俺は帰りたいんですが。

つちやながる

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第二章 勇者召喚

かってなのはお互い様

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 獣クサイのは腰に巻く毛皮。剥ぎたてのようだ。後ろ姿は緑がかった薄い色の髪が腰まで流れ、細い身体のラインを露わにした服に胸と腰回りと腕に軽微な鎧。背に矢筒を背負い、手には長弓を持つ。そして特徴的な耳は上に長めで尖り気味。

「子連れで狩りか。呑気なもんだな」

 ファンタジー的に言えばまさかのエルフ?魔族も獣人もいるなら存在してもおかしくない。あの女王よりあきらかに成人で美人なんだけどこの口調。

「……まあな。この辺なら安全か」
 暗いうちに移動を考え離れたい気持ちで声を掛けたら振り向かずに言われる。

「都市の者なら食うにはまだ困ることは無いはず。賞金稼ぎの狩りは趣味か」
「……そうだな」
「その狩りに高額な服、武器も持たず魔力も無いのに高い身体能力。森に入るのは分不応相というものだよ」
 振り向くと女は素早く弓を構えたと思う瞬間矢を放った。

「っう」
 二本の矢をプーを抱えた逆の胸近くに立てた魔狼は足を崩し蹲る。プーはキョトンとした顔のまま魔狼の腕から転がり落ちた。

「は、はは!避けれずか?やはり人間はたわいも無い生き物。魔族とやり合うなんて負けが見えてるぞ。それに魔力があるのはその子供か。人の世に勿体無い力のようだ。お前、こっちに来い。しかし何で裸だ」
 女はプーに手を伸ばした突如ポンっと音が聞こえそうに姿が消失した。そこに浮かぶ光球はすーっと静かに舞い、蹲る魔狼の黒髪の中に紛れて消えた。

「え??」
 あんぐり口を開けた女は足首を掴まれた感触を思った途端、視界が揺れ流れた。

「あっ、ぐ?!」
 ドッ

 その場に倒れたと気付き瞬きをした目に入るのはニヤつく魔狼が立ち、見降ろし刺さった筈の二本の矢尻を向けていること。

「動いて脇に矢を挟むのも見えてないとは大したこと無いな。聞きたいことが山ほど有るぞ」
 魔狼は口角を上げ目を細めた。美形な顔に張り付いたような妖しい笑みだった。

「……え?精霊持ち!?」
 女は見惚れたか、これからどうなるのか不安からかゴクリと喉を鳴らした。



「よし話せ。種族所属、素性からな」
 俺は弓を押収し、素早さと力はこちら側が上だと聞かせ異世界人に辛い正座をさせた。

「く、クソが。足が辛い!」
「下品だな。俺は力と速度は魔族にも勝る。本気になればひと捻りだが?(多分)」
「う」
 つんつんと矢尻を頬に当ててやる。俺も段々こなれてきてるな。あー面倒くさ。

「エルフ族だ。魔団第七師部、を、逃げて、金目の物をもらいつつ集落に帰る途中だ」

 ぷすっ

「いたっ!さ、刺さったぞ!刺したなっ!」
「何言ってんだオマエ」
「だから、家に帰る途中だ、いたたっ!」
「はあ?」

 ……逃げて追い剝ぎ中って事?手元が狂う。ああ、なんか手が震える気がするぞ。

「お、お前、ワザとだろ!矢尻を向けるのをヤメろ!」
「何か言ったか」
「あ、あわわわ!」

 ここはエルフきたーー!と感激するトコか。あー悩む。悩むなあ。クロウに召喚された時を思うと先はまだ長いわけで。出会うNPCにクエスト課せらて進むRPGだと思わないとストレスたまるぞコレ。何たって出だしが勇者召喚。

「どこからツッコむんだ」
「え?ま、まさか、矢を突っ込む気か?ご、拷問?!やめろ、やめてくれ!」
 そのツッコミじゃないんだが。まあいい。

「あー、何で逃げた」
「エルフ族の中には争い嫌いがいるんだよ。一番の戦闘好きはダークエルフだ」
「じゃ何で魔族」
「……人間以外は魔族だろ。何言ってんだ」
 え。そんな基準?てことは、この女王のいる国は人以外は敵って事か?うわーキツー。さて、勝手の違うこの大陸で何聞くべきか。

「獣人は?」
「あれは人と交配するが魔力がない。魔族でも人族でもない獣人族だ。当たり前の事を聞くな」
 て事は、魔力がある種族が人の敵?

「……七師部は」
「偵察隊だ。こぞってエルフ族が希望したから今頃各地逃亡中だろう」
「集落はどこだ」
 俺はピンと来て、大陸の地図を思い出し地面にこの大陸の形を足で適当に描いた。それをチラリと見るだけの女。

「……魔国だ」
「なのに何故人間の領地にいる」
「均衡戦地が三地点。偵察で入るのは戦地になる直前、前任が一定期間帰還しない場合に次が送り込まれる。前線混乱した折迂回して集落に帰る気でいる。師部やら検問で魔力判別色々あるから時期を伺っている」
「だからその集落はどこだ」
 矢尻を再び頬に向けると素直に地を指し示した。

「こ、この辺だ。前線になるとその集落から部隊人員補充されるんだ」
「人間と同じだな」
「そ、そうか、とにかく、金目の物が欲しかった。人の振りして過ごすにも持ち金が多少なりいる」
 指し示した所に印をつけ地図を見て防衛戦地は山麓だとか大河云々を思い出す。

「おい、ここは大河の向こうか」
「そうだ。二つ目の大河があるだろ。この河沿いにある集落だ。その前が国境だ」
「この国に入った山麓の周りが前線だな」
「そうだ」
「この河の海岸部は港はあるか」
「少し南下すれば」
 よし。クロウの住む大陸の方向はこっちだ。魔力持ちが人の敵なら海を走って渡るのもリスクが高い。船旅がいる。矢尻の先端を見て目処がついた事に満足する。

「オマエ、そこまで案内しろ」
「は?」
「前線に入らず何とかしろ」
「ええっ?」
「立ってみろ」
「……え、ぅっ?!」
「ほれほれ」
「うわっ、い、や、やります、や、足に触るな、うわあぁ!こ、これは何だ!」
「痺れるという血行障害だ」
「は?な、直るのか?!」
「こうすればな」
「わぁあああっ!!」
 足を伸ばして大絶叫。ほんと正座の足痺れは異世界人に効くな。地図を買わずにナビエルフを手に入れた。信用できるかは後で何とかなる。よしクエストクリアだ。多分。



「き、貴様、人間じゃないだろ!」
「さあな。遅いぞ、もっと早く走れ」
 エルフを横に森の中を疾走中だ。魔力を足に乗せ走るエルフは、俺がひと蹴りして飛ぶのに何とか並走できる。なかなかの速さだ。
 さすが魔力持ち。魔狼の脚力に勝てるのは古竜とか上位魔獣だけだ。

 プーは警戒か昼寝か頭に乗っている。ほんと気まぐれ。

「なぜ精霊持ちなんだ!神官か!」
「神官?あれは精霊じゃないぞ」
「光球は精霊だ!」
「煩いな」
「おい、弓を返せ」
「必要になれば返す」
「今いるだろ!」
「あー、いるかな」
 ほんと煩い。よく喋る。質問攻めだ。確かに数頭追いかけて来る獣がいる。枝が折れ葉擦れの音が背後から聞こえ不思議な魔力の色が見える。魔力を持つ魔獣。この国の魔物は魔国とは関係ないただの獣だ。

「呑気だな!中型のエルンカだぞ!」
「何だそれ」
「知らないのか!?」
 俺は獣で狼の魔狼。今は人の形《なり》してるけど、人だかが付けた魔物の名前なんぞ知らんがな。

「な、なんで止まるんだ!」
「え?エルンカ見るから?」
「あ、ぁああ!?アホか!あの糸はヤバイんだぞ!おい、走れ!」
「糸?」

 ヒュンッ

 目の前を太めの白い物が通り過ぎた。

「おお?」
「逃げるぞ走れ!糸は数メートル以上飛ばすし側面に回らないと避けにくい。白は粘着、個体で毒か粘着か、ぶっ!」
「おぉ」
 目の前のエルフの顎から胸にかけ白い糸が命中した。次々と辺りに同じものが飛来していた。糸と言うより白い粘着ゴム?百円程で売ってる引っ付くゼリーだな。

 スザザザザッ

「うわあああっ!」
「そうなるか」
 呑気にエルフが引き摺られ視界から消えるのを見送った。なるほどなぁ。何故か俺に当たってもすべすべ落ちていくんだ。俺の身体どーなってんだ。やっぱ全属性無敵なのか?無双ウハウハ?いやコレ助けろってやつか。面倒くさー。今ならクルフェルの気分が解る気がする。

「……早々にナビを失うのもなあ」

 魔狼は軽く笑いエルフが引き摺られた方向に地を蹴った。

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