俺は帰りたいんですが。

つちやながる

文字の大きさ
54 / 71
第二章 勇者召喚

これからどうする?進むでしょ。

しおりを挟む
 陽が真上に来た頃、目的の浅くて広い川辺に到着した。
 ダークエルフの凄惨な結果は、予測しない展開こそ驚きはしたが胸が曇ることはない。魔獣として生きてきて、獣を殺めてスプラッタだろうがそのまま食べる。血塗れも見慣れたもんだ。

 元来当たり障りなく過ごしたい性分で、他人に降りかかる出来事は他人事でしかない。共感さえ無理かも知れない自分が巻き込まれるのはゴメンだ。
 それでも気が付けば束の間の安息から弾き出されて今ここだ。立ち止まり動かなければ何も起こらないかもしれない。否だ。まだ駄目だ。自分の居場所はここじゃないから行動するしか選択肢がない。

 これもある意味八方塞がり。どう動いてもクエストが発生するという悪路が待ち構えていることに頭痛がする。

 水辺に寄ると、プーは笑顔でバンザイをしてパシャパシャと川に入り座り込む。気持ち良さそうだ。光球虫はキレイな水が食事だからこれでいい。
 自分も手で澄んだ水を掬い、ゴクゴクと飲み干しひと息ついた。

 勇者に魔王。戦争。都市近郊侵入の魔族。人間の魔力保持者以外は魔族。行きたい先は戦地奥の港と海の向こう。同行は裏のありそうなエルフ。故郷グルガナの森は遠い。

 今回の召喚はリスクが多過ぎる。

 疾走している時にイラついて蹴りで捕獲した角ウサギの新鮮な後脚を噛みちぎる。人化していても小骨くらいバリボリ噛み砕けるが食事としてのメインは肉。骨は美味しくないからペッっと吐き飛ばした。

「げ、生で食うなよ!」
 干し肉を齧るライバの嫌そうな声が聞こえた。結局、勝手の違う世界にナビは必要で、国境越えまでは共同する事にした。

 森の引き篭もりの俺、人の世の歴史無知は当然。ましてや違う大陸の事なんか知る由もない。過去か現在の判断基準もない。

「はあぁ」

 溜息しか出ない。
 人化して本能を抑えてる現状、そろそろ魔狼の姿で思いっきり駆け回り遠吠えしたい。枯葉や湿った土の上でゴロゴロ転げ回りたい。後脚で耳の付け根をカッカッと掻きたいという欲求が沸き起こる。

 くっと口角があがると、犬歯が伸びる気がした。むずむずと歯痒い痒みは頭頂部。耳でも生えてきそうだ。

「おい、聞いてるか。進路確認だ」
 ライバの声でハッとした。

 あ、今なんかヤバかった。魔族側だとは言ったが、この大陸で魔狼の存在がどんな位置にいるのかも不明。戻りたいのに犬にもなれない。これは新しいストレスだ。

「聞こえてるか」
「……ああ、さっきの町がこれか」
 気持ちを切り替えて、ライバが広げだ紙地図を覗き込むと、読めないが地名か集落か文字間隔が狭いことに気付く。

「森は終わりだ。あとは山まで畑や農村を挟む平地。町というより村が点在する。低い山を超えるより街道沿いを進む方が早い」
 ライバは通過点をなぞらえ、予定進路はこうだと指を更に動かして示した。

「城からだいぶ離れたな」
 街道だという線を見ると、森を走ってショートカットした甲斐があるのがわかる。

「街道半分の距離で済んだな。防衛戦を迂回するには物資補給の中継町が山麓のここ。間の村々が兵員拠点。情報確認しながら側面から山を越えるのがいい」
「この山の三方向が防衛戦か?」
「谷が三箇所ある。平常主要街道と物流路。ここを抜けたら王都陥落だから死守したいわけだ。山を越えた山麓周辺は人が溢れてる。だから目立つ谷以外を進む」
「……抜け道でもあるのか」
 容易く偵察に来れてる事を不思議に思う。

「地岩竜の住む山に抜け道はない。あるのは採掘場だ。俺は大河が防衛戦の頃に谷を通った。来た道だからわかる」
「地岩竜か」
「古竜は流石に知ってるだろ」
「ああ、故郷は炎竜がいる」
「炎竜?豪火竜じゃなくて?興味深いな、まあ、見たことはないが大陸で最高峰の山だ。
無限に採石できるし住処だと皆思うだろ」
 ライバは肩を竦めてみせた。

「いないのか」
「さあ?」
「見たことないからか」
「誰もね。昔話だ」
「聞きたいことが山程ある
「ぇ……精霊!」
「?」
 ライバが突然立ち上がり駆け出した。プーが何だと川を見ると、米粒ほど小さく遠くに見えた。な、何で流れて行ってんだ?

 魔力を使い走れば流水速度なんぞ容易く追い付ける。先に走ったライバが川に入り、プーを抱き起こした。

「精霊、どうした」
 浅瀬に座ったプーはジト目とか半目だとか不機嫌な顔をしていた。ライバは初めて見る表情に戸惑う。

 それ知ってる。眠たいだけ。眠気でやる気出ないの顔だ。

「プー、ずっと寝てていいぞ」
 声を掛けると、目が丸々となりニコっと笑った瞬間虫に戻った。陽の下でも柔らかな光をまといフワフワと舞い、俺の頭上に向かって来る。購入した携帯ポーチを開けて指差すと、お礼なのか指に数回体当たりしてからボトッと勢いよく中に入った。プーもきっと疲れている。早くグルガナの森に帰ろう。



 ライバはプーが着ていたフードマントを回収し、乾燥魔法をかけると小さくたたんで荷袋に入れた。

 次は森が終わるまで走り抜けば、街道を歩く事になる。馬は戦場に優先され買取が難しいらしい。川辺でもう少し休息をとることにした。

「そうだ。服はいくらだ」
「一万」
「払おう。換金した」
 ポーチに手を突っ込むと、ぷもっと揺れる軟体はプー。硬い丸い銅貨を一枚取り出して投げ渡す。

「どうも。エルンカか。いくらになった」
「三十万フラ。物価がわからん」
 この大陸の例だと、ひと月の給料が多くて五十万、安くて宿は三万から、食事は店なら二千、パンひとつ三百と教えられる。冒険者の討伐はいい収入だと実感した。

「盗賊する必要なかったんじゃ?」
 魔力持ちなんだ。獣なんか余裕だ。

「魔法使いに透視持ちがいたり、魔力が無いのに魔力感知をする。女はジロジロと見てくる。男は難クセをつけてくる。人間の能力は偏っていて変だ。冒険者は魔族と反りが合わない。何回かエルフだとバレた」
「それで盗賊か。魔国にギルドはないのか」
 ライバは何言ってんだ?という顔をした。

「ない。必要ない。素材も自分で魔力加工できるし魔法も使える。大体の事が可能だ」
「そうか。じゃ精霊とは何だ」
「……存在する神聖なもの。見守るもの。精霊が側にいた光の王という者もいたらしい」
「光の王」
「昔話、絵本は勇者とも。事実かは知らん」
 それを聞き『聖霊の加護・精霊と勇者』の図が何となく結び付いたが、眉間にシワが寄った。俺=勇者になるからだ。

「質問が多いな。いつこの大陸に来たんだ」
「二日前」
「は?は、ははっ!貿易船ででも来たのか?それで戦争だかで関わりたくないと慌てて帰るということか?」
「そんなとこだ」

 そう。帰るんだ。ここには魔族がいる。クロウ達の師は魔族。高度な魔術を使えるし開発もしていた。つまりこの大陸の魔族も同様あれが使える可能性がある。訊きたくて仕方がなかった事。

「因みに転移術が使える魔族はいるか」
「知らん。それはまた高位魔術だろう。おいそれと使える訳がない」
「そう、だよな」
 またか、と微妙な視線を向けられた。そんな辺事だと予想したが聞くと辛い。陸路を進むしかない。進もう。

 呑気に話していたら陽の角度は大きく変わっていた。それに大小の獣の気配とニオイが流れてくる。川の向かい背中側と囲まれていた。

「……ライバ、どっちがいい」
「背後を貰おう」

 スッと立ち上がった直後、二人は獣に向かって駆け出した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...