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其の三の七
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お可奈が思い出したのはナナ太郎の占いの話だった。
「お可奈ちゃんたら……」
為松はまたもや何か一悶着あるのではと心の中でため息をついていた。
かねてからナナ太郎に占って欲しいとお可奈が言っていたのは知っていたが、為松の方はナナ太郎が占い師であったことなどしばらく忘れていた。
そんなだから今ここでお可奈が言いだすとは思いもよらなかった。
「ねえねえ、いいでしょ」
困り顔の為松を放って、ますます加速していくのはお可奈だ。
「いいですよ。それで何を?」
「そりゃー……」
少し考え込んだかと思うとお可奈は
「私の将来!」
身体を乗り出すようにして元気良く言った。
「将来と言うのは?」
「私、愛田屋を継がなきゃいけないんだけど、いい相手が見つかって店は万々歳の繁盛で、それでそれで……」
「子供は何人いるのか」と言い出しそうになって、お可奈は少々恥ずかしくなって口を閉ざした。
勢いよく話していたはずのお可奈が恥ずかしそうに口を閉ざしたので、ナナ太郎はそれ以上は聞かなかった。
「いいですよ。では……」
ナナ太郎は、自分と向かい合って座っているお可奈の間に、白い、座布団より少し小さいくらいの布を置いた。
ナナ太郎は座り直し、お可奈に向っておもむろに言った。
「銅銭三枚、持っていますか?」
「銅銭三枚ですか?」
ナナ太郎が真剣な様子で占いを始めたのでお可奈も改まり座り直し、その持ち歩いている巾着袋より財布を取り出した。
そして財布の中をちゃりちゃりと小銭を探し銅銭三枚、ナナ太郎の前に置いた。
「それをゆっくりと、掌に乗せて両の手を合わせ、何を占いたいか考えてからこの布の上に六回投げてください」
「六回……はい、分かりました」
お可奈は言われるとおりに何かブツブツと小声で聞きたい事を言ったかと思うと銭貨三枚を六回、ナナ太郎の前で投げた。
ナナ太郎はその様子をじぃっと見ていた。
しばらくの沈黙が辺りを包み込んだ。
「どうなんだい? どんな風に見えたんだ? なんだかいつもとは違う占い方のような気がするが」
沈黙と流れる時間がじれったく我慢が出来なかった平次郎は静けさを遮る。
そんな平次郎の言葉にも答えずにしばらく押し黙ったままでいたナナ太郎だが、じっと見つめていた銅銭から目を外すとお可奈の目を見据えた。
お可奈は占いの結果が何と出るかという事と、ナナ太郎に見つめられていると言う事とが入り混じり、もともとドキドキしていた胸のときめきは一気に急上昇した。
張り裂けそうな気持ちを我慢できずにお可奈はナナ太郎におそるおそる聞いた。
「で、私の将来は?」
「しかるべき良い人としかるべき時期に夫婦になり、二人の男の子に一人の女の子のおっかさんとして、愛田屋のいい女将様として幸せに暮らす事となります」
お可奈は乗り出していた体と緊張していた肩から、すうっと力が抜けるような気がした。
「そうなんだぁ」
ナナ太郎のその答えに少し拍子抜けしたものの悪い話ではなかったことにほっとした。
しかし、お可奈が本当に聞きたいのはその相手の事だった。
再び体を緊張させ、ちょっと頬を赤らめながら恐る恐る聞いた。
「で……そのしかるべき人ってのは?」
「それは、その時までのお楽しみってことにしておいた方が、人生楽しみが増えるってもんです。知らない方が人の道は面白いでしょ」
期待のほうが高かったのか、お可奈は乗り出していた身をがっくりと肩を落として後ろに引いた。
「……つまんない」
その後にポツンと一言「本当に当たるのかしら」と言った。
為松は、それまでハラハラしながら事の成り行きを見てたが、そんなお可奈の失礼な態度にまたまた慌て、お可奈の言葉を繕う。
「当たるも八卦、当たらないのも八卦って言うじゃないか、その時まで当たるか当たらないかは楽しみにする事にしようよ。それに無理言って占ってもらったんだ。それだけだってありがたい事なんだよ」
「だって……」
「さあさあ、お可奈ちゃん。ナナ太郎さんにだって都合があるだろうし、そろそろおいとましようよ」
「でも、まだ聞きたいことが……」
「何を言ってるんだよ。私だってお店があるんだから、ねっ帰りましょう」
「私と一緒にいるんだからお店の方は大丈夫なんだから。なんでそんなに早く帰りたがるのよ」
「なんでって、迷惑だろ」
お可奈と為松はまたもや言い合いを始めた。変わった形ではあるがはた目から見れば二人だけの世界である。
「まあまあ、また二人で遊びに来ればいいじゃあないか。二人なら歓迎するよ」
二人の会話がますます熱くなり、周りの事など気にすることなどできなさそうな気配を感じた平次郎は、二人の会話に加わるように仲裁に入った。
為松は、これは助かったとばかりにお可奈をせかす。
「ほら、平次郎さんもまたって言ってくださるし、今日はこれで。さっ、さあさ、お可奈ちゃん帰るよ」
そんな成り行きにお可奈は不満げだ。
今ここでは決して帰るまいという意思が見えていた。しかし、今回は為松もお可奈の言う通りにはしないという意思が見えている。
お互いが見合っていたが、いつに無い為松の強いまなざしにお可奈は少々驚いていた。
てこでも動きそうも無い様子だったお可奈だが、為松のぴしりとした言い方にここは引き下がるしかないと思い直した。
「分かったわ、また来ます」
お可奈はしぶしぶうなずいた。
お可奈の気が変わらないうちにと、為松はお可奈の持つはずの巾着袋を手にして早々に部屋を出る。その後を少しふて腐れたようにお可奈も付いていった。
「今回の事は本当にありがとうございました」
「また来て下さいね」
そう言って見送りに出て来たナナ太郎。
お辞儀をした為松に向ってにっこりと笑った。
またも自然に笑えた自分に少し驚き、何か少し変わってきたのかもしれないと思った。
そのナナ太郎の笑顔にお可奈の目は止まりドキリとした。
お可奈がいくら話しかけても顔色を見ても何を考えているのか分からないナナ太郎だ。
そのナナ太郎が笑ったのだ。
お可奈はナナ太郎の心からの笑顔を初めて見たような気がした。
お可奈もまた、ナナ太郎の少しの変化が感じたのである
この笑顔さえ見ることができれば今日の収穫は有ったのだと思い直し、お可奈は機嫌よくナナ太郎の住む長屋を後にする事とした。
「お可奈ちゃんたら……」
為松はまたもや何か一悶着あるのではと心の中でため息をついていた。
かねてからナナ太郎に占って欲しいとお可奈が言っていたのは知っていたが、為松の方はナナ太郎が占い師であったことなどしばらく忘れていた。
そんなだから今ここでお可奈が言いだすとは思いもよらなかった。
「ねえねえ、いいでしょ」
困り顔の為松を放って、ますます加速していくのはお可奈だ。
「いいですよ。それで何を?」
「そりゃー……」
少し考え込んだかと思うとお可奈は
「私の将来!」
身体を乗り出すようにして元気良く言った。
「将来と言うのは?」
「私、愛田屋を継がなきゃいけないんだけど、いい相手が見つかって店は万々歳の繁盛で、それでそれで……」
「子供は何人いるのか」と言い出しそうになって、お可奈は少々恥ずかしくなって口を閉ざした。
勢いよく話していたはずのお可奈が恥ずかしそうに口を閉ざしたので、ナナ太郎はそれ以上は聞かなかった。
「いいですよ。では……」
ナナ太郎は、自分と向かい合って座っているお可奈の間に、白い、座布団より少し小さいくらいの布を置いた。
ナナ太郎は座り直し、お可奈に向っておもむろに言った。
「銅銭三枚、持っていますか?」
「銅銭三枚ですか?」
ナナ太郎が真剣な様子で占いを始めたのでお可奈も改まり座り直し、その持ち歩いている巾着袋より財布を取り出した。
そして財布の中をちゃりちゃりと小銭を探し銅銭三枚、ナナ太郎の前に置いた。
「それをゆっくりと、掌に乗せて両の手を合わせ、何を占いたいか考えてからこの布の上に六回投げてください」
「六回……はい、分かりました」
お可奈は言われるとおりに何かブツブツと小声で聞きたい事を言ったかと思うと銭貨三枚を六回、ナナ太郎の前で投げた。
ナナ太郎はその様子をじぃっと見ていた。
しばらくの沈黙が辺りを包み込んだ。
「どうなんだい? どんな風に見えたんだ? なんだかいつもとは違う占い方のような気がするが」
沈黙と流れる時間がじれったく我慢が出来なかった平次郎は静けさを遮る。
そんな平次郎の言葉にも答えずにしばらく押し黙ったままでいたナナ太郎だが、じっと見つめていた銅銭から目を外すとお可奈の目を見据えた。
お可奈は占いの結果が何と出るかという事と、ナナ太郎に見つめられていると言う事とが入り混じり、もともとドキドキしていた胸のときめきは一気に急上昇した。
張り裂けそうな気持ちを我慢できずにお可奈はナナ太郎におそるおそる聞いた。
「で、私の将来は?」
「しかるべき良い人としかるべき時期に夫婦になり、二人の男の子に一人の女の子のおっかさんとして、愛田屋のいい女将様として幸せに暮らす事となります」
お可奈は乗り出していた体と緊張していた肩から、すうっと力が抜けるような気がした。
「そうなんだぁ」
ナナ太郎のその答えに少し拍子抜けしたものの悪い話ではなかったことにほっとした。
しかし、お可奈が本当に聞きたいのはその相手の事だった。
再び体を緊張させ、ちょっと頬を赤らめながら恐る恐る聞いた。
「で……そのしかるべき人ってのは?」
「それは、その時までのお楽しみってことにしておいた方が、人生楽しみが増えるってもんです。知らない方が人の道は面白いでしょ」
期待のほうが高かったのか、お可奈は乗り出していた身をがっくりと肩を落として後ろに引いた。
「……つまんない」
その後にポツンと一言「本当に当たるのかしら」と言った。
為松は、それまでハラハラしながら事の成り行きを見てたが、そんなお可奈の失礼な態度にまたまた慌て、お可奈の言葉を繕う。
「当たるも八卦、当たらないのも八卦って言うじゃないか、その時まで当たるか当たらないかは楽しみにする事にしようよ。それに無理言って占ってもらったんだ。それだけだってありがたい事なんだよ」
「だって……」
「さあさあ、お可奈ちゃん。ナナ太郎さんにだって都合があるだろうし、そろそろおいとましようよ」
「でも、まだ聞きたいことが……」
「何を言ってるんだよ。私だってお店があるんだから、ねっ帰りましょう」
「私と一緒にいるんだからお店の方は大丈夫なんだから。なんでそんなに早く帰りたがるのよ」
「なんでって、迷惑だろ」
お可奈と為松はまたもや言い合いを始めた。変わった形ではあるがはた目から見れば二人だけの世界である。
「まあまあ、また二人で遊びに来ればいいじゃあないか。二人なら歓迎するよ」
二人の会話がますます熱くなり、周りの事など気にすることなどできなさそうな気配を感じた平次郎は、二人の会話に加わるように仲裁に入った。
為松は、これは助かったとばかりにお可奈をせかす。
「ほら、平次郎さんもまたって言ってくださるし、今日はこれで。さっ、さあさ、お可奈ちゃん帰るよ」
そんな成り行きにお可奈は不満げだ。
今ここでは決して帰るまいという意思が見えていた。しかし、今回は為松もお可奈の言う通りにはしないという意思が見えている。
お互いが見合っていたが、いつに無い為松の強いまなざしにお可奈は少々驚いていた。
てこでも動きそうも無い様子だったお可奈だが、為松のぴしりとした言い方にここは引き下がるしかないと思い直した。
「分かったわ、また来ます」
お可奈はしぶしぶうなずいた。
お可奈の気が変わらないうちにと、為松はお可奈の持つはずの巾着袋を手にして早々に部屋を出る。その後を少しふて腐れたようにお可奈も付いていった。
「今回の事は本当にありがとうございました」
「また来て下さいね」
そう言って見送りに出て来たナナ太郎。
お辞儀をした為松に向ってにっこりと笑った。
またも自然に笑えた自分に少し驚き、何か少し変わってきたのかもしれないと思った。
そのナナ太郎の笑顔にお可奈の目は止まりドキリとした。
お可奈がいくら話しかけても顔色を見ても何を考えているのか分からないナナ太郎だ。
そのナナ太郎が笑ったのだ。
お可奈はナナ太郎の心からの笑顔を初めて見たような気がした。
お可奈もまた、ナナ太郎の少しの変化が感じたのである
この笑顔さえ見ることができれば今日の収穫は有ったのだと思い直し、お可奈は機嫌よくナナ太郎の住む長屋を後にする事とした。
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