俺はいつも拾われている

つちやながる

文字の大きさ
1 / 74
これが俺の生きる道

1 これが俺の生きるみち

しおりを挟む
 何日食べてないんだろう。
 泥水は飲んだっけ。もう動きたくない。
「何だこのガキ。臭ぇ」
「邪魔だ。あっち行ってろ!」
「ぐっ」
 道端に転がってたら蹴られた。
「ははっ、逆に靴がよごれらぁ」
 ゴッて音がした。石壁かな。どこかに当たったな。感覚も鈍いか。ズキズキはしてる。
 は…ぁ…いってぇ。
 気力を振り絞る。穴が開いた壁に這って入る。腕を使い少しずつ這う。入った所は空き家の庭か。人の気配は無いな。ホッとした。立つ体力もない。このままじゃ確実に餓死だなあ。
 教会で貰った服もボロだ。野宿してたら汚れて破れた。自分でも汚いと思う。不景気と寄付不足で配給が止まった。もう何も得られない。痛いし怠いし瞼が重たい。動きたくない。動けないや。これ死ぬかも。
 この世界良く知らないのに勿体ない。まだ農民しかしてない。前世は幸せだった。今世はこれで終わりか。次転生する時は王子とか成金とかいいな。裕福な生まれがいいな。ああ、日本にも帰りたい。久々に人じゃ無くてもいい。野の花でいい。
 眠気なのか末期なのか朦朧としてきた。
 もう、俺、眠ろう。
 覚えてるのはそこまでだった。



 所有する建屋が古くなり、修繕か売却かと商談に足を運ぶ。早いものだ。ここも百年超えたか。
「あそこにあるのは死体ですか」
 建屋外周を査定をしていた商人は言った。あそこですよと指し示した。
荒れた花壇にある小さなそれを見た。近くに寄る。十歳以上の子供か。横向きに身体を丸め地面に転がっていた。商人は孤児でしょうか。犯罪性でもあったら嫌ですねと、子供を確認する。
「人の敷地で迷惑だな」
「あ。息があるようです」
「これで生きてるのか」
 髪はもつれて固まり、服も土か何かの染みや破れが目立つ。肌は全体的に黒ずみ鬱血や擦り傷もあるようだ。汚れと臭いも凄いが、これは細い。親でも亡くして飢えたのか。
「どうします?外に捨てるか、孤児院のある教会に運ばせますが」
 路上か孤児院か。思わず着ていた毛皮のローブを使い包み抱き上げた。軽い。軽すぎるな。脱力仕切った子供をみる。
「連れて帰る。ここは売却でいい。頼んだ」
「あぁ。はい。承りましょう」
 高額な毛皮のローブと子供を見比べた商人は何とも微妙な顔をした。


「少しずつ栄養を。摂れないならそれまでかな」
「そうか。世話をかけたな」
「まさか貴方《・・》が看るんですか…」
「子供一人くらい、暇潰しにいいだろ」
「またそんな気紛れを…」
 長い付き合いの医術師から見ても気紛れだと思うか。否定はしない。何故か気になり連れ帰った。クッと笑っては見たが、これは手がかかるだろう。
 歳はやはり十代前半か。髪はボサボサで長い。汚れを拭きあげると薄いブロンドになった。頬は痩けているが顔立ちは悪くない少年だな。昏々と眠り続けている。
 この子は生きたいだろうか。もう生きたくないのかも知れない。助けたら後が辛いだろうか。
 俺はどうする気だ。いや、自分の気紛れは毎度の事だ。ベッドに横たわる痩せた子供を見て、今後の事に思いを馳せた。

 客間を子供専用にした。大小の柔らかいクッションを揃えてみた。適度に体位を変えてやる。定刻を決め、舌と喉を刺激して反射を促す。砂糖水を口に浸して摂らせてみた。無意識でも少しずつ嚥下してホッとした。昏睡というより深い眠りの様だ。
 下の世話は暫く食べてないからか出るものも無かった。医術師が脱水で腎不全起こすとか、専門的な事をクドクド語ったが理解不能だった。とにかく水分を増やせと言う。果実水と塩水を追加した。
「飲めたか。偉いな」
 身体を抱え起こし刺激を与えた。布に浸した水分を繰り返し口にやる。時々ちゅうと吸う。それを根気よく続けた。

 三日目。少年はまだ眠り続けるが、ごく稀に「ん」などと発したり、ピクリと動く様になった。
「頑張る子だね。良くなってる」
  診察を済ませた医術師は俺を手伝う。
「珍しいな、ルース」
「何が。あー酷く毛先がもつれてる」
「これでも大分綺麗だろ」
「もうこれ解けないな」
「患者を物としてしか観ない癖に。世話するなんて初めて見たぞ」
「フィルの気紛れと同じようなもんだよ。ここに湯をくれ」
 日々清潔にしようと今日は洗髪だ。ルースがゴシゴシ頭皮を洗う。加減が悪かったらしい。「う…」と、少年は眉間に皺を寄せた。薄いブロンドがサラサラになった。
「はは。伸び放題だな」
「あ、揃えようか」
 ルースは医療鋏で解けない毛先を勝手に切り整え出す。
「おいおい…。それ終わったら着替えな」
 どっちが暇潰ししてるんだか。
 今日も男が二人、甲斐甲斐しく世話をするのだった。


 フワフワする。暖かいなぁ。
 死んでまた転生したかな。あ。甘い。な?塩辛い。何か口に入ってる。ごくり。飲んでみた。やっぱ辛い。これ御飯?
俺人になったかな。身体はどうだろう。声は出るかな。
「…か、ら…ぃ」
 喋れた。俺は人だ。しかも赤子じゃ無い。
「ははっ辛いか。塩だ」
 だ、れ?
 頭撫でてるのかな。大きい大人の手?親?
「とう、さ…?」 
 全身が重怠いのがわかった。動けると思うけど動きたくない。目を開けろ俺。ああ眩しい。少しずつ見えてくる人の形を見続けた。
「誰が父さんだ。ほら、もう少し飲め」
 次は甘い。何だろうコレ。美味しい。口に伝う水分を吸って飲んだ。
「だ、れ…?」
 肩口でゆるく束ね、胸まである明るい茶髪が見えた。視線を上げると目が合う。見た目は三十位の整った顔の男だった。白いシャツは高貴な身分だったかな。
 なんか満腹。またウトウトしてきた。ああ眠い。瞼が落ちてきた。

「寝たのか?」
 少年が覚醒したのは四日目の事だった。また眠ったな。身体が動かせ無いんだろう。肩が浮く。寝返りがしたいのかと手伝って向きを変え、クッションを挟んでやる。ルースが誂え揃えた物を着せると見違えて小綺麗になった。健康であれば、さぞや秀麗な子なんだろう。
 フィルは少年を見つめた。開いた目は澄んだベビーブルーだった。声も耳に心地良く感じた。
「ふ…何だ。この楽しい気分は」
 こんな気分は何年振りだろう。また柔らかい声を聞きたい。俺の名を呼んで貰いたい。どんな表情を見せるのか。どんな…。
「はは、新しい玩具を貰った子供の気分だ」
 フィルは首筋に残る飲みこぼした果実水を布で拭った。


 朝鳥が鳴いてる。朝だ。目が開いた。よく寝た。
「この、部屋…」
 俺の部屋?と、起きようとしてギョッとした。見えた腕は細い。力を込めなんとか起きてみる。全身が骨張っていた。脱力感が凄いな。腕を突っ張り何とか起坐位を保つ。腕が震えた。
 この身体知ってる。髪も伸びっぱなしで汚れてたのに、サラサラと流れ顔を撫でた。身体もいい匂いがする。寝衣も高額な絹を着てるし。そしてここは広い部屋のベッドの上。もう体重を支えるのは腕が限界だった。そのまま後ろに倒れる。
 ガチャン!
 倒れた拍子に横にあったスツールが揺れたのか、何かが落ちた。
 震える手で痩せこけた頬に手を置いた。餓死して転生したと思ったのに生きてるな。
「死んで、ない…」

 音を聞き付け部屋に来たフィルは、茫然とした少年を見た。床にはスツールに置いていたテラコッタ製(焼いた粘土)の水差しが割れていた。状況に戸惑ってるのか?驚かさないよう視界に入ってから声を掛けた。
「起きたか。ここは俺の家だ。死にかけてたから連れて帰ったが。気分はどうだ」

 俺はベッド横に座った人に視線を向けた。わかる。甘い水くれた人だっけ。
 えーと。この世界って死にかけは治療院や教会か、路上放置だったはず。連れて帰るなんて絶対普通の人じゃない。
「俺、拾って、どうするの」
「さあ…正直なんとなく拾ったが。どうしたいかは判らん。お前は死にたかったか?それとも生きたいか?」
「え…」
 返答に困っていると男は続けた。
「お前は生きてる。それが悪いか良い事なのかは自分で決めたらいい。何かの縁だ。手助けはする。しっかり治せ。名はあるか?俺はアンフィルだ。フィルでいい」
 俺を見て笑みを浮かべた。
 う、胡散臭い。物好きフィリア系か偽善者か。ただの善人か。落ち着いた態度の好青年だ。判断できるわけもない。見つめていたら再度聞かれた。
「名は言えるか」
 名前…ね。別に死にたいわけじゃない。生きたいに決まってる。助けられたし生き直せるかな。変な嗜好持ちとか、治療費請求されたら逃げるか。そうしよう。そうなると別に本名を名乗る必要も無いわけで。
「名は、拾った、あんたが付ければいい」
「は、ははっ、面白い事を。それが手助けになるなら、そうしよう」
 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...