専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~

カミヤルイ

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昏迷と混迷の間で

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❋❋❋

「専務、もう心配なさらないでください。私なら大丈夫です。専務はブラジルでの仕事に集中してください」

 翌々朝、ブラジルに出発する光也を叶邸のエントランスから見送る。二回目以降のヒアリングはオンラインで行うため、自宅待機の指示が会社から出ているからだ。

「ええ、わかってはいます……が、私がそばにいて収束できないことか歯痒くて悔しいです。てすが必ず正当な方法で、報いを受けさせますから」

 昨日から何度同じやりとりをしただろうか。光也は心底悔しそうに頭を振り、千尋の肩を強く掴む。これでは氷の貴公子を通り越して炎の王だ。
 千尋のために苛立ちをかかえたまま旅立ってほしくないのに。

「もう、また眉間に皺」

 千尋は苦笑いをして、光也の眉間に触れた。

「千尋……」

 あっという間にその指を握り取られ、唇が触れる。光也の後ろには成沢がいたので慌てて手を引こうとしたが、光也は千尋を引き寄せ、腕に力を入れて抱きしめてくる。

「みっ……専務……」
「はぁ……心配な上に、ニ週間も離れていなきゃならないなんて。千尋、俺がいない間もローションやフレグランスを使うのを忘れないで。あれは千尋を守る香りだから、かならず何度も使って、いつも俺を思い出して。毎日電話もするから必ず出て。何かあったらメッセージを入れて? それから……」

 思わず吹き出してしまう。まるで子供のようだ。
 光也はときどき幼い頃の寂しがり屋の面影を出して、千尋の気を引こうとする。

(今はこういう形で僕を元気づけようとしてくれているんだろうな)

「みっくん、大丈夫。ちゃんとするから。……さあ専務、飛行機に遅れてしまいますよ。そろそろ出発してください」

 抱きしめられたままぽんぽん、と背を叩くと、光也は最後に頬をすり寄せて千尋を離した。

「では、行きます。藤村君がまとめた資料、しっかりと現地のスタッフに評価してもらいます。チームは皆、同じ気持ちですからね」

 事情を知らないプロジェクトチームスタッフたちには、千尋は体調不良で現地入りが不可能になったと伝えている。

 親睦会のときに作ったトークグループでは、皆が千尋を気遣い、光也が言ったのと同じことを書き込んでくれた。

 皆と一緒に現地に行きたかった。KANOUのコストエンジニア兼専務秘書として、プロジェクトに最後まで参加したかった。

(違う。過去形なんかにしない。これからもKANOUの社員としてプロジェクトに参加して、学んで行くんだ!)

 強く思う。だから、自分は不正をしたのでもミスをしたのでもないことを証明したい。このまま一方的なヒアリングを受けて、ミスと認定されて辞職に追い込まれるのは絶対に嫌だ。
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