子持ちオメガと諦めないベータの七夕~星今宵、黄紙に思いと愛繋ぐ~

カミヤルイ

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「でも、両親も『難しいんじゃないか。今のうちに気持ちを整理したほうがいい』と言った。それでなんの解決策も浮かばないまま日々が過ぎて、やがて透生の発情期が訪れた」

 奏多は親の賛成も解決策も得ていないのに、発情期の透生を一人にするのが心配でそばにいることを選んだと話す。

 けれど、実際のところ『そばにいてほしい』と頼んだのは透生だ。
 オメガの発情は自我を失くすと嫌というほど知っているのに、好きな人に癒やされたい、そばにいてほしい、と、両思いになった高揚のまま甘えてしまった。

 きっと奏多はその際も透生の見えないところで悩んだだろう。それなのに透生を少しも責めない言い方をしてくれる。ただ、少し気まずそうではある。

「ヒート中の透生はとても扇情的だった。俺はアルファじゃないからラットにもならないくせに、理性を失くして、何度も何度も欲をぶつけた。それでもヒートは収まらなかった。情けなかったよ。自分はさんざん欲を放ったのに、好きな子の苦痛は取れないままじゃないかって」
「そんな……僕は大好きな奏多とヒートを過ごせるだけで幸せだったんだよ? ヒートが明けた日、僕がどんなに満ち足りた気持ちだったか…‥『ありがとう』の言葉に詰め込んだつもりだった。でも、その後から奏多は少し様子がおかしくなって、僕を抱くことも二度となかった。あれは、ヒートになった僕を気持ち悪いって、やっぱり思ってしまった…‥?」
「っ、そんなことあるわけない!」

 奏多が声を強くして否定する。
 すると、奏多が感情的になったのを怒りと思ったらしい奏が、奏多の腕から抜けて透生の前に立ちはだかった。
 その姿はまるで、大学生時代にオメガの透生を非難する者たちから守ってくれた奏多のようだ。

 郷愁的な気持ちに駆られ、透生の喉のあたりに熱いものが込み上げる。
 奏はそんな透生にしがみつき、頬をぷくっと膨らませた顔を奏多に向けた。

「ままをおこらないで!」
「あ……ごめん、怒ったんじゃないよ。驚かせてごめんね。おいで、奏」

 奏多は慈愛と苦笑が混ざったような面持ちで腕を伸ばし、奏を胸に迎え入れる。
 まるでこれまでも一緒にいたかのように、奏は安心した様子で奏多に体を委ねた。

 奏多はすっぽりと奏を包み込み、奏に聞こえにくいようにか、やや声を落とした。

「あの時……透生のヒートが収まらなくて、用意していたゴムが足りなくなったんだ。それで、買いに行こうとしたんだけど……」

 奏多が口ごもってしまう。
 透生が「教えて」と頼むと、整えるように小さく息を吐いた。 

「自我が飛んでいる透生がしてくれることに、俺は抗えなくて……その、ゴムを付けないでしてしまったんだ」
「えっ……」

 オブラートに包んで言ってくれるが、どうやら透生が奏多から離れず、彼を押し倒して自ら奏多の猛りを孔内に挿入したようだ。

 ヒート最盛期のオメガとはそういうものだが、透生は自分の痴態を想像し、顔から火が出る思いだ。
 この場から逃げ出してしまいたくなるが、膝の上で手をぎゅっと丸めて奏多の話の続きを聞く。

「俺、駄目だとわかっているのに止められなくて、その後も何度も求められるまま中に出してしまった。それで朝、正気に戻ったとき『もし妊娠させていたら、ただでさえベータで学生の俺に責任が取れるのか』って怖くなったんだ。それなのにそんな俺に『ありがとう』って笑ってくれる透生に正直に話すことができなくて……最低だ」

 自分は恥ずかしいほど子供だった、と奏多は話す。

 透生の妖艶さと自分の欲に抗えず、事後すぐに避妊の後処理を施すことも浮かばないほど透生とのセックスに溺れていたのだと。

「でも信じてくれ。妊娠していても逃げるつもりはなかった。透生にまた苦痛を追わせることになるけど、堕ろさずに二人で育てるんだって思ってた……だから、妊娠の有無がわかるまで体に負担をかけたくなくて、セックスに積極的になれなかった」

 けれど、それはやはり子供の考え方だった。透生を幸せにする自信がないのに、妊娠していたら産んでほしいなんて矛盾だらけだった、と奏多が頭を下げてくる。

 透生はただただ驚くばかりだ。

「……そう、だったんだね……でも、奏多は真面目すぎるから、僕が不安にならないように全部一人でしょいこんでくれていたんだよね?」 
「そんな聞こえのいいものじゃない」
「ううん。奏多は逃げる人じゃない。いつも僕を優先して大事にしてくれた」

 そういう人だから、好きになったのだ。

「それなのに、僕こそ聞き勘違いでショックを受けて、奏多を信じなかった。ちゃんと話せばすぐにわかったのに、僕こそ子供だった。ごめんね」

 謝りながら、透生の頬を涙が伝った。
 奏多がそれを拭ってくれる。そのまま奏を挟んで、そっと唇を合わせた。
 すると、奏がぐん、と背を伸ばして二人の顔を見上げた。

「ぼくも、ぼくも!」 

 そう言って、奏が透生の頬に、そして奏多の頬にキスをする。
 最後はふたりで奏のぷくぷくほっぺにキスをした。

 キャッキャと高い声で笑う奏が可愛い。
 奏多は奏とお揃いの笑顔で、奏の頭を撫でながら透生を見つめる。

「透生が行方不明になったとき、直感で妊娠していると思った。だから探すのと並行して、透生と子供と家族になる準備もしていたんだ。ここでの生活は大事だと思う。でも、俺と一緒に東京に帰ってくれないか」 

 奏多の表情には真剣さが滲んでいる。

「でも……奏多のご両親は、僕たちのことを賛成していないんでしょう?」 
「大丈夫。俺がどれだけ透生を求めているかこの五年でわかってる。探し当てられたら結婚を認めるから、必死で捜せとまで言ってくれている」
「そうなんだ……」

 嬉しくて他に言葉が出ない。

「あの頃は子供だったけど、俺も大人になった。アルファ性に比べたら足りないところだらけだけど、透生と子どもを守る力をつけてきたつもりだ」 
「奏多。奏多は誰とも比べられない。僕と奏にとっては唯一の人だよ」 
「……じゃあ」 
「うん」 

 迷うことはない。透生は奏多についていくと即断する。

 だって、ずっと一緒にいたいと、あの頃から思っていたのだ。

 透生は奏多の片手を掬い上げる。
 そこには『ずっと一緒にいられますように』と書かれた短冊がある。
 色褪せているが、握り潰されたのをきれいに伸ばして、丁寧に折り畳んであった。

「これ、たんざく?」

 気づいた奏が奏多の手から短冊を取る。

「そうだよ。パパとママがまた出会うためのお守りだったんだ」
「たなばたさま、おねがいきいてくれたね! ぼくのおねがいもきいてくれた!」
「ん? 奏のお願い?」

 奏多が首を傾げる。
 透生はふふ、と微笑んで教えてやる。

「奏ね、パパができますように、って書いたんだ」
「かいたんだよ」

 奏多が泣きそうになる。いや、泣いている。瞳が星空のようにきらきらと光った。

「そうか……本当に遅くなってごめん。透生、奏を産んで、ここまで育ててくれてありがとう。奏、生まれてきてくれてありがとう。パパを待っていてくれてありがとう」

 たくさんのありがとうと共に、星空の瞳から涙が一筋流れる。
 奏多はそれを拭いもせず、目尻に皺を作った。

「透生、俺と結婚してください。そして、透生と奏。俺と家族になってください」
「はい……!」 
「はーい!」

 また、三人で抱きしめ合った。


 その夜のうちに、奏多は透生の祖父を訪れて挨拶し、翌日改めて結婚の許しを請いに訪れた。

 祖父は初めは怒っていたが、過去からの誤解や奏多の覚悟を聞いて、祝福してくれた。


 そして、そこからさらに数日後。
 身辺の整理を終えた透生を奏多が迎えにきてくれた。

 奇しくも七夕の日で、空港では笹が飾られ、そばに設置されたテーブルに短冊が置いてある。

「ぱぱとままがずっと一緒にいられますように」 

 奏が黄色の短冊を選び、そう書いてくれる。
 だから、透生と奏多はこう書いた。

「奏がすくすくと育ち、将来素敵な人と出会えますように」 

 すると、本当は奏ともずっと一緒にいたいんだけどなぁ、と苦笑する奏多。

 その表情が「父親」そのもので、透生は微笑ましく奏多を見つめた。

 オメガ性とベータ性の夫夫ふうふには、第二性由縁の困難が消えたわけではない。

 けれど、透生を諦めずにいてくれた奏多となら、必ず乗り越えていける。

 奏多が奏を抱き上げ、二枚の短冊を一緒に笹に結ぶのを見ながら、透生はそう確信していた。
 
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