事故つがいの夫が俺を離さない!

カミヤルイ

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2巻

2-1




    第一章 春はそこまで


 年間を通じて穏やかな気候のリュミエール王国にも四季がある。
 俺――エルフィー・セルドランの最愛の人であるクラウス・モンテカルストと一度目のつがいになってから、六つの季節が巡った。
 一度目のつがい……俺たちが『事故つがい』になったのは、約一年半前の秋のことだった。
 ――この世には、男女性とは別に、アルファ・ベータ・オメガという三種の第二性バースがある。
 神に与えられた優秀な遺伝子を持ち、ヒエラルキーの頂点に君臨するアルファ。どの国でも国王や官職など、国を動かすのはほぼアルファで、クラウスはそのアルファだ。
 次にベータ。アルファを超えることはないものの、努力により能力が向上する人も一定数いて、アルファの補佐役として活躍する他、大きな事業をおこしている人もいる。
 最後に俺のバースであるオメガ。男女共に生殖機能を持ち、アルファを誘惑する誘淫フェロモンを持つことが特徴で、三月みつきに一度、平均七日間フェロモン量が増す『発情期』がある。
 この時期にアルファと交接し、アルファがオメガのうなじを咬むと『つがい』が成立するのだが、つがいは結婚とは違い、どちらかの命が尽きるまで解かれることのない生涯の結びつきだ。
 ただ、互いの合意がない状態でつがいが結ばれる場合がある。
 それが『事故つがい』だ。
 約一年半前の秋、アカデミーの治癒魔法科を卒業した俺は、プロムパーティーの夜に片想いの相手である商業流通科のフェリクス・アーシェットに告白を決行するはずだった。
 ところが行き違いがあり、待ち合わせ場所に現れたのは疎遠になっていた幼馴染のクラウス。
 俺を嫌っている上、俺の双子の弟ニコラの片想い相手がなぜここに、とパニックになった俺は、ひょんなことから発情ヒートを起こしてしまった。その結果、俺たちは事故つがいになったのだった。
 ただクラウスは、幼い頃から俺とつがいになることを強く望んでいたそうで、すぐに俺に求愛し、プロポーズをしに訪れた。
 しかしながら当時の俺は、ニコラとクラウスが想い合っていると信じ込んでいたため、クラウスの求愛はつがい契約による誤認であると思っていた。
 ゆえにクラウスとニコラに正しくつがいを結んでもらうべく、研究中だった『存命状態でもつがいを解消できるつがい解消薬』を完成させて、つがいを解消しようと躍起になっていた……俺も幼い頃からクラウスを想っていたことを、自分自身でも気付かずに。
 そして冬。俺への愛憎心から、俺とクラウスのつがい解消を計画したニコラと、『つがい解消薬』の協賛権利を欲して計画に加担したフェリクスにより、つがい解消薬の試作品が使われ、俺たちのつがいはいったん解消された。
 けれど紆余曲折の末、本当に愛する人はクラウスだと気付いた俺は、彼とつがいになることを心から望み、二度目のつがいを結んだ。
 その後、間を置かずにセルドラン姓からモンテカルスト姓となった俺は、実家の家業である癒薬品いやくひん会社『セルドランラボラトリー(通称セルドランラボ)』の仕事と並行して公爵家夫人教育に取り組み、クラウスが騎士団の新人遠征を満了した翌秋に結婚式を挙げた。
 癒薬品というのは、オメガの手のひらから誘淫力のないフェロモンが出ることと、そのフェロモンに治癒効果……『治癒魔法』があることを発見した俺の曽祖父が考案した製薬品のことだ。
 俺も曽祖父の遺志を引き継いで治癒魔法士となり、結婚後の今もラボの仕事を続けている。
 曽祖父の遺志、それは『治癒魔法を広く浸透させ、社会的地位が低いオメガが活躍できる世の中にする』ことだ。
 オメガは卑しいバースとされている上、発情期間中は社会活動を中断することになるため、無益なバースとして蔑まれており社会的地位が低い。ちなみに東方の国へ行くほどバース差別が強く、厳しい身分制度をもうけている国もあるほどだ。
 ただリュミエール王国では、オメガの治癒魔法の発見と広まり、そしていち早い当時のモンテカルスト公爵の支援もあって、オメガの社会的地位は向上傾向にある。
 さらに、俺とクラウスが事故つがいになった頃、国内で疫病が大流行した。その際、セルドランラボは予防薬と治療薬の錬成で疫病終息の一翼をになった。
 それにより国王陛下がオメガへの理解促進と待遇改善を進めてくださっている。
 とはいえ、差別意識を持っている人はまだ多い。だから俺はこれからも、モンテカルスト家の公務とラボの仕事を兼務し、オメガの活躍の場を広げる努力を続けたいと思っている。
 ――ともかく季節は巡り、現在はクラウスと過ごす二度目の冬の終わりだ。
 リュミエール王国の冬は短いけれど、この冬もモンテカルスト公爵家の庭園の噴水には氷が張ったし、春の訪れを告げる花が咲く今の時期になっても、ぐっと冷え込む朝がある。
 けれどそんな朝でも、俺は陽だまりの中で微睡まどろんでいるかのようだ。
 それは寝室の暖炉に火が残っていることだけが理由じゃない。

「目覚めたか。おはよう、俺の世界」

 夫夫ふうふの寝室の上。愛してやまないつがいのクラウスが、たくましい腕で俺を包み込んでくれているんだもの。
 この明け方で、俺の発情期も明けた。
 俺は夢見心地でトロンとしていた瞼をしっかりと開き、クラウスと視線を合わせた。

「ん。おはよう、クラウス」

 数時間前まで愛し合っていたから、二人ともまだ一糸まとわぬ姿のままだ。
 俺が今しがたまで顔をうずめていたクラウスの胸は、『リュミエール王国の若き黒豹』と称揚されるだけのことはあり、いつもふかふかで温かい。
 おかげで俺は冷え知らず。幸せを感じながら、もう一度クラウスの胸に顔をうずめて、その肌の香りを大きく吸い込んだ。
 今回の発情期間中もたっぷりと俺を愛してくれたクラウスの肌には、彼のフェロモンの香りがまだ残っている。ほうじたコーヒー豆のようなこの香りが、俺は大好きだ。

「エルフィーの甘い香りがまだ残っているな」

 クラウスも指先で俺のうなじに触れながら、つむじに鼻を擦り付けてくる。

「くすぐったいって」

 俺はフフ、と笑いながら顔を上げ、クラウスの鎖骨にお返しの口づけをした。
 すると、いつもと同じように腕で体を引き寄せられ、クラウスの鍛え抜かれた体の上に乗せられる。
 次に黄金色の瞳にまっすぐに射貫かれて、俺はその眩しさに目を細めながら、クラウスの無言の願いを叶えるのだ。
 顔を寄せ、唇を重ねる。
 いつも俺を慈しんでくれる大きな手が後頭部に添えられ、口づけが深くなる。
 数度顔の角度を変えて重ねたのち、温もりを残して唇をそっと離した。
 いつまでも触れ合っていたいけれど、そろそろ時間だ。
 発情期が明けたのだから、今日から寝室を出て日常の生活に戻るのだ。
 顔を枕元に向けると、そこに置いてある幽霊人形……クーちゃんと目が合った。
 クーちゃんは『俺が不在時のエルフィーのお守りだ』と言ってクラウスが購入した、三歳児くらいの大きさの人形だ。
 東方の国の魂のイメージらしく、中に綿が詰め込まれた白い体は楕円形で、下部は尻尾のように細くなり、短い手が付いている。また、別布で裂けた赤い口と黄色の目も縫い付けられていて、目は黄金とまではいかないけれど、黄色の瞳に藍色の瞳孔だ。
 初めは気味が悪かったものの抱き心地が意外にいいし、目の色がクラウスの瞳に似ている。だからクラウスの名前をアレンジしてクーちゃんと命名し、今では俺のお気に入りの抱き枕になっている。

「クーちゃん、おはよ」

 人形の頭を撫でたのち、穏やかな面持ちのクラウスと揃って体を起こした。
 気付けば、俺がクラウスの衣類を駆使してこんもりとベッドに積み上げたはずの巣は崩れ、波打つシーツと化している。俺がそれらを両手いっぱいに抱き上げ、顔をうずめてクラウスの残り香を探していると、寝衣を身に着けたクラウスにそれを奪い取られてしまった。

「本物はここにいるんだがな。足りなかったか?」
「あっ!」

 ちょっと拗ねたようなクラウスの声に抵抗しようと手を伸ばす。
 けれどすぐにクラウスの腕が回ってきて、コーヒーの香りがする胸の中で唇を重ねられた。

「ん……クラウス……」

 あれだけ愛されたというのに俺は貪欲だ。クラウスの情熱的な口づけに夢中になってしまう。

「――さあ、ひとまずこれでいいな」
「へ? あれ?」

 髪をかれながらの口づけに蕩けていると、いつの間にかしっかりと寝衣を着ていた。
 いや、着せられたのか。
 一番上のボタンまでちゃんとかかっている上に、ササッとではあるものの髪も整えてくれたらしい。
 さすがクラウス、なんという器用さだ。と感心したその直後。

「エルフィーちゃーん、ついでにクラウス、今朝のご機嫌はいかがかしら~?」

 ノック音と共に、控えめなお伺いの声が耳に届いた。
 俺のお義母かあ様であるモンテカルスト公爵夫人だ。
 お義母かあ様は、俺たちが二度目のつがいになって以降、寝室への突撃を遠慮してくれるようになっている。
 俺の発情期は、前回の発情期から三十日後の五日間周期で滅多に狂うことがなく、今朝で終わる予定だと前もって伝えてあったので、様子を見に来てくれたのだろう。
 俺は自分でドアを開けに向かい、顔を見せた。

「おはようございます。お義母かあ様。もう大丈夫です」
「ああ~~エルフィーちゃん、会いたかったわ!」

 お義母かあ様は満面の笑みでそう言うと、前室に一歩足を踏み入れるなり、ガバリと俺を抱きしめる。
 後ろには二人の侍女さんが控えていた。
 早速侍女さんたちは俺を更衣室に誘導し、身なりを整え始めてくれる。
 俺とクラウスが生まれるより以前、『リュミエール王国の芽吹きのつぼみ』とまで賞賛された女性騎士たちに身の回りの世話をしてもらうのは恐縮ものだ。彼女たちのあるじで、女性騎士団団長であった『咲き誇る薔薇』たるお義母かあ様の指令がなければ、そんなことはありえない。侍女さんたちは粛々と任務を遂行するし、俺もお義母かあ様の采配に従うのみ。
 すっかり支度が整えば、待機してくれていたクラウスとお義母かあ様と共に、本宮の朝食室へ向かう。といっても俺の隣を歩くのはお義母かあ様で、クラウスはその後ろに追いやられていたりする。

「やっぱりエルフィーちゃんがいると屋敷も心も華やぐわね。発情期明けの日ぐらい、ゆっくりと過ごせばいいのに」

 声を弾ませたお義母かあ様の言葉に、すかさずクラウスが口を挟んだ。

「母上のそれは『ゆっくり私と過ごせばいいのに』でしょう」
「まっ! クラウスったら、言葉は奥ゆかしく使うものよ。あなたはいつまでたっても唐変木ね」
「率直なだけです」
「んもう、可愛くない! でもいいの、私にはエルフィーちゃんがいるもの。ねっ」

 クラウスとのいつものやり取りの後、お義母かあ様は俺にニッコリと微笑んだ。
 照れ笑いで頷くと、お義母かあ様は俺の顔をじっと見つめて、改めて体調を気遣う言葉をかけてくれる。

「本当に体調は大丈夫? 今日は早速大事なお仕事があるでしょう? 心配だわ」
「大丈夫です。俺の発情期はもともとそう重くないですから」

 それに、クラウスのおかげで発情期明けは一番体調がいい。これはイコールつがいに愛し尽くされ、期間が充実したものだった、という証なので、それこそ率直に口に出すのは慎むけれど。
 さて、朝食室に入ると、お義父とう様が既に着席していた。

「おはようございます、閣下」
「おはよう、久しぶりだね、エルフィーちゃん」

 お義父とう様は俺の発情期には触れず、ごく自然に挨拶を返してくれる。
 けれど、すぐにキリリとした眉を垂らして声を踊らせた。

「おお! 今朝の我が家のお嫁さんはいちだんと愛らしいね!」

 我が国の国防長官であるモンテカルスト公爵は、国民から『リュミエール王国のたけき黒豹』と畏怖の念を抱かれる存在ながら、その実、慈愛に満ち溢れた方で、ユニークな面もお持ちだ。
 任務時以外は俺のことを『お嫁さん』なんて言って、ご友人だけでなく部下の前でも鼻の下を伸ばして話している、というのはお義母かあ様とクラウスの談だ。
 俺はオメガでも男なので『婿』だと思うのですが……と苦笑しつつも、お義母かあ様同様に俺を深く可愛がってくださることがこの上なくありがたい。

「そうでしょう? だって今日はエルフィーちゃんがシャオレンの王太子殿下に謁見する日だもの。張りきってお洋服を仕立てたのよ」

 お義母かあ様が俺の姿を見て、誇らしげに頷いた。
 シャオレンとは、長きにわたり諸外国との交流を規制してきた東方の国で、現在はファン王家が統治しているのでファン王朝とも呼ばれている。
 そのファン王朝が百年の節目を迎えた四年前、シャオレンの国王が初めてリュミエールを訪れた。もっとも、リュミエールから遠い国だ。その後目立った交流はない。
 それが今回、危機的な疫病を国策で乗り越えたこの国に関心を持ったという王太子殿下が、私的に来訪している。そこでその策を講じた国議会議員こくぎかいぎいん以外に、癒薬品で協力したセルドランラボラトリーの代表として、父様と俺が謁見の間に召されることになったのだ。
 そのため今日の俺は、シャオレンの生地で仕立てられた上着を着ている。
 生地は艶やかな藍地のブロケード。長い冠羽と尾を持つ東方の鳥とピオニーの模様が金糸で織り込まれている。袖口が広く、飾り紐のボタンが特徴的な、シャオレンの民族衣装の要素を取り入れた素敵な一着だ。
 もちろん、以前クラウスからプレゼントしてもらった大事なヒバリのペンダントも忘れていない。
 今日は上着の下で俺を見守っていてくれる。

「エルフィーは存在そのものが美しいから、どのような衣装を着ても映えるな」

 わわ、今日もクラウスが俺を過度に賛美してくる。
 俺とつがいになる以前の『堅物・真面目・唐変木男』とはまるで別人だ。
 顔を合わせるたびに愛情たっぷりの瞳で俺を見つめて、甘い言葉を紡ぐ。そうやってロマンス小説愛読者の俺が憧れてきた振る舞いをするものだから、俺は毎日身悶えしてしまっている。
 ただしクラウスの饒舌は、俺に対して限定だ。
 以前お義母かあ様が、クラウスは俺の前でだけ人間になれると教えてくれたように、彼は今でも俺以外の人に対しては表情が硬く口数も少ない。それがまた俺の心をくすぐる。
 俺はクラウスに笑みを向け、鍛え抜かれた硬い腕をそっと撫でた。

「クラウスだってなにを着ても素敵だよ。俺の愛する夫は、いつどんな時でもかっこいいからね」

 そう言えば、クラウスは途端に頬を赤くする。冬から夏になるまでの時期は、鍛錬で焼けていた肌の色が本来の色に戻るので、顔色がわかりやすい。
 あ~~俺の夫はカッコよくて可愛い。最高! 
 俺にだけそうなるの、嬉しいから他の人には堅物・唐変木男のままでいてほしい。

「尊いわ~」

 おっと、また二人だけの世界に浸ってしまっていた。
 慌てて意識を戻すと、お義母かあ様がこちらに視線を向けて微笑んでいる。まだ朝食に手を付けてもいないのに、美味しい料理を口にした時のような表情だった。
 視線を移せば、お義父とう様もそっくり同じ表情で俺を見ている。
 反対に、俺はきりっと頬を引きしめて背筋を伸ばした。

「お話の途中で申し訳ございませんでした。お義母かあ様、素敵な衣装のご用意をありがとうございます」
「もうっ、エルフィーちゃんたら! モンテカルスト姓になって半年も経とうというのに、いつまでも他人行儀なんだからっ。いつになったら『ママン』って呼んでくれるのかしら」

 ――いえいえ、モンテカルスト家の一員になったからこそ振る舞いに気を配らなければなりませんし、俺ももう立派な社会人ですので、それは何年経っても無理そうです。
 そう思いつつも口に出すのは忍びないので、内心で謝り、微笑みで誤魔化す。
 お義母かあ様は「んもうっ」と体を揺らすと、シャオレンについての話題を切り出した。
 シャオレンの国王であるファン陛下が公式訪問をされた際に、お義母かあ様はお義父とう様と一緒に拝謁したそうだ。また、昨年の夏にシャオレンから渡航してきた芸術家と交流があるという。

「シャオレンはこちら西側の諸国とは思考も文化も違っていて興味深いわ。だけどいまだにバースを基にした厳しい身分制度が残っていて、とくにオメガ性への人的投資が遅れているのよね」
「そうなのだ」

 残念そうな表情をしたお義母かあ様に頷いて、お義父とう様が補足する。

「だが今回、オウジュン・ファン王太子殿下は我が国のオメガ性の活躍にたいへん興味を示されていてね。殿下は、昨年立太子されると共にシャオレンの製薬事業を国王から引き継がれた。そのため国外の製薬事業にも関心を向けておられたようだ。そしてなんと」

 そこでいったん言葉を切ると、お義父とう様はどこか誇らしげな表情で俺を見た。

「昨日陛下から伺ったのだが、殿下は既にセルドランラボラトリーとエルフィーちゃんの活躍を聞き及んでいたそうで、エルフィーちゃんとの引見は殿下自らのご希望だそうだよ!」
「えっ!」

 思いもよらない言葉に、俺は目を丸くしてお義父とう様に訊ねた。

「遠い東方の国に俺個人の情報まで伝わるなんて、いったいどういう経路でしょう」
「功績というのは自然と広まるものだよ。現に昨年、隣国からラボに視察があった際も、エルフィーちゃんは質問責めにされていたじゃないか。さすが我が国で最も治癒魔力が高く、癒薬品錬成に功績を挙げているエルフィーちゃんだ! 我が家自慢のお嫁さんだよ!」

 はっはっはっ! と豪快に笑うお義父とう様の口髭まで自慢げに見えてくる。
 俺は恥ずかしくなり、身をすくめた。
 ラボの功績は、スタッフが一丸となって行なう研鑽と相互協力があってこそだ。俺一人で築けるものじゃない。それに俺の魔力は元から備わっていたものだ。もちろん努力はしてきたけれど、会えなくなって久しい双子の弟ニコラに顔向けできるようにと積み重ねてきただけ――
 ……ニコラ、会いたいな……
 俺は頭に浮かんできたニコラに思いをせる。
 ニコラ・セルドラン、俺の双子の弟。
 双子ゆえに俺に愛憎入り混じった複雑な感情を抱き、俺といつまでも対等でありたい、と強く願う気持ちから、危険な薬草エキスを過剰摂取した。そして、その副作用から、俺と異なってしまうことは自身の存在意義を失くすことだという妄執に取り憑かれるようになってしまった。
 そんなニコラは、俺とクラウスが事故つがいになったことでついに心を壊し、本来の彼からは考えられない行動に走って──今は薬草エキスの解毒治療を終え、教会附属の孤児院で奉仕活動をしている。
 父様と母様やお義母かあ様から随時ニコラの様子を聞いているし、季節の変わり目などに返事を求めない手紙を送ることにしているけれど、俺とニコラを繋いでいるのはそれだけだった。

『いつか、ちゃんとごめんなさいとありがとうを伝えに行くね』

 結婚式の手紙に書いてくれたその言葉を信じて待つことしか、今の俺にはできない。

「エルフィー」

 いつの間にか唇を噛んでうつむいていると、背にそっと手が添えられた。
 クラウスには、俺がニコラのことを考えていたのだとわかるのだろう。いたわるように背を撫でてくれる。それから、「謁見の間まで送っていこう」と申し出てくれた。
 優しさをたたえた黄金の瞳に小さく頷けば、お義父とう様もお義母かあ様も続けて声をかけてくれた。

「私も同席するし、お父上もいらっしゃる。なによりエルフィーちゃんは我が家の自慢のお嫁さんだ。この半年間努力を惜しまず、モンテカルスト家の公務を単独で果たすまでになってくれた。緊張は不要だよ。堂々としているといい」
「そうよ。背筋をピーンと張って、私の自慢の可憐な笑顔とたぐいまれなる才能をシャオレンの王太子殿下に見せつけていらっしゃいな!」

 緊張よりもニコラのことが気がかりだったのだけれど、『たけき黒豹』と『咲き誇る薔薇』の励ましに自然と口元がほころぶ。
 俺は朝食をしっかりと食べて気持ちを入れ替え、お義父とう様とクラウスと共にモンテカルスト家の馬車に乗った。


 リュミエール王国の王城は、その絢爛さや豪奢さ以上に張り詰めた威厳に満ちている。 
 国王陛下に婚姻の許可を得るためや、その後の公務でも何度か訪れたけれど、元平民の俺にはなかなか慣れるものではなさそうだ。いよいよ緊張してきた。
 反対に、俺をエスコートするクラウスは堂々としたものだ。
 謁見の間の前に着けば、俺が掴まっていない方の手で、手にぽんぽん、と触れてくれた。

「いつもの君でな」

 慈愛に満ちた眼差しと励ましの言葉に緊張がやわらぐ。
 俺が頷き、クラウスの腕から手を下ろすと、クラウスはお義父とう様――閣下と俺に一礼し、任務へと向かった。

「国王陛下、ならびにシャオレン国王太子殿下がおいでになるまで、ご着席にてお待ちくださいませ」

 謁見の間に一歩入ると、待機していた侍従長に案内され、用意された座席に閣下と共に進む。
 室内には父様と国議会議員が数名既に座っていた。その中にはアーシェット宰相もいる。
 宰相は俺と目が合ったものの、即座にそらした。第三子息のフェリクスを家門から排斥することになった原因が俺にあるので、忌々しく思っているのだろう。
 ……フェリクスもどうしているのだろう。
 フェリクス・アーシェット。アカデミー時代の同窓生だ。
 アーシェット公爵家で唯一のベータ性だった彼は、アルファ性だと偽ることを強いられて育ち、家族や世間から認められるため、ひたすら成功を追い求めてきた。
 そして『つがい解消薬』の協賛の独占権利欲しさにニコラと共謀し、俺とクラウスのつがい解消を実行した。けれどクラウスとお義母かあ様の前で企てが明るみとなり──国外追放の処分を受けた。
 裏切られたけれど、憎みきれない彼を頭に思い浮かべつつ宰相にお辞儀をした。
 その後、そう待たずに護衛の声がした。
 陛下とシャオレンの王太子殿下の来訪を告げる声だ。
 列席者たちは玉座の前に移動し、許可があるまで低頭して入場を待つ。
 俺は列席者の中で最年少なので、末尾で低頭した。
 衣擦れの音がする。まずは陛下が玉座へ進まれているのだ。続いてシャオレンの王太子殿下も座席に向かって進まれる、と誰もが思っただろう矢先、俺は「ん?」と頭に疑問符を浮かべた。
 どうしたのか、ブーツ型の絹靴を履いた王太子殿下の足が、座席ではなく列席者が並ぶ下座へと進んでくるのだ。
 ……んん? 
 俺の疑問が深まると同時に、リュミエール側の侍従長が「どうされました、オウジュン殿下」と戸惑いをのせた声を発した。
 そうなって当然だと思う。なぜならオウジュン殿下の足が、俺の真ん前でぴたりと止まったのだから。
 なんだ、これ。どういうこと? 
 理由もわからないまま、殿下の絹靴に刺繍された狼頭ろうとうドラゴンの赤い瞳を見つめ、声がかかるのを待った。
 その間に、以前にも似たような経験があったことを思い出していた。
 そう、あれはクラウスと事故つがいになった翌日のこと。
 ニコラの元に向かったと思われたクラウスが、瞼を開くと俺の前にいてプロポーズを……
 いやいやっ! あの時とは全く状況が違う。どうしてアレと重ねているんだ、俺は。
 それにしてもどうして? お辞儀の角度は意識している。不敬な振る舞いはしていないはずだ。
 そう思っていると……

「見つけた。私の運命のヒバリ」
「え」

 さすがに声が漏れてしまった。
 ――運命の、ヒバリ? 
 俺にしか聞こえないような小さな声だったけれど、聞き違いじゃない。オウジュン殿下は『運命のヒバリ』と、確かにそう言った。
 俺は反射的に、ペンダントトップのヒバリを上着ごとギュッと握りしめた。

「そなた、顔を見せなさい」

 オウジュン殿下の穏やかな声が頭上から聞こえてくる。
 そう言われても、『運命のヒバリ』という言葉に混乱するばかりの俺は動けないでいた。
 全身から変な汗が噴き出てくるのを感じる。ヒバリを握りしめる手にさらに力が入った。

「顔を上げなさい」

 ささくれ一つないオウジュン殿下の手に、その手を握られてしまった。
 声は穏やかなのに、握ってくる力はそれなりに強い。その不調和さに、俺の体は意図せず強張る。

「エルフィー」
「エルフィー君」
「セルドラン」

 床とにらめっこしたまま動けないでいると、父様や閣下、陛下からも声がかかってしまった。
 そして、とうとう、オウジュン殿下の声が苛立ちをはらんだ。

「早く顔を上げるのだ」

 こ、これは、もう『命令』では? このままうつむいているわけにはいかないよな? 
 俺はぎぎぎ、と音が鳴りそうなほど段階的に背と首を伸ばし、顔を正面に向けた。
 ただ、背丈の差があるために、オウジュン殿下の顔までは目に入らない。
 最初に見えたのは、重陽着チョウヤンと呼ばれるシャオレンの男性用民族衣装の胸元だ。
 殿下が着用しているそれは、ガウンのような前合わせの長衣をいくつか重ねたもので、黒地に赤や金の糸を複雑に織り込んだ上等の生地で仕立てられている。
 普段の俺なら、胸元や広い袖口にあしらわれた緻密な刺繍の美しさを楽しむだろうに、今はわずかな心の余裕もない。
 もっと顔を上げるべきか、それともこのままでいるべきか、二つの選択肢に葛藤していると、オウジュン殿下に顎をクイッと持ち上げられた。

「あっ……」

 視線がぶつかる。
 ――闇だ。
 瞬間、そう思った。
 吊り上がったまなじりに宿る深い黒の瞳は、まるで全てを覆い隠す闇のようだった。
 吸い込まれてしまうというよりも、存在ごと攫われるような感覚に襲われる。
 背筋を冷たいものが這い上がり、俺はどうすることもできずに殿下の次の言葉を待った。
 すると、殿下の薄い唇がほころんだ。

「間違いない。桃色の髪にみどりの瞳。そなたは私の運命のヒバリ……私の運命のつがいだ」

 東方の国の人なのに、流暢に西の――リュミエール王国の言葉を操っている。
 そしてこの言葉は俺だけではなく、謁見の間にいる全員に届いたらしい。一瞬にしてざわめきが静けさに変わった。
 ――そんなわけない。殿下はいったいなにを言っているんだ……! 
 俺が畏れと困惑で静止していると、陛下の低い声が助け舟を出してくれた。

「オウジュン殿、彼にはつがいの伴侶がおりますゆえ」

 その言葉に、細く整えられた眉をわずかに吊り上げたオウジュン殿下は、俺の上着の立て襟をめくってつぶやいた。

「つがいの……しるし?」

 俺のつがいのしるしは、うなじにまで視線を巡らせなくてもすぐに他人から見える。
 クラウスが対面で咬んだので、首筋にかかっているからだ。

「なるほど」

 殿下にもすぐに見えたのだろう。そう言って襟元から手を離すと、あっさりと俺に背を向けた。
 俺だけではなく他の列席者も唖然としている中、座席に座った殿下は陛下になにかを言っている。
 陛下は大きく頷くと、皆に向けてにこやかに説明を始めた。

「シャオレンでは運命のつがいという伝承があり、それをモチーフとした伝統工芸品が作られているそうだ。セルドランの姿がその工芸品にそっくりだったため、たいへん驚かれたとのことだ」

 それを受け、殿下も苦笑を見せつつ流暢なリュミエール語で話した。

「物により材質が違うが、どれも桃色の体にみどりの瞳が付いている。しかしシャオレン含む東方の国の者は皆、黒髪に黒目なのだ。初めて同じ色味を持つ者に出会い、高揚してしまった」

 ああ、そういうことだったのか、と俺はホッと安堵の息を吐いた。
 ヒバリが東方のどこかの国のアクセサリーだとは知っていたけれど、シャオレンの工芸品だったとまでは知らなかった。
 他の列席者も陛下の言葉に軽く頷いたところで、着席の許可が出る。
 ところが、俺は再び戸惑うことになった。 
 挨拶と自己紹介から続く今の合議中、オウジュン殿下の視線が俺に留まり続けているのだ。 
 いくらヒバリと同じ色だからって見すぎじゃないか?
 国議会議員たちも気付いて、訝しげにしている。 
 俺はリュミエールでは見ない黒い瞳にまだ慣れず、失礼だとは知りつつ、うつむいて殿下の視線から逃げていた。
 そして、国議会議員の一連の発表が終わり、父様が疫病流行時のラボの活動について発表する番になった時だった。
 父様が席を立つと同時に、殿下がそれを遮った。

「セルドランラボの活躍については既に承知ゆえ、エルフィー殿と直接話をさせてほしい」

 父様も俺も予期せぬその言葉に瞬き、揃って殿下に顔を向ける。
 殿下の視線は揺るぎなく、やはり俺に留まっていた。

「今回、私はあくまで私的に訪問している。本来であれば形式張ったこのような場は避け、今日にもセルドランラボに参りたいところであったのだが、リュミエール国王の顔を立てたのだ」

 殿下はそこでいったん陛下と議員に微笑むと、俺にも柔らかな笑顔を向けた。 
 今日初めて向けられたその笑みに、わずかながらも緊張が解れる。
 そして、穏やかに紡がれた殿下の次の言葉に、俺は今朝のお義父とう様の言葉を思い出した。

「議員がたの話も終わりを告げたところで、訪問の第一目的である治癒魔法について詳しく知りたい。ぜひ前途ある若き治癒魔法士のそなたより聞かせてくれぬか」

 ――そうだ、殿下は自ら俺との引見を希望したと聞いた。
 殿下は二十四歳とのことだから、同年代の俺に興味を示したのかもしれない。
 これは治癒魔法について、オメガについて理解してもらえるチャンスなのだ。
 お義父とう様――国防長官に視線を送ると「話しなさい」というように頷く。
 俺は息と一緒に緊張を呑み下し、治癒魔法について語り始めた。


 合議は太陽が真南に昇る時間に終わった。
 陛下とオウジュン殿下が退室したのち、俺と父様は全国議会議員に頭を下げて退室を見送った。
 なぜなら、途中からつい熱が入ってしまった俺は、治癒魔法のこと以外にひいおじい様から引き継いだ遺志を熱く語ってしまったのだ。
 しまいには『オメガの治癒魔力は可能性に満ちており、医術の進歩を発展させられるはずです。どうか貴国でもオメガ性への投資をご検討ください』とまで息巻いて。
 いくら殿下が熱心に耳を傾けてくれたからって、他国の方針に意見したも同然だ。不敬がすぎる。
 話し終わってからハッと気付くと、父様はハラハラした面持ちだった。陛下と国防長官はにこやかだったものの、議員の皆さんは呆れた様子で、特にアーシェット宰相は……

「エルフィー、大丈夫か?」

 うつむいていると、見送りに付き合ってくれた父様が背を撫でてくれた。

「うん……平気」

 口角を上げてみたものの、ちゃんと笑えているだろうか。

感想 409

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目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続。 2025.4.28にも1位に返り咲きました。 ありがとうございます! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。