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未来へと歩む道
6、いろいろな気持ち
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「やっぱり探しに行きたい」
「土地勘もないのに無理言わないの。ちゃんと帰ってくるわよ。寂しくてもここで待つのよ、レオ」
「寂しいわけじゃなくて、」
「今日は一緒にケーキ作る約束したわよね。バル直伝のタルトよ。甘いのは好きでしょ?暇だって言うなら屋敷の手入れに午後は馬の世話。わかったかしら執事さん」
「えぇ……」
エリアルは機嫌よくレオの腕を引っ張りキッチンに向かう。
この屋敷はエリアルの生家。竜国に住んでいたフィルは訪ねて来る程度でランスはここで育ったとか、ランスの父親はフィルの友達で事故死だとか。生活に困っていた所をお互いの利目的で結婚という形にしたとエリアルさん自身の話をしてくれた。
フィルの知りたいことは自分で聞きなさい、だって。
そのフィルは二日帰って来てない。寂しいってわけじゃ無い。側に仕えて毎日近くにいるのが当たり前になった所でこの空白の連日。夜には帰るって言ったのに。何かあったのかなって、ただ漠然としない不安が胸を燻る。
「……もやもやする」
「あら、甘味はよくないわね。じゃあミルク粥でも作ろうかしら」
「えっ、ミルク嫌いだし、気分悪いもやもやじゃないから」
「そうなの?レオ、いいこと?アンフィルは魔人族の祖の血筋で普通の人じゃないのよ。魔術もあるし何も心配いらないわ」
「心配?」
「それは心配してるのよ」
俺がフィルを心配。今までそんな事あったかな。心配されるのっていつも俺の方だっけ。執事だから主の不在は手が空くし、いつもフィルの予定で行動が決まるから側にいないと素直に気になる。好きな人だから余計にそうだって事かな。って思考がそっち向いて行くのも俺、本当どんだけだよ。
「ふふっ、可愛い。顔が赤いわよ」
「気のせいデス」
通信手段は手紙だけのこの世界。配達があるのに、フィルも一筆くれたら余計な事考えな
くていいのに。
俺よりも長年夫婦として、それ以前から友としてフィルを知っているエリアルさんの言う事を信用して待つことにした。
「誰だ」
「……そちらこそ誰方デスカ」
エリアルさんは貴族制度を馬鹿らしいと思っているらしく、フィルと同様に使用人も最低限しか雇ってなかった。従僕に調度品を磨いて欲しいと頼まれ清掃手伝いをし始めた時だった。
玄関ホールはサロンになっていて、応接ソファやカウチもある。そこに知らない男がいたのだ。赤茶短髪で薄茶の瞳に中肉中背。華美でないけど白シャツにグレイのボトムに黒ブーツ。明らかに品の良い貴族の服。歳は多分見た目三十路前後。ちょっと酒臭い。
「失礼な子供だな」
「え、と、エリアルさん呼びます」
「そうしてくれ」
久々に子供呼ばわりされたけど、今まで散々だったから腹も立たない。やっぱり俺はまだ十代に見えるらしい。
男も別に怒ってないらしく表情も柔らかい。屋敷に自由に出入りするのは身内の可能性があるこの場合は、俺が悪いのか。首を傾げながらキッチンで片付けをするエリアルさんに声をかける。この人も従僕に何もかも任せない変な貴族だ。
「サロンに人が来てるんだけど」
「あら、誰かしら」
「勝手に入って寛いでるから身内?」
「知人は出入り自由にしてるのよ。じゃあお茶を持って来てくれる?レオもサロンで一緒にタルト食べましょう」
サロンに向かうエリアルさんを後に、保冷機からタルトを切り出し、甘さ控えめのお茶を添える。バルに教わった最初のティーワゴンにセットしてサロンに足を進める。
「帰ったんじゃないの」
「飲み過ぎて財布すられたのを朝起きてから気が付いた。宿は出たし迎えが来る明日まで泊まる」
「どれだけ飲んだのよ。臭うわね」
「このソファに寝るから飯だけ頼む」
「まあ偉そうに」
気持ちエリアルさんの言葉に棘を感じつつ、二人にティーセットをしてタルトを並べると男に腕を掴まれてジロジロと見られる。
「……何ですか」
「小姓か」
「アンフィルの執事よ。休暇でうちに来てるの。手を放してあげて」
「噂の男娼か。子供じゃないか」
「フラッグ、手を放しなさい!」
初めて聞くエリアルさんの大声に驚いたけど視線はフラッグを向いていた。お互いを観察する様にじっと見ていた。
また久しぶりに聞いたよ、男娼って。また嫌味か馬鹿にされるかな。ここはどんな態度が正解なんだろ。
「違うのか」
「……ご想像にお任せします。お茶が冷めますので手を放して下さい。フラッグさんは、男娼に興味がおありですか。因みにそんな肩書きとは無縁デスので、必要でしたら手配させていただきます」
俺の事を珍しく罵倒と嫌味で済まさないから普通に切り返す。それを不思議に思ったのかフラッグは豆鉄砲を食った顔になって、手を放してくれた。
「……必要ない。すまなかった」
「……いえ。タルトもどうぞ。エリアルさんの手作りです」
「レオったら。フラッグも。変な波風立てないでくれるかしら。私は穏やかに過ごしたいのよ」
「奔放な癖に今更」
「フラッグ」
「……美味いな」
「レオも食べて」
フラッグはチラリとエリアルさんを伺い黙ってタルトを食べ始め、エリアルさんは眉間に皺を寄せティーカップを傾ける。そして俺は一歩下がり、相席を遠慮して従僕たる態度で見守る。
気位の高い貴族さんが謝るんだ。フラッグってどんな人なんだろ。
でも微妙だ。空気がおかしい。それだけはわかる。俺の知らないフィルを取り巻く過去と人間関係ってやつ。そこに俺が新規参入で食い込むわけだよ。
嫁予定に元妻に過去に人間関係?
ドロドロ昼メロネタが揃って来てない?
これ、居た堪れないな。
視線を天井に小さく溜息を吐いた。
フィル、早く帰ってきて!
「土地勘もないのに無理言わないの。ちゃんと帰ってくるわよ。寂しくてもここで待つのよ、レオ」
「寂しいわけじゃなくて、」
「今日は一緒にケーキ作る約束したわよね。バル直伝のタルトよ。甘いのは好きでしょ?暇だって言うなら屋敷の手入れに午後は馬の世話。わかったかしら執事さん」
「えぇ……」
エリアルは機嫌よくレオの腕を引っ張りキッチンに向かう。
この屋敷はエリアルの生家。竜国に住んでいたフィルは訪ねて来る程度でランスはここで育ったとか、ランスの父親はフィルの友達で事故死だとか。生活に困っていた所をお互いの利目的で結婚という形にしたとエリアルさん自身の話をしてくれた。
フィルの知りたいことは自分で聞きなさい、だって。
そのフィルは二日帰って来てない。寂しいってわけじゃ無い。側に仕えて毎日近くにいるのが当たり前になった所でこの空白の連日。夜には帰るって言ったのに。何かあったのかなって、ただ漠然としない不安が胸を燻る。
「……もやもやする」
「あら、甘味はよくないわね。じゃあミルク粥でも作ろうかしら」
「えっ、ミルク嫌いだし、気分悪いもやもやじゃないから」
「そうなの?レオ、いいこと?アンフィルは魔人族の祖の血筋で普通の人じゃないのよ。魔術もあるし何も心配いらないわ」
「心配?」
「それは心配してるのよ」
俺がフィルを心配。今までそんな事あったかな。心配されるのっていつも俺の方だっけ。執事だから主の不在は手が空くし、いつもフィルの予定で行動が決まるから側にいないと素直に気になる。好きな人だから余計にそうだって事かな。って思考がそっち向いて行くのも俺、本当どんだけだよ。
「ふふっ、可愛い。顔が赤いわよ」
「気のせいデス」
通信手段は手紙だけのこの世界。配達があるのに、フィルも一筆くれたら余計な事考えな
くていいのに。
俺よりも長年夫婦として、それ以前から友としてフィルを知っているエリアルさんの言う事を信用して待つことにした。
「誰だ」
「……そちらこそ誰方デスカ」
エリアルさんは貴族制度を馬鹿らしいと思っているらしく、フィルと同様に使用人も最低限しか雇ってなかった。従僕に調度品を磨いて欲しいと頼まれ清掃手伝いをし始めた時だった。
玄関ホールはサロンになっていて、応接ソファやカウチもある。そこに知らない男がいたのだ。赤茶短髪で薄茶の瞳に中肉中背。華美でないけど白シャツにグレイのボトムに黒ブーツ。明らかに品の良い貴族の服。歳は多分見た目三十路前後。ちょっと酒臭い。
「失礼な子供だな」
「え、と、エリアルさん呼びます」
「そうしてくれ」
久々に子供呼ばわりされたけど、今まで散々だったから腹も立たない。やっぱり俺はまだ十代に見えるらしい。
男も別に怒ってないらしく表情も柔らかい。屋敷に自由に出入りするのは身内の可能性があるこの場合は、俺が悪いのか。首を傾げながらキッチンで片付けをするエリアルさんに声をかける。この人も従僕に何もかも任せない変な貴族だ。
「サロンに人が来てるんだけど」
「あら、誰かしら」
「勝手に入って寛いでるから身内?」
「知人は出入り自由にしてるのよ。じゃあお茶を持って来てくれる?レオもサロンで一緒にタルト食べましょう」
サロンに向かうエリアルさんを後に、保冷機からタルトを切り出し、甘さ控えめのお茶を添える。バルに教わった最初のティーワゴンにセットしてサロンに足を進める。
「帰ったんじゃないの」
「飲み過ぎて財布すられたのを朝起きてから気が付いた。宿は出たし迎えが来る明日まで泊まる」
「どれだけ飲んだのよ。臭うわね」
「このソファに寝るから飯だけ頼む」
「まあ偉そうに」
気持ちエリアルさんの言葉に棘を感じつつ、二人にティーセットをしてタルトを並べると男に腕を掴まれてジロジロと見られる。
「……何ですか」
「小姓か」
「アンフィルの執事よ。休暇でうちに来てるの。手を放してあげて」
「噂の男娼か。子供じゃないか」
「フラッグ、手を放しなさい!」
初めて聞くエリアルさんの大声に驚いたけど視線はフラッグを向いていた。お互いを観察する様にじっと見ていた。
また久しぶりに聞いたよ、男娼って。また嫌味か馬鹿にされるかな。ここはどんな態度が正解なんだろ。
「違うのか」
「……ご想像にお任せします。お茶が冷めますので手を放して下さい。フラッグさんは、男娼に興味がおありですか。因みにそんな肩書きとは無縁デスので、必要でしたら手配させていただきます」
俺の事を珍しく罵倒と嫌味で済まさないから普通に切り返す。それを不思議に思ったのかフラッグは豆鉄砲を食った顔になって、手を放してくれた。
「……必要ない。すまなかった」
「……いえ。タルトもどうぞ。エリアルさんの手作りです」
「レオったら。フラッグも。変な波風立てないでくれるかしら。私は穏やかに過ごしたいのよ」
「奔放な癖に今更」
「フラッグ」
「……美味いな」
「レオも食べて」
フラッグはチラリとエリアルさんを伺い黙ってタルトを食べ始め、エリアルさんは眉間に皺を寄せティーカップを傾ける。そして俺は一歩下がり、相席を遠慮して従僕たる態度で見守る。
気位の高い貴族さんが謝るんだ。フラッグってどんな人なんだろ。
でも微妙だ。空気がおかしい。それだけはわかる。俺の知らないフィルを取り巻く過去と人間関係ってやつ。そこに俺が新規参入で食い込むわけだよ。
嫁予定に元妻に過去に人間関係?
ドロドロ昼メロネタが揃って来てない?
これ、居た堪れないな。
視線を天井に小さく溜息を吐いた。
フィル、早く帰ってきて!
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