全てを無くした転生者は、スキルの力で成り上がる

蒼田 遼

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10話 規格外

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 結論から言うと、偶然も重なったがちょっと本気を出しすぎてしまったみたいだ。

 俺の周囲の森が、大きく削られドーナツ型にくり抜かれたようだった。
 もちろん、ゴブリン達も一緒に削り取られた。

 俺は自分がやってしまった光景を呆然と見ながら先程の戦闘を思い返す。

 俺が、足から矢を抜きヒールを掛けた後からだ。

◆◇

 目の前のゴブリン4体をどう倒すか。
 俺は頭を悩ませた。

 俺が、どのゴブリンか1体を狙えば、木の上の弓ゴブリンや、木の後ろに隠れているゴブリンから、ちょっかいが入るだろう。

 それはすごく面倒そうだし、怪我するのは嫌だ。
 治せるだろうけど、痛いし。

 じゃあどうするか。
 こういう時には目隠しをするのが最善な気がするんだよね。

 そう思い立ったらすぐに実行。
 俺は並列思考と融合魔法を使い、水と火を融合する。

 森の中だし風もあるから、少量の霧じゃ万が一があるしね。
 と言うことで、ほぼ全力を注いだら、あら簡単。

 森は、かなり深い霧に覆われた。

 でも、俺には魔力感知、気配感知のおかげで、ゴブリン達が困惑している様子が手に取るようにわかる。

 さ、後は俺がこの前開発した炎の初期魔法『火球ファイアーボール』をかなり小さくして弾丸のようにした『炎弾ファイアーパレット』をお見舞いしてやろう。

 そう意気込んでる時だった。
 それは突然発生した。

 濃い霧の中、おそらく水蒸気と水蒸気で摩擦が起きて、大きな雷が物凄い光と轟音と共に、霧の中を駆け巡った。

 幸い俺の方に来る前にその雷は消えたのだが、偶然とはいえあまりの突然の出来事に俺は固まった。

 霧の中を駆け巡る雷は、龍のような形をしていたのだ。

 大きな顎を開けて駆け巡る龍は、大地もろともゴブリン達を飲み込み、消し炭にして消えた。

 龍が消えると共に霧も消え、周りはドーナツ型に削り取られた大地だけが残った。

◆◇

 俺は、フーッと息を吐き、タバコを咥えるような仕草をしてみる。

 いや、3歳児だし実際にはタバコなんて吸ってないんだが、なんだか今はそれが一番落ち着く気がした。

 考えても考えてもあれは何だったのか分からない。
 でも逆に、考えても分からないなら考える必要はないか。

 うん。そうだな。

 俺は自己完結させて、とりあえず削り取ってしまった大地をどうするか考える。

 やっぱり修復させるべきだろうか。
 あ、でも魔力足りないかな?

 足りなければ、吸収すればいいのか、こりゃ盲点だったな。

 そうと決まれば、俺は地べたに座り込み、集中を行う。
 身体が爆散するかもしれないとか、危ないとかベルさんには言われたけども、前も大丈夫だったし、今回もきっと大丈夫だろう。

 それにこの光景をどうにかしなきゃだしな。
 そんな安易な考えで俺は吸収を開始する。

 どんどん吸収、どんどん吸収。

 前よりスムーズに吸収が行えることになった俺は、どんどんと吸収を行う。

 どんどん吸収、どんどん吸収。

 まーだまだ吸える吸える。

 どんどん吸収、どんどん--

-ミシミシッミシミシッ

 ん?なんか木が軋むような音が……

-ドシンッ
-ドシンッ

 ん?何か大きなものが倒れるような音が……

 なんか嫌な予感がしたので、チラッと目を開ける。

 どうやら削り取られたドーナツの型の大地より少し外側の草花は枯れ、木は倒れ、大地はひび割れ、乾き切ってしまったようだ。

 「あれ?またなんかやっちゃった?」

 そんな素っ頓狂な声が静かな森の中でこだました。

◆◇

 ~ベルside~

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、早く。早く王にこの事をお伝えしなければ。」

 私は急いで、王の元へと走る。
 走っていると突然魔素の流れが生まれ、ロディ坊ちゃんがいる方向に流れ始める。

 「もしかして、また魔素の吸収を?なぜ?」

 心配になるが、ロディ坊ちゃんの事だ。多分大丈夫なのだろう。

 私は、使命を遂行する為、早くこの事実を王に知らせなければならない。
 
 それに、ロディ坊ちゃんがいるのは街道からそこまで遠くない。
 魔力感知や気配感知ができるロディ坊ちゃんなら街道まで出るのは安易だろう。

 そう判断して、私は王の元へ走る。

 アレクシス公爵領からノブル上流国の王都までは馬車で30分程度。

 私なら本気で走れば10分でいける。

 そして遂に王の謁見の間の前まで着いた。
 ここでノックをして王の返答を伺うのが礼儀だ。

 私は、髪や服、息を整えてノックをしようと手を伸ばす。

 すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ると、私は驚きで固まってしまった。

 「お母さんっ!」

 「ポーラじゃない。……それにしても……その服……まさか貴方……」

 掛け声と共に駆け寄ってきたのは今年13歳になる娘のポーラだった。

 でも、でも、でも、ありえない、ありえない、ありえない。

 なぜ。

 なぜ。

 なぜなぜ。

 なぜなぜなぜ。

 なぜなぜなぜなぜ。










 「お前かぁぁぁぁあっ!!」



 私はポーラの後ろにある影に向かって暗器を投げ込む。

 しかし、影から黒い何かが出てきて暗器は弾き返されてしまった。

 そしてその黒い何かはそのまま影から出てきて形を変え、いつの間にか人の形となる。


 「酷いじゃないか。序列五位"演者のベル"。久しぶりの再会だと言うのに。」

 
 私は、この影から出てきた男を知っている。
 知っているも何も、王家の影の序列一位"侵入のシャドウ"。私の上司に当たり師匠でもある。

 そんな男を前にして私は、最大の注意を払いながら話を続ける。

 「なぜ。なぜ私の娘が。メイドの娘が、暗殺者の服を着てるのよ!?」

 感情のコントロールが効かなくなるのが分かる。


 「おーこわ。でも、それが上司と話す言葉遣いかな?」


 圧倒的な威圧の前に私の足がすくむ。
 けど、こんなところで日和ってる場合ではない。
 私も迫力を込めて威圧し返す。


 「ふんっ。まぁいいだろう。ベル。お前の問いに答えてやろう。この娘は、センスがあった、だから勧誘したんだ。」


 勧誘だと?こいつの手口は知っている。
 どうせ、何かしらで私の可愛いポーラを脅したに違いない。

 
 「いつから?」

 「いつからとは?」

 「いつから私のポーラに手をかけたかを聞いてるのよっ!」

 「あー。うーん。確か4年前からだったかな?毎日特訓したよな?ポーラ。母さんの力になりたいって言って。なぁ?」

 「……はい。」

 何でもない様に言うシャドウにさらに腹が立つ。

 しかも、4年も前から……っていうと私がロディ坊ちゃんに付いてからか。

 あーもう、私のバカっ!
 一番守りたいものが守れてないなんて。

 もういいわ。
 今からでも何とかするしかない。

 王に直談判をしよう。
 でもその前に、娘を安全な場所に連れていかなきゃ。

 うん、それが先ね。

 ロディ坊ちゃんの件は後回し。
 ロディ坊ちゃんには悪いけど、まずは娘の安全を守らなければ。

 私は、未だ困惑するポーラの腕を掴み安全な場所へと向かった。

 最後にチラリと見たシャドウは、ニヤリと笑っていた。
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