俺はいつも拾われている

つちやながる

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約束と共に歩む道

番外編 執事の余暇の作り方

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「スケジュールは把握済みですな」
「基本だよね」
「ではそこから何が見えますかな」
「フィルの生活行動パターン、仕事、交遊、えーと、主のすべて?」

レオは半ば確信して答えたが、バルモンクはフゥと溜息をつく。

「これだから。レオも私も誤算でした。執事と言うものを見誤ってるんですよ」
「生き方の中心に考えるなって事だよね。フィルに言われた」

バルモンクは髭をさらっと撫で、また溜息をつく。

「執事としては別にそれは構わない事。価値観も各人の自由。言いたい事は仕事への取り組み方について。レオは真面目すぎですな」

真面目。俺って真面目なのかな。ベースが勤勉な日本人だから?ノルマは到達可能なところまで熟すのが当たり前じゃないかな。

「スケジュールと何の関係が?」
「今いるミナとサモンを雇用前として考えてみなさい。執事見習いの頃、例えばこの階の清掃はどうしてたか、今ならどうするか」
「清掃?」

レオはバルモンクを見上げて首を傾げ、それからたくさんの客間と自室のドアも見る。

「こういう事?フィルのスケジュールを把握して、その合間に屋敷の管理をしている」
「そうですな。合間というのが大事ですぞ。では清掃は?」
「自室は無し。使用頻度の高い客室から行うし、換気、拭き掃除、サプライの確認に、」
「レオは執事としてもう一人前。それらは出来て当たり前。しかしその考え方は不合格。合間が大事と言ったはずですぞ」

バルモンクは客室のひとつのドアを開けて、レオに入るように促す。

「どう見えますかな」
「どうって」

未使用。サプライ品は補充済みだし、リネンは整然としてシワもない。客として入室しても不快はない。

「客室として行き届いてる?」
「ですがここは使っていない。しかも使う予定も入っていない。そこへ全力で清掃をするのが無駄だと思わないのがレオ、ですな」
「え?」
「予定の無い部屋は埃が溜まらない程度、数日置きの清掃で良いと教えたでしょう。合間が大事だと言いましたよ。それも忘れて注意したら曜日毎に分けたのを覚えてますかな?主の次の行動の間にできる時間は貴重です。合間、即ちそれは執事の自由といえます」
「執事の自由?」

座りなさいとソファに手をかざすバルモンクの向かいに腰を下ろす。

「執事の業務をする為の自由な時間じゃないという事が今なら理解できますかな」
「自由?」

確かにその合間に屋敷のマネジメント業務を行ってきたし、時間は自分の使いたいように仕事に充てていた。自由に使える時間だ。
業務を行う時間じゃないと言いたいのかな。

「まあ飲みなさい」

水差しから注がれたコップを受け取る。つんっと香るのはアルコールだった。

「……酒なんだけど」
「私の合間はこれでしたな。ストレス解消にひと部屋自室とは別で仕事の休憩室に」

フフッと笑んだバルモンクは一気に飲み干した。最低限の仕事で最高の結果に見せる執事バルモンク・ベルネッティ。最高峰の手抜き執事とも言えた。

「仕事中アンフィル様と喧嘩したり、どこかの部屋に消えるのも合間ですぞ」
「ぶっ、な、なに急に」
「頑張ってきた事を褒めてるんですよ。すべて仕事に注ぎ込んだ時間を今はレオとして、アンフィル様と過ごす時間に使えているでしょう。執事としてでは無く、レオとして合間に使える時間を大事にしなさいという事ですな。それが自由というもの。ミナとサモンがフォローしてくれる分、何もかもゆとりが出来たでしょう。レオとして、それから執事としてこれからも頼みますぞ」

滅多に褒めないバルが珍しく褒めた。これからも頼む。それは師として人としてバルモンクに認められている事。素直に嬉しかった。

「はい、えっと、フィルとバルの言いたい事が最近やっとわかるようになったよ」
「ただし、イチャコラは廊下でするのはやめなさい。私も合間に抜け出し彼女と逢いびきもしましたが、サロンでいたすのは行き過ぎですぞ。可愛らしい顔は目の保養ですがな。ほっほっほ」
「……そ、それフィルに言ってよ」
「さて?今の執事筆頭はレオでは?主の手綱を程よく握り、要領よく躱すのも……まあこれから覚えていきなさい。伴侶らしく」
「……は、伴侶違うし!」

ふふふ、とコップを見つめて笑うバルモンクはやっぱり狸爺だ。今、こうしているのも、仕事の合間に酒が飲みたかっただけじゃないかと疑える。

要領よく自由に。
レオとして生きなさい。

人として年長者としてのアドバイスなんだと素直に受け取る事も出来た。

「レオも少しは飲みなさい」
「……えー」

ここにいるのは散々してやられてきた狸爺。
楽しそうにぐいぐい薄い酒を飲む。

サボり方を考えなさい。
要領よく適当に。

レオはこっちの方がバルモンク的に正解だと思った。

目が合うとお互いフフッと笑む。

アンフィルから見ればバルモンクが二人いるような気になる日もある。師弟関係なのは変わらない。


どっちもどっちなのである。



エウリル大公歴代執事の格言がある。

「執事たるもの常に執事たれ。されど人としての自由は己のもの。執事であり人であれ」








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