと、ゴリラがくすっと笑った。

「いつも天音がお世話になっているので」
「理人はお菓子作りも上手で、中身、とってもかわいいんですよ! 僕も作ってもらったんですけど、形は僕のと違うんですよ!」

 本当は中身を言いたいけど内緒だよね、とゴリラに言う高梨くん。
 白い頬を薄桃に染めて、あまりにも嬉しそうにしているから、俺は眉をひそめることもできなくなる。

「……ありがたく頂くよ。じゃ、最後まで料理を楽しんでください」

 店員らしくお辞儀をして厨房へと戻る。中に入りきる前に振り返ると、ふたりは仲睦まじい様子でフォンダンショコラを食べさせ合っていた。

 あーあ……。
 つがいで夫婦のふたりの間に割って入れることなんて絶対にないとわかっているけど、ああいうイチャラブを見せられると、バースだとかつがいだとか関係ないんだろうと思い知らさせる。

 出会った日からふたりで積み重ねてきた楽しいこと、嬉しいこと、面白いこと。くだらないことも悲しいことも、絡まってすれ違ったことも。
 全部が軌跡になって、ふたりを繋いでいるんだもんな。

 いつか俺もそんな相手と出会い、日々を紡いでいけるだろうか。
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