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其の二の五
③
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一夜が明けて、お江戸のまだまだ寒い朝。
梅吉の元へナナ太郎が為松と平次郎を伴ってやって来た。
「おはよう梅吉さん、ちょっとお願いがあるのですが」
「おう、おはよっ!ナナ太郎かい? お入りよ」
梅吉が言葉をかけるも早々に、ドヤドヤと梅吉の家に入ってきた一行だ。
「なんでいなんでい大勢で。祭りでもあるってぇか」
「おはようございます。梅吉さん」
「なんでぃ、よく見りゃ為松じゃねえか。そうかナナ太郎に会えたんだな。それで今朝はどしたい?」
「あの……」
為松が何と言ったらいいのかためらっていると、ナナ太郎がそれを察して為松に代わって言った。
「梅吉さん、昨日この為松さんを泊めたことにして欲しいんですよ」
「なんでぃなんでぃ、昨日為松ははナナ太郎とこに泊まっちまったってか。そうならおいらにも声かけてくれりゃあ良かったのに。夜どうし尽きぬ話を、なんてね」
梅吉はハハハと笑った。
「それで、為吉さんをお店まで送っていって欲しいんですが」
「ああ、お安い御用よ。朝飯食ったら送っていくよ。ところでおめぇさん達、朝飯は?」
「ありがとうございます。もう食べました」
ナナ太郎の返事に、一緒に食べたらいいんじゃないかと思っていた梅吉は少々がっかりしたようで、それまで大きかった声が少し小さくなった。
「そうかい、じゃあ、ちょっと待っておくれな。なあに、すぐ食っちまうからよ。どうせ昨日の残りの冷や飯に湯でもぶっ掛けて、サラサラッとね」
「ごめんなさい。梅吉さん」
「なあに謝ることなんかねぇや。ナナ太郎の頼みごとなら何でも聞きますよ。なんせ、ナナ太郎のお父上から頼まれてるんだから」
「えっ、なんだって!」
今まで三人のやり取りを静かに聞いていた平次郎が、突然声を上げた。
「そりゃあ一体どういうことだい」
父親と言った梅吉に聞き捨てならないと思った平次郎だ。
そして突如として話に割り込んでくる平次郎に気分を害した梅吉である。
「なんでぃお前、挨拶無しの新入りか」
「後で挨拶に行くって言ったろうが」
売り言葉に買い言葉のとはこのこと、平次郎はケンカ腰で答えた。
「けッ、そんな事言って一向に来やしねえじゃねえか。まっなんでもいいわな。こちとらそんなけちな事を気にするような肝っ玉の小せえやつじゃねえ」
梅吉の方も同様にケンカ腰である。
「何言ってんだい、そうやって気にしているからこそ言葉に出して言うんだろうが」
「二人ともよしてください」
見かねたナナ太郎が仲裁に入る。
犬猿の中と様相を呈しているこの二人。
同じような性格でナナ太郎に対して同じような感情を持っていた。
とは言えこの二人。いや一人と一匹、ぶつかり合うも以外と気が合うのではないかと思われるふしがある。二人が協力してナナ太郎を助け、またナナ太郎を挟んでの賑やかな仲間となりそうだという事は二人もなんとなく感じている。お互い牽制しあっているのは、ナナ太郎に対し自分が一番と思いたいからだっだ。
そんな二人のやり取りをなだめながらも、先程の話が気になっていたナナ太郎である。
一呼吸置いて言った。
「それで梅吉さん、父上に頼まれたって言うのは」
そう、ナナ太郎は珍しくドキドキしながら梅吉に問いかけた。
「夢ン中の話で頼まれたって言うのは、ちと大げさかも知れねえが……大体、こんな話しを信じてもらえるか分からないけどな」
「夢、ですか?」
「そう、夢枕に立ったんだよ。こう、なんかこうひれ伏しちゃうような神様みたいな人だったけど、ナナ太郎は何も知らない子供だから、いろいろ教えてやってくれって。天涯孤独になってしまったナナ太郎さんのことをよろしく頼むってね」
その話を聞いて再びカッとなったのは馬場先濠の平次郎だった。
「なにぃ、ナナ太郎さんには、このあっしが付いてるんだ。余計なことはよしとくれ」
「なにぃ、新参者が何言ってるんだ。ナナ太郎とはな、ナナ太郎とは……あれっ? ナナ太郎と知り合ったのはいったいいつからだったか……あれっ?」
「まあまあ、二人とも。それぞれ私が頼りにするところが違うんですよ。今は梅吉さんにお願いしたいんです。梅吉さん、為松さんを頼みます」
「お、おうっ。合点でぃ」
それにしても、とナナ太郎は思った。
それにしても、妖怪である河童の平次郎と人間である大工の梅吉と両方の夢枕に父親と思われる人物が立つとはどいうことだろう。自分は妖怪なのか、それとも人なのか。日にちが経てば経つほど、自分がどこから生まれ出たのか、どうして今ここにこうしているのか、この勾玉はどうして肝の中にあり、不可思議な力を発揮する事が出来るのか。この勾玉を使える自分は人ではないのか、と次から次へと疑問がわいてくる。
「で、ナナ太郎さん。お可奈ちゃんの事なんだけど」
為松は、梅吉と平次郎のケンカ腰の会話に肩を窄め、いつ自分が聞きたいことを話したらいいか機会をうかがっていたが、ひと段落着いたのかもしれないとおずおずと口をはさんだ。
「うん、そうですね……為松さんと梅吉さんに付いて私も一緒にお店へ行きましょう」
「じゃああっしも一緒に行きますよ」
置いていかれちゃあ困るとばかりな平次郎だ。
「いや、今日は私一人で行きますよ。梅吉さんも一緒ですしね」
そうナナ太郎に言われた梅吉は嬉しそうだった。
「そうでぃ、おいらがいるんだ。そっちのへいっへい、へっ、へなちょこだってか? すっこんでろよ」
「なにを言っていやがるんだ、耳でも遠いか。あっしの名前は平次郎だよ。ナナ太郎さん、こんな奴だけで大丈夫なんですか?」
「こんな奴とは何だよ、こんな奴とは」
「まあまあ梅吉さん。平次郎さんも。大丈夫ですから。平次郎さんはここで待っていてください」
「ナナ太郎さんがそう言うんなら仕方ない。へい、待っていますよ」
口を尖らせながらしぶしぶ了承した馬場先濠の平次郎だった。
梅吉の元へナナ太郎が為松と平次郎を伴ってやって来た。
「おはよう梅吉さん、ちょっとお願いがあるのですが」
「おう、おはよっ!ナナ太郎かい? お入りよ」
梅吉が言葉をかけるも早々に、ドヤドヤと梅吉の家に入ってきた一行だ。
「なんでいなんでい大勢で。祭りでもあるってぇか」
「おはようございます。梅吉さん」
「なんでぃ、よく見りゃ為松じゃねえか。そうかナナ太郎に会えたんだな。それで今朝はどしたい?」
「あの……」
為松が何と言ったらいいのかためらっていると、ナナ太郎がそれを察して為松に代わって言った。
「梅吉さん、昨日この為松さんを泊めたことにして欲しいんですよ」
「なんでぃなんでぃ、昨日為松ははナナ太郎とこに泊まっちまったってか。そうならおいらにも声かけてくれりゃあ良かったのに。夜どうし尽きぬ話を、なんてね」
梅吉はハハハと笑った。
「それで、為吉さんをお店まで送っていって欲しいんですが」
「ああ、お安い御用よ。朝飯食ったら送っていくよ。ところでおめぇさん達、朝飯は?」
「ありがとうございます。もう食べました」
ナナ太郎の返事に、一緒に食べたらいいんじゃないかと思っていた梅吉は少々がっかりしたようで、それまで大きかった声が少し小さくなった。
「そうかい、じゃあ、ちょっと待っておくれな。なあに、すぐ食っちまうからよ。どうせ昨日の残りの冷や飯に湯でもぶっ掛けて、サラサラッとね」
「ごめんなさい。梅吉さん」
「なあに謝ることなんかねぇや。ナナ太郎の頼みごとなら何でも聞きますよ。なんせ、ナナ太郎のお父上から頼まれてるんだから」
「えっ、なんだって!」
今まで三人のやり取りを静かに聞いていた平次郎が、突然声を上げた。
「そりゃあ一体どういうことだい」
父親と言った梅吉に聞き捨てならないと思った平次郎だ。
そして突如として話に割り込んでくる平次郎に気分を害した梅吉である。
「なんでぃお前、挨拶無しの新入りか」
「後で挨拶に行くって言ったろうが」
売り言葉に買い言葉のとはこのこと、平次郎はケンカ腰で答えた。
「けッ、そんな事言って一向に来やしねえじゃねえか。まっなんでもいいわな。こちとらそんなけちな事を気にするような肝っ玉の小せえやつじゃねえ」
梅吉の方も同様にケンカ腰である。
「何言ってんだい、そうやって気にしているからこそ言葉に出して言うんだろうが」
「二人ともよしてください」
見かねたナナ太郎が仲裁に入る。
犬猿の中と様相を呈しているこの二人。
同じような性格でナナ太郎に対して同じような感情を持っていた。
とは言えこの二人。いや一人と一匹、ぶつかり合うも以外と気が合うのではないかと思われるふしがある。二人が協力してナナ太郎を助け、またナナ太郎を挟んでの賑やかな仲間となりそうだという事は二人もなんとなく感じている。お互い牽制しあっているのは、ナナ太郎に対し自分が一番と思いたいからだっだ。
そんな二人のやり取りをなだめながらも、先程の話が気になっていたナナ太郎である。
一呼吸置いて言った。
「それで梅吉さん、父上に頼まれたって言うのは」
そう、ナナ太郎は珍しくドキドキしながら梅吉に問いかけた。
「夢ン中の話で頼まれたって言うのは、ちと大げさかも知れねえが……大体、こんな話しを信じてもらえるか分からないけどな」
「夢、ですか?」
「そう、夢枕に立ったんだよ。こう、なんかこうひれ伏しちゃうような神様みたいな人だったけど、ナナ太郎は何も知らない子供だから、いろいろ教えてやってくれって。天涯孤独になってしまったナナ太郎さんのことをよろしく頼むってね」
その話を聞いて再びカッとなったのは馬場先濠の平次郎だった。
「なにぃ、ナナ太郎さんには、このあっしが付いてるんだ。余計なことはよしとくれ」
「なにぃ、新参者が何言ってるんだ。ナナ太郎とはな、ナナ太郎とは……あれっ? ナナ太郎と知り合ったのはいったいいつからだったか……あれっ?」
「まあまあ、二人とも。それぞれ私が頼りにするところが違うんですよ。今は梅吉さんにお願いしたいんです。梅吉さん、為松さんを頼みます」
「お、おうっ。合点でぃ」
それにしても、とナナ太郎は思った。
それにしても、妖怪である河童の平次郎と人間である大工の梅吉と両方の夢枕に父親と思われる人物が立つとはどいうことだろう。自分は妖怪なのか、それとも人なのか。日にちが経てば経つほど、自分がどこから生まれ出たのか、どうして今ここにこうしているのか、この勾玉はどうして肝の中にあり、不可思議な力を発揮する事が出来るのか。この勾玉を使える自分は人ではないのか、と次から次へと疑問がわいてくる。
「で、ナナ太郎さん。お可奈ちゃんの事なんだけど」
為松は、梅吉と平次郎のケンカ腰の会話に肩を窄め、いつ自分が聞きたいことを話したらいいか機会をうかがっていたが、ひと段落着いたのかもしれないとおずおずと口をはさんだ。
「うん、そうですね……為松さんと梅吉さんに付いて私も一緒にお店へ行きましょう」
「じゃああっしも一緒に行きますよ」
置いていかれちゃあ困るとばかりな平次郎だ。
「いや、今日は私一人で行きますよ。梅吉さんも一緒ですしね」
そうナナ太郎に言われた梅吉は嬉しそうだった。
「そうでぃ、おいらがいるんだ。そっちのへいっへい、へっ、へなちょこだってか? すっこんでろよ」
「なにを言っていやがるんだ、耳でも遠いか。あっしの名前は平次郎だよ。ナナ太郎さん、こんな奴だけで大丈夫なんですか?」
「こんな奴とは何だよ、こんな奴とは」
「まあまあ梅吉さん。平次郎さんも。大丈夫ですから。平次郎さんはここで待っていてください」
「ナナ太郎さんがそう言うんなら仕方ない。へい、待っていますよ」
口を尖らせながらしぶしぶ了承した馬場先濠の平次郎だった。
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