ちょっぴり奇妙なお話集 

夏実朋可

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 俺のオヤジの尻には痣がある。
 ちょうど、人の手のような形の痣だ。都会から離れた村で暮らしていた子供の頃、オヤジと風呂に入るとそのオヤジの痣が気になって仕方がなかった。大きさとしては大人の手より少し小さめの感じだ。子供心に人の、人とは違う特徴や痣のようなものは触れてはいけない事なのだろうと、オヤジの痣についても見て見ぬふりをしていたように思う。だが、そこはやっぱり子供だ。ある時どうしても気になってオヤジに聞いた。
 「その痣、どうしたの?」
 「これか?気になるか?」
 俺と二人で湯に浸かっていたオヤジの機嫌はすこぶる良かった。
 オヤジは子供の頃からこの村より出る事もなく、高校こそ隣町の高校へ行ったが村の役場に就職し、ずっと村の為に働いていた。その日は役場の仕事が旨くいったらしく上機嫌で冗舌だったようだ。
 そのオヤジが言うには村の小学校の男子トイレに開かずのトイレがあるという。開かずの、と言うのだから当然入ってはいけないトイレである。そのトイレには何かがいるという噂があった。幽霊がいるとか神様がいるとかいろいろ言われていたそうだ。とにかく何者か見えないもののたぐいが入る為の便所だと言う。そんなトイレに入ったら神隠しにあうとか尻を舐められるとかバチが当たって病気になるとか、これもまたさまざまに言われていた。
 だがそう言われれば覗きたくなるのが人の常。
 男子は大きいトイレに入る事など大きい方をする以外ないが、オヤジはそこに入ったのだそうだ。何も変わった事のない普通の便所だった。ボットン便所と言われる最近ではあまり見ない汲み取り式便所だ。何だと思い、特に何事も起きないし、このまま便所をただ覗いただけでは面白くもないと、しこたま置き土産をしたらしい。
 するとトイレの下の方から冷たい〜い風が上がってきてオヤジの尻を撫で回すように風に触られたと言う事だった。
 「こそばいやら、気持ち悪いやら。だけどな、お前は度胸がいいからこのまま帰してやろうってどこからか声が聞こえた。だからあのトイレに入っても無事でいられた。神隠しにもあわず熱も出さずにすんだんだよ」
 「小学校のどこのトイレだろ?」
 オヤジが通った同じ小学校に通っている俺は興味津々だった。
 「今はもう掃除道具など置いてトイレ全体が物置みたいになってたと思うな」
 その日の話はそれ程怖いとも思わずやりすごしたが、そのトイレの話は気になって、次の日、学校に着く早々開かずのトイレを探したの覚えている。
 掃除道具が置いてあるという事でここだったかと思った。もうトイレとは思えない道具置き場状態だった。だが、開かずのトイレと思われるところの近辺だけは小綺麗にされていた。
 恐る恐る中を覗くと何も不思議なところなどない、使えそうなボットン便所。
 
 「そう言う話を侮ってはいけないぞ」

 とオヤジは言った。
 オヤジの尻には痣がある。
 ちょうど人の手のような形の痣だ。
 そして………

 俺の尻にも痣がある。
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