ちょっぴり奇妙なお話集 

夏実朋可

文字の大きさ
7 / 21

天狗の山

しおりを挟む
 少年は常にベッドの上だ。
 どこへも出かけた事はない。病院内は隅々まで知っているが、少年の世界はそこまでだった。後はたまに自宅に戻って良いと主治医からの許しが出て自宅へ戻る。だから外出と言えば病院と自宅の行き来がせいぜいだ。
 少年の楽しみは写真集を見ること。
 山や花、海や魚。いろいろな写真集を見ることによってそこへ出かけた気分になっていた。
 「本当だよ。僕はここへ行ったんだ」
 「はいはい。きれいなところへ行ったわね」
 母は、ベッドから離れられない我が子の夢想に付き合っている気持ちでいた。
 ある時、母は見慣れない写真集があるのに気が付いた。
 「この写真集、どうしたの?」
 「何言ってるの? この間こっちの写真集と一緒に持ってきてくれたじゃない」
 「そうだったかしら」
 「この写真集は良いよ。まだ見たことのないところがいっぱいだし、このメインの山がすばらしいんだ。まるで山が生きているみたいだよ」
 その写真集について母はまったく覚えがなかった。
 良く見舞いに来る少年の叔母が持ってきたのかもしれないと思い、ちょうど見舞いに来た少年の叔母に聞いてみた。
 「いやぁ、知らないわ。別の誰かじゃない?」叔母はその写真集を手に取って「へえ、これって確か天狗の伝説がある山だよね」とのん気に言い、まったく写真集の出所は知らない様子だった。
 少年の叔母の言うとおりきっとお見舞いにきてくれた誰かが持って来てくれたのだろうと母もそれ以上は気に止めなかった。
 それから、母がふと気が付くと少年はいつも熱心にその写真集を眺めていた。
 ある日、少年はいつになく大きな発作を起こした。
 医者ももうダメだと諦めかけた矢先、発作はおさまり少年は平常な状態に戻っていた。少年は、自分の周りにたくさんの人がいて覗き込む様子に驚き「みんな揃ってどうしたの?」とキョトンとした顔をしている。「今日はこの本の中の山に登ったんだ」そう言った少年の傍らにあの写真集があった。
 「まったくこの子は心配させて。だけど、本当に良かった……」母は涙で顔をくしゃくしゃにしながら微笑んだ。
 翌日、いつものように母が病院にやって来て少年の部屋を覗く。
 少年の姿はどこにもない。
 「どこへ行ったのかしら、昨日の今日なのに」
 病院の中を散歩でもしているのだろうと、母は病院の中を探す事にした。
 
 誰もいない少年の病室には少年が今の今まで見ていたのだろうあの写真集がそこにある。
開かれたその写真集の中に写っていたのは少年が嬉しそうに山に登っている姿。
 その写真集のタイトルはこう書かれていた。
 
 『神隠しの山』

 そして少年はその病室からいなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...