俺はいつも拾われている

つちやながる

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未来へと歩む道

思惑

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帝国のとある屋敷では旧友が集まり談笑していた。

昔、仲間が一人この世を去った日だった。

平和とはいえ確執や怨恨から始まり、強盗に暴行に事故。人であれば稀にある事だ。どうしてあの人がと考えて、納得しようと行き着く答えはひとつ。

運が悪かった。

不死ではない。先は誰にもわからない。
それを思い出す様に数年に一度は、その日にふらっと誰かがこの屋敷にやって来るのだ。
それは友であり元恋人であり、今は亡き人を懐かしむ為に、それを口実に誰かに逢えるかもと顔を出すのがこの屋敷だった。


「気に入ったからと君は元旦那を易々と譲ったわけだ」
「あら、お互いの幸せのためよ?」
「自分の幸せは?」
「好きにしてるわ。妻である事に飽いたし、寿命まで一緒にいて生き方を合わせるなんて疲れるでしょ。円満離婚よ?私は私の幸せを満喫してるわ。口出しされたく無いわね」
「いってくれるね」
「ふふっ」

エリアルは向かいに座るフラッグの後ろの壁に視線をそらす。

誰でも生理的にいけ好かないと感じたり苦手意識を持つ対象がいる。エリアルは、アンフィルと同じ少ない純血種のこの男がそうだった。

「努力を惜しまない子の幸せを望んで問題あるかしら」
「君はもう寿命だろう」
「それが何の関係があるの。よく知りもせず他人基準で評価されたく無いわね」
「はっ。相変わらず手強い」

懐古主義でも無いが慣例や遺制は誇り高き伝統だと拘る一族は多い。中には過激な者もいる。それを覆すレオを敵視するのは執事の件で如実になり、この男も同様だった。

新しい世代は時代と共に変化する環境と価値観で、事によっては因習を悪習と感じる場合がある。

快活なエリアルはそう思うひとりだった。

「もう、二人とも久し振りに会ったんだからそれ位にしてよぉ」

横にいるエリアルと同世代のライラは不満を訴える。

どこかで他族の血が混じり、もう魔人族の純血種は四世代と言われる数人のみだった。いつからか世代に数えも付かなくなった。

平均寿命は百五十。血が濃くても精々三百年生きれば寿命だ。
エリアルもライラも見目麗しく、若々しいが術で偽っているだけだった。
血が濃い。それがわかるのも自分が平均寿命を超えてから気づくのだ。

「そうね。私たちは残ってる時間がどなたさんと違うものね」
「それは俺の所為じゃない」

エリアルの嫌味もしれっと流す。

「……ランス、元気?」

ひとり静かに座る巨漢の男はぼそりと呟く。

「ええ。育ての親より教えてない見た事もない親に似るのね。へらへらして飄々として突き進む明るい馬鹿よ。不思議なものね。長生きしてるからあの人四世代だったのかしら」

エリアルはふっと儚げな微笑を浮かべる。

「そうよねぇ。長生きよね。小さい頃はアンフィル様の真似ばっかりだったのにねえ」
「……レッグ、に……似て」
「そうよ。レッグに」
「実の父に似る、か」

今は亡き友人を懐かしむ友達の中、フラッグだけは険しい目でエリアルを見つめていた。

子を宿した途端未亡人になり、孤児だったレッグとの結婚に反対した両親の助力も無く途方に暮れていたエリアルを妻にした大公。

友として見守っていた者の誰もが驚いた。
俺もその一人だった。

世代は違えど飄々と流れるように生きる軍人レッグは皆に好かれていた。そんな好感度の高い人物は苦労なく生きているように見えるものだ。明朗で何もかもうまくやれているように見える。妬み嫉み、逆恨みが生まれる。
血の気の多い軍人に喧嘩を吹っ掛けられ、生き過ぎた暴行の末の殺害とも言える事故だった。

「俺は帰るよ。またいつか。生きてるうちにお目に掛かれる事を祈ってるよ」
「言ってなさいよぉ。フラッグったら年々ひねくれてるわね!そんなこと言ってたら直ぐ気心知れた人誰もいなくなるわよぉ」
「ふふっ、もっと言ってやりなさいライラ」
「……フラッグ、また」
「ああ、ドクはそれ以上太るなよ」
「……多分、大丈夫」
「あなたもいつまでも一人でいるのはやめなさいよぉ」
「っせえな。じゃあな」



好きな女はいつまでも靡かず、気が合う友は先に死に、気に入らない者は残る。時は残酷で世の中は理不尽だ。
長生き過ぎるのはいい事じゃない。

「俺だってエリアルの幸せを願ってるさ」

フラッグは、噂を思い出す。

アンフィルが隣国の農民を執事に育てあげ、美貌と仕事ぶりに惚れ夢中になっていると。

あの男は昔から本気になる相手なんていなかった。本気なんかなるわけがない。
傲慢で孤独で他人を寄せ付けなかった過去を知っている。
軍人達の中で育ち、魔術に長け、子供にして千年前の戦場を血祭りにした昔ながらの血に飢えた魔人。
俺は普通に貴族として育ったが、あれ程に人は環境で作られると実感した事はない。
レッグと友だった事も未だに信じられない。
エリアルを横から掻っ攫っていった男。
アンフィル・グラウダ・エウリル。

元妻を放っておいて少年を執事に育てた?

笑わせる。

「どこまでもふざけた奴だ」


やり場のない怒りと不満を胸に、フラッグの姿は夜の街に消えて行った。

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