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ハジマリの謡
幼なじみと崩れる日常
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幼馴染みが帰ったあと、わたしはふと、考えた。
幼馴染みと出掛けるのって、どんな感じなのかって。もちろん、祐太たちも行く。後で確認したら、里沙と奈央も行くって。ますます楽しみだ。早く土曜日来ないかな~。
お風呂に入り、歯を磨いて、ベッドに横たわる。
気づいたら寝ていたようだ。
「明日美~起きろ!」
階下から、父の呼ぶ声がした。しまった!!目覚まし時計をセットするのを忘れた。
あわてて、時間を確認すると、目覚まし時計の針は、7時15分を指していた。
ーーヤバいじゃんーー。
大急ぎで、ご飯を食べる。そして、歯を磨いて、セーラー服に着替えて、7時40分に家を出た。
ーー間に合ったーー。
まだまだ十分余裕があるので、ゆっくりと自転車を走らせる。
すると、川の近くの橋に、祐太、一翔、義経、忠信、継信、義盛、季長がいた。
ーーだからその格好で出たらヤバいでしょーー。
わたしは、彼らの方を向いた。
彼らはすぐに気づいて、こちらに、手
を振ってくる。
わたしも、自転車のハンドルからてを離して、彼らにてを振り替えした。
次の瞬間だった。そのまま、バランスを崩し、チャリごと川へダイブしたのだ。
ーーザッブーンーー。
すごい音がした。まだ四月。水に入るのはまだまだ寒い。ましてや川なんて余計に寒い。
突然の出来事で、祐太たちはキョトンとしている。
やっと状況が理解できたのか、今度はうちを助けようとする。
「さむーい。」
「おーい、上がってこれるか!?」
祐太に声を掛けられ、上がろうとするけど、セーラー服が大量の水を吸って、思うように体が動かない。
「うん、今、上がる。」
しかし、足を滑らせて、また、落ちてしまった。
ーーザブーンーー
「明日美ちゃん、大丈夫?引き上げようか?」
一翔に聞かれ、
「うん、引き上げてぇ 、、、。」
と、みっともない声で言ってしまった。
引き上げてもらい、一応お礼を言った。
でも、寒い。
スカートの水を絞りながら、ぶるぶる震えている。
ーー朝からろくなことがない。ーー
「もう、なんでうちばっかりついてないの・・・。」
「まっ、頑張れ。」
「朝からこれだもの。頑張る気力皆無だよ。」
はぁー。風邪引いちゃうよ。
「ねぇ、祐太、タオル持ってない?」
「持ってないなー。」
「じゃあ、よっちゃん、タオル持ってる?」
「たおる?何だ、それ?」
あっまたやってしまった。義経の時代にタオルなんてないよなー。
って、誰も持ってないんだな。
だいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?
心の中で文句を言っておいた。
「これから、どうしよう・・・。」
「とりあえず、一回、家へ帰るか?送っていくよ。」
「えっ!?祐太に一翔、学校はいいの!?」
「まっ、良い言い訳を考えるから。」
ありがとう・・・。はぁー、なんでうちって人に迷惑ばっかり掛けちゃうのか・・・。
自分に嫌気がさす。
わたしのせいで、祐太と一翔は、学校に遅れるし、うちは見事に風邪を引いた。
ーーだいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?ーー
そんなことを思った自分に吐き気がする。
友達に向かって手を振るのは当たり前だ。幼馴染みなら、なおさら。
わたしって、酷い奴だな。
ベッドに横たわりながら、そんなことを思った。
熱も出てるし、土曜日は行けるのかな?
すると、コンコン、とドアがノックされた。
お母さんだ。
「明日美、奈央ちゃんと里沙ちゃん来ているよ?」
「うん。部屋に入れて。」
暫くすると、母が、奈央と里沙を連れて、やって来た。
「大丈夫?熱はない?」
里沙が聞いてくる。
「うん。微熱。」
「じゃあ、はい、これ。」
渡されたのはクッキー。
「美味しそう。ありがとう。」
「後ね、祐太君たち爆笑してたよ?」
あー。そうですか。っておい!!あのときは慌てて、助けてくれたくせに後でツボったのかよ。
「うん、明日美ちゃんらしいってみんな言ってたよ。」
はぁー。後で文句を言ってやる!!
「みんなって誰が?」
「祐太君に、一翔君に、佐藤さんに、伊勢さんに、義経さんに、季長さん、みんなそろって言っていたよ。」
まじか、。まぁなんて言っていたか容易に想像がつくよ。
祐太なんかやっぱりドジの女王とか、一翔は明日美ちゃんらしいやとか、義経とか、
やはり明日美殿は鈍いとか、季長は猪娘とか言ってたりして…。
「うん。確かにそういってた。」
里沙は可笑しそうにしていた。覚えとけよ。必ずあんたたちをからかってやるんだから。
「早く元気になってね。」
「ありがと、奈央。」
「私達、塾だからごめんね。」
「うん、じゃあね。」
幼馴染みも帰って、暇だった。今すぐ、風邪治らんかな~。
「あぁ~誰か食べ物持ってこないかなー。」
「さっきから何、独り言言ってるんだよ。」
聞き慣れた声にびっくりしてドアの方に顔を向けると、いたよ。祐太に一翔に義経に季長が。佐藤君に伊勢君はいないみたいだね。
すると、お母さんが、階下から
「いい忘れたけど、祐太君たち来てるわよ。」
でも、ナイスタイミング!!何か持ってきてくれたかなぁ~。
すると、祐太がなんでもお見通しとでも言うように
「なんだよ。さっきからニヤニヤして気持ち悪ぃ。さては、なんか食べ物持ってきてくれたとでも思ってるんだろ?」
す、鋭い。
「な、なんで分かったの!?」
「明日美殿のことだから。」
義経にしれっと言われた。
「お前、食いしん坊だもんな。」
そういって、祐太が抹茶チョコレートを差し出してくる。
「受け取りなよ。」
一翔はココアを差し出してくる。
「はい、明日美殿。」
義経は干し柿を差し出してくる。
「早く良くなれよ、明日美殿。」
季長は魚の干物を差し出してくる。
「あ、ありがとう・・・。」
どういう訳か、彼らを仕返しにからかってやろうという思いは消え失せていた。
しかも全部うちの好物を持ってくるなんて、さすが幼馴染み。他の人なんか、お見舞いに嫌いなものを持ってくるなんてこともあったし。
「あっ、もうねだったって俺たちなにも持ってねーからな。」
祐太に冷たく言われて、
「はっ!?最初な~。」
「でも、お前の表情からして、何か欲しそうにしてたけどな。」
だから、なんで分かるの!?
「そりゃ、保育からの付き合いだからね。明日美ちゃんの気持ちくらいわかるよ。」
一翔って堅物かと思ったら意外と気さくだもんね。
「あっ、そろそろ。」
「えっ!?もう帰っちゃうの?」
「あぁ。あまり長く居たら、忠信たちに心配されるからな。」
「じゃあな、明日美、早く治せよ。」
「じゃあね。」
彼らも帰って、もらった物を食べていると、
「明日美、晩御飯よ。降りてらっしゃい。」
「うん、今すぐ行く。」
晩御飯はハンバーグだった。
「もう、自転車ごと川へダイブするなんてね。」
お母さんがおもしろそうに言う。
「明日美、お前、幼馴染みとばかりじゃなくて他の子とも仲良くしろよ。」
お父さんに言われて、他の子かぁ~。まぁそこそこ仲良しの子もいるけど。
「まっそこそこ仲良しの子もいるよ。」
「そうか、ならいいが。」
そして、明日。体調はすっかり良くなっていた。
学校について、すると、クラスメートの女子が、
「ねぇ明日美ちゃん、この前一緒にいた純和風のお兄さん誰?」
えっ!?見られていたの。
「祐太君や、一翔さんと一緒に明日美ちゃんの家を訪ねていたよね?」
彼女の名前は江本夕菜でクラスメート。女子に対しては素っ気ないのに、男子に対してはぶりっこだから彼女のことは苦手だ。
「なんか、教科書で見るような、鎌倉時代の服装だよね。格好はあれだけど結構カッコいいじゃん。」
あぁ........................。義経たちも面倒臭いのに目をつけられちゃったな。
「ねぇ、一体誰なの?」
幼馴染みですって言っても大丈夫かなぁ。
「幼馴染みだよ。」
「明日美ちゃんずる~い。あたしにも紹介してぇ~。」
なんかとんでもないことになったよ。
「ねぇ明日美ちゃん?」
「どうしたの?」
「あたしと友達になってぇ。」
夕菜と友達かぁ・・・・。
「うん・・・。いいよ・・・。」
「本当?ありがとう!!明日美ちゃんって優しいよね!!」
案の定、噂は広がっていた。みんなに和風のお兄さん誰?って聞かれまくって大変だ。
「お……幼なじみです……。彼氏じゃないよ。」
言い訳には苦労する……。
「明日美殿。」
ふと、窓の方から聞き慣れた声が聞こえた。もう……。なんなの~と思って見てみると、
直垂姿のわたしより少し歳上の青年がいた。
「ちょ、ちょっと……よっちゃん!?なんであんたが此処にいるのよ!?」
ちょうど義経達のことが噂になっていたので、みんな大騒ぎだ。
「あっ!!噂のお兄さんだ!!」
「噂すればなんちゃらっていうのは本当みたいね。」
「すげー!!本当に大河で見るような格好してるー」
「あの人、絶対女装似合うよね?」
女装か……。確かに、義経は女子、男子どちらとも取れる顔立ちだし、色白だし、髪の毛だって長いし(当時は男性でもロングヘアーは普通。)
絶対似合うよ……。
裕太や一翔だって結構似合いそうだし、別にうちが男の娘に興味があるわけじゃないけどね……。
そしたら、優菜が、彼に近づいて、
「明日美ちゃんと仲良しって本当ですか?」
げ……。とんでもない事を聞いてるし……。
「あぁ、鞍馬寺にいた頃からの友だ。」
おい!!みんなの前でそんなこと言うか!!
このKY武将!!
「明日美ちゃんって4股なの!?」
て言うか、彼氏いません……。
「明日美ちゃんはあなたの許嫁ですか?」
なんて質問してんだよ!!と思ったけど、
「許嫁かどうかは分からぬ……。」
曖昧な返事しないで……。しかも何を赤くなってるの……。
まあ、白い頬がほんのり赤くなってかわいいけど……。
「ねえ、なんで来たの?」
彼に小声で聞くと、
「明日美殿がどこで学問しているか気になっただけだ。」
気にならなくて結構だから……。
「お名前は?」
答えなくて結構だよ……。
「我の名は源九郎義経だ。」
素直に名乗ってるし……。
「すごーい!!明日美ちゃんのボーイフレンドってみんな豪華だよね、羨ましい!!」
うるさい……。
「ではそろそろ……。明日美殿、頑張って学問に励むんだそ。」
応援ありがとう……。
そして彼が帰ってがらがらこれまた大変で……。
「キャー、喋っちゃった!!」
と優菜はご機嫌モード。
「えー、優菜じゃなくてあたしが喋りたかった……。」
他の女子が優菜に文句を言う。
「ダメダメ~美晴ちゃんなんかじゃダメだよ。
やっぱり有名人と話すのはこの優菜じゃなきゃ!!」
「いつも優菜ばっかり……」
やっぱり優菜ちゃんは苦手かな……?
「めっちゃ仲良しじゃん!!」
そこからわたしの好きな人詮索が始まったのでした……。
好きな人なんかいません……。
そして、授業も終わり、下校の時間になった。
「明日美、大変だな。」
祐太が心配してくれるけど、大変だってレベルじゃないし。
「何かあったらいつでも言ってね。」
理沙に奈央、本当にありがたい。
すると、建物の裏から変な物音がする。きっと気のせいだろう。
わたしは、道に落ちてる小石を蹴った。
その小石が悪夢の始まりだなんて誰も知らなかった。
カッ!!微かに音がした。すると、何かが不規則な足音をたててこっちに向かってくる。
それに、なんか臭い。まるで何かが腐ったみたいな匂いだ。
「ねえ、なんか臭い。」
「確かに臭いな。」
「うぅ、なんかくるみたい。」
するとそいつが姿を表した。それは、ワンピースを着た若い女性だった。
でも、それは生きている人間じゃなかった。
肌は腐敗して変色し、眼球は白く濁っている。明らかに腐敗臭は彼女から漂っていた。
まるで、ホラー映画で見るようなゾンビそのものだった。
「何よ!!これ!?」
「知らないよ!!なんでこんなのが横浜にいるの!?」
いつもは大人びている里沙と奈央でさえ恐怖に怯えていた。
「ねぇ、祐太、剣道の大会優勝してるよね?」
「でも、いまは木刀とか武器になるのは持ってないぞ。」
そんな............。どうしたら..........。
わめいてる間に女は近づいてくる。明らかにうちらを狙っている。
こういう時に義経や季長、佐藤兄弟や伊勢君がいてくれたなら。
でも、そんなに都合よく彼らはいない。
じゃあどうなるの?
バシッ!!気が付くと、女は倒れていて、
背後におじさんが立っていた。どうやら女を張り倒したようだ。
「大丈夫か!?怪我はないか?」
「ありがとうございます。」
助かった、と思ったのはつかの間。女はおじさんを見えているのかわからない白く濁っている眼球でおじさんを見据えていた。
女はよろよろと立ち上がり、おじさんにつかみかかった。
そして、おじさんに噛みついた。おじさんの腕から鮮血が飛び散る。
おじさんは苦悶の表情を浮かべながらも、
「お前たちは逃げろ。おじさんなんかに構うな!!」
「えっでも・・・。」
「いいから行け!!」
おじさんに強く促されて、私たちは逃げた。
誰か、助けて・・・・・・。
「明日美殿!?」
聞き慣れた声がふと聞こえた。そこには、義経と佐藤兄弟が立っていた。
思わずうちは義経の腕を掴んでいた。
「な、なんだ?」
突然腕を掴まれて驚いている彼。
「ねぇ、怖い。助けて............。」
私たちはまだ知らなかった。これは悪夢の始まりにしか過ぎなかったのだと。
幼馴染みと出掛けるのって、どんな感じなのかって。もちろん、祐太たちも行く。後で確認したら、里沙と奈央も行くって。ますます楽しみだ。早く土曜日来ないかな~。
お風呂に入り、歯を磨いて、ベッドに横たわる。
気づいたら寝ていたようだ。
「明日美~起きろ!」
階下から、父の呼ぶ声がした。しまった!!目覚まし時計をセットするのを忘れた。
あわてて、時間を確認すると、目覚まし時計の針は、7時15分を指していた。
ーーヤバいじゃんーー。
大急ぎで、ご飯を食べる。そして、歯を磨いて、セーラー服に着替えて、7時40分に家を出た。
ーー間に合ったーー。
まだまだ十分余裕があるので、ゆっくりと自転車を走らせる。
すると、川の近くの橋に、祐太、一翔、義経、忠信、継信、義盛、季長がいた。
ーーだからその格好で出たらヤバいでしょーー。
わたしは、彼らの方を向いた。
彼らはすぐに気づいて、こちらに、手
を振ってくる。
わたしも、自転車のハンドルからてを離して、彼らにてを振り替えした。
次の瞬間だった。そのまま、バランスを崩し、チャリごと川へダイブしたのだ。
ーーザッブーンーー。
すごい音がした。まだ四月。水に入るのはまだまだ寒い。ましてや川なんて余計に寒い。
突然の出来事で、祐太たちはキョトンとしている。
やっと状況が理解できたのか、今度はうちを助けようとする。
「さむーい。」
「おーい、上がってこれるか!?」
祐太に声を掛けられ、上がろうとするけど、セーラー服が大量の水を吸って、思うように体が動かない。
「うん、今、上がる。」
しかし、足を滑らせて、また、落ちてしまった。
ーーザブーンーー
「明日美ちゃん、大丈夫?引き上げようか?」
一翔に聞かれ、
「うん、引き上げてぇ 、、、。」
と、みっともない声で言ってしまった。
引き上げてもらい、一応お礼を言った。
でも、寒い。
スカートの水を絞りながら、ぶるぶる震えている。
ーー朝からろくなことがない。ーー
「もう、なんでうちばっかりついてないの・・・。」
「まっ、頑張れ。」
「朝からこれだもの。頑張る気力皆無だよ。」
はぁー。風邪引いちゃうよ。
「ねぇ、祐太、タオル持ってない?」
「持ってないなー。」
「じゃあ、よっちゃん、タオル持ってる?」
「たおる?何だ、それ?」
あっまたやってしまった。義経の時代にタオルなんてないよなー。
って、誰も持ってないんだな。
だいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?
心の中で文句を言っておいた。
「これから、どうしよう・・・。」
「とりあえず、一回、家へ帰るか?送っていくよ。」
「えっ!?祐太に一翔、学校はいいの!?」
「まっ、良い言い訳を考えるから。」
ありがとう・・・。はぁー、なんでうちって人に迷惑ばっかり掛けちゃうのか・・・。
自分に嫌気がさす。
わたしのせいで、祐太と一翔は、学校に遅れるし、うちは見事に風邪を引いた。
ーーだいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?ーー
そんなことを思った自分に吐き気がする。
友達に向かって手を振るのは当たり前だ。幼馴染みなら、なおさら。
わたしって、酷い奴だな。
ベッドに横たわりながら、そんなことを思った。
熱も出てるし、土曜日は行けるのかな?
すると、コンコン、とドアがノックされた。
お母さんだ。
「明日美、奈央ちゃんと里沙ちゃん来ているよ?」
「うん。部屋に入れて。」
暫くすると、母が、奈央と里沙を連れて、やって来た。
「大丈夫?熱はない?」
里沙が聞いてくる。
「うん。微熱。」
「じゃあ、はい、これ。」
渡されたのはクッキー。
「美味しそう。ありがとう。」
「後ね、祐太君たち爆笑してたよ?」
あー。そうですか。っておい!!あのときは慌てて、助けてくれたくせに後でツボったのかよ。
「うん、明日美ちゃんらしいってみんな言ってたよ。」
はぁー。後で文句を言ってやる!!
「みんなって誰が?」
「祐太君に、一翔君に、佐藤さんに、伊勢さんに、義経さんに、季長さん、みんなそろって言っていたよ。」
まじか、。まぁなんて言っていたか容易に想像がつくよ。
祐太なんかやっぱりドジの女王とか、一翔は明日美ちゃんらしいやとか、義経とか、
やはり明日美殿は鈍いとか、季長は猪娘とか言ってたりして…。
「うん。確かにそういってた。」
里沙は可笑しそうにしていた。覚えとけよ。必ずあんたたちをからかってやるんだから。
「早く元気になってね。」
「ありがと、奈央。」
「私達、塾だからごめんね。」
「うん、じゃあね。」
幼馴染みも帰って、暇だった。今すぐ、風邪治らんかな~。
「あぁ~誰か食べ物持ってこないかなー。」
「さっきから何、独り言言ってるんだよ。」
聞き慣れた声にびっくりしてドアの方に顔を向けると、いたよ。祐太に一翔に義経に季長が。佐藤君に伊勢君はいないみたいだね。
すると、お母さんが、階下から
「いい忘れたけど、祐太君たち来てるわよ。」
でも、ナイスタイミング!!何か持ってきてくれたかなぁ~。
すると、祐太がなんでもお見通しとでも言うように
「なんだよ。さっきからニヤニヤして気持ち悪ぃ。さては、なんか食べ物持ってきてくれたとでも思ってるんだろ?」
す、鋭い。
「な、なんで分かったの!?」
「明日美殿のことだから。」
義経にしれっと言われた。
「お前、食いしん坊だもんな。」
そういって、祐太が抹茶チョコレートを差し出してくる。
「受け取りなよ。」
一翔はココアを差し出してくる。
「はい、明日美殿。」
義経は干し柿を差し出してくる。
「早く良くなれよ、明日美殿。」
季長は魚の干物を差し出してくる。
「あ、ありがとう・・・。」
どういう訳か、彼らを仕返しにからかってやろうという思いは消え失せていた。
しかも全部うちの好物を持ってくるなんて、さすが幼馴染み。他の人なんか、お見舞いに嫌いなものを持ってくるなんてこともあったし。
「あっ、もうねだったって俺たちなにも持ってねーからな。」
祐太に冷たく言われて、
「はっ!?最初な~。」
「でも、お前の表情からして、何か欲しそうにしてたけどな。」
だから、なんで分かるの!?
「そりゃ、保育からの付き合いだからね。明日美ちゃんの気持ちくらいわかるよ。」
一翔って堅物かと思ったら意外と気さくだもんね。
「あっ、そろそろ。」
「えっ!?もう帰っちゃうの?」
「あぁ。あまり長く居たら、忠信たちに心配されるからな。」
「じゃあな、明日美、早く治せよ。」
「じゃあね。」
彼らも帰って、もらった物を食べていると、
「明日美、晩御飯よ。降りてらっしゃい。」
「うん、今すぐ行く。」
晩御飯はハンバーグだった。
「もう、自転車ごと川へダイブするなんてね。」
お母さんがおもしろそうに言う。
「明日美、お前、幼馴染みとばかりじゃなくて他の子とも仲良くしろよ。」
お父さんに言われて、他の子かぁ~。まぁそこそこ仲良しの子もいるけど。
「まっそこそこ仲良しの子もいるよ。」
「そうか、ならいいが。」
そして、明日。体調はすっかり良くなっていた。
学校について、すると、クラスメートの女子が、
「ねぇ明日美ちゃん、この前一緒にいた純和風のお兄さん誰?」
えっ!?見られていたの。
「祐太君や、一翔さんと一緒に明日美ちゃんの家を訪ねていたよね?」
彼女の名前は江本夕菜でクラスメート。女子に対しては素っ気ないのに、男子に対してはぶりっこだから彼女のことは苦手だ。
「なんか、教科書で見るような、鎌倉時代の服装だよね。格好はあれだけど結構カッコいいじゃん。」
あぁ........................。義経たちも面倒臭いのに目をつけられちゃったな。
「ねぇ、一体誰なの?」
幼馴染みですって言っても大丈夫かなぁ。
「幼馴染みだよ。」
「明日美ちゃんずる~い。あたしにも紹介してぇ~。」
なんかとんでもないことになったよ。
「ねぇ明日美ちゃん?」
「どうしたの?」
「あたしと友達になってぇ。」
夕菜と友達かぁ・・・・。
「うん・・・。いいよ・・・。」
「本当?ありがとう!!明日美ちゃんって優しいよね!!」
案の定、噂は広がっていた。みんなに和風のお兄さん誰?って聞かれまくって大変だ。
「お……幼なじみです……。彼氏じゃないよ。」
言い訳には苦労する……。
「明日美殿。」
ふと、窓の方から聞き慣れた声が聞こえた。もう……。なんなの~と思って見てみると、
直垂姿のわたしより少し歳上の青年がいた。
「ちょ、ちょっと……よっちゃん!?なんであんたが此処にいるのよ!?」
ちょうど義経達のことが噂になっていたので、みんな大騒ぎだ。
「あっ!!噂のお兄さんだ!!」
「噂すればなんちゃらっていうのは本当みたいね。」
「すげー!!本当に大河で見るような格好してるー」
「あの人、絶対女装似合うよね?」
女装か……。確かに、義経は女子、男子どちらとも取れる顔立ちだし、色白だし、髪の毛だって長いし(当時は男性でもロングヘアーは普通。)
絶対似合うよ……。
裕太や一翔だって結構似合いそうだし、別にうちが男の娘に興味があるわけじゃないけどね……。
そしたら、優菜が、彼に近づいて、
「明日美ちゃんと仲良しって本当ですか?」
げ……。とんでもない事を聞いてるし……。
「あぁ、鞍馬寺にいた頃からの友だ。」
おい!!みんなの前でそんなこと言うか!!
このKY武将!!
「明日美ちゃんって4股なの!?」
て言うか、彼氏いません……。
「明日美ちゃんはあなたの許嫁ですか?」
なんて質問してんだよ!!と思ったけど、
「許嫁かどうかは分からぬ……。」
曖昧な返事しないで……。しかも何を赤くなってるの……。
まあ、白い頬がほんのり赤くなってかわいいけど……。
「ねえ、なんで来たの?」
彼に小声で聞くと、
「明日美殿がどこで学問しているか気になっただけだ。」
気にならなくて結構だから……。
「お名前は?」
答えなくて結構だよ……。
「我の名は源九郎義経だ。」
素直に名乗ってるし……。
「すごーい!!明日美ちゃんのボーイフレンドってみんな豪華だよね、羨ましい!!」
うるさい……。
「ではそろそろ……。明日美殿、頑張って学問に励むんだそ。」
応援ありがとう……。
そして彼が帰ってがらがらこれまた大変で……。
「キャー、喋っちゃった!!」
と優菜はご機嫌モード。
「えー、優菜じゃなくてあたしが喋りたかった……。」
他の女子が優菜に文句を言う。
「ダメダメ~美晴ちゃんなんかじゃダメだよ。
やっぱり有名人と話すのはこの優菜じゃなきゃ!!」
「いつも優菜ばっかり……」
やっぱり優菜ちゃんは苦手かな……?
「めっちゃ仲良しじゃん!!」
そこからわたしの好きな人詮索が始まったのでした……。
好きな人なんかいません……。
そして、授業も終わり、下校の時間になった。
「明日美、大変だな。」
祐太が心配してくれるけど、大変だってレベルじゃないし。
「何かあったらいつでも言ってね。」
理沙に奈央、本当にありがたい。
すると、建物の裏から変な物音がする。きっと気のせいだろう。
わたしは、道に落ちてる小石を蹴った。
その小石が悪夢の始まりだなんて誰も知らなかった。
カッ!!微かに音がした。すると、何かが不規則な足音をたててこっちに向かってくる。
それに、なんか臭い。まるで何かが腐ったみたいな匂いだ。
「ねえ、なんか臭い。」
「確かに臭いな。」
「うぅ、なんかくるみたい。」
するとそいつが姿を表した。それは、ワンピースを着た若い女性だった。
でも、それは生きている人間じゃなかった。
肌は腐敗して変色し、眼球は白く濁っている。明らかに腐敗臭は彼女から漂っていた。
まるで、ホラー映画で見るようなゾンビそのものだった。
「何よ!!これ!?」
「知らないよ!!なんでこんなのが横浜にいるの!?」
いつもは大人びている里沙と奈央でさえ恐怖に怯えていた。
「ねぇ、祐太、剣道の大会優勝してるよね?」
「でも、いまは木刀とか武器になるのは持ってないぞ。」
そんな............。どうしたら..........。
わめいてる間に女は近づいてくる。明らかにうちらを狙っている。
こういう時に義経や季長、佐藤兄弟や伊勢君がいてくれたなら。
でも、そんなに都合よく彼らはいない。
じゃあどうなるの?
バシッ!!気が付くと、女は倒れていて、
背後におじさんが立っていた。どうやら女を張り倒したようだ。
「大丈夫か!?怪我はないか?」
「ありがとうございます。」
助かった、と思ったのはつかの間。女はおじさんを見えているのかわからない白く濁っている眼球でおじさんを見据えていた。
女はよろよろと立ち上がり、おじさんにつかみかかった。
そして、おじさんに噛みついた。おじさんの腕から鮮血が飛び散る。
おじさんは苦悶の表情を浮かべながらも、
「お前たちは逃げろ。おじさんなんかに構うな!!」
「えっでも・・・。」
「いいから行け!!」
おじさんに強く促されて、私たちは逃げた。
誰か、助けて・・・・・・。
「明日美殿!?」
聞き慣れた声がふと聞こえた。そこには、義経と佐藤兄弟が立っていた。
思わずうちは義経の腕を掴んでいた。
「な、なんだ?」
突然腕を掴まれて驚いている彼。
「ねぇ、怖い。助けて............。」
私たちはまだ知らなかった。これは悪夢の始まりにしか過ぎなかったのだと。
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