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八話
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ミルタナの寝室。
夜は然程寒くないが、暖炉に火が灯されている。
大きな葉っぱのベットに薄い布を一枚で寝ているミルタナ。
「スゥ、スゥ…………」
気持ち良く眠る彼女の姿を、じっと見つめるダルドの姿。彼の左手にあるのは一輪の白い花、右手には鞘に収められた剣が一つ。
涙を流し、寝が入りをして仰向けになるミルタナの側に花を置き、右手は鞘を抑えて左手は剣の柄を握る。其れをゆっくりと引き抜く。
「ふぅぅ、ふぅぅ、ふぅ……」
呼吸が少しずつ、乱れて来る。
剣を引く抜かれる音がいつもより大きく聞こえると、徐々に、徐々に、鼓動が速く鳴るのを感じる。
鞘を捨て、剣を逆さにして両手で柄をぎゅっと握る。
「………また、一つ。私の中で、消えない思い出が築き上げられる…………」
目蓋を閉じて、剣を少し上げて、其処から一気に!
キンッ!!
「!?」
鳴るはずがない剣と剣の衝撃音に、ダルドは堪らず目を開ける。其処にあったのは、短刀でも長刀でもない、中途半端な長さの鋭い剣が、我が進み行く先を阻む。
その剣の持ち主は、
「ミカルス………」
哀しさの反面、何処か怒りを感じる表情は、何処か私に似たものがあった。
「父さん。なんで、こんな事するの?」
「…………」
「………お願い、答えて………」
涙を流すミカルスの青く美しき瞳は、私の穢れた瞳を真っ直ぐ見つめる。
………やめてくれ。
「それ以上、辛い思いを重ねないで………」
………お願いだ。やめてくれ。
「………全てを忘れても、ミルタナ・アンを、母を傷つけないで!」
思い出したよ。その言葉は、私が彼女と付き合う時に言った台詞に似ている事を。
その前の台詞は、狼から彼女を守り抜いた時に言われた言葉だった。
「………全てを忘れても、ミルタナ・アンを、君を愛そう!」
「これ以上、心配を掛けさせないで………」
ダルドの脳裏に過ぎる、告白の言葉と気遣いの言葉。
手が震える。王国の守る騎士が情けない。自分の娘に、怯えて、しまうとは。
熟睡するミルタナを横目に、私は力みが徐々に引いて行く。
「だから!」
「それ以上は言わせないぞ!!」
ミカルスの目と口を防ぎ、羽交いをする其奴は、村長だった。
「ダルド! 一度決めた事だろ、躊躇うな!」
そうだ。此れは村の皆んなの要望でもあり、私の望んだ事だった。
ミルタナ・アンの記憶が喪われた次の日から、少しずつ感染者が増えていた。感染者はテントの中の隅で横たわり、体が激痛に見舞われる苦しい日々が続く。
原因は病熊の病原菌が、私を始め、村長とミルタナに感染してしまった事が発展だ。幸い、村長は自然の王を信行しているだけはあり、感染を防ぐ薬草を作り出すことが出来る。
「早くしろ! ダルド!」
が、しかし。薬草を作るにも、季節と限られた量がある。信行をしていても、其れほど便利でもないのだ。感染者の殆どは治っては居る。村長も治っては居るのだが、ミルタナだけが治らなかったのだ。
薬草を食べさせても治らない、其れは強い菌の特徴である。然し、ミルタナは平然としている。其れは彼女が昔、花の神に痛みを消してくれる、おまじないをしたからだ。故に激痛は感じず、普通に過ごせるのだが、村の人は其れを許さなかったのだ。
「やめて、父さん……」
此れ以上、村に迷惑を掛けたくない。
何より、妻を思い出す度に心が締め付けられるかの様に痛む日々が続く。
もう嫌なんだ。………こんな、日々は。
「ダルド、さん…………」
小さく美しい声、ミルタナの声だ。
私に続き、村長が彼女に目をやる。
「只の寝言か。ダルド、村の為にも!」
君はこんなになってしまっても、
「ミカルスを、守って………」
「!!!」
もう、迷わない。
「…………日々痛む心の訳を、今知った」
「ダルド?」
「父、さん?」
そうだ。此れはミルタナの所為ではない。
「もう、約束は破らない!」
君との約束を破っていたから痛かったのだ。
もし、まだ許されるならば、我が誇りに賭けようぞ。
「王国の剣士であり、森人の英雄の名に賭けて、」
ミルタナとの、
「最後の約束を果たす!」
剣先を村長に向けて一気に突っ込むと、彼は離れは尻餅をついて下がった。
暖炉の火を激しく燃え上がり火の粉が一層と散りばむ。大きく広がるダルドの影が、勇猛果敢な剣士である前に、一人の父としての壮大さを物語る。
「愛する我が娘を、守ってみせる!!」
「裏切るのか、ダルドォォォ!!!」
ミカルスはダルドの背後に回り、逞しき父の背を見つめる。
「父さん!!!」
「………悪かったな、娘よ。ずっと一人にさせて」
夜は然程寒くないが、暖炉に火が灯されている。
大きな葉っぱのベットに薄い布を一枚で寝ているミルタナ。
「スゥ、スゥ…………」
気持ち良く眠る彼女の姿を、じっと見つめるダルドの姿。彼の左手にあるのは一輪の白い花、右手には鞘に収められた剣が一つ。
涙を流し、寝が入りをして仰向けになるミルタナの側に花を置き、右手は鞘を抑えて左手は剣の柄を握る。其れをゆっくりと引き抜く。
「ふぅぅ、ふぅぅ、ふぅ……」
呼吸が少しずつ、乱れて来る。
剣を引く抜かれる音がいつもより大きく聞こえると、徐々に、徐々に、鼓動が速く鳴るのを感じる。
鞘を捨て、剣を逆さにして両手で柄をぎゅっと握る。
「………また、一つ。私の中で、消えない思い出が築き上げられる…………」
目蓋を閉じて、剣を少し上げて、其処から一気に!
キンッ!!
「!?」
鳴るはずがない剣と剣の衝撃音に、ダルドは堪らず目を開ける。其処にあったのは、短刀でも長刀でもない、中途半端な長さの鋭い剣が、我が進み行く先を阻む。
その剣の持ち主は、
「ミカルス………」
哀しさの反面、何処か怒りを感じる表情は、何処か私に似たものがあった。
「父さん。なんで、こんな事するの?」
「…………」
「………お願い、答えて………」
涙を流すミカルスの青く美しき瞳は、私の穢れた瞳を真っ直ぐ見つめる。
………やめてくれ。
「それ以上、辛い思いを重ねないで………」
………お願いだ。やめてくれ。
「………全てを忘れても、ミルタナ・アンを、母を傷つけないで!」
思い出したよ。その言葉は、私が彼女と付き合う時に言った台詞に似ている事を。
その前の台詞は、狼から彼女を守り抜いた時に言われた言葉だった。
「………全てを忘れても、ミルタナ・アンを、君を愛そう!」
「これ以上、心配を掛けさせないで………」
ダルドの脳裏に過ぎる、告白の言葉と気遣いの言葉。
手が震える。王国の守る騎士が情けない。自分の娘に、怯えて、しまうとは。
熟睡するミルタナを横目に、私は力みが徐々に引いて行く。
「だから!」
「それ以上は言わせないぞ!!」
ミカルスの目と口を防ぎ、羽交いをする其奴は、村長だった。
「ダルド! 一度決めた事だろ、躊躇うな!」
そうだ。此れは村の皆んなの要望でもあり、私の望んだ事だった。
ミルタナ・アンの記憶が喪われた次の日から、少しずつ感染者が増えていた。感染者はテントの中の隅で横たわり、体が激痛に見舞われる苦しい日々が続く。
原因は病熊の病原菌が、私を始め、村長とミルタナに感染してしまった事が発展だ。幸い、村長は自然の王を信行しているだけはあり、感染を防ぐ薬草を作り出すことが出来る。
「早くしろ! ダルド!」
が、しかし。薬草を作るにも、季節と限られた量がある。信行をしていても、其れほど便利でもないのだ。感染者の殆どは治っては居る。村長も治っては居るのだが、ミルタナだけが治らなかったのだ。
薬草を食べさせても治らない、其れは強い菌の特徴である。然し、ミルタナは平然としている。其れは彼女が昔、花の神に痛みを消してくれる、おまじないをしたからだ。故に激痛は感じず、普通に過ごせるのだが、村の人は其れを許さなかったのだ。
「やめて、父さん……」
此れ以上、村に迷惑を掛けたくない。
何より、妻を思い出す度に心が締め付けられるかの様に痛む日々が続く。
もう嫌なんだ。………こんな、日々は。
「ダルド、さん…………」
小さく美しい声、ミルタナの声だ。
私に続き、村長が彼女に目をやる。
「只の寝言か。ダルド、村の為にも!」
君はこんなになってしまっても、
「ミカルスを、守って………」
「!!!」
もう、迷わない。
「…………日々痛む心の訳を、今知った」
「ダルド?」
「父、さん?」
そうだ。此れはミルタナの所為ではない。
「もう、約束は破らない!」
君との約束を破っていたから痛かったのだ。
もし、まだ許されるならば、我が誇りに賭けようぞ。
「王国の剣士であり、森人の英雄の名に賭けて、」
ミルタナとの、
「最後の約束を果たす!」
剣先を村長に向けて一気に突っ込むと、彼は離れは尻餅をついて下がった。
暖炉の火を激しく燃え上がり火の粉が一層と散りばむ。大きく広がるダルドの影が、勇猛果敢な剣士である前に、一人の父としての壮大さを物語る。
「愛する我が娘を、守ってみせる!!」
「裏切るのか、ダルドォォォ!!!」
ミカルスはダルドの背後に回り、逞しき父の背を見つめる。
「父さん!!!」
「………悪かったな、娘よ。ずっと一人にさせて」
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