私が勇者であんたが魔王よ!

四ノ宮士騎

文字の大きさ
24 / 88

第23話 イグルドの森④ ドゥルグと例の物

しおりを挟む
「おいっわかっているのかぁっこのままだと貴様ら全員打ち首になるんだぞ!」

 何も答えずに、自分の視界から去り行くルミナたちを見て、ドゥルグはだんだんと弱腰になっていった。

「おいっ貴様らっこれが最後通告だからなっわかっているのかっこのままだと本当に父上に上申して……」

「あ~も~うっさいっもう好きにすればいいでしょ!」

 ドゥルグがあまりにしつこいので、ルミナが思わず後ろを振り返り怒鳴り声を上げる。

「なんだとっ!?」

「どのみちこのままあんたがそれに食われちゃったらど~せ父上だかなんだかしんないけど、そんなもんに私たちのこと上申なんて出来ないだろうし」

「ふっふっふっ君はわかっていないな。僕は不死身だ」

 ルミナの指摘にドゥルグが余裕の態度で応じる。

「だから?」

 ルミナはまったく意に介した風もなく答える。

「だから、仮に今ここで僕がこの食人植物に食べられたとしてもだ。僕は生き残る。生き残った後どうなるかわかっているのか? 真っ先に父上に上申しに行くぞ」

「勝手にすれば」

「……嘘じゃないぞ?」

「誰も嘘なんていってないじゃない」

「なら首を洗って待っていたまえっ」

 ドゥルグが後で見ていろとばかりの視線を向けて、吐き捨てるように言う。

「そうね。けど……」

「けど……なんだね?」

「あんたって、消化されても不死身なの?」

「へ? 消化?」

 まったく予想だにしていなかったルミナの返答に、ドゥルグが唖然とする。

「いくら不死者だからってただ死なないだけであって、消化はされるわよ?」

「そうなのかい?」

 ボーゼンとした感じに答える。

「ええ、授業で習わなかったの?」

「そんなことは僕の通っている魔王科では習っていないぞ? なぁミスターカナタ?」

「ああ、まあそうだな」

「そう、ならこれは勇者科だけで教えてるんでしょうね」

 まぁ勇者科は魔王科と違って、人の身で様々な魔獣や魔物の類と戦わないといけないんだから、それもさもありなんって感じよね。などとルミナが考えを巡らしていると、先ほどの言動が気になったのかドゥルグが問いただしてくる。

「で、どうなってしまうんだね?」

「なにが?」

「だから、食べられて、消化されてしまったら、だよ」

「そんなの女の子である私の口からは言えないわ」

「ああ、それわね」

「イルっ!」

「?」

 静止されたイルはさも不思議そうにルミナの顔を覗き込む。

「女の子として、それ以上は口にしちゃ駄目よ。カナタ」

 ルミナに促されて仕方なく答えようとしたイルのかわりにカナタが口を開く。

「ああ、つまりだなドゥルグ。基本お前はそいつの腐敗物として、食われた別の部分から吐き出される」

「……それはそのつまりその……毎朝のように僕がしている例の物として、ということかね? ミスターカナタ」

 コクリと神妙な顔をして頷くカナタ。それを見てドゥルグは愕然とした顔つきになる。

「このっこの僕があんなものになるなんてっさすがに許容できないぞっ!」

 まぁそりゃあねぇあんなものになるなんてね。普通は許容できないわよね。そう思いながらルミナがさらに追い討ちをかけることのようなことを言ってくる。

「ああっそれから一つ言っておくけど」

「まだ、何かあるのかね?」

 ドゥルグはルミナの発言に何か嫌な予感が働いたのか、我知らず冷や汗を浮かべながら聞き返した。

 カナタがルミナにわき腹をつつかれる。

 また俺かよと思いながらも、カナタがルミナのかわりに説明を始める。

「今のはあくまで、動物においてだ」

「?」

「つまり動物なら、そうなる可能性が一番高いし、そのあと自由になると思うんだけどさ」

「いったいなにが言いたいのだね。君は?」

「いや、なに、これからお前の食われることになるのってさ。言いにくいんだけど。動物じゃないだろ?」

「僕だって馬鹿じゃないんだ。そんなこと君に言われずともわかっている」

 お前超がつくほどの馬鹿じゃん。と、その場の誰もが思ったのだが、あえてここでそれを言って、ドゥルグにいらぬ怒りを持たせて、話をこじらせても仕方ないと思い。とりあえずそのことは言わずにおくことにして説明を続けた。

「だから、例え例の物になっても出てこれるのかな……と」

「それはどういうことだね? もう少しわかりやく言いたまえ」

「つまりね。植物から例の物はでないってこと」

「……。では僕はいったいどうなってしまうんだね?」

 ドゥルグは自分が不死身であるという余裕が、徐々になくなっていくのを感じた。

「多分……なんだけどさ。植物に吸収されて、そのまま植物の一部になっちまうんじゃないかと」

「な!?」

 まったく予期していなかった答えに、さすがのドゥルグも絶句する。

「しかも長い時間かけて吸収されるわけだから、その……言いにくいけどさ。時がたつに連れてそのうちお前の意識もなくなって……」

「あんたは消えないけど、あんた自身の意思というか、存在そのものが植物と一体化しちゃって、最後には自我がなくなって、ただ水を飲んだり光合成するだけの存在になっちゃうんじゃないかと、言ってるわけよ。私もカナタも」

「……なっなんなんだねっそれは――っ!」

「まぁ心配すんなって、そうなんのは多分」

「多分?」

「個体差にもよるけど、お前の意思なら数百年はかかると思うから、まぁその間動けないんだけど」

「……それって、駄目じゃないかね」

 などといったやり取りをしている間にも、いつのまにかドゥルグは食人植物の蔦からギザギザした両開きの貝のような食人植物の口と思しく部分へと移動していた。

 もちろん本人の意思というよりかは、食人植物の栄養吸収の意思によるものだろう。

 その様子を客観的に見ていたルミナたちは気付いていたようだったが、ドゥルグは植物からにじみ出てきた液体が、自分に降りかかっていることには未だ気付いていないようだった。

「ってわけだから、まぁがんばれ」

「さっかなり時間をロスしたわ。みんな急ぎましょ」

 ルミナの呼びかけに応じて、きびすを返す三人に向かってドゥルグが声を張り上げる。

「ちょっまっ待ちたまえ君たち! ここまで言っておいて僕を見捨てていくのかね!? そこまで君たちは薄情なのかね!? ルミナ女史! ミスターカナタ! ミスイル!」

 これからの自分の辿るかもしれない運命を知ったドゥルグが、よほど植物になるのがいやらしかったのか、先ほどと打って変わって本気で狼狽しながら泣きついてくる。

「ちょっおいっまてっ待ってくれ! 君たち! 頼む。頼むから僕をおいていかないでくれ~~っ!」
 ドゥルグはもはや体裁などどうでもいいのか、涙やその他の汁を顔中に塗りたくり周囲に撒き散らしながら、ダ――ッと滂沱してルミナたちに泣きすがってくる。

「自称試食が何か言ってるぞールミナー?」

 前を行くルミナに声をかけるカナタ。

「私試食なんて知らないわよ」

「僕試食なら食べてもいいかも♪」

「子息だ子息! まさかわざとやってるんじゃないだろうね!? 君たち!?」

「ま、どっちでもいいわ。とりあえずそろそろ行きましょ。カナタ、イル」

「ああ」

「うん」

 カナタとイルは、ルミナの呼びかけにあっさり答えるとその場を去り始める。

 だが三人の中でカナタだけは違っていた。彼は食人植物に未だ捕らわれたドゥルグを気にかけたのか、彼のほうを振り返る。

 それを目にしたドゥルグは、両目に喜びの涙をいっぱいにためて、期待のこもった眼差しを向けながら叫んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...