俺は帰りたいんですが。

つちやながる

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第二章 勇者召喚

ぬしは気紛れ

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「ルーは非道なのじゃ」
「人聞きの悪い。トメちゃんからすれば驕る事なかれだろ」
「上手いこと言うのぅ」

 フフンとお互い鼻で笑ってしまったが、目下そこに転がっているのはルクセル。
 魔法は衝撃に耐えきれず避けれもせず、足の上を大岩が通過した騎士ルクセルの足装備は変形し、骨が飛び出していた。

「ぐ、っ、貴様!」
「やれると言ったのはソチラだが?」

 ルクセルは黙り込む。
 雲は切れ切れ、曇天ながら明るく雨は降り続く。通り雨だろう。
 濡れそぼる弱った女性と、芳醇な血の香りに牙を剥きたくなるのは獣の本能か。
 何かを察した鳥は離れて降り立ち警戒を含んで鳴いた。

 クルルルッ!

「その足で城に帰れ。鳥の旋回は鬱陶しい。召喚された者は間違いだと伝えればいい」

 冷やかな視線共に言葉を投げる。

「……ぅ」
「して次はどうするのじゃ、ルー」
「面白がってるだろ」
「なんと、わかるか?本より面白いのじゃ!
 その巻き縄姿もなかなか古風じゃの!」

 俺はガクリと項垂れた。トメちゃん完全に他人事。冒険物語だと楽しんでるぞコレ。

 確かに俺には捕縛術で縄がぐるぐると巻き付いている。偉そうなのも滑稽だが、全属性耐性だし生活魔法系も効かないらしい。形作り巻き付いてるだけだった。

 腕を動かすと縄は容易に解け落ちる。

 俺は本当に変わってしまった。次にすべき事を本能でなく考えて思うのは相手が人だからなのか。

「トメちゃん、治癒頼む」
「知らぬ。我の身体は自然治癒が優れておるから必要ないのじゃ」
「……そうデスカ。プー、起きてるか」

 高飛車に言い切るトメちゃんをスルーし、声を掛ければマッキントッシュコートの合わせから、プーはひょこっと顔を出した。
 雨に気付いて上を向くと嬉しそうな顔をしてコートから出る。

「悪いが治してくれるか?」

 ルクセルを指差すと、俺を見てニコニコしてから駆け寄っていった。それに驚きを隠せず
 体を動かしたルクセルは苦痛に呻く。

「なんだこの子供、っつ、どこから?!」
「精霊じゃ。治癒するらしいからの。大人しくしておれ人間」
「聖霊?!」

 プーは近付くと掌に光球を集め、ルクセルの足や頭部にそれを飛ばした。浮遊する仄かな光は傷を覆い、やがて消失する。
 それだけで苦痛もなく完治だ。呆気にとられるルクセルは重傷の足だった健肢に注視して、それから恐る恐る動かした。

「……治った」
「凄いな、プー」
「良い子よのう」

 プーは褒められて嬉しいのか、両腕を広げて飛びついてきた。泥濘《ぬかるみ》の泥水を思いっくそ跳ね上げながら、そのままよじ登り肩車になる。コートが泥塗れだ。

「て、ことで」

 用事は済んだ。俺は先を急ぐ。
 そして歩き始めた。

「待て!」

 待てと言われて待つわけ無い。
 スタスタと麓の山道に向け歩く。

「ルー、待つのじゃ」

 前にトメちゃん。後ろに女騎士。 
 ここはBダッシュするべきだろうか。
 トメちゃんはライバの後継ナビだから必要だよなと顔を見た。

「港はあっちじゃ」
「……そうか」

 反対だと指摘され踵を返すと女騎士。背が近いから視線が直ぐ合うが、すいっと逸らされた。

「そ、そのだな、非礼は詫びる。それに、確かに過信もあった故の負傷。だがこれでもこの国の陸師団長だ。魔法も自信がある」
「……そうデスカ」

 興味無い話に素通りすると腕を掴まれた。

「なんだ」
「治癒は助かった。礼くらい言わせろ」

 視線を横にチラ見しながら礼だと?
 女騎士はツン属性なのか。
 真顔でルクセルを見た所で邪魔が入る。

 べしっ

「……プー、に礼だな。トメちゃん行くか」
「行くのじゃ!」

 俺はトメちゃんに後続して歩きだした。

「えっ、おい!待て!」

 ルクセルは、己の存在を忘れたように進む二人を追いかけた。



 数時間は休みなく歩いて雨が止み、もう日暮れが近い。眼下の景色も変化はない。
 人の歩みは大体時速五キロ。たいして進んでないわけで。湿った地図を広げてトメちゃんを呼び止めた。

「今どの辺だ」
「多分この辺じゃ」

 くるっと囲んで示されたそこは山の麓近くだが。なんでアバウトなんだ。国境は超え既に魔国らしい。

「もっと早く歩けるだろう。魔力も使わず、時々立ち止まって何をしているんだ」

 トメちゃんは先導するものの、ふとしゃがみ込んで止まるのだ。おかげで後方は間隔を保ったルクセルが追跡中だ。

「これなんか雨か崩落で丸くなった年代物じゃ。我の魔力が残っておる」

 そう言って、どう見てもただの小石をワンピースにポケットがあるのか、そこにしまい込んだ。何で拾うんだ。

「久々の外は地形が変わっとる。空から見れば早いが冒険にならんじゃろ?それに小腹がすいたのじゃ」
「そういえば」

 一日以上食べてない。そうこうしてるうちにルクセルが追い付いた。息も少し上がり水も滴る女騎士。部分装備ながら、正直色気を含み気丈な雰囲気はカッコいいと思った。

「っはぁ、な、何かあったのか」
「小腹が空いたのじゃ!」
「……魔国入りしたぞ。さっさと帰れ」
「そうもいかん。王も戦も然程興味はないが自分は国の歯車のひとつ。仕事はする。それだけだ」
「は?」

 興味がない?意外な言葉に戸惑う。騎士たる者、国に王に忠誠を誓い尽くす者じゃないのか?

 ぐうううぅ~

「ルー!我も腹が空いたのじゃ」
「……っ」

 ルクセルの腹が鳴った。恥ずかしさよりもしまった!という顔でソッポを向くルクセル。ちょっとコレ可愛いと思ったら駄目なのだろうか。

「仕方ない。腹が減っては、だ」
「なのじゃ!」

 トメちゃんが満足そうに答えた時だった。
 足元が抜けた気がした。

「、っな!?」
「え?」
「ご飯なのじゃ!」

 えええぇ?また底なし沼に落ちていく感覚を味わうとは!なす術もなく暫く暗闇を落下していくのだった。



「お帰りなさいませ」
「お早いお戻りで。何が御入用でしょう」

 また何処かの地下空間だった。何も無いだだっ広い場所にあるのはゴシック調テーブルと椅子。目の前には紺の髪を両サイドに三つ編みしたメイドと口髭蓄えた白髪の中年紳士がいた。

「食を用意せよ。連れにもじゃ」
「わかりました」
「御意」

 立ったまま二人は床下へ吸い込まれた。

「な、なんだここは!どうなっている!?」

 ルクセルはそれを見てクワッと覚醒し、周囲を確認し警戒していた。目力凄いわ。パニックにならないのは流石だな。

「地下は我のもの。どこからでも入れるのじゃ。流石に住処には入れないがの」
「地下だと!?」
「トメちゃん。俺はいい、肉がある……て、どこからでも入れて出れてたよな」
「だから港まで旅するのじゃ!我はズルはしないのじゃ」

 フンと鼻で返事をされた。クソ。気紛れで旅するとか飯とか。このまま俺帰れる?大丈夫なんだろうか。訳がわからない顔をするルクセルに舌打ちしてしまうが、これも仕方ない。

「これは古竜。地岩竜。ここは山の地下だ」
「???」

 あ。固まった。そりゃそうだよな。伝説だし竜の姿じゃないしな。

「人間は嫌いじゃがルーが気に入っているなら、まあいい。座るのじゃ」
「誰が気に入ってるって?」
「だって助けただろう。人なんぞ噛むか弄んでポイじゃろ?」
「弄ぶ言うな」

 強ち間違いじゃない。クロウやクルフェル達が友になってから、牙を剥く気が減っているのも確か。人なんぞどうでもよかったのに結果協働する羽目になるのだ。

「信じられない顔なのじゃ。ほーれほれ」

 ぽかーんかとするルクセルにトメちゃんは腕を竜翼にして見せた。もう硬直するしかない。
 気が付けばそこにあるゴシック調テーブルセットと、いつの間にかいつの存在する三つ編みメイド。
 促されるまま椅子に座る。 ため息しかでなかった。

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