39 / 42
其の三の七
①
しおりを挟む
ナナ太郎の住む長屋の一室で、お可奈と為松は並んで座っていた。
その二人の向かいに座っているのはナナ太郎だ。
そして部屋の端に腰をかけ、土間に足を伸ばして話を聞いているのは平次郎。
「本当にありがとうございました」
為松が畳にこすりつけんばかりに深々と頭を下げナナ太郎に向って礼を言った。それに続いてお可奈も両手を畳につき頭を下げた。
「いえ、とんでもない。たいした事じゃありません」
お可奈と為松が一通りのお礼を述べると、お可奈はすぐさまかねてから疑問に思っていた事を聞いた。
「ナナ太郎さんは……人間なの? それとも」
こんな風に後先がなく唐突に聞くのも真っ直ぐなお可奈の性格のさせる技だ。
「お可奈ちゃん!」
慌てて為松がお可奈を止めたが、聞き分けのいい娘ではない。ましてや為松の言う事は聞くはずもなかった。
「いいじゃないよ、私、知りたい事はちゃんと聞いておくのが主義なのよ。心の中で思って裏で詮索するなんて、それこそ良くないと思うの」
お可奈はいつにもまして意気揚々と言い、そしていつも通り慌てる為松だ。
「お可奈ちゃん、そういうのは時と場合ってものがあるんだよ」
そんな日常の二人の言い争いは二人の間では普通の事。周囲ももう慣れっこになっている。
「いいんですよ為松さん」
お可奈と為松の言い合いは気にも留めず、その二人を見つめるナナ太郎の目は真剣だった。
真剣なナナ太郎を感じ取って、お可奈と為松はそれ以上の会話はしなかった。
二人はナナ太郎の次の言葉を待っていた。
ナナ太郎は少しずつゆっくりと話し始める。
「私だって、自分はいったい何者かって考える事があります。実際、私は人間です。人間として、「人」として生まれてきたと思っています。だけど真の人間となるには、一つ一ついろんな事を人として学びながら積み重ねて本当の「人」になっていくのだと思うのです」
ナナ太郎は、大きく深呼吸した。
「形は「人」として生まれてきても、初めから「人」であるという事は稀であるのではないかと。「人」としてどうあるべきか、「人」として何をすべきか、考えながら「人」になっていくと。でもね、もし私が物の怪としてこの世に生まれてきたとしても、それはそれで良いと思うのです。「人」であろうと物の怪であろうと、道を外れてなければそれでよいのだと思うんです」
ナナ太郎は、自分が話しているうちにあの光の中の父親と思われる人物が言っていた事が少しだけ理解できたような気がした。
ナナ太郎の言葉をじっと聞いていた為松は、促されるようにうなずいた。
「本当は誰もがそうなのかもしれないですね。一つ一つ学びながら積み上げて真の人になっていく。何か一つ勉強になったような気がします」
為松は理解したように言っているが、お可奈は、腑に落ちない、よくよく考えて聞くと不可思議だと思った。
お可奈はこのナナ太郎の話に分かったような分からないような気分でいた。
真の人って何? 為松ちゃんたら調子よく受け答えてるけど、どういう事? 結局、ナナ太郎さんは何者なのよ!
お可奈の不満な思いが顔に現れていた。
それまで黙って聞いていた平次郎。お可奈の顔を見てお可奈が何か言いだす前にと、その場を和ますように大きな声で話し始めた。
「まあ、そんな難しい事はいいやな。なんだかすったもんだあったが、みんな無事でここにいられて良かった。なんにしてもめでたいこったよ。ねえ、ナナ太郎さん」
ナナ太郎はにっこりと笑った。
「そうですね」
素直に笑えた自分自身に少しびっくりしたが、その事を口には出さなかった。
「じゃあ、お可奈ちゃん、今日はこの辺でおいとましようよ」
これはキリがいいと為松がそのように言うと、お可奈は「え~っ」と不満げな声を出す。
お加奈にはまだまだ聞きたい事が山ほどあるのだ。
そうは言っても何から聞いていいのか分からない。だからと言ってこのまま帰るのは忍びない。
「そうねぇ……」
お可奈はしばらく沈黙していた。
為松もしばし黙って、ここは主であるお可奈の返事を待っていた。
すると突然、お可奈の顔がぱっと明るくなった。
なにやらいいことを思いついたと、はた目にもわかる。為松もお可奈が何か言ってくるであろうことはわかっている。
為松は、このお可奈の思い付きの言動、行動にいつも悩まされているのだ。
「そうだ! ナナ太郎さんは易者さん? 占い師って言うのかなぁ? 辻占を生業としているって聞いたけど、私を占ってくれないかしら? 」
その二人の向かいに座っているのはナナ太郎だ。
そして部屋の端に腰をかけ、土間に足を伸ばして話を聞いているのは平次郎。
「本当にありがとうございました」
為松が畳にこすりつけんばかりに深々と頭を下げナナ太郎に向って礼を言った。それに続いてお可奈も両手を畳につき頭を下げた。
「いえ、とんでもない。たいした事じゃありません」
お可奈と為松が一通りのお礼を述べると、お可奈はすぐさまかねてから疑問に思っていた事を聞いた。
「ナナ太郎さんは……人間なの? それとも」
こんな風に後先がなく唐突に聞くのも真っ直ぐなお可奈の性格のさせる技だ。
「お可奈ちゃん!」
慌てて為松がお可奈を止めたが、聞き分けのいい娘ではない。ましてや為松の言う事は聞くはずもなかった。
「いいじゃないよ、私、知りたい事はちゃんと聞いておくのが主義なのよ。心の中で思って裏で詮索するなんて、それこそ良くないと思うの」
お可奈はいつにもまして意気揚々と言い、そしていつも通り慌てる為松だ。
「お可奈ちゃん、そういうのは時と場合ってものがあるんだよ」
そんな日常の二人の言い争いは二人の間では普通の事。周囲ももう慣れっこになっている。
「いいんですよ為松さん」
お可奈と為松の言い合いは気にも留めず、その二人を見つめるナナ太郎の目は真剣だった。
真剣なナナ太郎を感じ取って、お可奈と為松はそれ以上の会話はしなかった。
二人はナナ太郎の次の言葉を待っていた。
ナナ太郎は少しずつゆっくりと話し始める。
「私だって、自分はいったい何者かって考える事があります。実際、私は人間です。人間として、「人」として生まれてきたと思っています。だけど真の人間となるには、一つ一ついろんな事を人として学びながら積み重ねて本当の「人」になっていくのだと思うのです」
ナナ太郎は、大きく深呼吸した。
「形は「人」として生まれてきても、初めから「人」であるという事は稀であるのではないかと。「人」としてどうあるべきか、「人」として何をすべきか、考えながら「人」になっていくと。でもね、もし私が物の怪としてこの世に生まれてきたとしても、それはそれで良いと思うのです。「人」であろうと物の怪であろうと、道を外れてなければそれでよいのだと思うんです」
ナナ太郎は、自分が話しているうちにあの光の中の父親と思われる人物が言っていた事が少しだけ理解できたような気がした。
ナナ太郎の言葉をじっと聞いていた為松は、促されるようにうなずいた。
「本当は誰もがそうなのかもしれないですね。一つ一つ学びながら積み上げて真の人になっていく。何か一つ勉強になったような気がします」
為松は理解したように言っているが、お可奈は、腑に落ちない、よくよく考えて聞くと不可思議だと思った。
お可奈はこのナナ太郎の話に分かったような分からないような気分でいた。
真の人って何? 為松ちゃんたら調子よく受け答えてるけど、どういう事? 結局、ナナ太郎さんは何者なのよ!
お可奈の不満な思いが顔に現れていた。
それまで黙って聞いていた平次郎。お可奈の顔を見てお可奈が何か言いだす前にと、その場を和ますように大きな声で話し始めた。
「まあ、そんな難しい事はいいやな。なんだかすったもんだあったが、みんな無事でここにいられて良かった。なんにしてもめでたいこったよ。ねえ、ナナ太郎さん」
ナナ太郎はにっこりと笑った。
「そうですね」
素直に笑えた自分自身に少しびっくりしたが、その事を口には出さなかった。
「じゃあ、お可奈ちゃん、今日はこの辺でおいとましようよ」
これはキリがいいと為松がそのように言うと、お可奈は「え~っ」と不満げな声を出す。
お加奈にはまだまだ聞きたい事が山ほどあるのだ。
そうは言っても何から聞いていいのか分からない。だからと言ってこのまま帰るのは忍びない。
「そうねぇ……」
お可奈はしばらく沈黙していた。
為松もしばし黙って、ここは主であるお可奈の返事を待っていた。
すると突然、お可奈の顔がぱっと明るくなった。
なにやらいいことを思いついたと、はた目にもわかる。為松もお可奈が何か言ってくるであろうことはわかっている。
為松は、このお可奈の思い付きの言動、行動にいつも悩まされているのだ。
「そうだ! ナナ太郎さんは易者さん? 占い師って言うのかなぁ? 辻占を生業としているって聞いたけど、私を占ってくれないかしら? 」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる