キツネの本棚

尾裂狐

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本棚1(ストーリー)

竜と狼

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涙が出る様な、叫ばずにはいられないような。

そんな痛みが絶え間なく続く。

周りにいる人間たちがこの痛みをもたらしている事だけは分かった。

なんでこんな事をされるのか?この人たちはだれなのか?自分が何なのか?

わからない。いや、もう忘れた。

ずっと生きている。死にたくても死なない。




どれだけ血が流れたのか。意識することすら放棄していた時、ふと、気づいた。

痛くない。

ずっと続くと思っていた物がない事に気づくと、今度は意識を保つ事できた。

初めて、目の前の光景を はっきりと見る事ができた様な気さえする。

周りを見渡すと、ずっと淡々と動きまわっていた人たちが寝転がって、動かない。

手足を動かしてみる。動く。纏わりついていた鎖がない。

立ち上がって、いつもあの人たちが出たり入ったりする壁の穴まで歩いてみる。

出てみると、長い長い道があった。洞窟の中みたいだと思って、歩き出した。

不思議と洞窟みたいに暗いとは感じなかった。むしろ光が溢れていた。

そこに一点、一番強く光る場所があり、そこに向かって進んだ。

光が強い場所にたどり着き、潜り抜けてみると、外に出た。

真っ白な光景に思わず息が止まる。

この時はまだ言葉を知らなかったが、今、思い出すとあれは感動したのだと思う。

世界がこんなにもきれいな場所だって思いもしなかった。

あたり一面の白を見ていると、空から白い物が降ってきた。

ふわふわと舞い降り、触ると冷たい。それはしだいに地面に積もっていく。

もっと触ってみたくて、それの上を歩いた。

ひんやりとした感触が心地よく、いつまでも触っていたい。

ふと我にかえり、歩かなきゃ、と思い出した。

目の前には木がいっぱいならんで、真ん中に何もない。

とりあえず、そっちに歩こう。

しばらく歩いた。冷たい物の上を歩いてから、眠い。意識を手放しそうになる。

でも不思議と、あの人たちがいた洞窟みたいな場所の時みたいに、怖くない。

どのくらい歩いたのだろう?次の一歩を踏み出そうとおもった時、体から力が抜けた。

目を開けているのが疲れてきた。体が動かない。でも、白いのがひんやりしてて気持ちいい。

眠たいなぁ。頬に白いのが当たってきても気にならない。ちょっとだけ……





ザッ、ザッ、ザッ―

「ふむ、この辺か」

フードの穴から覗く。まだ吹雪いていないとはいえ、猛烈な寒さだな。異質な魔力を感じたから見回りに来たが、正直来なければよかったと思いつつある。

「ん?なんだあれ?」

なんか倒れてるのか?

そばに行ってみる。するとそこで狼の獣人が横たわっていた。息はまだしてるようだ。

「ふむ、こんな場所に獣人がいるとはな。こいつだな、さっきの魔力は。面倒だが連れて帰るか」

寝ている狼獣人を脇に抱え、もと来た道を辿る。

しばらく歩いて、家に着く。家と言っても、この雪山で作った簡易的な物だが、それなりの出来だ。

中に入り、側にあったソファに狼を寝かせる。

「さてと、寝てる内に調べるか」

そう言い、手を伸ばす。すると、狼が薄く目を開く。

早い起床に少し驚きつつ、その狼に聞く。

「おう、起きたか。気分はどうだ?」

狼は目を完全に開けて、こちらを見つめる。しかし何も言わずに耳をパタパタさせるだけ。

「おい、返事くらいしろよ。いや、まさかしゃべれねぇのか?」

今度は狼が頭をこちらを見つめたまま頭を縦に振る。言葉は理解できる様だ。

「じゃあ、分かったら今みたいに頷いてくれ。とりあえず、お前はあの研究所にいたのか?」

質問しつつ、暖かい飲み物を淹れる。狼は首を縦に振らず、疑問符を浮かべた。

「そうか、分からないか。まぁいい。じゃあ、お前は名前はあるか?」

今度は頭を傾げ、少し考える素振りを見せる。そして口を開いた。

「……りゅう……と……」

「リュウト、か。いい名前だな。ていうか、喋れるじゃねぇか。俺はドラード、見ての通り、竜人だ。とりあえずお前はしばらくここにいればいい。それともどこか行く所でもあるか?」

狼、リュウトは頭を横に振る。

「そうか、じゃあとりあえずこれ飲め。温まるぞ。」

「あり……がとう……」

「いい、いい」

こうして、一人の竜と狼が出会った。

物語の始まりなのである。
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