今日ノソライロ〜死の都 ゾンビを倒して世界を救え!!!

春の七草

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滅びのメロディー

みんなの約束

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日々避難所の人数は膨れ上がるばかり。
両親や奈央、里沙は時々ボランティアで色々とやっている。
この頃、かなり忙しいのか、わたしは、両親、奈央、里沙とほとんど一緒に過ごせなくなっていた。
おまけに佐藤兄妹や伊勢君だってヤツらを倒しに行ってるし、わたしは祐太達四人と過ごしていた。
と言っても四人だって時々居ないし、一人ぼっちの日が段々と増えていった。



今、わたしは一人ぼっちで暗闇にいる。何故こんなところに居るのかなんて分からない。
「明日美ちゃん…。」
暗闇を歩いていると誰かに呼ばれた気がした。
若い男性の声だった。
振り返ると、暗闇にポツリと青年が立っていた。
年の頃は季長と義経より少し上くらい。
身長はスラリと高くて、色白でかなりのイケメン。
「お兄ちゃん!!」
その人は自分のお兄ちゃんなんだと直感で分かった。
12才で亡くなった筈のお兄ちゃんは、
二十代前半の立派な青年に成長した姿で現れたのだ。
「大丈夫だよ…。明日美ちゃんは死なない。」
お兄ちゃんはわたしの頭を撫でながら言った。
冷たい手だった。
「お母さんも、お父さんも、なっちゃんも、りっちゃんも、ゆーたんも、かずにぃも、すえ君もよっちゃんも、忠信君も継信君も伊勢君も死なないよね?」
友里亜さんも…。みんな生きてくれるよね?
わたしを置いて逝ったりなんかしないよね?
わたしがそう聞くとお兄ちゃんは悲しそうな表情をして言った。
「今まで、僕は明日美ちゃんや、あの子達の成長を見守ってきたよ…。
君にとって大切な人は僕にとっても大切な人だ。
でも、僕が守れるのは明日美ちゃんだけ。それが精一杯なんだ。
だから、明日美ちゃんの大切な人は明日美ちゃん自身が守るしかないんだ。
だけれど僕も出来ればみんなを守りたい…。」
それだけ言い終えると、お兄ちゃんは闇に溶け込むかのように姿を消してしまった。

ふと、暗闇に明かりが差した気がした。
眠気が段々と覚めて、わたしは目を開けた。
「お兄ちゃん!!」
わたしは思わず、祐太達に向かってそう叫んでいた。
「はぁ?何言ってんだ、お前。」
呆れ口調の祐太。
「魘されていたぞ。」
義経に言われて、初めて気づく。
魘されていたんだ…。って。
「なんだ、夢か…。」
でも、お兄ちゃんに本当に逢ったかのような夢だった。
頭を撫でられた時の感触も妙にリアルだし。
色々考えていると、四人が立ち上がって何処かへ行こうとした。
「何処行くの?」
「ゾンビ狩り。」
一翔が弓と木刀を持って答えた。
わたしは大鎌を手に取った。
「待って、わたしも行く。」


外は依然としてヤツらで溢れていた。
ソライロは濃い灰色で、絶望を写したかのようであった。
「アアアアアアアアアア…。」
空気が漏れでるかのような弱々しい呻き声。
思わず大鎌を握る手に力が入る。
わたしは、目の前のゾンビに狙いを定めて、歩き出した…。
筈だった…。
グキンッ…。思いっきり足を挫いた上に、何かに躓いて前のめりに倒れてしまった。
ガタンッと大きな音を立てて大鎌が倒れる。
その音に気が付いたのかヤツらがわたしを狙って群がってくる。
半分白骨化しかけたゾンビが馬乗りになってくる。
そのグロい姿と酷い腐敗臭に恐怖と気持ち悪さで頭がどうにかなっちゃいそうだ。
ガツッ
誰かがわたしに馬乗りになっているゾンビを蹴り上げたようだ。
「お前の相手はその子じゃない。俺たちだ。」
祐太がゾンビに言い放つ。
ゾンビはすぐにわたしを標的から外し、祐太に向かって襲いかかる。
腐り果てて、筋肉が無くなりかけた顎を動かしながら襲いかかってゆく。
普通の人ならパニックになりそうだが、は冷静だった。
表情一つ変えない。祐太と一翔はそこら辺の人なんか相手にならないくらいの実力者だし、肝のすわりかたも違う。
義経と季長なんか祐太や一翔よりも強いし何より現代人には無い覚悟なんかがオーラから滲み出ている感じ。
戦闘などになったら凄まじい殺気を感じる。
もう殺気だけで素人さんは逃げ出すんじゃないかってくらいで。
それに比べたらわたしはダメダメで、弱くて、へなちょこで。
役立たずで、面倒ばかり増やしてって。
家族や幼なじみなんかの大切な人に素直になれずに酷い言葉を吐いたり、いつも迷惑を掛けて。
本当にイヤになるな。この性格。
いっそ噛まれて死んじゃいたいくらい。
でも、死んじゃいたいなんて家族や幼なじみなんかには恐ろしくて言えやしない。
もしもわたしがヤツらに噛まれてしまったら誰がわたしを殺すのか。
お母さんでも、お父さん、奈央、里沙、祐太、一翔、義経、季長、佐藤君に伊勢君。
大切な人に殺されるのならわたしはそれで構わないよ。
思わずわたしは武器を捨ててヤツらの大群に痛む足を引きずって突っ込んでいった。
ゾンビまであと3メートル、2メートル、1
メートル


ガシッ!!腕を誰かに思いきり掴まれ、ヤツらの居ない所まで引っ張られた。
離そうにも力が強くて離れない。
「何のつもり?」
一翔の声がした。
どうやら彼がわたしの腕を掴んでいたようだ。
「痛い!!離して!!」
そんなことを言っているといつの間にあのゾンビの大群は全滅していた。
きっと残りの3人に違いない。
「お前、一体何をやってたんだ!?」
祐太に問い詰められるが、答えられない。答えたくない。

絶対みんな怒ってるよね?
「歩けるか?」
と季長に聞かれる。
足を挫いたので、歩こうにも右足に少しでも体重が掛かるだけで、ズキンと酷く痛む。
折れたかも知れない。
「あ、歩けない…かも…。」
わたしが正直に答えると、彼はわたしの腰に手をまわし、太ももの下側を持ち上げ、わたしはお姫さま抱っこの形になった。
わたしは彼の肩に手を回す。
「すえ君、わたし、重くないかな?」
「大丈夫だ。そんなことより、さっきのは一体何のつもりだ?」
「ちょっと言いにくい…。」
「後で話せ。」
話していいのか分からない。
わたしの誰にも言えない、辛さなんて。

そのまま抱き抱えられて、わたしは避難所に着いた。
避難所に入ってからは抱き抱えられているわたしを何人かの女の人が凄くガン見しているので、その視線が刺さって痛い。
それもそのはず。季長って祐太や一翔、義経程じゃないけれども、端整な顔立ちでそこら辺の男子よりもカッコいいからね。
時々嫉妬の籠った視線もかんじるのでちょっとキツい。
わたしたちの場所へ戻ってきてやっとわたしはおろされた。
「で?なんであんなことしたの?」
祐太に問い詰められて一瞬口をつぐんだ。
「わたしさ、もう嫌になったの。」
「何が、イヤになったの?」
一翔に聞かれる。わたしは重い口を開いた。
「私自身のことが。イヤになったの。人に嫌われて、いっぱい嫉妬されて。周りから変な目で見られて。木下と藤宮の件で周りに悪口を言われる。だから、疲れちゃった。もういっそ、ヤツらの仲間になっちゃおうかなんて…。
それで、ゆーたんかかずにぃ、すえ君、よっちゃんがわたしを倒す。でも、わたし、あなたの気持ちなんか考えてなかった。
ごめんなさい…。」
彼らはわたしの言葉を黙って聞く。
「木下と藤宮が脅威を奮っていたときは、みんなわたしを白い目で見ていた。
でも、木下と藤宮が落ちぶれた途端、みんなわたしに同情し始めた。
だから、わたし、もう大切な人以外信じられなくなっちゃった。」

「「「「辛かったな。」」」」
ズルいよ…。そんなときにいきなり優しくなるなんて…。

ズルいよ…。馬鹿…。


こうしているうちに
「あら、お帰りなさい。」
両親、奈央と里沙、佐藤兄妹、伊勢君が帰ってきた。
「あのさ、みんな、おねがいなんだけど…。」
みんなが一斉に振り向く。
「死なないで。絶対に。」
それがわたしの素直な想いだ。
「明日美?あなたは死んじゃダメよ?」
お母さんの言葉を聞いて胸の奥がズキンと痛む。
「お父さんもお前を育てて15年も経ったなんて今でも信じられないよ。」
そんなことを言いながらお父さんはわたしの頭を撫でる。
「明日美、お前は絶対に死んじゃダメだ。」
祐太がわたしの両肩をがっしり掴む。
「分かった。わたし、みんなと約束する。絶対に死なない。生きる。」
わたしは生きる。生きて生きて生きる。
そして、またみんなと笑い合うんだ。
「もしも、我が死んでもだ。」
「え?よっちゃんはきっと生きれる筈だよ?」
わたしがそう言うと彼は何も言わずに微笑んだだけだった。

大丈夫…。友里亜さんがいった通り、わたしたちのチームは強い。
だから、みんな死んだりなんかしない。
みんな、死んだりなんかしないって約束したんだから。

ねぇ、約束は絶対だよね?

破ったら、嘘ついたら許さないから…。







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