俺は帰りたいんですが。

つちやながる

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そして期待には裏切りがつきもので

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俺の前には子犬の子が転がってる。
伏せって俺と同じ姿勢をしたり、動かない俺が退屈なのかゴロゴロと行ったり来たり転げては目の前に戻って来る。

「……」
「わ、ん、こ!」
「……」
「わーんーこー?」
「……」
「ねー?」

わんこかウンコか知らないが、静かにして欲しい。

お前もわんこだろ。パピヨンみたいな耳と尻尾はついてるし獣人に間違いない。
確かに、ケモミミには間違いない。

・・・これってケモナーってやつか。

想像したのと違った。獣ベースの人だった。犬や猫、虎、狐とか二本脚で歩いてんだぜ。
そんな中で四足歩行のは逆に目立つわけで。
村の中に入った時の俺の戸惑いは半端なかった。
昔やってたMMOアバターのケモミミッ子を想像してた俺は、思い出してまた耳がしんなりした。

ここは宿だ。フィルは部屋に行った。獣人の町らしく部屋に獣類入れていいって事だったが「魔狼様とベッドイン!」とかなんとかハァハァ興奮して気持ち悪かったからな。前脚で向こう脛はたいて追いやった。

で、ココは受付ロビー前だ。そして目の前には宿屋の子供。犬の獣人の子供だ。
めっちゃ絡まれてる。俺、何かしたか。眉間にしわ寄せ目を閉じたまま考える。

「あらあら、クルルさん。わんこさん困ってるわよ」

ここの奥さんが子供をひょいと持ち上げた。

「ぎゃ」
「あははー」

クルルは魔狼の毛をいつのまにか掴んでいて思い切り引っ張られることになった。たまらず声を上げた。

「あらら、駄目よ。わんこさんイタイイタイでしょ」
「ねー?」

ねーじゃないから!
相手してられるか。俺はドアの前まで行き、前脚で開けろと言わんばかりにドアを頭で小突いて合図した。
もう俺は外で休む。自由にするぞ。

「トイレかしら。はいどうぞ」
「どーぞー」

開いたドアから一目散に飛び出た。

時は夕刻。もうすぐ闇夜の時間だ。人も獣人も仕事帰りなのかの見に行くのか雑踏がみえた。
漁師村という割にしっかりした石造りの建物が多い。
音も臭いも多くて落ち着かない。ふらふらと休めそうなとことは無いものかとぶらついた。

「おっ、めずらしいな犬っころ!」
「首に何か巻いてるぞ。飼い犬かぁ?」

サモエド風マッチョ犬と白虎マッチョに道を阻まれた。微妙に酒臭いし、なんかあんたらに犬と言われたくない。くるりと進行方向を反転した。

「……」
「わんこっ!」

ちょこんと息切れしながら寄って来たのは、さっきの子供だった。

「おっ宿屋の。暗くなっから家帰れよ~」
「クルルちゃん、おうち帰んな~」
「わんこと、かえるっ!」

クルルは魔狼の尻尾をぐいぐい引っ張り始めた。

「ぎゃ」

くああああぁ!なにすんだ!痛い痛い!

「あははは。そりゃ駄目だぞクルル~」
「それは痛いぞ~。放してやれよ~」

男たちは苦笑した。クルルは痛いと聞きパッと手を放した。
俺はチャンスとばかりに駆け出した。

「う、うあああん!わんこ、まってえぇぇ!!」

は?

振り向くと、めっちゃ泣き顔で追いかけて来るクルルが見えた。必死な形相に俺は固まった。
さすがに子供でも獣人。犬の駆け足に直ぐ追いついた。
むんずと俺の毛を掴んだクルルを見ると、満足そうにニヤリとした。
え?何だ今の笑み。
と、とりあえず暗くなったし宿に連れて帰らないとまずいか。
何で俺が。
はぁと溜め息を吐くと、ぐいぐい引っ張られる。

も、勘弁してくれ。

項垂れてクルルの進む方について行くのだった。


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