俺はいつも拾われている

つちやながる

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未来へと歩む道

5、元カノ+今カノ=仲良し可

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車窓から流れる景色は新鮮で、内陸特有の緑多き田園や田舎の風景にはどこか郷愁を感じていた。

「俺の育ったとこに似てる」
「レオは農家生まれだったな」

帝都からは主要部に鉄道がのび、南下する蒸気機関車は技術者の結集が組み込まれ、異世界らしく特殊燃料と無煙で長距離を走る。

「フィルに拾われて良かった」
「そうだろう」
「真面目に言ったんだけど」
「知ってる」

鼻で笑ったフィルは個室で向かい合わせに座り、澄まし顔で手にした書類を読んでいる。

「記録に吸血の記述はないし実際にどうなると聞いた事がないのも一族の話なのに不思議だな。生き証人を探さないとな」
「誰に会うのか聞いていい?」
「行ってみないとわからん」
「答えになって無いよ」
「実際そうだから答えは無い」
「ええー」

そんな先の見えない旅は執事の性分からしたら、ひたすら歯痒い。手配も準備も何もする事がないんだから。フィルを見つめ、たわいも無い会話をし時間が流れる。

側にいるけど忘れちゃいけない事はあれだ。
伴侶。今と何が変わる?要するに嫁的な位置だ。これを認めたら執事より伴侶がどう考えても優位。公的にその地位になるわけで、俺が執事でなくなるという事。それは本当に考えられない。
フィルとしっかり話し合う必要がある。でもなあ。執事になる時の様に誘導されそうな気がするんだよね。
今はこの旅を楽しむべきかな。それからでも遅くは無い。

「なんだ。そんなに見つめる程俺が好きか」
「はいはい、好きデスヨ」
「ははっ、考え過ぎるなよ」
「あー、……うん」

時々射し込む日差しとフィルの笑顔の眩しさに、『主の手綱加減を覚える』というバルの課題を思い出していた。



旧帝都へ向かう途中下車して到着したのは、白い外壁に蔦が絡まる屋敷だった。ホールでは籐の編み椅子に足を組み、ズボンを履いた女性がひとり読書をしていた。

「あら、珍しいわね」
「来てたのか」
「この季節ですもの」

迎えてくれたのはエリアル夫人。

「レオもよく来たわね。相変わらず可愛らしくて、あら?少し視線が、背が伸びたのね」
「そう言われたら同じ位に」

フフッと二人して笑った。俺は夫人より下だったんだ。可愛らしいと言われるのはもう流石に慣れてきた。美少年からの遅い成長期をやっと迎え二十三にして漸く女性の平均的身長だ。それでも細いけど単純に嬉しい事だ。

「他は?最近来たのは誰だ」
「いつもの面子よ。ライラ、ドク、それに、フラッグ。珍しいと言えばノールも来たわ」
「まだ町にいるのか」
「知らないわ。アンフィルと同じ気紛れな血でしょ?貴方のほうが行動が予測できると思わなくて?」
「そうだな。レオ、同じ世代が二人近くにいる。ノールに的を絞って会うとしよう」
「ノールさん?」
「ふふっ、フラッグ嫌いは変わらずね」
「苦手なだけだ」

聞いた事の無い名前ばかりで元夫婦の会話についていけなかった。スパイ疑惑の時集まったのは軍関係とフィルの執事に代々関係した血筋の一部の人達で、これは多分全く関係の無い人だよね。

「ほらほら、レオが困ってるわよ」
「ああ、すまない。エリアルの友の名だ。悪いが早速ノールの足跡を追ってみる。夜には戻るから二人でいてくれるか」
「俺、留守番?」
「手持ち無沙汰なんだろ。この町の観光に執事でなくとも何か用事をして過ごすといい。また乗り物の旅だぞ」
「フィル待って」

一緒に行くつもりなのも気に留めずフィルは直ぐに屋敷から出て行った。

俺、フィルの前妻と二人きり。
これ、前カノと今カノが二人みたいなやつ?
今までただの執事だったし、バルにランスにその他大勢いたから特に気にもしなかった。これは……気不味い。

「レオ、噂は聞いてるわよ」
「えっ?」

直球きたよ!

「執事頑張ってるのね。ほら、座ってお菓子でも食べなさい」
「……あ、はい」

執事の事かと安堵して、少し離れたカウチに腰掛け、丁度小腹が空いてたので菓子をいただく事にする。チョコチップの入ったスコーンは手作りの様だった。

「それで、結婚式はいつなの?」
「ぶばっ」
「あらやだ」

吹いた。久々吹いたよ!水分少ないスコーンだから余計に飛んだし!慌ててナプキンで寄せ集める俺。か、悲しい。

「んぐ。あ、あの、何で結婚?」
「溺愛って有名でしょ?執事披露目の時はね婚約も兼ねてると思った位なのよ。アンフィルがこんなに大事にするなんて初めてだわ」
「婚約!?」
「知らぬはレオばかりかしら。少しは外聞を気にしなさい。あの人があんなに優しい顔をするのはレオがいるからよ?夫とランスの父親はしてくれたけど、あなたは特別なの」

エリアルはレオを見て嬉しそうに微笑んでいた。自分がこの人の元妻の立場だとしたら、こんな優しい態度でいれるか疑問だ。どんな夫婦してたんだろって思う。

「えーと、特別?」
「聞いてないの?私達は形式的夫婦。ランスはレッグという恋人だった人の子なのよ」
「形式的?」
「あの人が自ら側に置く人を選ぶのはない事なの。本当に特別な事なのよ。私に何も遠慮しないでアンフィルと幸せになっていいの。レオは前向きに生きるいい子でしょ。私はあなたが気に入ってるわ」

俺は暫く静止していた。

知らなくていい事だと思ってた。長命過ぎる過去は要らないし、俺の知らないフィルがいてもそれは当たり前の事だから必要ないって思ってた。

フィルの側にいること。
それは共に生きるということ。

知らないことを知らないままではいられないという事を忘れていた。

聞いた事も疑問に感じたし、聞きたい事が次々とわいてくる。
てゆか婚約。結婚。
俺が嫁!?
フィルが嫁、は無いな。
溺愛コースは受託したけど。結婚コースは、うん、避けたい。

何でって?今世は執事を極めたいって本当に思ったんだ。フィルの執事でバルの様に引退まで仕事をしたい。やり甲斐があるんだよ。

「式の予定が決まったら教えてね」
「け、結婚はナイデス!」
「そうなの?お互い好きなんでしょ?」
「す、……俺は執事デス」
「あら、頑固ね。その辺じっくりお話しましょうね、ふふっ、お茶をいれましょか」
「俺、やります。執事ですから!」

俺の外堀がじわじわ埋まっていく気がした。


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