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15話 ゴブリンの集落

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 約300体ものゴブリン達の殺気が俺に当てられ、緊張で身体が固まる感覚を覚える。

 しかし、俺だって簡単に殺される訳にはいかないのだ。

 自分の気持ちを奮い立たせ、覚悟を決める。

 けど、相手はキングゴブリン。
 どんな相手か分からないからこそ、慎重にいく。

 ゴブリン達は、キングゴブリンの号令を待ち、今か今かと構えているようだ。

 来ない?なら俺から行ってやる。

 俺は、『炎弾ファイアーパレット』を空中にいくつも出して浮遊させる。

 そして、その数が100を超えたあたりで、それを一気にゴブリン達に向かって発射する。

 「『炎散弾ファイアー・ショット・ガン』っ!」

 突然の事に驚いたゴブリン達は俺が出した『炎散弾ファイアー・ショット・ガン』を避けようと必死だったが、なにせ俺を襲おうと密集していた事が災いし、避けきれないゴブリンにあたりバタバタと倒れていく。

 もっと倒したかったが、初手としては順調だろう。

 50体ほどのゴブリンが倒れた事で、キングゴブリンも焦った表情をしていた。

 しかしそれも束の間。すぐにキングゴブリンは配下のゴブリン達に号令を出す様だ。

 イスから立ち上がり、大きく息を吸い込む。


 「ゼングンッガガレェッ!!ニンゲンヲ、ゴロセェェッ!」

 
 野太く大きな声と突然の言語に俺の脳はビックリしたが、確か鑑定でも高い知能を持つと書いてあったし、そういうもんなんだろうと自分を納得させる。

 キングゴブリンの掛け声とともにゴブリン達は自分の武器を振り上げて全力疾走で俺へと突撃してくる。

 いよいよ始まる。
 俺は改めて覚悟を決め、ゴブリン達が俺に到達する前に先手を打つ。

 水属性と火属性の融合魔法だ。


 「『雲霧フォグミスト』っ!」


 言いやすい方が良いかと思い、こっそり名前を付けたのは内緒だ。

 さて、ゴブリン達だが、いきなり視界を奪われた事と出鼻を挫かれた事で、混乱している様だ。

 今がチャンス。

 俺は、身体強化と隠密を発動させ、落ちていたゴブリンの剣を拾いつつ、ゴブリンの群れの中に入る。

 ゴブリン達の酷い体臭?に鼻を曲げられそうになりながらも、ゴブリンの頸動脈を正確に狙い、斬りつけていく。

 ゴブリンの頸動脈が人間と同じ位置かは知らないが、斬りつけると物凄い量の血が吹き出して、倒れていくからきっと合っているのだろう。

 霧の中で、ゴブリンの混乱の声と断末魔がこだまする。

 30体ほどのゴブリンを倒したところで、俺のスタミナが切れた事で、倒したゴブリンの棍棒を拾い、杖代わりにして少し休む。


 「はぁはぁはぁ……まだ合計80匹くらいか。あと220匹……くそっ」


 俺は悪態をつきながら、まだ状況が理解できてないゴブリン達を見て安堵する。

 融合魔法、できるようになっていて良かった。
 『雲霧フォグミスト』が無かったら、かなりヤバかった……かも。


 息も整ったので、さぁ第二ラウンドに移ろう、そう思った時だった。

-ブォンッ

 「うおっ!?」

 俺の目の前の霧が、急に横一線に割れたと思ったら一筋の剣が俺の目の前を横切った。

 間一髪で俺はそれを避け、バックステップを踏み距離を取る。

 霧の中から現れたのは、通常のゴブリンよりも目が大きくなったゴブリンだった。
 俺はすかさず鑑定を掛けた。

【鑑定結果】
種族:ゴブリン
役職:ジェネラル
配下:60
説明:C級の魔物。キングゴブリンに遣え、60匹のゴブリンを指揮する。ジェネラルゴブリンは、通常のゴブリンに比べて身体が大きい。また、身体の一部が進化しており、発達した部位によって得意分野が変わる。食用不可。

 なるほど、こいつは目が発達したジェネラルゴブリンなんだろう。だから霧の中でも俺の姿を発見できたんだなきっと。

 部下60と書いてあるから、俺に部下を殺されて怒って出てきたか?知能はあまり良さそうには思えない。

 俺は冷静に観察と推測をしながら、霧の中でジェネラルゴブリンと対峙するように構える。
 幸い、他のゴブリンはまだ俺の姿を見失っているのでこいつ一匹に集中できる。

 俺は片手に持っていた剣をゴブリンに投げ『炎弾ファイアーパレット』を連続で撃ち込む。

 「『炎弾ファイアーパレット』っ!『炎弾ファイアーパレット』っ!『炎弾ファイアーパレット』っっ!」

 ジェネラルゴブリンは、俺が投げた剣を自分の剣で弾き落とし、『炎弾ファイアーパレット』を華麗に避けながら俺に接近してくる。

 なるほど。やはり目はかなり良いようだ。

 ジェネラルゴブリンの後ろの方でゴブリン達の断末魔が聞こえた。
 きっと俺の『炎弾ファイアーパレット』の流れ弾が当たったのだろう。

-ブォンッブォンッブォンッ

 俺の懐に入るとジェネラルゴブリンは、剣を上下左右に振りまわす。

 剣の速度はそこまで早くない。
 それに剣にはあまり優れていないようだったので、簡単に避けられた。

 俺は、全ての剣をあえてギリギリでかわし、余裕のアピール。

 俺の渾身の挑発だったが、さすがは配下を持つだけあり冷静さを失って突進してきたりはしないようだ。

 まぁでも。

 剣の軌道は今のである程度読めた。
 あとは、タイミングを合わせるだけだ。

 俺は棍棒を構えつつ、ジェネラルゴブリンのタイミングを窺った。

 しかし、ジェネラルゴブリンもそこまで馬鹿じゃないらしく、俺に全ての剣を避けられたことで、より一層警戒したのか、自分から仕掛ける様子はないようだ。

 ならこちらから。

 俺は思いつきで、水属性の初級魔法『水球ウォーターボール』をアレンジ。

 水の噴射を極限まで絞り、刃の様に薄く、そして鋭くなった水刃をジェネラルゴブリンに向けて発射する。

 俺はそれを『水刃ウォーターカッター』と名づける。


 「『水刃ウォーターカッター』っ!」


 思いつきでも、やってみるもんだ。

 ジェネラルゴブリンはしゃがんでかわしたようだが、後ろにいたゴブリン達は『水刃ウォーターカッター』によって横一線に切られ上半身と下半身が離れた。

 ジェネラルゴブリンは、しゃがんだ姿勢から一気に瞬発し、俺の懐に飛び込んできた。

 待ってました、と言わんばかりの状況だが、俺はここで焦ってはいけない。

 驚いたと言わんばかりの表情をしながら、あえてジェネラルゴブリンを懐に誘い込む。
 
 そして、ジェネラルゴブリンが先ほどと同じように剣を上下左右に振り回すので、全ての攻撃をギリギリでかわし、ジェネラルゴブリンの最後の攻撃に合わせるように、棍棒を振り抜き顔面へカウンターを入れた。

 棍棒は、吸い込まれるようにジェネラルゴブリンの顔面にクリーンヒットし、グシャリと潰した。

 足元には、ジェネラルゴブリンの発達した目ん玉が転がった。

◆◇

 ジェネラルゴブリンとの戦いが終わると、霧が風に流されたのか、はたまた魔法の効果が薄れてきたのか、徐々に視界が戻ってきていた。

 約200体のゴブリンが、また俺を見つけギャーギャー騒ぎながら向かってきているのが見える。

 そんな光景を見て、なんかめんどくさくなってきたなと、ジェネラルゴブリンとの戦闘を終えた俺は思ってしまった。


 もう、慎重にとかいいか。一気に片付けてしまおう。

 
 俺の中で何かが吹っ切れた。
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