12 / 71
しかたないから相手してやろう
しおりを挟む
俺は早く町を出たい。耳をピンと前に向けて音を拾う。門はこっちだったか。スタスタと歩みを進める。後ろはクロウの気配がする。さあ帰るぞ。
「え、ちょ待って!」
「無視かよっ」
サザッと前に立ちはだかる二人。
わざと通り過ぎたのに空気読めない人間がいるもんだ。犬に言葉は解るまい。スルーだスルー。
「あんたら、まだついてきてたのか!」
クロウは驚いた。なんだお前こいつら知り合いか?
「さあ、その黒犬を貰おうか」
「修理代差し引き二万ガルよ!」
「主は売り物じゃない」
淡々と答えるクロウ。俺は一体なんの話だと少し立ち止まり耳だけ向ける。
「上級冒険者キジー様の言うことが聞けねぇってか~?なぁ、サリィ」
「アタシもその犬がほしいのよ!」
三人はバチバチと火花を散らす。
・・・売る?はて?というか主って。
阿呆だ。それ他人に言っちゃダメだろ。犬の下僕だって事だろ。いや、確かに今はそうだけど。他の人聞いたら変態お犬様プレイにしか聞こえないと思うぞ。
・・・放置だな。
俺は赤の他人ならぬ他犬だ。別にクロウ居なくても何とかなるかも知れないな。
魔狼は興味を無くした様に再び歩き出した。
「犬が主なんて、おかしいんじゃない~?」
「他人の趣味はどうでもいい、とにかく犬だ」
「上級冒険者程度か。俺を誰だと思ってる」
「え?変態?」
「は、は」
クロウは自分が散々魔狼にまとわりつき、下僕と言われ喜んだ事を棚に上げすることにした。上級より上の高位魔術師としてのプライドが多少残ってたようだ。
変態と聞き眉間に皺が寄り、冷笑を浮かべ表情が一変する。
「魔狼様はもとより、このクロウ・シャズナルまで冒涜せん態度は許し難いな」
省略詠唱が聴こえたと思った瞬間だった。
ざあっと雲霧が二人を包み始めた。
足元はパキパキという音がし始めた。
「え…ま、さ、か」
「シャズナ、ル?」
銀髪と名前で魔術師といえば、と気がつくが今更だ。
ハッとして霞む視界に目を下にやれば、既に土がひんやりと膝下まで覆い、地面に固定されていた。
霧に触れる肌はチリチリと刺痛がする。息をして吸い込めば、鼻の粘膜から気管や肺まで静電気の様な痛みが走る。これは地味でもかなり苦痛だ。
更にその足元は土の上から氷がピキピキと重なり上半身に登って来ている。
「えええぇぇ!」
「うおおぉお!?」
対処しようにも二人は土と風魔法の適性スキルしかない。
「し、しぬ、死ぬ!」
「やべぇ、ぬおおぉ!」
男は石飛礫で何とか氷を砕き押しとどめるが、それの勢いは止まらなかった。
それはジワジワと確実に冷気をまとい向かってくるのだ。
女は風魔法ではどうしようも無い。思い出したように背負った矢でガッガッと氷を必死に割り砕く。
無駄あがきを続ける中、氷が太腿まで来た瞬間それはピタと止まった。
次第に視界も晴れ霧も流れて消えた。
男女二人はゼェハァと肩で息を吐き、顔面蒼白になっていた。
キョロキョロと左右確認しクロウを探すが、もうそこには居なかった。
「…いない」
「…た、助かった?」
「…おい、シャズナルっつってたな」
「あああ!噂の美形魔術師シャズナル!」
「犬に求婚変態魔術師!」
「違うでしょ!銀華の君でしょっ!」
「大陸で高位魔術師は五人しかいないし。こんな複属魔法出されりゃ確かに凄いが…、犬が主なんだろ?」
「……噂は本当、だったのね。美形なのにいいぃ!ていうか犬!犬は!」
「うおおぉ、犬!」
「あっ銀華の君についていけばいいんじゃない?」
「…かもな」
目的を忘れボヤいて二人は当初の目的を思い出し、がくりと項垂れた。
クロウの実力は既に衆知の事実だったため、犬に求婚したという尾ひれのついた変な噂は瞬く間に広がった。
知らないのは魔狼と本人ばかり。
無様な姿を晒す二人は組合前で再々騒ぎを起こす常習犯だった。ギルマスにこっぴどく注意され、組合内の修理代と迷惑料を上乗せ徴収処分を貰うのだった。
「え、ちょ待って!」
「無視かよっ」
サザッと前に立ちはだかる二人。
わざと通り過ぎたのに空気読めない人間がいるもんだ。犬に言葉は解るまい。スルーだスルー。
「あんたら、まだついてきてたのか!」
クロウは驚いた。なんだお前こいつら知り合いか?
「さあ、その黒犬を貰おうか」
「修理代差し引き二万ガルよ!」
「主は売り物じゃない」
淡々と答えるクロウ。俺は一体なんの話だと少し立ち止まり耳だけ向ける。
「上級冒険者キジー様の言うことが聞けねぇってか~?なぁ、サリィ」
「アタシもその犬がほしいのよ!」
三人はバチバチと火花を散らす。
・・・売る?はて?というか主って。
阿呆だ。それ他人に言っちゃダメだろ。犬の下僕だって事だろ。いや、確かに今はそうだけど。他の人聞いたら変態お犬様プレイにしか聞こえないと思うぞ。
・・・放置だな。
俺は赤の他人ならぬ他犬だ。別にクロウ居なくても何とかなるかも知れないな。
魔狼は興味を無くした様に再び歩き出した。
「犬が主なんて、おかしいんじゃない~?」
「他人の趣味はどうでもいい、とにかく犬だ」
「上級冒険者程度か。俺を誰だと思ってる」
「え?変態?」
「は、は」
クロウは自分が散々魔狼にまとわりつき、下僕と言われ喜んだ事を棚に上げすることにした。上級より上の高位魔術師としてのプライドが多少残ってたようだ。
変態と聞き眉間に皺が寄り、冷笑を浮かべ表情が一変する。
「魔狼様はもとより、このクロウ・シャズナルまで冒涜せん態度は許し難いな」
省略詠唱が聴こえたと思った瞬間だった。
ざあっと雲霧が二人を包み始めた。
足元はパキパキという音がし始めた。
「え…ま、さ、か」
「シャズナ、ル?」
銀髪と名前で魔術師といえば、と気がつくが今更だ。
ハッとして霞む視界に目を下にやれば、既に土がひんやりと膝下まで覆い、地面に固定されていた。
霧に触れる肌はチリチリと刺痛がする。息をして吸い込めば、鼻の粘膜から気管や肺まで静電気の様な痛みが走る。これは地味でもかなり苦痛だ。
更にその足元は土の上から氷がピキピキと重なり上半身に登って来ている。
「えええぇぇ!」
「うおおぉお!?」
対処しようにも二人は土と風魔法の適性スキルしかない。
「し、しぬ、死ぬ!」
「やべぇ、ぬおおぉ!」
男は石飛礫で何とか氷を砕き押しとどめるが、それの勢いは止まらなかった。
それはジワジワと確実に冷気をまとい向かってくるのだ。
女は風魔法ではどうしようも無い。思い出したように背負った矢でガッガッと氷を必死に割り砕く。
無駄あがきを続ける中、氷が太腿まで来た瞬間それはピタと止まった。
次第に視界も晴れ霧も流れて消えた。
男女二人はゼェハァと肩で息を吐き、顔面蒼白になっていた。
キョロキョロと左右確認しクロウを探すが、もうそこには居なかった。
「…いない」
「…た、助かった?」
「…おい、シャズナルっつってたな」
「あああ!噂の美形魔術師シャズナル!」
「犬に求婚変態魔術師!」
「違うでしょ!銀華の君でしょっ!」
「大陸で高位魔術師は五人しかいないし。こんな複属魔法出されりゃ確かに凄いが…、犬が主なんだろ?」
「……噂は本当、だったのね。美形なのにいいぃ!ていうか犬!犬は!」
「うおおぉ、犬!」
「あっ銀華の君についていけばいいんじゃない?」
「…かもな」
目的を忘れボヤいて二人は当初の目的を思い出し、がくりと項垂れた。
クロウの実力は既に衆知の事実だったため、犬に求婚したという尾ひれのついた変な噂は瞬く間に広がった。
知らないのは魔狼と本人ばかり。
無様な姿を晒す二人は組合前で再々騒ぎを起こす常習犯だった。ギルマスにこっぴどく注意され、組合内の修理代と迷惑料を上乗せ徴収処分を貰うのだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる