32 / 92
満点の星空の下で
①
しおりを挟む
(あれ……? 専務、あの子と同じ色の髪、瞳?)
過去の記憶に蓋をしていた欠片が、コトリと音を立てて動く。
もう少しでその欠片に手が届きそうで、千尋は光也の瞳の奥の奥にまで神経を集中させた。
──千尋、白鳥座は南半球にある南十字星に対して、北十字星とも呼ばれるんだよ。
──ふうん。南十字星もここから見える?
──東京からは難しいかな。僕のおじいちゃんがいるニュージーランドではよく見えるみたい。
──そっかあ。……くんと見てみたいな。
あの子は、なんて名前だったのだろう。
琥珀色の瞳は星を宿したように綺麗で、緩い癖のある薄茶色の髪は柔らかくて、じゃれ合った時に髪が頬に触れるとくすぐったかった。
あの子は……。
「み……くん……みっくん……そうだ、"みっくん"だ!」
もやがかかっていたその子の、笑顔の像がはっきりと浮かんだ。同時に光也が瞳を輝かせ、白い歯を見せて笑った。二つの笑顔が綺麗に重なる。
「うん」
「……え……?」
千尋はロッキングチェアを大きく揺らして立ち上がり、隣のチェアの光也の腕を捕まえる。
「みっくん!? みっくんなの?」
「そう! やった。千尋が思い出してくれた!」
光也が破顔する。出会って一番の、喜びがはじけたような笑顔だった。
「嘘……なんで? なんで専務が……なんでみっくんがここに。それに、イメージが全然違う」
"みっくん"は華奢で、四歳差の千尋と背も変わらず、優しいけれどどちらかと言えば気が弱い子供だった。
「あの頃、俺は十二歳を過ぎても第二性が判明していなかったし、見た目はオメガの父さん譲りで、いつも女の子に間違われていたもんね。周囲からは俺もオメガだと思われていたくらい」
反対に年のわりには背が高く、快活で負けん気の強かった千尋はアルファの判定が下るだろうと周囲に思われていた。
「みっくん、ニュージーランドに引っ越したよね? いつ日本に? ていうか、社長とは」
「ひとつずつ話すよ」
光也は千尋を再度チェアに座らせ、語り始めた。
叶の現社長である光也の父、叶光成は、政略結婚でアルファの女性と結婚して長男と次男をもうけたが、ニュージーランド支社から移動してきたオメガ社員────光也を産んだ父、クリフに出会い、ひと目で運命の番だとわかり恋に落ちた。
二人は十五歳の年齢差はあったが、衝動を抑えられないまま求め合い、クリフは光也を妊娠。
光成は叶一族を抜ける覚悟の上で、当時の社長である光也の祖父と妻に話したが、「不倫」の道ならぬ恋は、誰にも認められなかった。そしてアルファ至上主義でもあり、一族の汚点を赦さない親族一同により、手酷く仲を裂かれた。
それでも光成がいる東京に居たかったクリフは、KANOUを退職させられてからも仕事と住まいを転々としながら光也を産み育て、番が不在の辛い発情期に耐えた。
千尋の隣の部屋に越してきたとき、クリフは心身ともに限界を迎えようとしていたが、それを助けたのが千尋の両親で、光也の世話を買って出たそうだ。
「でも、やっぱり父さんは限界で。番と切り離されたオメガって本当に悲惨なんだ。どんなに強い抑制剤を飲んでもヒートが収まらなくて、精神まで患ってしまう。それなのに俺のために昼夜問わず働いて、体もボロボロでさ。それで……俺達は祖父のいるニュージーランドに移ることになったんだ」
「……」
言葉にならなかった。
確かに光也が千尋の家にずっといるのに比例せず、クリフの姿を見ることはごく少なかった。
女性と見紛うような美しい人だったが、見るたびに痩せこけ、別れを告げに来た際は光也が支えていないと倒れそうだったのを思い出す。
だから突然の別れは寂しかったけれど、子供心にも予断ならない状況を察して、静かに光也を送り出したのだ。
過去の記憶に蓋をしていた欠片が、コトリと音を立てて動く。
もう少しでその欠片に手が届きそうで、千尋は光也の瞳の奥の奥にまで神経を集中させた。
──千尋、白鳥座は南半球にある南十字星に対して、北十字星とも呼ばれるんだよ。
──ふうん。南十字星もここから見える?
──東京からは難しいかな。僕のおじいちゃんがいるニュージーランドではよく見えるみたい。
──そっかあ。……くんと見てみたいな。
あの子は、なんて名前だったのだろう。
琥珀色の瞳は星を宿したように綺麗で、緩い癖のある薄茶色の髪は柔らかくて、じゃれ合った時に髪が頬に触れるとくすぐったかった。
あの子は……。
「み……くん……みっくん……そうだ、"みっくん"だ!」
もやがかかっていたその子の、笑顔の像がはっきりと浮かんだ。同時に光也が瞳を輝かせ、白い歯を見せて笑った。二つの笑顔が綺麗に重なる。
「うん」
「……え……?」
千尋はロッキングチェアを大きく揺らして立ち上がり、隣のチェアの光也の腕を捕まえる。
「みっくん!? みっくんなの?」
「そう! やった。千尋が思い出してくれた!」
光也が破顔する。出会って一番の、喜びがはじけたような笑顔だった。
「嘘……なんで? なんで専務が……なんでみっくんがここに。それに、イメージが全然違う」
"みっくん"は華奢で、四歳差の千尋と背も変わらず、優しいけれどどちらかと言えば気が弱い子供だった。
「あの頃、俺は十二歳を過ぎても第二性が判明していなかったし、見た目はオメガの父さん譲りで、いつも女の子に間違われていたもんね。周囲からは俺もオメガだと思われていたくらい」
反対に年のわりには背が高く、快活で負けん気の強かった千尋はアルファの判定が下るだろうと周囲に思われていた。
「みっくん、ニュージーランドに引っ越したよね? いつ日本に? ていうか、社長とは」
「ひとつずつ話すよ」
光也は千尋を再度チェアに座らせ、語り始めた。
叶の現社長である光也の父、叶光成は、政略結婚でアルファの女性と結婚して長男と次男をもうけたが、ニュージーランド支社から移動してきたオメガ社員────光也を産んだ父、クリフに出会い、ひと目で運命の番だとわかり恋に落ちた。
二人は十五歳の年齢差はあったが、衝動を抑えられないまま求め合い、クリフは光也を妊娠。
光成は叶一族を抜ける覚悟の上で、当時の社長である光也の祖父と妻に話したが、「不倫」の道ならぬ恋は、誰にも認められなかった。そしてアルファ至上主義でもあり、一族の汚点を赦さない親族一同により、手酷く仲を裂かれた。
それでも光成がいる東京に居たかったクリフは、KANOUを退職させられてからも仕事と住まいを転々としながら光也を産み育て、番が不在の辛い発情期に耐えた。
千尋の隣の部屋に越してきたとき、クリフは心身ともに限界を迎えようとしていたが、それを助けたのが千尋の両親で、光也の世話を買って出たそうだ。
「でも、やっぱり父さんは限界で。番と切り離されたオメガって本当に悲惨なんだ。どんなに強い抑制剤を飲んでもヒートが収まらなくて、精神まで患ってしまう。それなのに俺のために昼夜問わず働いて、体もボロボロでさ。それで……俺達は祖父のいるニュージーランドに移ることになったんだ」
「……」
言葉にならなかった。
確かに光也が千尋の家にずっといるのに比例せず、クリフの姿を見ることはごく少なかった。
女性と見紛うような美しい人だったが、見るたびに痩せこけ、別れを告げに来た際は光也が支えていないと倒れそうだったのを思い出す。
だから突然の別れは寂しかったけれど、子供心にも予断ならない状況を察して、静かに光也を送り出したのだ。
82
あなたにおすすめの小説
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる