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5話 鑑定と鬼

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 翌日、大きな音で目が覚めた。

 窓の外を見ると、中庭に大砲や武器が武装した兵士達によって運ばれてきていた。

 これから戦争が始まるのではないかと不安になるくらいの光景だ。

 ちょうどベルさんが朝食を届けに来たので聞いてみることにした。


 「ベルさん、朝から中庭が物騒なんだけど、何か始まるの?」

 「あ、ロディ坊ちゃんはご存知なかったですね。ここからだと遥か西方で、戦争が始まるんです。ファサネイト大森林というところに住んでいるエルフ、ダークエルフ、獣人族達の連合軍が西方にあるスラブ大国を攻めにきているみたいで……ノブル上流国からも兵士を出すようですよ。」

 「えー戦争か……こっちの方も危ないの?敵は攻めてくる?」

 「んーおそらく大丈夫じゃないでしょうか。連合軍は、何度か攻めてきているみたいですが、狙いは領土とかじゃないみたいで……ある程度戦うと帰っていくみたいですよ。」

 「そうなんだ。じゃあなんで攻めてきてるの?」

 「理由までは判りかねます。が、私としては連合軍が攻めて来てからというもの、六大王国での戦争はなくなりましたから……私はその事実だけで十分です。前線で今も戦っている兵士の方々には申し訳ないですが……」

 「ふーん。そうなんだ。それで六大王国?ノブル上流国以外はどんな国があるの?六大王国は争ってたの?ってか連合軍はファサネイト大森林ってとこから来るのそれはどこにあるの??」

 「……コホンっ。さぁ、話はここまでですっ!朝食が冷めちゃうから続きは、また今度にしましょうね。では。」


 あー、なんとなく世界情勢が分かるかと思ったのに、最後は有耶無耶にされちゃった……

 まぁ今は、いいか。
 そのうち、ベルさんに世界情勢がわかる本を持ってきてもらおーっと。

 ってか朝食が冷めちゃうからって、ミルクスープも黒パンも元々冷たいし、冷めちゃうものなんてないのに……

 あー、さてはベルさんもあんまり知らないからはぐらかしたなぁきっと。

 俺は、黒い笑顔を浮かべながら、朝食を頬張った。

 朝食を食べ終えたら、早速身体強化の特訓を開始する。

 今日は、調子が良くて1500回ずつできたので、今日からスクワットも追加する事にした。

 1時間程度で身体強化の特訓を終えたら次は、鑑定の練習。

 まずは本の通り、部屋にあるものをじっくりと見る。

 じっくりと。

 じっくりと。

 じっくりと。

 …………

 ……
 
 …

 見えた!

【鑑定結果】
分類:家具
役職:ベット
説明:粗悪なベット

【鑑定結果】
分類:家具
役職:タンス
説明:小さなタンス

【鑑定結果】
分類:洋服
役職:子供用の服
説明:子供用の粗悪な洋服  

 etc.

 部屋にあるものを一通り見終えたら、見るものが無くなった。
 改めて自分の部屋に物が少ないことに気がつく。

 あ、この空気と魔力の流れを把握できる力で一緒に鑑定したらどうかな……?

 疑問に思ったら即行動。

 かなりコツは必要みたいだが、結論から言うと出来た。
 それから、廊下の物や、中庭にある武器等の類までくまなく鑑定した。

 かなりの数を鑑定し終えた結果、説明欄が少し詳しくなっているような気がした。


【鑑定結果】
分類:武器
役職:魔大砲
説明:鉄でできた大砲。鉄球を込めて魔力で発射する。

 そう思った俺は、もう一度、部屋の中にあったベットを鑑定してみる。

【鑑定結果】
分類:家具
役職:ベット
説明:粗悪なベット。中はスモールスパイダーの糸から出来た糸が詰められている。

 うげっ。見たくない結果だった。
 まぁ今更気にしても仕方ないんだけどさ。

 まぁでも、鑑定が成長している……ような気がする。
 という事で、俺は気を取り直して、もう一度部屋の物から鑑定をしていった。

 夢中になって次々と鑑定していると、太陽は既に真上まで登っていることに気がついた。
 そろそろ昼ごはんだろう、という事で一旦鑑定をやめる。

 それにしても、鑑定は使えば使うほど成長していった。
 その事に、成長を感じ、素直に嬉しく思った。

 しばらく待っていると、廊下を歩いてくるベルさんを感知した。
 そこで、俺は興味本位でベルさんを鑑定してみることにした。


【ステータス】
名前:ベル
年齢:29歳
性別:女
人種:人族
職業:メイド長 兼 

以下、鑑定阻害

 鑑定阻害!?グググッ…あやつ…やりおる。
 それにしても、ベルさんって意外と若いのに、メイド長なんだね。初めて知った。

 流石できる人は違うね。
 来たら褒めちゃおうーっと!
 顔を赤らめて、照れたりするのかな?

 俺はウキウキしながらもベルさんを待つ。
 ベルさんは、部屋の前で立ち止まり、ゆっくり扉を開けて入ってきた。

 そんなベルさんを見て、俺は一声。


 「ベルさんって凄いんだね!!若くしてメイド長なんてっ……」


 言いながら気がつく。

 ベルさんの顔に青筋が立っていることに。
 ベルさんの顔が、鬼の形相になっていることに。
 ベルさんの髪が逆立っていることに。

 俺は、その後の言葉を紡ぐことなく、ゆっくりと床に膝をつき正座した。

 1時間後。

 説教は無事に終わり、俺はベルさんから解放された。

 許可なく人に鑑定をするのはマナー違反なんだって。
 プライバシーの侵害ってやつ?あれ?プライバシーってなんだっけ?

 まぁとりあえず反省はした。
 今後は、人の鑑定を勝手にしない。
 うん、そうしよう。

 それにしても、ベルさんの職業、『メイド長 兼』ってなってたけど、兼務で何してるのかな?

 もしかして、鬼だったりして。
 
 俺はそんな事を考えながら、先程の怒ってるベルさんの顔を思い出し、一人でププっと笑った。

 廊下の先でベルさんが戻ってくるような気配を感じたからすぐ真顔に戻したけど。

 そんな事で午後は、自分の鑑定をしてみることにした。
 実は結構ドキドキだったりする。

 ここ数日、少し努力してたから、どのくらい上がってるのか気になるんだよね。
 でも何もかも無駄だったら凹んじゃうかも。

 そんな不安と期待が渦巻いている。

 俺はしばらく、今鑑定をすべきかどうかで迷ったけど、結局やってみることにした。

 「しゃっ!」

 覚悟を決めて、掛け声をかけ、自分に鑑定をかけた。


【ステータス】
名前:ロディ・アレクシス
年齢:3歳
性別:男
種族:人
レベル:1

▼能力
体力:15→60
攻撃:10→40
防御:5→35
魔力:20→1900
速度:3→30
素質:+1

▼スキル
気配感知(中)
魔力感知(中)
魔素吸収(大)
身体強化(小)
鑑定(小)
鑑定阻害(小)

▼称号
全スキル適性(中)
全魔法適性(中)


 俺は驚きの鑑定結果に、声を上げて喜んだ。


 「うぉーすげー!!めっちゃいい感じで上がってる!やっぱり魔素を吸収した効果あったんだ!魔力1900って!!」


 なによりも、自分の成長速度に驚くと共に、努力が結ばれたことに感動を覚えた。

 これからも頑張ろうと思える一方で、鑑定結果をもう一度見直し、一つの疑問が生まれた。

 あれ?この何も変わってない素質って項目はなんだ?
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