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16話 雷の龍、再び

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 俺は、を出して、早く終わらせようと思った。
 あの大地をも削り取った雷の龍の事だ。

 そうと決まれば話は早い。
 俺は再度霧を出す為に魔力を高める。

 俺の方へ向かってきていたゴブリン達も俺の魔力の高まりに警戒したのか、歩みを止めてこちらを警戒している。

 一部のゴブリン達は、急いで踵を返し、自身の体で王を守るように囲み始めている。

 それは、知能が低いゴブリン達の持つ生存本能なのか。
 それとも、王の命令なのか。

 詳しい事はわからないが、これだけは伝えておく。


 「お前らには、もう生き残るという選択肢はなくなった。『雷鳴雲ドゥクドラ・フォグ』っ!」


 俺は目の前のゴブリン達を一掃する為に、念のため残りの魔力を1だけ残し、それ以外の魔力を使って、例の魔法を発動した。

 名前は、格好つけるために、ノリで付けちゃった。てへっ。

 発動した瞬間、ゴブリン達を覆うように霧が立ち込める。

 高い魔力で作られた霧だからか、その霧に包まれた瞬間、倒れるゴブリンすらいる。

 時間が経つ毎に徐々に霧は濃くなっていき、ついには太陽の光さえも遮るほど、濃く重い霧となった。

 気づけば辺りは、一寸先も見えないほどの真っ暗闇に包まれていた。
 
 まだ意識のあるゴブリン達は、不安なのかキーキーと、か細い声をあげている。

 発動しておいてなんだが、俺にもあの雷の龍の正体が分からない以上、緊張が走る。
 
 その時だった。

 暗く重い霧の中で、微かな静電気のようなバチバチという音と、波のように畝る光が霧の中を駆け回り始める。

 ついに来たのだ。あの龍が。

 バチバチという音は、次第にゴロロッゴロロッという音に変わり、波のように霧の中を畝っていた光も、徐々に龍のような形に形成されていった。

 あの雷の龍を出す事には、成功したようだ。

 その事に安堵する一方で、俺にも襲いかかってくる可能性があるその雷をコントロールできないか、挑戦してみることにする。

 しかし、結果はいくらやっても無理だった。
 魔力が足りないのか、実力が足りないのか。
 理由は分からないが、今の俺には無理だという事が分かった。

 という事であの龍に、いかに襲われないかを考える事にした。

 身体の近くにある、鉄製のものを遠くに放り投げ身体を低くする。
 効果があるのか分からないが、念のためできる事はやっておく。

 そうしている間にも魔力感知で捉えていたゴブリン達の数がガンガンと削られているのが分かる。

 断末魔すら聞こえないところを見ると、きっと気付かぬ間に、というやつなんだろう。

 そんな現状に、自分の魔法だが、恐怖すら覚えた。

 遂に残るは、キングゴブリンとその周りで壁のようになっている配下のゴブリン達。そしてそのゴブリン達の周りにいるジェネラルゴブリンだけとなった。

 そんな時だった--

 魔力感知に微かに反応がある。ゴブリン達ではない何か。
 場所は、キングゴブリン達と俺のちょうど間くらい。

 その反応は、ゴブリンよりも小さく、4足歩行。
 そして魔力がもうすぐ消え入りそうなくらい、かなり弱っている感じだった。

 そんな反応が、少しずつ少しずつ俺に近寄ってきているようだ。

 暗く重い霧のせいで、その姿はまだ見えていないが、万が一を考え、俺はすぐに動ける準備をするため立ち上がる。

 とは言っても、既に魔力は枯渇寸前、武器があるわけでもなく、更にいえば霧の中にはあの龍がいるので、できる事と言えば最大限の警戒のみだ。

 そうこうしている間にも、徐々にその弱々しい反応と俺の距離は近づいていった。

 そして遂に、その距離は、既に目で捉えることのできるくらいの距離となった。

 暗く重い霧の中から現れたのは小さなワンちゃんだった。

 ん?ワンちゃん?

 あー、あのキングゴブリンの前に横たわっていた、なんて言ったけか?あぁ、シャドウウルフってやつの子供だったな、たしか。

 俺の中で、一瞬で気が抜ける感覚を覚えた。

 シャドウウルフの方も、弱った身体でトボトボと歩いてきて、俺の警戒が解けた事に安心したのか、俺の足元まで来て、パタリと倒れた。

 ん?何しにきた?

 シャドウウルフの身体をよく見る。かなりの傷があり血だらけになっているが、毛皮は深い瑠璃色をしていて、よく見ると顔とか、すごく可愛い。

 爪も鋭いがまだ子供ということもあり、脅威ではなさそうだ。
 
 なんだか、拍子抜けする。
 というより、この生物をペットとして飼いたいとかも思ってしまった。

 とまぁ、そんな事は後だ後。
 今は、龍とキングゴブリン達に集中しないと。

 一つの不安が取り除かれた今、龍とキングゴブリン達に集中できる。俺は、再度集中力を高めていった。

 まだ龍はゴロゴロと言いながら霧の中を駆け巡っている。
 そして、キングゴブリン達も、魔力感知で確認する限り、まだ生きているようだった。

 俺は、シャドウウルフの子供を腹の下に入れるような形で再度しゃがみ様子を窺い続けた。

 すると龍は、標的を見つけたかのように、キングゴブリン達の上空で停滞し始める。
 さらに、魔力を溜め始めたのか、雷の音がだんだんと激しくなっていった。

 俺はその姿をじっくりと見ながら、どうかこっちには来ないようにただ祈るしかなかった。

 そろそろだ。

 ゴロロッゴロロッという音が、ガルルッガルルッに変わったと思ったら、強い閃光がほとばしる。

 その瞬間--


 「ガルルルッガガガァァァァァア--」


 耳をつんざくような咆哮が聞こえ、それと同時にキングゴブリン達がいる真下に大きな口を開けた雷龍が落ちる。

 それは、大きくて太い落雷のようだった。


--ドォォォガァガァガァガガァァァアンッ


 大地や大気が大きく揺れる、その落雷はキングゴブリン達を飲み込んでいった。

 あーあれは終わったな。

 そんな感想も束の間、落ちたはずの雷は、そのままの勢いで直角に曲がり、地を這いながら俺の方へと向かってくる。

 向かってくる落雷は龍のような顔がはっきりと形成されていて、その龍が大口を開けて物凄い速度でこっちにきていた。


 「ヤバイッ!!」


 そう思ったが、あまりにも一瞬の出来事すぎて何も対応できない俺は、ただ目を瞑った。

◆◇

 あたりには静けさが戻り、雷の音など聞こえなくなった。

 俺は未だに目を瞑っている。

 一刻も早く目を開けて状況を確認したいのだが、先程の強い閃光で、目が痛く、俺の意に反して中々開いてくれなかった。

 そもそも、ここは天国なのか地獄なのか。
 それとも運良く助かり、まだ生きているのか。

 俺は一塁の希望にかけて、魔力感知と気配感知を使い周囲の状況を探る。

 すると、反応は二つあった。

 一つは、目の前。人のような形で高い魔力を持った反応。
 もう一つは、前方。先ほどキングゴブリンがいたところらへんに、弱々しい反応。

 誰かが助けてくれた?
 いやでも、そんなはずは……

 でも確かに耳を澄ませると、人が地面を踏むような足音と、埃を払うようなパンパンっという音が聞こえてくる。
 
 俺は状況を掴むため、まだ痛い目を無理やりにでも開けることにした。

 「うっ!」

 思わず手で目を覆いたくなるが、目の前にいる人?が気になり痛みを我慢しながら少しずつ目を開けていく。

 開けたとしても、強い光で目が霞み、中々視界が戻らない。
 何度も目を擦り、目を開けたり閉めたりして視界を戻すと、そこにいたのは--


 そこにいたのは、同い年くらいの小さな女の子。
 しかもその女の子は全裸で、こっちを見てにこりと笑って立っていたのだった--
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