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約束と共に歩む道
番外編 軍人の仕事
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「……も一回」
「お、やるかね」
雪月花の君・蜜華とも名がつくこの青年は、少年といった方が体格相応だが、儚げな見た目とは裏腹に我も強く負けず嫌いなところがある。
そして今、ギャンブル好きの気があると判明した。
「ちゃんと当たり入ってる?」
「入ってるさ!あとは運さね!」
「……運と金次第の間違いじゃないの」
「言うね~、べっぴんさんの上にこりゃ参ったべ。一回おまけするから五回ひくべか?」
「のった」
「レオさん、最後にして貰えますか」
「うん。これで最後」
低い椅子に座る店主の前には大きな木箱がある。その前に小柄なレオがしゃがみ込み、小さな楕円形で統一された木片が山のように入った箱に手を突っ込んだ。
どれにしようかと少しかき混ぜると、からからと乾いた木音がする。
これはくじ引きだ。
十回以上引いても全てハズレ。
景品が良いわけでも欲しいのがあるわけでもない。当たらないのが悔しい、何か当たるまで引いてやろうという気になっているのだ。
「……本当に最後ですよ」
バウリはメガネを人差し指でくいとあげた。
俺は軍人。
体格もそこそこ訓練も技能も知識も体得していい部隊に入りたかった。
帝国だけでなく、この六カ国ある大陸は公国以外は平和だ。公国の火種に、もしもの有事の保険で各国が軍事発展してきた。
いい上官のもとで働きたかった。それは叶ったに等しい。国内最上位貴族のエウリル大公の暗部所属になったのだ。
暗部は公国の偵察、撹乱、操作が仕事の基本だ。隣国と協働し市民に紛れて暗躍する頭脳戦だったが内戦勃発で未介入とし撤収。
今は自国で基本業務、騎士と同等市や町の自警、公国の情報整理が主たる任務だ。
なのに、私服警護中だ。
前から噂は聞いていた。幼く見え美人で滅多に笑わないが、笑顔と大公の執着ぶりに注意しろと。
そして執事という地位に就く事で敵視する者がいることも知っていた。
これは正直、大公の私的な依頼だ。いや、最早任務だ。上官命令なら完遂するのが軍人なのだ。
今日は買い物の付き添い警護だ。
帰路、露天商の列にあるこのくじ引きにフラリと立ち寄っている。
護衛や仕事で接して知ったのは、仕事に誇りを持ち真面目で頑固、世間知らずで、子供っぽい所があるということだ。
「……あー」
「お、運がないなあ。あと一回だべ」
次で最後の六回目。微妙にレオは不機嫌だ。
こういうのは大体が全てが十としても三割も当たりがない低確率だ。悪徳ならば最悪当たりなしだ。露天で子供向けに商い、ハズレて菓子を渡すのが定番だ。大人は大体知ってるものだが、祭りも初めて行ったと聞いたし、知らないのだろう。
菓子さえ貰えてないのだ。
・・・仕方ない。
「おい、店主」
「ああ?なんだべ」
離れて見ていたがズカズカと店主に近づき、耳元で忠告した。
「俺は部隊所属の軍人だ。まさか当たり無しの商法違反か?全部ひっくり返して確認してもいいか」
「は?は、ははは、いや、それは」
顔色が変わった。黒だ。
「バウリさん?」
レオは不思議そうな顔をしていた。
・・・これはダメだ。
前も似たような事があったか。ロドリゴから聞いたのか。離れすぎると、絡まれるか何かトラブルがおこる外出。基本見守るだけで口出しはしない方針だが、ああ、なるほど。
これは手を貸したくなる。
店主にチラッと睨みをきかす。
「おい」
「へ、へえ」
「あのー……最後引いていい?」
「あ、ああ、引いていいべ」
レオが掴み選んだ木片は最後にして勿論ハズレだった。
「……」
「ハズレだべ。でも十五回以上引いた場合、景品三位以下の貰えっべ、どれにするさ?」
「……貰えるの?」
レオは不思議そうに、店主とバウリを交互に見る。
「あ、ああ、そうだべ」
「遠慮せず選んだらいいですよ、レオさん」
「じゃ、三位の下さい」
「あとは帰るだけですね」
「うん、バウリさんコレ」
「景品がどうかしました?」
「あげます」
欲しいものでもなかったのか、俺にその景品を差し出す。まずまず質の良いインクペンのセットだった。
「店主に何か言って融通きかせましたよね?俺、ハズレに菓子がつくくらい知ってます。何もないのをどうにかする様に言ったんですよね。だからバウリさんにお礼です。これ、書類仕事に重宝しそうですよ。それに軍務に関係無い付き添いさせて毎回申し訳なくて」
「……そう、ですか。じゃあ遠慮なく」
レオは珍しくニッコリ微笑んだ。
・・・ああ、こういう所か。
ちょっと可愛いと思ったじゃないか。
しかも俺の手管がバレてるということは、店主の悪事にも気付いてたか?いや、それなら二十回も引くわけない。
ロドリゴが毎回ウキウキして警護につくのが何となくわかってきた気もする。いや、あいつは元々告白する程これに興味津々だった。
今時こんな成人がいるのか。
正直過保護。成人に警護も阿呆らしいと思っていた。
・・・危なかしい。
「バウリさん?帰りますよー」
見ると既にレオは数メートル先だった。
「ああ、直ぐ行きます」
俺は軍人だ。
上官命令で普段しない一般人の警護をしている。命令ならば仕方がないのだ。
多分。
「お、やるかね」
雪月花の君・蜜華とも名がつくこの青年は、少年といった方が体格相応だが、儚げな見た目とは裏腹に我も強く負けず嫌いなところがある。
そして今、ギャンブル好きの気があると判明した。
「ちゃんと当たり入ってる?」
「入ってるさ!あとは運さね!」
「……運と金次第の間違いじゃないの」
「言うね~、べっぴんさんの上にこりゃ参ったべ。一回おまけするから五回ひくべか?」
「のった」
「レオさん、最後にして貰えますか」
「うん。これで最後」
低い椅子に座る店主の前には大きな木箱がある。その前に小柄なレオがしゃがみ込み、小さな楕円形で統一された木片が山のように入った箱に手を突っ込んだ。
どれにしようかと少しかき混ぜると、からからと乾いた木音がする。
これはくじ引きだ。
十回以上引いても全てハズレ。
景品が良いわけでも欲しいのがあるわけでもない。当たらないのが悔しい、何か当たるまで引いてやろうという気になっているのだ。
「……本当に最後ですよ」
バウリはメガネを人差し指でくいとあげた。
俺は軍人。
体格もそこそこ訓練も技能も知識も体得していい部隊に入りたかった。
帝国だけでなく、この六カ国ある大陸は公国以外は平和だ。公国の火種に、もしもの有事の保険で各国が軍事発展してきた。
いい上官のもとで働きたかった。それは叶ったに等しい。国内最上位貴族のエウリル大公の暗部所属になったのだ。
暗部は公国の偵察、撹乱、操作が仕事の基本だ。隣国と協働し市民に紛れて暗躍する頭脳戦だったが内戦勃発で未介入とし撤収。
今は自国で基本業務、騎士と同等市や町の自警、公国の情報整理が主たる任務だ。
なのに、私服警護中だ。
前から噂は聞いていた。幼く見え美人で滅多に笑わないが、笑顔と大公の執着ぶりに注意しろと。
そして執事という地位に就く事で敵視する者がいることも知っていた。
これは正直、大公の私的な依頼だ。いや、最早任務だ。上官命令なら完遂するのが軍人なのだ。
今日は買い物の付き添い警護だ。
帰路、露天商の列にあるこのくじ引きにフラリと立ち寄っている。
護衛や仕事で接して知ったのは、仕事に誇りを持ち真面目で頑固、世間知らずで、子供っぽい所があるということだ。
「……あー」
「お、運がないなあ。あと一回だべ」
次で最後の六回目。微妙にレオは不機嫌だ。
こういうのは大体が全てが十としても三割も当たりがない低確率だ。悪徳ならば最悪当たりなしだ。露天で子供向けに商い、ハズレて菓子を渡すのが定番だ。大人は大体知ってるものだが、祭りも初めて行ったと聞いたし、知らないのだろう。
菓子さえ貰えてないのだ。
・・・仕方ない。
「おい、店主」
「ああ?なんだべ」
離れて見ていたがズカズカと店主に近づき、耳元で忠告した。
「俺は部隊所属の軍人だ。まさか当たり無しの商法違反か?全部ひっくり返して確認してもいいか」
「は?は、ははは、いや、それは」
顔色が変わった。黒だ。
「バウリさん?」
レオは不思議そうな顔をしていた。
・・・これはダメだ。
前も似たような事があったか。ロドリゴから聞いたのか。離れすぎると、絡まれるか何かトラブルがおこる外出。基本見守るだけで口出しはしない方針だが、ああ、なるほど。
これは手を貸したくなる。
店主にチラッと睨みをきかす。
「おい」
「へ、へえ」
「あのー……最後引いていい?」
「あ、ああ、引いていいべ」
レオが掴み選んだ木片は最後にして勿論ハズレだった。
「……」
「ハズレだべ。でも十五回以上引いた場合、景品三位以下の貰えっべ、どれにするさ?」
「……貰えるの?」
レオは不思議そうに、店主とバウリを交互に見る。
「あ、ああ、そうだべ」
「遠慮せず選んだらいいですよ、レオさん」
「じゃ、三位の下さい」
「あとは帰るだけですね」
「うん、バウリさんコレ」
「景品がどうかしました?」
「あげます」
欲しいものでもなかったのか、俺にその景品を差し出す。まずまず質の良いインクペンのセットだった。
「店主に何か言って融通きかせましたよね?俺、ハズレに菓子がつくくらい知ってます。何もないのをどうにかする様に言ったんですよね。だからバウリさんにお礼です。これ、書類仕事に重宝しそうですよ。それに軍務に関係無い付き添いさせて毎回申し訳なくて」
「……そう、ですか。じゃあ遠慮なく」
レオは珍しくニッコリ微笑んだ。
・・・ああ、こういう所か。
ちょっと可愛いと思ったじゃないか。
しかも俺の手管がバレてるということは、店主の悪事にも気付いてたか?いや、それなら二十回も引くわけない。
ロドリゴが毎回ウキウキして警護につくのが何となくわかってきた気もする。いや、あいつは元々告白する程これに興味津々だった。
今時こんな成人がいるのか。
正直過保護。成人に警護も阿呆らしいと思っていた。
・・・危なかしい。
「バウリさん?帰りますよー」
見ると既にレオは数メートル先だった。
「ああ、直ぐ行きます」
俺は軍人だ。
上官命令で普段しない一般人の警護をしている。命令ならば仕方がないのだ。
多分。
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