秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】

カミヤルイ

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月華の水揚げ①

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 翌日、月華と僕はお互いに謝った。

 ただ月華はとても気にしている様子で、「ごめんな、びっくりした?」と笑って抱きついてくるかと思ったのに、指一本僕に触れようとせず、目さえ合わせようとしない。

さらにそのすぐあと、月華は蕾部屋から花の一人部屋に変わり、水揚げの準備に入ったから話す時間もなくなって……。

 それからあっという間に日は過ぎて、大輪が去り、月華の水揚げの日がやってきた。

 水揚げの花がいるときは、お客様が登楼される前にみせの皆でお祝いを伝える慣習がある。
 僕も十六夜と日向と共に、月華の部屋に向かった。

「うわぁ、月華、綺麗!」

 先頭を歩いていた十六夜が感動の声を上げて部屋に入り、日向も「おお!」と目を丸くしてあとに続く。

 僕はさっきから胸がドキドキして、手足を小刻みに震わせていた。月華を見るのが怖かった。

「毬也ー? 早くおいでよ。月華が引き出物の金平糖をくれるよ!」

 十六夜の声にどきっとする。橘さんが扉の前にいて「早くしろよ、ケダモノ」と尻尾を上下に動かした。

 身を縮めて、おずおずと足を進める。

「……!」

 息が止まった。

 磨き上げられた肌は抜けるように白く、どうしたのか銀灰色だった髪もほぼ真っ白で、黒色の毛が筋状にいくつか混ざっている。それを丹念に梳かれて結われているため、深く抜かれた襟から覗くうなじが艶めかしく光っていた。

 濃い赤の、大きな薔薇の模様の打ち掛けも魅惑的な猫顔によく映えている。着こなしの難しい仕掛けが似合ってしまうのは月華だけだと、上位の花が褒めていた。

 僕もそう思う。今まで見てきたどの花よりも大輪よりも綺麗だ。これだけ美しければ、月華は多くのお客様に買い求められるだろう。

「……嫌。嫌だ!」

 無自覚に言ってしまうと、賑わっていた部屋がしーんとなり、皆が僕を見た。

「毬也……」

 月華も僕の方を見る。キュッと上がった目尻と口角がさらに婀娜あだっぽく見えるように、朱く縁取られている。

 ──嫌だ。こんなの、月華じゃない。

「やめて、月華。お願い、水揚げをやめて!」

 月華にすがりつき、綺麗な打ち掛けを握ってぐいぐいと引っ張る。

 こんなもの、脱いでよ月華。そのお化粧も、取ってよ。いつもの月華に戻ってよ。

「このケダモノめ! なにをやってるんだ。月華さんに触るんじゃない!」

 月華「さん」? ……花になったからだ。もう、呼ばれ方も違う。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。僕だけの、ただの「月華」でいてよ……!

「月華、月華!」

 腕を回して月華に抱きつこうとすると、橘さんに腕を掴まれ、後ろ手にして床に押し付けられた。東雲大輪の目がなくなった今、橘さんの力加減に容赦はない。

「どう仕置きしてやろうか、ケダモノめ」
「月華ぁ!」

 痛いけれど、僕は月華の名を必死に呼び続けた。

「毬也……」

 甲まで真っ白で、黒い縞が入った月華の足が僕の頭の先に来る。
 月華は僕を助けるために、橘さんに刃向かってくれるつもりだ。

「橘、出て行け」

 ほらやっぱり。月華は僕を守ってくれる優しい月華のままだ。

 そう思って泣き笑いの顔を月華に向けた瞬間。

「早くこの行儀知らずのケダモノを連れて部屋を出て行け」
「え……」

 驚きで固まった。ねじ伏せられた体の痛みも感じないほどの緊張が走る。

「言ったよな、毬也。俺はここで大輪になるんだ。今日はその門出だぞ。それなのに水を差して、どういうつもりだ」

 月華の冷たい言葉に部屋の中がざわついた。十六夜と日向は「月華!」と咎めるような口調で言ったけれど、橘さんに「月華さんと呼べ!」と一蹴されて押し黙った。

「橘、ケダモノを仕置き部屋に入れておいて。仕事が終わったら俺が直接指導するから」

 月華が僕を「ケダモノ」だと言った。橘さんはたまらずと言うように吹き出して、にやついたまま「はいよ」と返事をする。

 僕はもう、月華の名前さえも口から出なくなった。呆然として力をなくした体を橘さんに引きずられ、月華の背が遠くなるのをぼんやりと目に映すだけだった。
 
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