俺は帰りたいんですが。

つちやながる

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せかいはやっぱり広かった

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「起きてください、雨です、雨」
「………」

寝入った所を起こされた魔狼は不機嫌にクロウを睨む。
雨がなんだというのだ。住処は霧の森だ。天候なんて気にした事もなかった。俺の毛は撥水だ。
天気が悪い位で起こすなと文句のひとつでもと思い男を見ると、びしょ濡れだった。

「なんでそんなに濡れてる」
「え、防御結界に多重構造掛けを試作して、あと召喚に転移組み込んだらどうなるかと夢中で」
「…阿呆だな」

ほんと阿呆だ。街道沿いに漁村がある半島を目指し現時点は手前の高台の森にいる。
雨避けできる場所は無い。巨木の下でさえ大粒の雨は遠慮なく落ちて来る。
仕方ない。
魔狼は犬の姿からジワジワと本来の姿に戻る。
ふさふさと全身をまとう黒緑の毛に大きな体。しっかりとした脚。足先には鋭利な爪。尾もふさふさでよく見るとお先はほんの少しだけ白い。目は澄んだ金色。雄々しさの中。野生の獣で魔物なのに品さえ感じる姿だった。
クロウは勿論見惚れた。
希少な黒鉄魔狼ブラロだ。

「…乗れ」
「は?」
「いいから乗れ」
「あ、はい失礼します」

クロウは目を輝かせて滴る服のまま魔狼に跨り、うつ伏せしがみついた。

「はしるぞ」
「は、速い、速いですね!」

地面を蹴り疾走する。クロウは流れる景色の早さに空気の重さに風に驚いた。

「お前を乗せているから遅い方だ」
「そ、そうですか?」
「まだまだ早く走れるぞ」
「は、ははは!」

少し早く土を空を蹴っってみた。魔術師が笑うけど何がそんなに面白いのかはわからなかった。

思ったより長引きそうな旅にげんなりする。

昼間は犬の姿で歩き、森があれば狩りに入る。町があれば宿屋にクロウだけ泊まり俺は厩で寝る。その場合食事は男の奢りだ。焼いた肉は初めて食べたが中々面白い味だった。
数百年振りに森から出た。この男に出されたのだが。俺は前世が人だけど今は獣だ。本能が強い魔獣なのに、どうした事か気が付けば人間のペースに合わせているでは無いか。

それに気付いてまたげんなりする魔狼だった。


「お前いいかげん馬買え」

徒歩だから進まないし進まないいんだよ。

「魔狼様に乗れるじゃないですか」

俺は脚を止めた。

「うわああぁっ!」
「あ」

急ブレーキだった。男が反動で飛んでった。
まあ魔術師だ。怪我しても自分で直せるだろ。
そうだ。なんでフィルを背にのせなきゃいかんのだ。なんで俺も当たり前のように優しく乗せてんだ。
んんん?と首を捻ってたら、木立の間からクロウが半泣きで帰って来た。

「酷いですよ魔狼様!腕骨折したじゃないですか!直したけど痛すぎますよ!」
「俺に乗るとそうなる。危ないから馬を買え」
「ええぇ」
「着いた。もう村が見えるぞ」

潮の香りがする。鼻が利くから少し生臭い感じだ。村の方に顔をふりあごで示した。納得いかない顔をして魔術師は漁村を確認する。

「思ったより大きい村ですね」
「馬が買えそうだな」
「……そうですね」

半目で俺を見るクロウ。
なんだ文句あんのか。
俺はスルスルと小型化して黒犬になった。フンっと鼻息荒く森から街道に出る。
ん?
村の方からくる臭いに脚が止まった。
嗅覚で左右確認し人気が無いので声を出す。

「地図を確認してくれ。方角間違ったかも」
「え、でも村がありますよ?」
「いいから確認しろ」
「えーっと…間違ってませんよ。次の村はウィータです」

地図をくるりと回したり地形を確認して自信満々に答えた。

「海が近いのに家畜が多いのか」
「え?普通に漁村と聞いてますが、なんですかさっきから」
「人の臭いが殆どしないで獣の臭いばかりの村だぞ」

クロウは「ん?」という顔をした。俺もつられて首を傾げたら、ひらめいた様だ。

「ああ。魔狼様は人里を知らないんですよね。ウィータの村はこの大陸では古くて、村人も古代種の血を引く獣人族がいます。だから人間の臭いが少ないんじゃないですか?」

獣人ってあれか。けもみみのっての。俺がMMOアバターで使ってたヤツか?

「耳ついてるやつか」
「そうですね」
「尻尾も」
「付いてますね」
「そうか。納得したぞ」
「では行きましょう」

異世界でまさかケモミミ獣人に会えるとは思わなかったぞ。
俺は少し足取り軽く村に向かった。


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