化物皇女と勇者?と魔王?

北田シヲン

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第一章:勇者の旅

15話:煌の盾③

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「知ってる?どんな生き物だって、海には勝てないってこと」

 ソウマとマホの間。いつの間にか、人間1人分が入れるほどの隙間が出来ていた。
勇人は、そこから突如として現れた。いや、正確に言うと、現れたのではなく、元からそこにいたのである。

 現れた勇人は、右腕を上に上げた状態で立っていた。
そして、次には、躊躇することなく、無慈悲に、右腕を振り下ろしていた。

「君がどれだけ強くても、母ある海には敵わないよね。ほら、海に還りな」

相手に向ける、最後の言葉を言い放って。

@@@

 狼が遠吠えとともに、青い炎を纏い、攻撃へと移行するほんの少し前。

 勇人は、相手の遠吠えを聞き、本能的にやばいと感じ取った。
何がやばいのか、具体的には分からなかったが、背中がゾワっとする嫌な感じ。

 急いでマホがいる後方へ移動。耳元で囁きながら、作戦を伝える。

「俺の周りに光を纏わせることは出来る?」

「纏わせること自体は出来るけど、それでどうすんの?」

「相手の目に、光が返らないようにしたいんだ」

 その技術を、光学迷彩という。
目というのは、外部の物に反射した光が角膜、網膜を通ることで、その物を見ることが出来る。
したがって、反射する光自体を自在に曲げ、迂回、屈折し、目に入らないようにすれば、見ることが出来なくなる。

 この世界にも医学というものは存在する。
魔法を使い治療することが殆どだが、人間の身体の構造についての理解は、勇人の元の世界――地球と遜色ない。

 そして、マホは、魔法と戦術だけでなく、医学についても学んでいた。
いやむしろ、殆どの分野を覚えている。
一度見たものは絶対に忘れない、瞬間記憶能力の持ち主だからだ。

 だからこそ、勇人の拙い内容から、何をしようとしているのかを理解し、擬似的な光学迷彩を試作。

「こんな感じで大丈夫?勇人?」

「うん、たぶん。こっちからそっちは見えてないけど、そっちからも見えてない?」

「うん!全然見えてないぜ!」

「流石、マホ…!頼りになるね、いつも」

「えへへ~そうかなぁ~?」

 こうして、こちらの世界には無い技術――光学迷彩を実験的とはいえ、作り出し、狼にバレように隠れることに成功。

 勇人は、地面の雪に手を当て、水性特化型の統制魔法を発動する。
雪から雪へ間接的に繋げていき、雪原からその周りを取り囲む木々たちへと伸ばしていく。

 大量の雪を水へと変換。更に、木々に降り積もった雪へと繋げ、それも水に変える。

広大なステージの端まで手を伸ばし、すべての雪を水に変え、相手に勘付かれないように、水を水蒸気に変換し、上空へと集めていく。

こうして、大量の水を上空に集めていた。

@@@

 捨て台詞とともに、右腕を振り下ろした瞬間、海を彷彿とさせる大量の水が、広大なステージ全域に、落ちた。
読んで字の如く、全域に。

 相手の青い炎の性で足止めできない状況であり、範囲を絞り、狙って落としても、走って逃げられることを想定した結果である。
そして、結果は功を成す。

 逃げようとする狼だったが、どこまで走ろうと上空の水が途切れることはなかった。
狼は少しでも水の抵抗になるであろう木々の中へ入っていき、全ての力を出し切り、自身が纏う青い炎の火力を高めた。
しかし、幅30メートルもある水の前には、全てが無力だった。

 水は、木々を押し倒し、津波のように全てを押し流す。
綺麗だった水は、見る見るうちに濁っていき、濁流に変わる。
木々の中にいた狼ごと、激しく乱れ狂う。

「よし…捕まえた」

 勇人は、水が当たる感覚から、狼の位置を把握。
両腕を開き、閉じていくと、周りの水が連動し、狼の方へ凝縮していく。
水は集まり、大きな球体となった。

「ねえ、これも魔王の手下かなんかなの?」

 勇人は、天井の方を見ながら、問いかける。
試験官の一対であるテルムがその問いかけに答える。

「そうでございます。魔王軍機動部隊の足として使用されています」

「ふーん、そっか。じゃ、要らないな――――死ね」

 勢いよく腕を閉じ、両手を叩き合わせる。
連動した水が、捕らえた狼を急圧縮し、身体を弾け飛ばした。

「魔王の手下……………ス」

 相手が弾け飛ぶのを見ながら、ボソボソと何かを呟く勇人。
その姿は、何かに取り憑かれているような、どこか怪しげな雰囲気が漂っていた。

「勇人、さん?どうしましたか?」

「え?あーうん。何もない、大丈夫」

 妙な雰囲気を感じ取り、心配になった皇女が声をかける。勇人は、元の状態に戻っていた。

「今回も大変だったなって、そう思ってただけだから」

「そう、ですね……そういえば、前の試験で頂いた宝剣、使いませんでしたね」

「あ、確かに。接近戦は、ファムちゃんとマコトに任せっきりだったから、使う機会がなかったなぁ」

「ほんっとだぜ!お前のその宝剣使ったら、もっと楽に勝てたんじゃねえのか?」

勇人と皇女の会話に、割って入るソウマ。

「うーん、どうだろ?まだこれの性能も分からないし、なにより忘れてたね、これがあるのを」

「なんっだよ、それ!てか、分かんねぇんだったら、今使ってみようぜ?こんだけ広いんだし、思いっきり使えそうじゃん?」

「確かに、ソウマの言う通りだね。よし、ちょっと使ってみようかな」

「あの、気をつけてくださいね。もしかしたら、まだ敵がいるかもしれませんから」

「うん、ありがとう。でも大丈夫だと思うよ。さっき、水を落とした時に、今の相手以外感じ取れなかったから」

「よっしゃ!じゃ行こうぜ!その剣がどんだけすげーのか、気になってたんだよ!」

 皇女の心配をよそに、勇人はソウマに連れられ、木々の方へと歩き出す。

 3人の会話に入ってこなかったマコトとマホはというと、疲れ果て、その場に座り込んでいた。

 常に身体を鍛えてきて、無尽蔵に近い体力を持った皇女なら露知らず、最も重装備であるマコトは、そんな皇女の動きに合わせて、前線で戦っていたため、ヘトヘトである。

 マホも同様で、常に魔法を使い、魔力をほとんど使い果たしていた。
相手に、直接的なダメージを与えられないにしても、味方のサポートをしたり、少しでも相手を妨害しようと魔法をガンガン使っていたため、同じくヘトヘトである。

 皇女は、2人の方へ歩いていき、側に座る。
女3人、馬鹿な男2人を見ながら、談笑を始める。

 前回の試験では、相手を殺してすぐアナウンスが入り、魔法陣が現れた。
今、まだそれが起きないということは、″試験が終わっていない″ということを指していた。



「いやぁー凄いじゃん!その剣!あんな太い木もズバズバ切れるしさあ!オレには持てなかったけど…」

「やっぱり俺にしか持てないんだなぁーでもありがとう、ソウマ。楽しかったよ」

「へへ、いいってことよ!」

 男はいつまで経っても小学生とはよく言うが、この2人に関しては、まさにその通りである。
目新しい物に興味を引かれ、それを試してみたくてしょうがない。

 勇人とソウマは散々楽しんだようで、後ろにある木々が何本も倒れていた。
2人は満足した顔で、女子3人が座る方に向かって、歩き出した。

「子どもっぽい勇人も可愛い…ギューってしたくなっちゃうー!」

「分かります、マホさんのその気持ち」

「ファムさんもやっぱそう思うー?みんな可愛いって思っちゃうのかなー?」

「少なくとも、ぼくは可愛いとは思わないが、イケメンではあると思う」

「わかってないなーマコトはー
勇人は、カッコよくて、イケメンで、優しくって、身長高くて、おっとりしてて、可愛いんだよぉ~」

「やはりベタ惚れ、か。誰かに盗られる前に、行動した方がいいと思うがな」

「うん、本当にそう思います。ゆっくりしとると私がどんどんアタックしちゃいますよ?」

「え!?それはやばい!うち大ピンチや!でも…ファムさんみたいに綺麗でスタイル良い人に言い寄られたら…うちなんか」

「あ、あれ?マホさんなら、「負けてたまるかー!!」ってなると思ったのですが…」

「あははっ!マホは、強気の口調だから勘違いされがちだが、心の内は乙女で弱々しいのさ!」

「そうだったんですね…すいません、マホさん。でも、マホさんにはマホさんの良いところがありますよ?ねえ、マコトさん!」

「ああ、いっぱいある!色んな属性の魔法が使えるし、周りへの気遣いも出来る。料理も上手く、掃除などの家事も完璧だ。顔も可愛く、身長の低さが愛くるしさを生み、守ってあげたい。そして、なにより、その綺麗な白髪が印象的だ。もっと自信を持て、マホ!君は素晴らしい!」

「えっへへ~そんなに褒められると自信出てくるぜ~
うーん!よし!ファムさん、うち、負けないから!ぜっーーーたいに私が先に勇人に告白するから!」

「少し論点がズレてるような…告白することだけがゴールではなく、スタートな気が」

「いいのいいの!細かいことは気にすんなって!まずは、告白するまでが大変なんだからさ!」

「ん?なんの話?」

「ゆ、勇人!?いやいや、何もない何もない!」

 女3人による女子トークが思いの外盛り上がり、こっちに向かってきていた勇人たちが合流してしまった。

マホが話をはぐらかし、内容は聞かれなかったようで、勇人は別の疑問を投げかける。

「そういえば、これっていつ終わんだろ?」

「分からないな。前の時はすぐに魔法陣が出たが」

「もしかして、煌(おう)の盾を用意するのに、時間がかかるのかもしれませんね」

 勇者一行が朗らかに団らんする中、それは起きた。

木々の方に最も近い位置に座っていた皇女の背後―――木の後ろに隠れ、虎視眈々とその機会を待っていた。

 せめて、1人ぐらいは道連れにしてやる、一矢報いてやる。そう思い、狙いを定め、飛び出した。

 現れたのは、狼。それも、頭だけとなった狼だ。
勇人の水の攻撃を受け、身体が弾け飛ぶ前、頭部だけに炎を集め、なんとか、生き延びていた。

 狼は、最後の力を振り絞り、青い炎を纏って、皇女に噛みつこうと口を大きく開けて、突進する。

背後からの強襲に、皇女が気付くことはなく、最初に気付いたのは、

「っ!?ファムちゃん!危ない!!!」

―――勇人だった。

皇女を押し退け、咄嗟に、持っていた宝剣を掲げる。横の面――腹を相手に向けて。

誰だろうと関係ない。道連れに出来るなら誰でもいい。

 狼はさらに大きく口を開き、牙を尖らせる。
邪魔をする剣ごと、相手を噛み殺すために。
もちろん、噛むだけではなく、炎に触れれば、火傷だけでは済まされない。

 だがしかし、それも叶わずに終わる。
狼の最後の抵抗は、虚しく、何も残せずに終わりを告げる。

 狼の牙が、剣の腹に当たった瞬間、炎ごと狼の頭部が、剣の中に吸い込まれた。
そして、宝剣の握りの部分に嵌め込まれている3つの水晶の内の一つに、青い炎の光が灯った。

「助かった、のか?」

 目の前で起きた予想外の出来事に、当の本人である勇人でさえ、驚いている。

「おい、今、狼の野郎がその剣の中に吸い込まれていったぞ!?」

「ああ、ぼくも確かに見た。その後、水晶に青い光が灯ったのも」

「あ、ほんとだ。なんだろ、これ?」

「そういえば、昔の文献で読んだことがあるぜ!えっと、確かー…剣の腹で触れたものを3つのみ取り込むことができて、取り込んだものの力を使ったり、好きに出し入れ出来るっていう能力だったはず!」

「流石はマホ…!頼りになるね。じゃー今取り込んだ狼の力を使えるってわけか。よし、やってみよう」

 勇人は、宝剣の握りを両手で掴み、目を瞑る。すると、宝剣の剣身から青い炎が溢れ出し、纏わりついた。狼と同じ完全燃焼の炎。
火炎剣の出来上がりである。

「おぉ…!すごい…!でも全然暑くない」

「いや、そんなことねぇよ!こっちはすげー暑い!今すぐやめてくれ!」

「え、もしかして、みんなは暑いの?」

 周りに集まっていた4人は、同時に頷く。
どうやら、宝剣の能力による影響は、所有者には効かないようだ。

「そうなんだ、ごめんごめん」

 勇人は、宝剣の能力を解除したが、次なる疑問が湧いてくる。

「これってさっきの狼を吸収したわけだよね?だったら、狼自体も出せるってこと?」

「ちょっと待て。絶対に出してはいけないぞ、勇人。ぼくたちに、もう一度あいつと戦う気力は残っていない」

「あ、うん。それは分かってるんだけど、何というか、今度は敵じゃなく、味方として出てきてくれるんじゃないかなーと思って」

「一理あるかもしれないが、それは可能性の話だ。無理にみんなを危険にさらすような真似は、控えてくれると助かる」

「わかった、ごめんね。じゃー今度、城の広場で出してみるよ。そうしたら、宮廷魔導士の人たちも助けてくれるだろうし」

「確かにそれはそうだが…はぁーわかった。そんな好奇心旺盛な目で見られては、断るものも断れないさ」

「うん、ありがとう!マコト!」

 目をキラキラと輝かせ、満面の笑みで返す勇人。悪気がないからこそ、恐ろしい。


 こうして、今回の試験をクリアした勇者一行は、アナウンスとともに現れた魔法陣に乗り、祭壇へと戻ってきた。

 出迎えるテムル、ルムテに連れられ、勇人は、前回同様、転移魔法陣の上に乗り、ものの数分で帰ってきた。
その手には、宝剣同様、豪華絢爛・美麗荘厳・絢爛華麗な片手盾を持っていた。

@@@

 勇人が狼を吸収してからというもの、皇女は一切言葉を発さなかった。
勇人に助けられ、胸キュンしたにはしたが、それだけが原因ではなかった。

「(あの宝剣の力…ヴァール、貴様の力と似ておらんか?喰ったものの力を使うあたり)」

「(ああ、それは思ったぜ、嬢ちゃん。あの力、3つという制限はあるものの、凄く近い)」

「(まさか、ヴァール…歴代の皇女時代に、あの大国に協力を?)」

「(いや、それはないと思うぜ?随分前から、色んな皇女と過ごしてきたが、あの国に関わる者はいなかったはずだ。それに、研究材料にされるなんて、もってのほかだ)」

「(ま、確かにそうじゃな。ヴァールの性格的にあり得ぬか…ならば、ヴァールを見て生きておったものが、似せて作った、というのが一番近そうじゃの?)」

「(ああ、それが一番あり得そうだな。しかし、見られたとしても、すぐに作れる代物じゃないだろうし、嬢ちゃんよりも前の皇女の時なのは確かだな)」

「(母さんかそれよりもっと前の皇女の時、か。なおさら、わたしには分からないな。まあ、今後、用心するに越したことはないじゃろうな)」

「(あの大国は何かきな臭いからな、気をつけろよ、嬢ちゃん)」

「(ああ、わかってるさ。あ、そう言えば、あの狼と戦う前、何か言ってなかったか?)」

 狼と戦う前、動揺していたヴァールのことを思い出し、皇女は質問を重ねる。

「(あーあれか。いや、あの狼が昔馴染みに似ていたもんだから、少し気になっちまってな)」

「(ん?それってもしかして、古の3柱のことか?)」

「(よく覚えてんなぁ、嬢ちゃん)」

「(ふっふっふっ、記憶力だけはヴァールに負けておらんと自負しておるよ)」

「(ははっ、そりゃ完敗だ。それと、嬢ちゃんの質問に答えると、イエスだ。だけど、流石にあいつじゃーないと思うぜ?あいつにしては、弱すぎる)」

「(そうか、残念じゃな。一度、会ってみたかったんじゃがな~ヴァールの古い友だちとやらに)」

「(嬢ちゃんが思ってるほど、仲の良い友だちでもないけどな。ってそんなことより、勇者が戻ってきたぜ。そろそろ、会話に入った方がいいんじゃないか?)」

「(うむ、ヴァールが少し気恥ずかしそうだし、今日はこのぐらいにしておくかの)」

「(はは…バレバレか)」

「(いつぞやの仕返しじゃ)」

 こうして、皇女はヴァールとの話し合いを終え、勇者たちの会話へ入っていくのであった。
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