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これが俺の生きる道
2 過保護は変態への道
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「身体を起こす時間を作ろう。体力が無いと回復も遅い。座って食事してみようか」
診察が終わった。回復順調だって。俺は四日間眠ってた。
医師のことは医術師っていうらしい。治癒師の技術も持つ高位職なんだって。何がどう違うのか知らない。だって今回知る機会の無い育ちだ。この世界の知識は足りて無い。
俺を起坐位にすべく、黙々と頭元のクッションを並べ替えている男。くせっ毛で短め黒髪を後ろに撫でつけてる。神経質そうな細い目。堅物知識人といった雰囲気のルース。
「ここに凭れて。安定感あるか?」
俺を起こして座らせた。手際よく世話をする。筋も落ちて脱力感のある今、食事も介助が必要だ。
ルースの手にはパンのミルク粥。パンは食べたい。このニオイは俺の嫌いな山羊乳だ。俺の舌は日本の低脂肪牛乳育ち。パンが山羊乳煮込み…。無理だ。
「…ミルク、嫌いです」
「香りが苦手かな。チーズ入りはどう?」
山羊乳粥に入れたら…無理だ。
「…欲しく無い、です」
「これは?甘いから食べてみて」
見た事の無い緑の四角い物。プルプルしてる。ゼリーかな。フォークを口元に向けられた。無臭だ。思い切って口を開け入れて貰った。瞬間、シュワ~と溶けメロンの様な水分が広がった。何コレ。食べ易いし美味しい。
「ん」
驚いて嚥下したのを満足そうに確認して、次の一口を、とフォークを差し出される。口を開ける。これ本当に美味いな。
「食べれてるか」
フィルが見に来た。今日も白いシャツで爽やかだ。俺はチラッと見た。
胡散臭いフィルことアンフィルは資産家だった。所謂貴族とか由緒ある家柄の後継者。悠々自適な生活をしている。死にかけの俺を拾ったのは暇潰し。金持ちの気紛れだった。そう聞くと有り難みも何も無い。変な嗜好あるのかは未だ聞けてない。
「果物が気に入ったかな」
「…もう、いいです」
三粒で満腹になった。動いてないし腹も空かない。伝えると納得して、ルースは今日はここまで、と帰っていった。
座っている事に疲れ、ズルズル身体をずらす。気付いたフィルが寝かせてくれる。
「俺の名は覚えたか」
「…フィル」
名前を呼ぶと変な顔をした。この顔知ってる。犬だ。飼い主に呼ばれてハッとして固まるやつ。動揺とか喜びが見えた。フィルは自分でわかってるのか、口元を押さえニヤけているのを隠した。呼ばれて嬉しいのか。やっぱり危ない人なのか。
「歳は十二くらいか?自分の歳わかるか」
「…十七」
「嘘は良く無いな」
「…十七、です」
「本当か?」
目を丸くした。心底信じられないらしい。この国で成人扱いは十六歳な。俺大人なんだけど小さい。仕方ないから自分の事をゆっくり話した。
生まれは貧しい地方農家。領主の税が厳しく満足に食べれず、栄養も成長も不足。飢饉で飢餓者続出。働けそうな男達と約二ヶ月前に街にきた。小さい自分は子供扱い。職が無かった。教会の配給でやり過ごした。不景気で配給が止まった。仕事にあぶれて帰郷出来ない者は日雇いか浮浪者だ。自分は野宿と施しで過ごした。汚さが増すと施しも無く飢えが始まった。路上で倒れる毎日になった。そう何もなかった十七年だと話した。
「そうか…二ヶ月で、そうか。辛かったな」
フィルは俺の頭を撫でた。
俺、辛かったのか。精神疲労はあったな。どうせ死んでもまた転生するしな。
初めは日本人だった。輪廻転生ってやつだ。
楽で幸せな生ばかりじゃ無い。今世はこれが運命と諦めてた。自分で選べない仕方のない事だ。変な異世界とか繰り返し生きてる。不思議な事に過去の記憶が残ってる。経験で色々耐性がある。そろそろ感情や感性が薄くなってるのかも知れない。
首を傾げて考えていた。
フィルは哀しげな顔をして、俺を撫でた。
「…だから、十七」
「わかったわかった」
元気になってからでいい。先の事はそれから考えたらいい。フィルはそう言って衣食住を約束した。
分かって無い。少しずつ動けるのに。この男は食事入浴、排泄に至るまで世話を焼く。
「ふらつくし肉が無い。危ないだろ」
「…子供じゃない。降ろせ」
排泄に行こうと廊下に出たら執事というバルモンク爺に遭遇した。壁沿いに伝い歩きをしてたのを見てフィルを呼んだ。有無を言わせず抱き上げられ運ばれている。
「…降ろせ。漏らすぞ」
「レオは頑固だな。駄目だ」
「…あんたも頑固だな」
子供扱いだ。心配性か。親か。確かに俺は小さい。身長差が辛い。フィルは百八十以上か。並ぶと三十センチ以上は差がある。子供扱いは身長が原因なのか。そうか。ここの御馳走で栄養付くからな。いまに見てろよ。
名前を付けろと言ったら本当に付けた。俺を「レオ」って呼ぶ。確かライオンの事か。子供を崖から落として成長を促すって。あれは漫画の話だっけか。それでいい。放置しといて欲しい。歩かせろ。睨んでもニコッと笑いやがる。
「ほら着いた。待ってるぞ」
「…どっか行けよ」
少年を「レオ」と名付けた。由来はライオンだ。強く生きると言う意味を込めた。
背は百四十も無い。栄養失調で痩せ細って折れそうだ。成人してると言うが子供にしか見えない。
話せば芯のある子で頑固だ。しっかりしていて、十七という年相応とも思える。
然しだ。見た目が危ない。顔も幼く整い、肩までのブロンドの髪が、幼さを増長している。とかく仕草が可愛いく見える。口を開けば淡々としていて我が強い。それもまた我儘のようでいい。
良く食べる様になったが体調も心配だ。構いたくて仕方が無いのは何故だろう。いい暇潰しになってるとフィルは思うのだった。
「あ…おい。返せ」
「駄目だ。口を開けなさい」
食べてるのにスプーンを奪われた。次いでスープ皿まで。行儀もクソもねぇな。自分で食べたら筋力つくってルースも言ってただろ。何だってんだ。
「…じゃ、それいらない」
俺はカラトリーからフォークを選び、サラダを食べ始めた。食堂に来て椅子にだって座れてる。カップも持てる。調子がいい。介助は不要だ。隣に座るフィルを睨んだ。それでもフィルは笑って言った。
「あーん、って。もうしてくれないのか」
「…するかよ。自分の食事すれば」
いつも俺の食事の側に居るけどフィルは食べない。料理が配膳されない。不思議に思って聞いた。
「いつも先に済ませてるよ。じゃ、この一匙だけ」
あ。俺の介助してたし、食べるの時間掛かってたからズラして食べてたのかな。ちょっと悪かったなと思った。
「…一匙だけだ」
横を向き、小さめに開口した。それを聞いてフィルは嬉しそうにスープを掬い直すのだった。
ひと月経った。歩くのは問題ない、屋内なら自由に動いて大丈夫とルースの許可も出た。フィルも書類さえ触らなければ、屋敷の何処に入って見てもいいって。俺信用されてるのな。盗みとか心配しないんだな。
この屋敷は金持ちらしい三階建て。まだ二階の自室と一階を往復できる程度の体力だ。
過去に見た貴族以上に調度品の質が高い。椅子も壁も布張りが多く、柱や卓足は彫刻が施されている。豪華絢爛だ。村にいたら見れなかった贅沢品ばかり。散策しがいがあるね。何回生きても貧富の差って凄いと思った。
今日は階段で負荷をかける。体力作りだ。手摺を持ち一段、また一段と昇る。大腿や腰周りの筋力が無いと安定して足も上がらないんだ。下手したら段差にひかかり転落か。平地を歩くのとは違う。意外と疲れる。慎重にしないと。
「ふ、ぅ…」
視線を感じた。後ろを見る。階下にチョビ髭のバルモンク爺が居た。軽く会釈をして去った。俺見てたな。屋敷中の仕事をしているから良く会うし。まぁいっか。
それにしても服な。ルースがまた仕立屋で誂えた。高級な生地だ。あれだよ。縦ロールのカツラ被った肖像画。タイトなボトムに首や袖口にフリル付いたシャツ。俺はいつも王子服。買って貰ってるし、色々借りがあるから文句言えない。
「はぁ…」
色々考えて集中を欠いた。あげた片足が段差に引っかかる。後ろに体重が乗った。やばい。これ落ちる。手摺をグッと握るが耐えれず滑った。
「…わ、わ!」
どんっ
「ほら危ない」
俺の背中が受け止められた。フィルだった。
「少し肉が付いたな、レオ」
助かった。俺の姿勢を直しながら頬をうにっと摘んだ。何すんだ。フィルの手を払う。
「…触んな」
「今更。意識無い時あれこれしたしなぁ」
「…変態」
ニッと俺を見る。この人いつも楽しそうだな。あ。お礼言い損ねた。
屋内で法則ができた。一人で動くと執事バルモンク爺と遭遇。俺の様子を主のフィルに報告。そして居場所を把握するフィル。しれっと側に来ては俺の金魚のフン。執事まで過保護だった。俺は十七歳だ。成人してると言ったはずだ。何なんだ。
ルースの診察日も最近困っている。
「レオは顔色も良。食べて調子も良。問題無し。よく頑張った」
後は筋力と体型を戻す事。ここまではいいんだ。医師として尊敬する。
「さて。今日持って来たのは隣国で流行してるクマの人形だよ。これ大きいけど愛嬌あるだろ?」
「顔の作りはいいと思うけど別に」
「そうだろ。可愛い?可愛い物は嫌い?」
「どっちかと言えば好きだけど。人形は好きじゃない」
「そうか。ベッドにおいとくよ。そしてこの服は最新作だよ。これ袖口をリボンで締めるんだ。斬新だろ。着てみる?」
「リボンは嫌です」
「うわー、これ似合うなぁ」
「だから、嫌って」
今、俺見たよな。何言ってんのって顔したよな。
「…こっちの色違いは?これもいいね」
「……そ、そうかな」
こんな感じだ。診察の度部屋にぬいぐるみが増える。そして買ってくる着物は決まってフリフリヒラヒラが付いてる。俺は乙女か。
断ったらいい?どれも高級品だとわかるから要らないって断れない。俺貧乏育ちだし。
だって返却不可、クーリングオフの無いオーダーメイドだ。買ってきて捨てる事になるんだ。勿体ないだろ。
好き嫌いは伝えてる。ルースって人の話聞いてない。絶対聞こえてるけどスルーしてるだろ。
俺は二人のことを、過保護を越えた嗜好的変態だと思い始めた。
今後のことは回復してからでいいって言ってたけど。所詮金持ちの気紛れだ。いつまでも置いてくれるわけでもない。早く元気になってこの家から出たらいい。
拾われた時の転生パターンだ。家を出る。これが成功するか否か。これで俺の運命が決まるって知ってる。見てろよ変態ども。
診察が終わった。回復順調だって。俺は四日間眠ってた。
医師のことは医術師っていうらしい。治癒師の技術も持つ高位職なんだって。何がどう違うのか知らない。だって今回知る機会の無い育ちだ。この世界の知識は足りて無い。
俺を起坐位にすべく、黙々と頭元のクッションを並べ替えている男。くせっ毛で短め黒髪を後ろに撫でつけてる。神経質そうな細い目。堅物知識人といった雰囲気のルース。
「ここに凭れて。安定感あるか?」
俺を起こして座らせた。手際よく世話をする。筋も落ちて脱力感のある今、食事も介助が必要だ。
ルースの手にはパンのミルク粥。パンは食べたい。このニオイは俺の嫌いな山羊乳だ。俺の舌は日本の低脂肪牛乳育ち。パンが山羊乳煮込み…。無理だ。
「…ミルク、嫌いです」
「香りが苦手かな。チーズ入りはどう?」
山羊乳粥に入れたら…無理だ。
「…欲しく無い、です」
「これは?甘いから食べてみて」
見た事の無い緑の四角い物。プルプルしてる。ゼリーかな。フォークを口元に向けられた。無臭だ。思い切って口を開け入れて貰った。瞬間、シュワ~と溶けメロンの様な水分が広がった。何コレ。食べ易いし美味しい。
「ん」
驚いて嚥下したのを満足そうに確認して、次の一口を、とフォークを差し出される。口を開ける。これ本当に美味いな。
「食べれてるか」
フィルが見に来た。今日も白いシャツで爽やかだ。俺はチラッと見た。
胡散臭いフィルことアンフィルは資産家だった。所謂貴族とか由緒ある家柄の後継者。悠々自適な生活をしている。死にかけの俺を拾ったのは暇潰し。金持ちの気紛れだった。そう聞くと有り難みも何も無い。変な嗜好あるのかは未だ聞けてない。
「果物が気に入ったかな」
「…もう、いいです」
三粒で満腹になった。動いてないし腹も空かない。伝えると納得して、ルースは今日はここまで、と帰っていった。
座っている事に疲れ、ズルズル身体をずらす。気付いたフィルが寝かせてくれる。
「俺の名は覚えたか」
「…フィル」
名前を呼ぶと変な顔をした。この顔知ってる。犬だ。飼い主に呼ばれてハッとして固まるやつ。動揺とか喜びが見えた。フィルは自分でわかってるのか、口元を押さえニヤけているのを隠した。呼ばれて嬉しいのか。やっぱり危ない人なのか。
「歳は十二くらいか?自分の歳わかるか」
「…十七」
「嘘は良く無いな」
「…十七、です」
「本当か?」
目を丸くした。心底信じられないらしい。この国で成人扱いは十六歳な。俺大人なんだけど小さい。仕方ないから自分の事をゆっくり話した。
生まれは貧しい地方農家。領主の税が厳しく満足に食べれず、栄養も成長も不足。飢饉で飢餓者続出。働けそうな男達と約二ヶ月前に街にきた。小さい自分は子供扱い。職が無かった。教会の配給でやり過ごした。不景気で配給が止まった。仕事にあぶれて帰郷出来ない者は日雇いか浮浪者だ。自分は野宿と施しで過ごした。汚さが増すと施しも無く飢えが始まった。路上で倒れる毎日になった。そう何もなかった十七年だと話した。
「そうか…二ヶ月で、そうか。辛かったな」
フィルは俺の頭を撫でた。
俺、辛かったのか。精神疲労はあったな。どうせ死んでもまた転生するしな。
初めは日本人だった。輪廻転生ってやつだ。
楽で幸せな生ばかりじゃ無い。今世はこれが運命と諦めてた。自分で選べない仕方のない事だ。変な異世界とか繰り返し生きてる。不思議な事に過去の記憶が残ってる。経験で色々耐性がある。そろそろ感情や感性が薄くなってるのかも知れない。
首を傾げて考えていた。
フィルは哀しげな顔をして、俺を撫でた。
「…だから、十七」
「わかったわかった」
元気になってからでいい。先の事はそれから考えたらいい。フィルはそう言って衣食住を約束した。
分かって無い。少しずつ動けるのに。この男は食事入浴、排泄に至るまで世話を焼く。
「ふらつくし肉が無い。危ないだろ」
「…子供じゃない。降ろせ」
排泄に行こうと廊下に出たら執事というバルモンク爺に遭遇した。壁沿いに伝い歩きをしてたのを見てフィルを呼んだ。有無を言わせず抱き上げられ運ばれている。
「…降ろせ。漏らすぞ」
「レオは頑固だな。駄目だ」
「…あんたも頑固だな」
子供扱いだ。心配性か。親か。確かに俺は小さい。身長差が辛い。フィルは百八十以上か。並ぶと三十センチ以上は差がある。子供扱いは身長が原因なのか。そうか。ここの御馳走で栄養付くからな。いまに見てろよ。
名前を付けろと言ったら本当に付けた。俺を「レオ」って呼ぶ。確かライオンの事か。子供を崖から落として成長を促すって。あれは漫画の話だっけか。それでいい。放置しといて欲しい。歩かせろ。睨んでもニコッと笑いやがる。
「ほら着いた。待ってるぞ」
「…どっか行けよ」
少年を「レオ」と名付けた。由来はライオンだ。強く生きると言う意味を込めた。
背は百四十も無い。栄養失調で痩せ細って折れそうだ。成人してると言うが子供にしか見えない。
話せば芯のある子で頑固だ。しっかりしていて、十七という年相応とも思える。
然しだ。見た目が危ない。顔も幼く整い、肩までのブロンドの髪が、幼さを増長している。とかく仕草が可愛いく見える。口を開けば淡々としていて我が強い。それもまた我儘のようでいい。
良く食べる様になったが体調も心配だ。構いたくて仕方が無いのは何故だろう。いい暇潰しになってるとフィルは思うのだった。
「あ…おい。返せ」
「駄目だ。口を開けなさい」
食べてるのにスプーンを奪われた。次いでスープ皿まで。行儀もクソもねぇな。自分で食べたら筋力つくってルースも言ってただろ。何だってんだ。
「…じゃ、それいらない」
俺はカラトリーからフォークを選び、サラダを食べ始めた。食堂に来て椅子にだって座れてる。カップも持てる。調子がいい。介助は不要だ。隣に座るフィルを睨んだ。それでもフィルは笑って言った。
「あーん、って。もうしてくれないのか」
「…するかよ。自分の食事すれば」
いつも俺の食事の側に居るけどフィルは食べない。料理が配膳されない。不思議に思って聞いた。
「いつも先に済ませてるよ。じゃ、この一匙だけ」
あ。俺の介助してたし、食べるの時間掛かってたからズラして食べてたのかな。ちょっと悪かったなと思った。
「…一匙だけだ」
横を向き、小さめに開口した。それを聞いてフィルは嬉しそうにスープを掬い直すのだった。
ひと月経った。歩くのは問題ない、屋内なら自由に動いて大丈夫とルースの許可も出た。フィルも書類さえ触らなければ、屋敷の何処に入って見てもいいって。俺信用されてるのな。盗みとか心配しないんだな。
この屋敷は金持ちらしい三階建て。まだ二階の自室と一階を往復できる程度の体力だ。
過去に見た貴族以上に調度品の質が高い。椅子も壁も布張りが多く、柱や卓足は彫刻が施されている。豪華絢爛だ。村にいたら見れなかった贅沢品ばかり。散策しがいがあるね。何回生きても貧富の差って凄いと思った。
今日は階段で負荷をかける。体力作りだ。手摺を持ち一段、また一段と昇る。大腿や腰周りの筋力が無いと安定して足も上がらないんだ。下手したら段差にひかかり転落か。平地を歩くのとは違う。意外と疲れる。慎重にしないと。
「ふ、ぅ…」
視線を感じた。後ろを見る。階下にチョビ髭のバルモンク爺が居た。軽く会釈をして去った。俺見てたな。屋敷中の仕事をしているから良く会うし。まぁいっか。
それにしても服な。ルースがまた仕立屋で誂えた。高級な生地だ。あれだよ。縦ロールのカツラ被った肖像画。タイトなボトムに首や袖口にフリル付いたシャツ。俺はいつも王子服。買って貰ってるし、色々借りがあるから文句言えない。
「はぁ…」
色々考えて集中を欠いた。あげた片足が段差に引っかかる。後ろに体重が乗った。やばい。これ落ちる。手摺をグッと握るが耐えれず滑った。
「…わ、わ!」
どんっ
「ほら危ない」
俺の背中が受け止められた。フィルだった。
「少し肉が付いたな、レオ」
助かった。俺の姿勢を直しながら頬をうにっと摘んだ。何すんだ。フィルの手を払う。
「…触んな」
「今更。意識無い時あれこれしたしなぁ」
「…変態」
ニッと俺を見る。この人いつも楽しそうだな。あ。お礼言い損ねた。
屋内で法則ができた。一人で動くと執事バルモンク爺と遭遇。俺の様子を主のフィルに報告。そして居場所を把握するフィル。しれっと側に来ては俺の金魚のフン。執事まで過保護だった。俺は十七歳だ。成人してると言ったはずだ。何なんだ。
ルースの診察日も最近困っている。
「レオは顔色も良。食べて調子も良。問題無し。よく頑張った」
後は筋力と体型を戻す事。ここまではいいんだ。医師として尊敬する。
「さて。今日持って来たのは隣国で流行してるクマの人形だよ。これ大きいけど愛嬌あるだろ?」
「顔の作りはいいと思うけど別に」
「そうだろ。可愛い?可愛い物は嫌い?」
「どっちかと言えば好きだけど。人形は好きじゃない」
「そうか。ベッドにおいとくよ。そしてこの服は最新作だよ。これ袖口をリボンで締めるんだ。斬新だろ。着てみる?」
「リボンは嫌です」
「うわー、これ似合うなぁ」
「だから、嫌って」
今、俺見たよな。何言ってんのって顔したよな。
「…こっちの色違いは?これもいいね」
「……そ、そうかな」
こんな感じだ。診察の度部屋にぬいぐるみが増える。そして買ってくる着物は決まってフリフリヒラヒラが付いてる。俺は乙女か。
断ったらいい?どれも高級品だとわかるから要らないって断れない。俺貧乏育ちだし。
だって返却不可、クーリングオフの無いオーダーメイドだ。買ってきて捨てる事になるんだ。勿体ないだろ。
好き嫌いは伝えてる。ルースって人の話聞いてない。絶対聞こえてるけどスルーしてるだろ。
俺は二人のことを、過保護を越えた嗜好的変態だと思い始めた。
今後のことは回復してからでいいって言ってたけど。所詮金持ちの気紛れだ。いつまでも置いてくれるわけでもない。早く元気になってこの家から出たらいい。
拾われた時の転生パターンだ。家を出る。これが成功するか否か。これで俺の運命が決まるって知ってる。見てろよ変態ども。
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