俺は帰りたいんですが。

つちやながる

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のきさきから見える事

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ゴーーン

ゴーーン

夜の静寂の中、煉瓦造の宿屋でも床から振動が伝わる低い鐘の音がした。

なんだ?
ツンっと鼻に暖炉の炭のにおいが入る。スッと頭を起こしウトウトしてた所を起こされ眉間にシワが寄る。
宿屋の中も慌しい足音と声が聞こえ始めた。

そういえば鐘の鳴らし方で報せの内容が判るって聞いたことがあるな。

「港倉庫で火事だ!協会と賊か小競り合いらしいぞ!」

ドアの向こうで声大きく「逃げろ逃げろ」と知らせる声が聞こえた。
小競り合いで逃げる?
ベッドにいるはずのクロウを見た。寝起きが悪くともさすがに起きた様だ。

「ああ、まずいですね。これは出ましょう」
「小競り合いでか?」
「火事はある意味指標なんですよ。この場合暴徒化して放火って事です。便乗騒ぎ窃盗、喧嘩好きが増えるで想像して下さい。荷作りして出ましょう」
「明日の転移はどうなる」
「今から集合場所に」
「お前、魔術で火消しとか」
「出来ますが、領内には大体契約術師がいるので無闇に手を出して揉めたくないですね」
「…色々ありすぎるな」

忙しく宿屋を後にする事にして、目

の当たりにした風景に絶句した。

「まじか」
「あ~、これ危ないかも。急ぎましょう」

少ないガス燈の明かりの中、かなりの町民が私財を抱え馬車に載せ走り回っていた。その中で騎馬兵が誘導か鎮静化目的なのか馬上で怒声をあげる。
子供の泣き声、人や馬、馬車が行き交い所々で小さな小競り合いが生まれる。
カオスだ・・・。
闇夜の空は火災が大きいのか茜色に染まっていた。煤けたにおいと燃えカスも灰となって落ちてくる。
「ループス様?行きますよ」
「様はいらん」
クロウは青毛の馬に跨り喧騒を駆けて行った。魔狼もそれに続いた。

人の足、馬の脚、車輪。
この人混みの中、犬の視線の高さで馬一頭の脚を見分けるのは困難だ。
鼻が頼りだった。
くそう。鬱陶しい。臭いも鼻につく。音も判別して拾いにくい。この混雑!
「ん?普通に犬やってる俺も変だな」
それに気付き建屋の壁をとっと蹴って屋根に上がる。上から集合場所の門を目指す事にした。

とんっ

軽く一回跳躍して数軒分。
快適だ!
眼下の喧騒は街中心が酷く、すぐ隣の港はまだ黒煙が上がり延焼が拡大していた。
有事の際町人が避難出来るよう適度な間隔で広場がある。皆そこへ一度集まるらしい。

「うあああん!」
「あっ!マリー!!」

耳が拾ったのは子供の声。手が離れた親子。人の並に飲まれて子供が見えなくなった。こんな時は自分優先だ。助ける大人も少ない。
あー…。屋根から降り子供の襟を咥えて引っ張り親の元に引きずって返した。

「あっ、こら!どうどう!」
「うわー!」
「うぐぁっ!」

パニック起こした暴れ馬が町人を蹴りまくってた。甲高い嗎で他の馬にも伝播しているようだった。
はぁ…。魔狼は犬の姿で馬を睨み大人しくさせた。

「ぐへへへ」
「いやーっ!助けてーっ!」
「うぶっ?!」

混乱に乗じて婦女子に不埒な事をする酔っ払いだ。…いい歳して情けない。屋根から落下蹴りした。

「おらおら、騎士さん降りなよ」
「多勢とは卑怯な!」

明らかに土地人じゃない十人程の賊が、騎馬兵二人を囲み寄ってたかってしていた所だった。あちこち侵入し盗みもしたのか袋には重そうな貴金属のにおいがした。

「えっ?うわあああっ!」
「いだだだっ!」
「なっ?犬っ?わ、やめろ!」
「ぎゃあああ!」

お前らのせいで寝れなかったじゃないか。ああー鬱陶しい。ボヤきながら賊全員の足に思いっきり噛み付いて転がした。

そしてまた屋根に戻る魔狼。

あれ?

・・・俺、何やってんだろ。

門は目前だった。

夜明けと共に落ち着きを取り戻した港町は、不思議な黒犬の噂で持ちきりだった。



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