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九話
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「出来るだけ、出来るだけ遠くまで走れ!」
そんな父の言葉を頭の中で何回も繰り返しながら足を動かす。ひたすら、体力の限界が見えても。私は寝起きの母を背負って、出来るだけ遠くに走る。
暗い森の中を駆け走る。振り返って見えたのは、ゆっくりと近づく橙色の灯し達。彼等は里を出た私達を見つけるまで、ずっとこの森を彷徨うだろう。
それに、
「ミカルスさん? どうして私を背負って居るの?」
何より、母の困った顔を見たくはない。
目を擦りながら上目遣いで質問する母に、私は景色の良い寝床があるのを知ってます。其処に是非ミルタナさんを連れて行かせたかったのです。と解釈した。
母に二度目の嘘をついてしまった。
最初に言った嘘を、私は今でも覚えて居る。
「……私は、ミルタナさんの家事をお手伝いする。お手伝いさんです!」
私の親は村長だと思っていた。母の記憶が失って四年間、村長の所で預かされて育った故、ミルタナを母と思った時には唖然した次に信じられないと発した事を覚えて居る。然しよく見ると、顔の輪郭や声も少し似ていると実感した時には、涙が込み上げて来た。
そして一度だけ、お母さんと呼んだが、返事はこうだ。
「私はあなたのお母さんじゃ、ありませんよ」
里長から事情は聞いたが、これ以上にない衝撃はないを実感した。
そしてずっと考える。
此れは母ではない。では、私の母はどこ? と、常々思う度に、彼女、ミルタナが肩を叩いて慰めてくれた。
そしてその言葉に私は、ずっと優しさと安心を貰って来て、漸く心から認めてくれた。
この人は、私の母だ。
私は彼女の娘なら、如何してこんなに離れた生活を送っているのか? 其れから私は決めた。どんな形でも良い。母と近く居て、生活出来て、一緒に食卓を囲んで笑顔で食事をしたいと。
「居たぞ!!」
「ミカルス! 待て!!」
「…………くっ!」
村の皆んなに迷惑を掛けている。
村の皆んなが困っている。
嫌だ。困らせては駄目だ。でも、
「私の小さな幸せを、奪わないで………」
空気が漏れたかの様な空虚な声が、命取りになってしまった。
「離して………」
その声は、身近で、聞き慣れて、聞きたくない一言だった。
「お願い、離して。お手伝いさん………」
彼女が泣いている。
如何して、泣いているの?
「私がなんとかするから、貴女だけでも遠くに逃げて………」
「……! ………駄目、駄目!!」
「命令よ! 離して、お願い!」
「駄目、離さない。皆んな、貴女探して殺しに来るの。ミルタナさんの、ころ………」
言いかけた言葉の続きが、口より先に頭が考えさせて、恐怖に支配される。絶対と言って良いほど考えたくなかった思考を駄目出ししたい。
やばい、足が震えてきた。ずっと走り続けて来た所為もあって、もう動けない。
無我夢中で走り続けて来たけど、気がつくと、周りには木々のない見晴らしのいい広場に辿り着いてしまった。木もなければ花もない、あるのは気持ちの良い芝居だけだ。
「ありがとう。お手伝いさん」
「………やめて。私はお手伝いさんなんかじゃない…………」
四つん這いになって倒れると、ミルタナはミカルスを置いて何処かへ行こうとする。
「待って!」
その時、私の目の前に、小さく咲いた木の芽が地面から顔を出す。
植物の成長が、こんなに一気には成長しない。そう考えた刹那。やがて木の芽は急速に成長すると、その木は私を呑み込んで逝く。
「此れは、大木の樹縛!」
「そう、森の神様の力さ。ミカルス」
手のひらで包み込めくらいの小さな芽が、一瞬で大きく急成長を遂げされる森の神の力。手足に体は蔦や枝に巻き付けられ、身動きが取れない状況でいる。
その上、周りには村の皆んなが集まって来ている。徐々に私を囲んでは松明で周辺が明るく灯される。村の一人はミルタナを強引に引っ張っては、私の前に連れて来させる。
「ミカルス。君の辛さは痛い程わかる。母親を失うのは誰だって苦しいさ。其れでも、村の皆んなは苦しんでいるんだ。分かってくれるかい?」
一人の男性が前に出て優しく声で喋り掛けるが、
「私の数少ない幸せの一つを、奪わないで!!」
知った事ではない。二度と手に入らない幸せの為なら、私は何が何でも手放さない。どんな事でも抗い続ける。
「そうか。ならば実力行使で行かせてもらうよ」
男性は剣を倒れたミルタナの喉元に剣を突き立てる。
「やめて!!」
「命乞いの時間をくれてやる。言い残しがない様にしろ」
男性は乱暴にミルタナの髪を掴んで、顔を私の方に向かせる。
涙が出る。こんな母の姿なんて見たくはないと、心から叫ぶと。彼女は、冷たい手で涙を拭いてくれた。
「貴女は私に一度も嘘をつかなかったわね」
「嘘、ついた。ついさっきも………」
「ついてなんかいないわ。上を見上げれば綺麗なお星様が素晴らしく見渡せるもの。こんな所で寝られるなんて、素敵だと思うわ。…………だから」
「母さん!!」
「おやすみ。ミカルス」
赤く染まった視界に白く染まった思考。
私は耳に残った母の一言を、何も考えられない頭の奥にしまい込んだ。
そんな父の言葉を頭の中で何回も繰り返しながら足を動かす。ひたすら、体力の限界が見えても。私は寝起きの母を背負って、出来るだけ遠くに走る。
暗い森の中を駆け走る。振り返って見えたのは、ゆっくりと近づく橙色の灯し達。彼等は里を出た私達を見つけるまで、ずっとこの森を彷徨うだろう。
それに、
「ミカルスさん? どうして私を背負って居るの?」
何より、母の困った顔を見たくはない。
目を擦りながら上目遣いで質問する母に、私は景色の良い寝床があるのを知ってます。其処に是非ミルタナさんを連れて行かせたかったのです。と解釈した。
母に二度目の嘘をついてしまった。
最初に言った嘘を、私は今でも覚えて居る。
「……私は、ミルタナさんの家事をお手伝いする。お手伝いさんです!」
私の親は村長だと思っていた。母の記憶が失って四年間、村長の所で預かされて育った故、ミルタナを母と思った時には唖然した次に信じられないと発した事を覚えて居る。然しよく見ると、顔の輪郭や声も少し似ていると実感した時には、涙が込み上げて来た。
そして一度だけ、お母さんと呼んだが、返事はこうだ。
「私はあなたのお母さんじゃ、ありませんよ」
里長から事情は聞いたが、これ以上にない衝撃はないを実感した。
そしてずっと考える。
此れは母ではない。では、私の母はどこ? と、常々思う度に、彼女、ミルタナが肩を叩いて慰めてくれた。
そしてその言葉に私は、ずっと優しさと安心を貰って来て、漸く心から認めてくれた。
この人は、私の母だ。
私は彼女の娘なら、如何してこんなに離れた生活を送っているのか? 其れから私は決めた。どんな形でも良い。母と近く居て、生活出来て、一緒に食卓を囲んで笑顔で食事をしたいと。
「居たぞ!!」
「ミカルス! 待て!!」
「…………くっ!」
村の皆んなに迷惑を掛けている。
村の皆んなが困っている。
嫌だ。困らせては駄目だ。でも、
「私の小さな幸せを、奪わないで………」
空気が漏れたかの様な空虚な声が、命取りになってしまった。
「離して………」
その声は、身近で、聞き慣れて、聞きたくない一言だった。
「お願い、離して。お手伝いさん………」
彼女が泣いている。
如何して、泣いているの?
「私がなんとかするから、貴女だけでも遠くに逃げて………」
「……! ………駄目、駄目!!」
「命令よ! 離して、お願い!」
「駄目、離さない。皆んな、貴女探して殺しに来るの。ミルタナさんの、ころ………」
言いかけた言葉の続きが、口より先に頭が考えさせて、恐怖に支配される。絶対と言って良いほど考えたくなかった思考を駄目出ししたい。
やばい、足が震えてきた。ずっと走り続けて来た所為もあって、もう動けない。
無我夢中で走り続けて来たけど、気がつくと、周りには木々のない見晴らしのいい広場に辿り着いてしまった。木もなければ花もない、あるのは気持ちの良い芝居だけだ。
「ありがとう。お手伝いさん」
「………やめて。私はお手伝いさんなんかじゃない…………」
四つん這いになって倒れると、ミルタナはミカルスを置いて何処かへ行こうとする。
「待って!」
その時、私の目の前に、小さく咲いた木の芽が地面から顔を出す。
植物の成長が、こんなに一気には成長しない。そう考えた刹那。やがて木の芽は急速に成長すると、その木は私を呑み込んで逝く。
「此れは、大木の樹縛!」
「そう、森の神様の力さ。ミカルス」
手のひらで包み込めくらいの小さな芽が、一瞬で大きく急成長を遂げされる森の神の力。手足に体は蔦や枝に巻き付けられ、身動きが取れない状況でいる。
その上、周りには村の皆んなが集まって来ている。徐々に私を囲んでは松明で周辺が明るく灯される。村の一人はミルタナを強引に引っ張っては、私の前に連れて来させる。
「ミカルス。君の辛さは痛い程わかる。母親を失うのは誰だって苦しいさ。其れでも、村の皆んなは苦しんでいるんだ。分かってくれるかい?」
一人の男性が前に出て優しく声で喋り掛けるが、
「私の数少ない幸せの一つを、奪わないで!!」
知った事ではない。二度と手に入らない幸せの為なら、私は何が何でも手放さない。どんな事でも抗い続ける。
「そうか。ならば実力行使で行かせてもらうよ」
男性は剣を倒れたミルタナの喉元に剣を突き立てる。
「やめて!!」
「命乞いの時間をくれてやる。言い残しがない様にしろ」
男性は乱暴にミルタナの髪を掴んで、顔を私の方に向かせる。
涙が出る。こんな母の姿なんて見たくはないと、心から叫ぶと。彼女は、冷たい手で涙を拭いてくれた。
「貴女は私に一度も嘘をつかなかったわね」
「嘘、ついた。ついさっきも………」
「ついてなんかいないわ。上を見上げれば綺麗なお星様が素晴らしく見渡せるもの。こんな所で寝られるなんて、素敵だと思うわ。…………だから」
「母さん!!」
「おやすみ。ミカルス」
赤く染まった視界に白く染まった思考。
私は耳に残った母の一言を、何も考えられない頭の奥にしまい込んだ。
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