54 / 74
未来へと歩む道
思惑
しおりを挟む
帝国のとある屋敷では旧友が集まり談笑していた。
昔、仲間が一人この世を去った日だった。
平和とはいえ確執や怨恨から始まり、強盗に暴行に事故。人であれば稀にある事だ。どうしてあの人がと考えて、納得しようと行き着く答えはひとつ。
運が悪かった。
不死ではない。先は誰にもわからない。
それを思い出す様に数年に一度は、その日にふらっと誰かがこの屋敷にやって来るのだ。
それは友であり元恋人であり、今は亡き人を懐かしむ為に、それを口実に誰かに逢えるかもと顔を出すのがこの屋敷だった。
「気に入ったからと君は元旦那を易々と譲ったわけだ」
「あら、お互いの幸せのためよ?」
「自分の幸せは?」
「好きにしてるわ。妻である事に飽いたし、寿命まで一緒にいて生き方を合わせるなんて疲れるでしょ。円満離婚よ?私は私の幸せを満喫してるわ。口出しされたく無いわね」
「いってくれるね」
「ふふっ」
エリアルは向かいに座るフラッグの後ろの壁に視線をそらす。
誰でも生理的にいけ好かないと感じたり苦手意識を持つ対象がいる。エリアルは、アンフィルと同じ少ない純血種のこの男がそうだった。
「努力を惜しまない子の幸せを望んで問題あるかしら」
「君はもう寿命だろう」
「それが何の関係があるの。よく知りもせず他人基準で評価されたく無いわね」
「はっ。相変わらず手強い」
懐古主義でも無いが慣例や遺制は誇り高き伝統だと拘る一族は多い。中には過激な者もいる。それを覆すレオを敵視するのは執事の件で如実になり、この男も同様だった。
新しい世代は時代と共に変化する環境と価値観で、事によっては因習を悪習と感じる場合がある。
快活なエリアルはそう思うひとりだった。
「もう、二人とも久し振りに会ったんだからそれ位にしてよぉ」
横にいるエリアルと同世代のライラは不満を訴える。
どこかで他族の血が混じり、もう魔人族の純血種は四世代と言われる数人のみだった。いつからか世代に数えも付かなくなった。
平均寿命は百五十。血が濃くても精々三百年生きれば寿命だ。
エリアルもライラも見目麗しく、若々しいが術で偽っているだけだった。
血が濃い。それがわかるのも自分が平均寿命を超えてから気づくのだ。
「そうね。私たちは残ってる時間がどなたさんと違うものね」
「それは俺の所為じゃない」
エリアルの嫌味もしれっと流す。
「……ランス、元気?」
ひとり静かに座る巨漢の男はぼそりと呟く。
「ええ。育ての親より教えてない見た事もない親に似るのね。へらへらして飄々として突き進む明るい馬鹿よ。不思議なものね。長生きしてるからあの人四世代だったのかしら」
エリアルはふっと儚げな微笑を浮かべる。
「そうよねぇ。長生きよね。小さい頃はアンフィル様の真似ばっかりだったのにねえ」
「……レッグ、に……似て」
「そうよ。レッグに」
「実の父に似る、か」
今は亡き友人を懐かしむ友達の中、フラッグだけは険しい目でエリアルを見つめていた。
子を宿した途端未亡人になり、孤児だったレッグとの結婚に反対した両親の助力も無く途方に暮れていたエリアルを妻にした大公。
友として見守っていた者の誰もが驚いた。
俺もその一人だった。
世代は違えど飄々と流れるように生きる軍人レッグは皆に好かれていた。そんな好感度の高い人物は苦労なく生きているように見えるものだ。明朗で何もかもうまくやれているように見える。妬み嫉み、逆恨みが生まれる。
血の気の多い軍人に喧嘩を吹っ掛けられ、生き過ぎた暴行の末の殺害とも言える事故だった。
「俺は帰るよ。またいつか。生きてるうちにお目に掛かれる事を祈ってるよ」
「言ってなさいよぉ。フラッグったら年々ひねくれてるわね!そんなこと言ってたら直ぐ気心知れた人誰もいなくなるわよぉ」
「ふふっ、もっと言ってやりなさいライラ」
「……フラッグ、また」
「ああ、ドクはそれ以上太るなよ」
「……多分、大丈夫」
「あなたもいつまでも一人でいるのはやめなさいよぉ」
「っせえな。じゃあな」
好きな女はいつまでも靡かず、気が合う友は先に死に、気に入らない者は残る。時は残酷で世の中は理不尽だ。
長生き過ぎるのはいい事じゃない。
「俺だってエリアルの幸せを願ってるさ」
フラッグは、噂を思い出す。
アンフィルが隣国の農民を執事に育てあげ、美貌と仕事ぶりに惚れ夢中になっていると。
あの男は昔から本気になる相手なんていなかった。本気なんかなるわけがない。
傲慢で孤独で他人を寄せ付けなかった過去を知っている。
軍人達の中で育ち、魔術に長け、子供にして千年前の戦場を血祭りにした昔ながらの血に飢えた魔人。
俺は普通に貴族として育ったが、あれ程に人は環境で作られると実感した事はない。
レッグと友だった事も未だに信じられない。
エリアルを横から掻っ攫っていった男。
アンフィル・グラウダ・エウリル。
元妻を放っておいて少年を執事に育てた?
笑わせる。
「どこまでもふざけた奴だ」
やり場のない怒りと不満を胸に、フラッグの姿は夜の街に消えて行った。
昔、仲間が一人この世を去った日だった。
平和とはいえ確執や怨恨から始まり、強盗に暴行に事故。人であれば稀にある事だ。どうしてあの人がと考えて、納得しようと行き着く答えはひとつ。
運が悪かった。
不死ではない。先は誰にもわからない。
それを思い出す様に数年に一度は、その日にふらっと誰かがこの屋敷にやって来るのだ。
それは友であり元恋人であり、今は亡き人を懐かしむ為に、それを口実に誰かに逢えるかもと顔を出すのがこの屋敷だった。
「気に入ったからと君は元旦那を易々と譲ったわけだ」
「あら、お互いの幸せのためよ?」
「自分の幸せは?」
「好きにしてるわ。妻である事に飽いたし、寿命まで一緒にいて生き方を合わせるなんて疲れるでしょ。円満離婚よ?私は私の幸せを満喫してるわ。口出しされたく無いわね」
「いってくれるね」
「ふふっ」
エリアルは向かいに座るフラッグの後ろの壁に視線をそらす。
誰でも生理的にいけ好かないと感じたり苦手意識を持つ対象がいる。エリアルは、アンフィルと同じ少ない純血種のこの男がそうだった。
「努力を惜しまない子の幸せを望んで問題あるかしら」
「君はもう寿命だろう」
「それが何の関係があるの。よく知りもせず他人基準で評価されたく無いわね」
「はっ。相変わらず手強い」
懐古主義でも無いが慣例や遺制は誇り高き伝統だと拘る一族は多い。中には過激な者もいる。それを覆すレオを敵視するのは執事の件で如実になり、この男も同様だった。
新しい世代は時代と共に変化する環境と価値観で、事によっては因習を悪習と感じる場合がある。
快活なエリアルはそう思うひとりだった。
「もう、二人とも久し振りに会ったんだからそれ位にしてよぉ」
横にいるエリアルと同世代のライラは不満を訴える。
どこかで他族の血が混じり、もう魔人族の純血種は四世代と言われる数人のみだった。いつからか世代に数えも付かなくなった。
平均寿命は百五十。血が濃くても精々三百年生きれば寿命だ。
エリアルもライラも見目麗しく、若々しいが術で偽っているだけだった。
血が濃い。それがわかるのも自分が平均寿命を超えてから気づくのだ。
「そうね。私たちは残ってる時間がどなたさんと違うものね」
「それは俺の所為じゃない」
エリアルの嫌味もしれっと流す。
「……ランス、元気?」
ひとり静かに座る巨漢の男はぼそりと呟く。
「ええ。育ての親より教えてない見た事もない親に似るのね。へらへらして飄々として突き進む明るい馬鹿よ。不思議なものね。長生きしてるからあの人四世代だったのかしら」
エリアルはふっと儚げな微笑を浮かべる。
「そうよねぇ。長生きよね。小さい頃はアンフィル様の真似ばっかりだったのにねえ」
「……レッグ、に……似て」
「そうよ。レッグに」
「実の父に似る、か」
今は亡き友人を懐かしむ友達の中、フラッグだけは険しい目でエリアルを見つめていた。
子を宿した途端未亡人になり、孤児だったレッグとの結婚に反対した両親の助力も無く途方に暮れていたエリアルを妻にした大公。
友として見守っていた者の誰もが驚いた。
俺もその一人だった。
世代は違えど飄々と流れるように生きる軍人レッグは皆に好かれていた。そんな好感度の高い人物は苦労なく生きているように見えるものだ。明朗で何もかもうまくやれているように見える。妬み嫉み、逆恨みが生まれる。
血の気の多い軍人に喧嘩を吹っ掛けられ、生き過ぎた暴行の末の殺害とも言える事故だった。
「俺は帰るよ。またいつか。生きてるうちにお目に掛かれる事を祈ってるよ」
「言ってなさいよぉ。フラッグったら年々ひねくれてるわね!そんなこと言ってたら直ぐ気心知れた人誰もいなくなるわよぉ」
「ふふっ、もっと言ってやりなさいライラ」
「……フラッグ、また」
「ああ、ドクはそれ以上太るなよ」
「……多分、大丈夫」
「あなたもいつまでも一人でいるのはやめなさいよぉ」
「っせえな。じゃあな」
好きな女はいつまでも靡かず、気が合う友は先に死に、気に入らない者は残る。時は残酷で世の中は理不尽だ。
長生き過ぎるのはいい事じゃない。
「俺だってエリアルの幸せを願ってるさ」
フラッグは、噂を思い出す。
アンフィルが隣国の農民を執事に育てあげ、美貌と仕事ぶりに惚れ夢中になっていると。
あの男は昔から本気になる相手なんていなかった。本気なんかなるわけがない。
傲慢で孤独で他人を寄せ付けなかった過去を知っている。
軍人達の中で育ち、魔術に長け、子供にして千年前の戦場を血祭りにした昔ながらの血に飢えた魔人。
俺は普通に貴族として育ったが、あれ程に人は環境で作られると実感した事はない。
レッグと友だった事も未だに信じられない。
エリアルを横から掻っ攫っていった男。
アンフィル・グラウダ・エウリル。
元妻を放っておいて少年を執事に育てた?
笑わせる。
「どこまでもふざけた奴だ」
やり場のない怒りと不満を胸に、フラッグの姿は夜の街に消えて行った。
0
あなたにおすすめの小説
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる