ちょっぴり奇妙なお話集 

夏実朋可

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三回目

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 男は、スポーツクラブで知り合った‘その男’に何度か食事に誘われて夕食を共にしていた。
 今夜も仕事帰りにスポーツクラブで一汗流した後、食事に誘われて‘その男’のいつもの馴染みの店にやってきた。
 口が肥えている‘その男’の馴染みの店はさすがと言うか、シャレていて味も良い。肉料理などはA5ランクの肉ではないかと思われるぐらいの肉を出してくる。人にはあまり知られていない店らしく殆ど待つ事などない。
 雑誌に載りそうなその馴染みの店は、取材などの依頼をオーナーが断っているらしく、知る人ぞ知る店のようだ。こんなところに女性を誘って食べに来ればちょっとした優越感に浸れるなと男は思った。
 そんな店に男二人で行くのもなんだか気恥ずかしい気もするが、まあ気の合いそうな‘その男’と友達になるのも悪くない。そう思ってここで食事をするのは3度目だ。今日も待つ事無く店の中に通された。
 心なしか今日は人が少ない気がした。
 貸切に近い状態だ。
 まだ、早い時間だからなのだろうとまったく気にしなかった。
 ‘その男’が食前酒を飲みながら話し始めた。
 「なにか面白い話でもしましょうか」
 「面白い話? 急になんだい?」
 「いやあね、あなたをこの店に連れてきたのが今日で3回目だと気が付いたらちょっと思い出して」
 「へえ、それは?」
  ‘その男’は面白そうにクスリと笑いながら話をする。
 「見知らぬ町の話。そこにちょっとばかりこぎれいなレストランがあった。ある人間が、こんな町に不釣合いだと思いながら引き寄せられるようにその店に入っていく。そこの店はたいそう美味い店だった。その町には月に何回か仕事の都合で訪れていたが、前回来た時にはこんな店はなかった。確か駐車場だったと思い、社に戻った時、同じようにその町に行く同僚に聞いてみたが知らないと言う。あっという間に店が建つ事もあるかと気に留めなかった。
 次にその町に行ったときもそのレストランに寄った。やはり美味しい。で、また次も行く。3回目だ。そして食事をしているといきなり店の照明が落ちる」
 「ハハハ、3回目に店員が揃って出てきてろうそくの点いたケーキを持って唄を唄ってくれるとかじゃあないだろうね。」
 「それは面白いね」
  二人は笑いあった。
 少し間をおいた後‘その男’は低い沈んだ声で言った。

 「照明が落ちた後、その店からゴリゴリと音がする」

 「ゴリゴリ?」

 「何かをかじる音のようにも、太い骨を切っている音にも聞こえるという話だ。それはたとえば…」
 「人間とか? おとぎ話のような話だな」
 なんだ、そんなオチなのかと少し呆れたように男は言った。
 「作り話だと思う? よくある話だと?」
 「そうだな。小さな子供が聞いたら怖がるくらいの話だよね」
 「…その店はA5ランクかと思う肉を出すそうだよ」
 男はドキリとした。
 人気のない店。
 奥のほうからグツグツと煮えたぎる鍋の音が聞こえ、刃物と刃物がすり合わさるキイキイと言う音が聞こえた。
 生臭い風が男に吹きかかる。
 
 ――そして店の照明がいきなり落ちた。
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