暗闇坂お伽草紙

夏実朋可

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其の三の七

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 ナナ太郎の住む長屋の一室で、お可奈と為松は並んで座っていた。
 その二人の向かいに座っているのはナナ太郎だ。
 そして部屋の端に腰をかけ、土間に足を伸ばして話を聞いているのは平次郎。
 「本当にありがとうございました」
 為松が畳にこすりつけんばかりに深々と頭を下げナナ太郎に向って礼を言った。それに続いてお可奈も両手を畳につき頭を下げた。
 「いえ、とんでもない。たいした事じゃありません」
 お可奈と為松が一通りのお礼を述べると、お可奈はすぐさまかねてから疑問に思っていた事を聞いた。
 「ナナ太郎さんは……人間なの? それとも」
 こんな風に後先がなく唐突に聞くのも真っ直ぐなお可奈の性格のさせる技だ。
 「お可奈ちゃん!」
 慌てて為松がお可奈を止めたが、聞き分けのいい娘ではない。ましてや為松の言う事は聞くはずもなかった。
 「いいじゃないよ、私、知りたい事はちゃんと聞いておくのが主義なのよ。心の中で思って裏で詮索するなんて、それこそ良くないと思うの」
 お可奈はいつにもまして意気揚々と言い、そしていつも通り慌てる為松だ。
 「お可奈ちゃん、そういうのは時と場合ってものがあるんだよ」
 そんな日常の二人の言い争いは二人の間では普通の事。周囲ももう慣れっこになっている。
 「いいんですよ為松さん」
 お可奈と為松の言い合いは気にも留めず、その二人を見つめるナナ太郎の目は真剣だった。
 真剣なナナ太郎を感じ取って、お可奈と為松はそれ以上の会話はしなかった。
 二人はナナ太郎の次の言葉を待っていた。
 ナナ太郎は少しずつゆっくりと話し始める。
 「私だって、自分はいったい何者かって考える事があります。実際、私は人間です。人間として、「人」として生まれてきたと思っています。だけどまことの人間となるには、一つ一ついろんな事を人として学びながら積み重ねて本当の「人」になっていくのだと思うのです」
 ナナ太郎は、大きく深呼吸した。
 「形は「人」として生まれてきても、初めから「人」であるという事は稀であるのではないかと。「人」としてどうあるべきか、「人」として何をすべきか、考えながら「人」になっていくと。でもね、もし私が物の怪としてこの世に生まれてきたとしても、それはそれで良いと思うのです。「人」であろうと物の怪であろうと、道を外れてなければそれでよいのだと思うんです」
 ナナ太郎は、自分が話しているうちにあの光の中の父親と思われる人物が言っていた事が少しだけ理解できたような気がした。
 ナナ太郎の言葉をじっと聞いていた為松は、促されるようにうなずいた。 
 「本当は誰もがそうなのかもしれないですね。一つ一つ学びながら積み上げてまことの人になっていく。何か一つ勉強になったような気がします」
 為松は理解したように言っているが、お可奈は、腑に落ちない、よくよく考えて聞くと不可思議だと思った。
 お可奈はこのナナ太郎の話に分かったような分からないような気分でいた。

 まことの人って何? 為松ちゃんたら調子よく受け答えてるけど、どういう事? 結局、ナナ太郎さんは何者なのよ!

 お可奈の不満な思いが顔に現れていた。
 それまで黙って聞いていた平次郎。お可奈の顔を見てお可奈が何か言いだす前にと、その場を和ますように大きな声で話し始めた。
 「まあ、そんな難しい事はいいやな。なんだかすったもんだあったが、みんな無事でここにいられて良かった。なんにしてもめでたいこったよ。ねえ、ナナ太郎さん」
 ナナ太郎はにっこりと笑った。
 「そうですね」
 素直に笑えた自分自身に少しびっくりしたが、その事を口には出さなかった。
 「じゃあ、お可奈ちゃん、今日はこの辺でおいとましようよ」
 これはキリがいいと為松がそのように言うと、お可奈は「え~っ」と不満げな声を出す。
 お加奈にはまだまだ聞きたい事が山ほどあるのだ。
 そうは言っても何から聞いていいのか分からない。だからと言ってこのまま帰るのは忍びない。
 「そうねぇ……」
 お可奈はしばらく沈黙していた。
 為松もしばし黙って、ここは主であるお可奈の返事を待っていた。
 すると突然、お可奈の顔がぱっと明るくなった。
 なにやらいいことを思いついたと、はた目にもわかる。為松もお可奈が何か言ってくるであろうことはわかっている。
 為松は、このお可奈の思い付きの言動、行動にいつも悩まされているのだ。
 「そうだ! ナナ太郎さんは易者さん? 占い師って言うのかなぁ? 辻占を生業としているって聞いたけど、私を占ってくれないかしら? 」
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