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第一章
第一話 異端児たちのラブコール
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「ガヤがうるさい」と、水野は心の中で怒りの感情を吐き捨てた。
現在、市立美波中学校の二年四組の教室では、担任の教師に向かって生徒たちが「帰れ」とコールを鳴らしている。先頭に立って音頭を取っているのは、チビで生意気な野球部の男子生徒、根津だ。
「お前たち、俺のありがたい説教は聞かなくていいのか? 俺は本当に帰っちまうぞ?」
「いいよ! 川口バイバイ! また明日な!」
元気よく手を振る根津に何か言いたげな川口だったが、彼は涙を堪えてぐっと唇を噛むと、目に力を入れて吹っ切れたように笑った。
「よし! 分かった。今日のホームルームは終わりだ。解散!」
途端にわあっ! と、騒ぎ出す面々。水野は呆れてぽかんと口を開けたまま、しばらく椅子から立ち上がれなかった。周りはもう帰り支度はとっくに済んでいる。あとは、チャイムが鳴ったら教室から飛び出して玄関に向かうだけだ。
今日も二年四組の授業態度は悪かった。あと数年で定年退職になる、頭髪が薄い男性の学年主任が担当する国語の授業はマシだったものの、気の弱い若い女教師が担当する社会の授業では、クラスメイトたちはやりたい放題だった。授業中は男女問わず席に座っていてもお喋りが止まらず、ある者は教師の目を盗んで後ろの鞄にしまったゲーム機を取りに行ったり、またある生徒は騒音に構わず机に突っ伏して寝たりと、かなり不真面目な態度だった。女教師が注意してもクラスメイトたちのやんちゃは止まらず、それで代わりに担任の川口が説教をするはずだったのだが……。未熟で若い彼らのパワーに、毎日疲れ切った中年男性の活力では到底敵いっこない。これが、問題児が集まる二年四組の日常だった。
「今日も学年で一番早く帰れるじゃん。水野、やったな」
「えっ、ああ……うん。そうだね」
ルックスが整った片山の爽やかな笑顔は心臓に悪い。水野は机の下で片山に見えないように制服のスカートをぎゅっと握り、あからさまに横へ視線を逸らした。
「じゃあな、水野。また明日」
「うん、また明日ね」
声が震えていても、チャイムの音で目立たなかったはずだ。昨日で私の運は全て使い果たしたに違いない。席替えで、片山くんの隣の席になれたのが奇跡だ、と水野は思った。
教室を見回すと、放課後に部活があったり、早く帰りたい生徒はみんなもう居ない。残っているのは、友達とお喋りがしたいクラスメイトか、異様に帰り支度が遅い海野ぐらいだ。海野は時々、教室に残って読書をしたり、出された課題を完璧に終わらせてから帰宅する。水野がなぜそんな事を知っているかというと、学習委員会が終わって教室に戻ってきた時に、海野のそんな姿をたまたま目撃したからだった。
海野は窓際の席に座っている。窓の向こうでは、初夏の海が一段と輝いていた。
早く明日になればいい。水野はほんのり抱いた片山への好意を、宝物のように大事に胸にしまう。水野の瞳は、淡い期待と苦い想いを秘めた恋心で、ゆらゆらと揺れながら海の光を集めていた。
現在、市立美波中学校の二年四組の教室では、担任の教師に向かって生徒たちが「帰れ」とコールを鳴らしている。先頭に立って音頭を取っているのは、チビで生意気な野球部の男子生徒、根津だ。
「お前たち、俺のありがたい説教は聞かなくていいのか? 俺は本当に帰っちまうぞ?」
「いいよ! 川口バイバイ! また明日な!」
元気よく手を振る根津に何か言いたげな川口だったが、彼は涙を堪えてぐっと唇を噛むと、目に力を入れて吹っ切れたように笑った。
「よし! 分かった。今日のホームルームは終わりだ。解散!」
途端にわあっ! と、騒ぎ出す面々。水野は呆れてぽかんと口を開けたまま、しばらく椅子から立ち上がれなかった。周りはもう帰り支度はとっくに済んでいる。あとは、チャイムが鳴ったら教室から飛び出して玄関に向かうだけだ。
今日も二年四組の授業態度は悪かった。あと数年で定年退職になる、頭髪が薄い男性の学年主任が担当する国語の授業はマシだったものの、気の弱い若い女教師が担当する社会の授業では、クラスメイトたちはやりたい放題だった。授業中は男女問わず席に座っていてもお喋りが止まらず、ある者は教師の目を盗んで後ろの鞄にしまったゲーム機を取りに行ったり、またある生徒は騒音に構わず机に突っ伏して寝たりと、かなり不真面目な態度だった。女教師が注意してもクラスメイトたちのやんちゃは止まらず、それで代わりに担任の川口が説教をするはずだったのだが……。未熟で若い彼らのパワーに、毎日疲れ切った中年男性の活力では到底敵いっこない。これが、問題児が集まる二年四組の日常だった。
「今日も学年で一番早く帰れるじゃん。水野、やったな」
「えっ、ああ……うん。そうだね」
ルックスが整った片山の爽やかな笑顔は心臓に悪い。水野は机の下で片山に見えないように制服のスカートをぎゅっと握り、あからさまに横へ視線を逸らした。
「じゃあな、水野。また明日」
「うん、また明日ね」
声が震えていても、チャイムの音で目立たなかったはずだ。昨日で私の運は全て使い果たしたに違いない。席替えで、片山くんの隣の席になれたのが奇跡だ、と水野は思った。
教室を見回すと、放課後に部活があったり、早く帰りたい生徒はみんなもう居ない。残っているのは、友達とお喋りがしたいクラスメイトか、異様に帰り支度が遅い海野ぐらいだ。海野は時々、教室に残って読書をしたり、出された課題を完璧に終わらせてから帰宅する。水野がなぜそんな事を知っているかというと、学習委員会が終わって教室に戻ってきた時に、海野のそんな姿をたまたま目撃したからだった。
海野は窓際の席に座っている。窓の向こうでは、初夏の海が一段と輝いていた。
早く明日になればいい。水野はほんのり抱いた片山への好意を、宝物のように大事に胸にしまう。水野の瞳は、淡い期待と苦い想いを秘めた恋心で、ゆらゆらと揺れながら海の光を集めていた。
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