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特大エビフライ、のち、発情
⑦
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(でも、課長も、もういない……)
「……あ?」
不意に、両脇をかかえられて課を出ていく茂部の背中を思い出し、ハッとして瞼を開いた。
視線の先に見えたのは課長でも社内でもなく、星空。
(なんで、星空……?)
緩く瞼をこすって、もう一度見直してみる。
「……天井?」
よく見れば、直径二メートル近い円形の天窓がはめ込まれた天井であることがわかる。
ガラス貼り以外の部分は木目が美しい木材が張りめぐらされ、壁にも続いていて、さながらリゾートホテルだ。
「気がつきましたか?」
星明かりと間接照明だけの薄暗い部屋の中で、誰かが顔を覗き込んだ。
次第に輪郭も、心配そうな表情も明瞭になる。
「……専務?」
えっ! と小さく声を出して上体を跳ね起こす。千尋はキングサイズのベッドに身体を横たえていた。
「あの、僕……私はどうして。ここは……?」
きょろきょろとあたりを見回し、自分の様子も確認する。スーツも下着も身につけておらず、素肌の上にツルツルした肌触りのパジャマを着ている。
パジャマに直接触れる右胸の先が痛い気はするが、光也の目の前で確認するわけにもいかない。
「会社の洗面室でヒートを起こして倒れたんですよ。なかなか目が覚めないので、私の自宅に成沢さんと運びました」
光也がスツールからベッドに腰を移し替えた。大きさのせいか、マットのスプリングがいいからか、ぎし、とも鳴らず心地よい揺れだけが伝わった。
「えっ! 申しわけありません。あの、成沢さんは?」
「成沢さんにはすでに帰宅してもらいました。お礼なら明日伝えればいいですよ。それより体調は?」
「大丈夫です。すっきりしています……」
答えながら、記憶を辿る。
(専務の香りで気分が悪くなって、トイレへ行ったらフェロモンが出ていると言われて、それで……)
「あ、あの、専務。私は最終的に、どうやってヒートを解いたんでしょう」
「覚えていないんですか?」
光也は形のいい眉を寄せると、ベッドの中央へ上がってきた。
「いえ、あの、専務に、その……手を貸していただいたことは覚えていますが、そのあとの記憶が……」
言いにくいことを口にしてもじもじすると、顔を近づけられじっと見つめられた。
改めて見ても均整の取れた顔だ。二重の幅も鼻梁の高さも、唇の肉厚感もどれも男らしいのに、暑苦しくなく品がある。
だがどうにも光也が近くにいると落ち着かない。痴態を晒したためか、整い過ぎた顔の圧が強いのか……いや、やはり香りだ。
濃厚なバニラのようでいて、エキゾチックな光也の香りは、鼻腔に絡みついて息を苦しくさせる。
千尋はわずかに尻をずらし、光也との距離を取った。また吐き気を催しては失礼だ。
────が、肩を掴まれてしまった。
「な、なんでしょう、専務」
離れたいのに余計に近くなって、身体が強張る。
「藤村君は痛いのが好きなんですか?」
「……はい!?」
思わぬ指摘を受けて、掴まれた肩がびくりと上がった。
「……あ?」
不意に、両脇をかかえられて課を出ていく茂部の背中を思い出し、ハッとして瞼を開いた。
視線の先に見えたのは課長でも社内でもなく、星空。
(なんで、星空……?)
緩く瞼をこすって、もう一度見直してみる。
「……天井?」
よく見れば、直径二メートル近い円形の天窓がはめ込まれた天井であることがわかる。
ガラス貼り以外の部分は木目が美しい木材が張りめぐらされ、壁にも続いていて、さながらリゾートホテルだ。
「気がつきましたか?」
星明かりと間接照明だけの薄暗い部屋の中で、誰かが顔を覗き込んだ。
次第に輪郭も、心配そうな表情も明瞭になる。
「……専務?」
えっ! と小さく声を出して上体を跳ね起こす。千尋はキングサイズのベッドに身体を横たえていた。
「あの、僕……私はどうして。ここは……?」
きょろきょろとあたりを見回し、自分の様子も確認する。スーツも下着も身につけておらず、素肌の上にツルツルした肌触りのパジャマを着ている。
パジャマに直接触れる右胸の先が痛い気はするが、光也の目の前で確認するわけにもいかない。
「会社の洗面室でヒートを起こして倒れたんですよ。なかなか目が覚めないので、私の自宅に成沢さんと運びました」
光也がスツールからベッドに腰を移し替えた。大きさのせいか、マットのスプリングがいいからか、ぎし、とも鳴らず心地よい揺れだけが伝わった。
「えっ! 申しわけありません。あの、成沢さんは?」
「成沢さんにはすでに帰宅してもらいました。お礼なら明日伝えればいいですよ。それより体調は?」
「大丈夫です。すっきりしています……」
答えながら、記憶を辿る。
(専務の香りで気分が悪くなって、トイレへ行ったらフェロモンが出ていると言われて、それで……)
「あ、あの、専務。私は最終的に、どうやってヒートを解いたんでしょう」
「覚えていないんですか?」
光也は形のいい眉を寄せると、ベッドの中央へ上がってきた。
「いえ、あの、専務に、その……手を貸していただいたことは覚えていますが、そのあとの記憶が……」
言いにくいことを口にしてもじもじすると、顔を近づけられじっと見つめられた。
改めて見ても均整の取れた顔だ。二重の幅も鼻梁の高さも、唇の肉厚感もどれも男らしいのに、暑苦しくなく品がある。
だがどうにも光也が近くにいると落ち着かない。痴態を晒したためか、整い過ぎた顔の圧が強いのか……いや、やはり香りだ。
濃厚なバニラのようでいて、エキゾチックな光也の香りは、鼻腔に絡みついて息を苦しくさせる。
千尋はわずかに尻をずらし、光也との距離を取った。また吐き気を催しては失礼だ。
────が、肩を掴まれてしまった。
「な、なんでしょう、専務」
離れたいのに余計に近くなって、身体が強張る。
「藤村君は痛いのが好きなんですか?」
「……はい!?」
思わぬ指摘を受けて、掴まれた肩がびくりと上がった。
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