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天狗の山
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少年は常にベッドの上だ。
どこへも出かけた事はない。病院内は隅々まで知っているが、少年の世界はそこまでだった。後はたまに自宅に戻って良いと主治医からの許しが出て自宅へ戻る。だから外出と言えば病院と自宅の行き来がせいぜいだ。
少年の楽しみは写真集を見ること。
山や花、海や魚。いろいろな写真集を見ることによってそこへ出かけた気分になっていた。
「本当だよ。僕はここへ行ったんだ」
「はいはい。きれいなところへ行ったわね」
母は、ベッドから離れられない我が子の夢想に付き合っている気持ちでいた。
ある時、母は見慣れない写真集があるのに気が付いた。
「この写真集、どうしたの?」
「何言ってるの? この間こっちの写真集と一緒に持ってきてくれたじゃない」
「そうだったかしら」
「この写真集は良いよ。まだ見たことのないところがいっぱいだし、このメインの山がすばらしいんだ。まるで山が生きているみたいだよ」
その写真集について母はまったく覚えがなかった。
良く見舞いに来る少年の叔母が持ってきたのかもしれないと思い、ちょうど見舞いに来た少年の叔母に聞いてみた。
「いやぁ、知らないわ。別の誰かじゃない?」叔母はその写真集を手に取って「へえ、これって確か天狗の伝説がある山だよね」とのん気に言い、まったく写真集の出所は知らない様子だった。
少年の叔母の言うとおりきっとお見舞いにきてくれた誰かが持って来てくれたのだろうと母もそれ以上は気に止めなかった。
それから、母がふと気が付くと少年はいつも熱心にその写真集を眺めていた。
ある日、少年はいつになく大きな発作を起こした。
医者ももうダメだと諦めかけた矢先、発作はおさまり少年は平常な状態に戻っていた。少年は、自分の周りにたくさんの人がいて覗き込む様子に驚き「みんな揃ってどうしたの?」とキョトンとした顔をしている。「今日はこの本の中の山に登ったんだ」そう言った少年の傍らにあの写真集があった。
「まったくこの子は心配させて。だけど、本当に良かった……」母は涙で顔をくしゃくしゃにしながら微笑んだ。
翌日、いつものように母が病院にやって来て少年の部屋を覗く。
少年の姿はどこにもない。
「どこへ行ったのかしら、昨日の今日なのに」
病院の中を散歩でもしているのだろうと、母は病院の中を探す事にした。
誰もいない少年の病室には少年が今の今まで見ていたのだろうあの写真集がそこにある。
開かれたその写真集の中に写っていたのは少年が嬉しそうに山に登っている姿。
その写真集のタイトルはこう書かれていた。
『神隠しの山』
そして少年はその病室からいなくなった。
どこへも出かけた事はない。病院内は隅々まで知っているが、少年の世界はそこまでだった。後はたまに自宅に戻って良いと主治医からの許しが出て自宅へ戻る。だから外出と言えば病院と自宅の行き来がせいぜいだ。
少年の楽しみは写真集を見ること。
山や花、海や魚。いろいろな写真集を見ることによってそこへ出かけた気分になっていた。
「本当だよ。僕はここへ行ったんだ」
「はいはい。きれいなところへ行ったわね」
母は、ベッドから離れられない我が子の夢想に付き合っている気持ちでいた。
ある時、母は見慣れない写真集があるのに気が付いた。
「この写真集、どうしたの?」
「何言ってるの? この間こっちの写真集と一緒に持ってきてくれたじゃない」
「そうだったかしら」
「この写真集は良いよ。まだ見たことのないところがいっぱいだし、このメインの山がすばらしいんだ。まるで山が生きているみたいだよ」
その写真集について母はまったく覚えがなかった。
良く見舞いに来る少年の叔母が持ってきたのかもしれないと思い、ちょうど見舞いに来た少年の叔母に聞いてみた。
「いやぁ、知らないわ。別の誰かじゃない?」叔母はその写真集を手に取って「へえ、これって確か天狗の伝説がある山だよね」とのん気に言い、まったく写真集の出所は知らない様子だった。
少年の叔母の言うとおりきっとお見舞いにきてくれた誰かが持って来てくれたのだろうと母もそれ以上は気に止めなかった。
それから、母がふと気が付くと少年はいつも熱心にその写真集を眺めていた。
ある日、少年はいつになく大きな発作を起こした。
医者ももうダメだと諦めかけた矢先、発作はおさまり少年は平常な状態に戻っていた。少年は、自分の周りにたくさんの人がいて覗き込む様子に驚き「みんな揃ってどうしたの?」とキョトンとした顔をしている。「今日はこの本の中の山に登ったんだ」そう言った少年の傍らにあの写真集があった。
「まったくこの子は心配させて。だけど、本当に良かった……」母は涙で顔をくしゃくしゃにしながら微笑んだ。
翌日、いつものように母が病院にやって来て少年の部屋を覗く。
少年の姿はどこにもない。
「どこへ行ったのかしら、昨日の今日なのに」
病院の中を散歩でもしているのだろうと、母は病院の中を探す事にした。
誰もいない少年の病室には少年が今の今まで見ていたのだろうあの写真集がそこにある。
開かれたその写真集の中に写っていたのは少年が嬉しそうに山に登っている姿。
その写真集のタイトルはこう書かれていた。
『神隠しの山』
そして少年はその病室からいなくなった。
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