51 / 58
51 邪法 2
しおりを挟む
「待って明興兄さん! 私は狐なんか殺してしまえって言ったじゃない! お父さんと違って神排に賛成したし、彩愛様からシエキを育てる特別な術も教わったのよ!」
必死に訴える桃香の声が倉の壁に反響する。
「桃香、父さんを見捨てる気か!」
「ちょっと桃香! 彩愛さんから術を教わっていたなんて、お母さん聞いてないわよ!」
「煩いな、黙っててよ!」
三葉は唖然としたまま、家族だった人たちが互いを罵り合う光景を見つめていた。
「父さん、母さん。桃香……分かってくれ。彩愛の術を完成させるためには、羽立野家の血が必要なんだ」
明興の声はどこか異様な興奮が含まれていた。
叔父夫婦が震え恐怖に顔を引きつらせる。
「神を奉っていた家の血は、よい贄になるの」
彩愛が明興の腕に寄り添い、甘やかに相づちを打った。
「羽立野家を継ぐ明興さんさえいれば後は不要よ」
「なぜだ、わしが折角、羽立野家は神排になったと知らしめたのに……」
「ええ、だからこれからは神排を辞め、改めて狐を奉ることにしたのだと、嘘を広めるためにも必要なの。信仰心なんて要らない。ただ名を使えばいいのよ」
妖しい微笑を浮かべ、彩愛は囁く。
神排に賛同する者はすでにふるい分けられた。
次は神を奉る者たちの中に潜り込み、内部から蝕む――それが彩愛の企みだった。
「彩愛は素晴らしい策士だよ。俺はこれから、彩愛と二人で羽立野家をもり立てていく。だから父さん達は安心して死んでくれ」
言葉は支離滅裂で、明興の浮かべる笑顔は狂気そのものだ。実の両親を生け贄にすることに微塵の躊躇もなく、むしろ誇らしげですらある。
「嫌よ! 彩愛様、どうして! 私はあなたに憧れてたのに!」
「ええ桃香。私もあなたが大好きよ。あなたの醜い感情は、生まれたてのシエキには丁度良い餌になったもの」
「だったら」
「でもね、もういらないの。欲しいものは全部手に入ったから」
穴の淵から数匹のシエキが這い出て、桃香の着物に噛みついた。そして暗い穴の中へと引きずり込もうとする。
「やめて! 命だけは助けて!」
桃香の絶叫が倉の壁に反響する。
「安心しろ桃香。お前はシエキとして生まれ変われるんだ。永遠に俺達の役に立てるんだぞ」
「いや……いやよ! 死にたくない!――」
泣き叫ぶ桃香の喉に、一匹のシエキが噛みつく。
するとその目からみるみるうちに光が失われ、床に崩れ落ちた。その姿は、まるで糸の切れた操り人形のようだった。
「桃香!」
三葉は思わず叫んだ。
「無駄よ。彼らの魂は、もう私のシエキが喰らったわ。……あらあら、こんな立派に成長するなんて。想像以上だわ」
どこか恍惚とした顔で彩愛が呟く。
穴の底から暗がりを裂くように、更に黒く巨大な影が現れた。
蛇の形をした黒い骨は、関節をを軋ませながら穴の縁を這い上がろうとしている。
血と腐臭の入り混じった風が吹き上がる。
「さすが羽立野の血ね。神を手放した間抜けでも、血だけはご立派だったみたい」
「これが神排の力か。素晴らしいぞ彩愛」
彩愛の肩を抱いて、明興が狂ったように笑う。
常軌を逸した光景に、三葉はただ唖然とする。
必死に訴える桃香の声が倉の壁に反響する。
「桃香、父さんを見捨てる気か!」
「ちょっと桃香! 彩愛さんから術を教わっていたなんて、お母さん聞いてないわよ!」
「煩いな、黙っててよ!」
三葉は唖然としたまま、家族だった人たちが互いを罵り合う光景を見つめていた。
「父さん、母さん。桃香……分かってくれ。彩愛の術を完成させるためには、羽立野家の血が必要なんだ」
明興の声はどこか異様な興奮が含まれていた。
叔父夫婦が震え恐怖に顔を引きつらせる。
「神を奉っていた家の血は、よい贄になるの」
彩愛が明興の腕に寄り添い、甘やかに相づちを打った。
「羽立野家を継ぐ明興さんさえいれば後は不要よ」
「なぜだ、わしが折角、羽立野家は神排になったと知らしめたのに……」
「ええ、だからこれからは神排を辞め、改めて狐を奉ることにしたのだと、嘘を広めるためにも必要なの。信仰心なんて要らない。ただ名を使えばいいのよ」
妖しい微笑を浮かべ、彩愛は囁く。
神排に賛同する者はすでにふるい分けられた。
次は神を奉る者たちの中に潜り込み、内部から蝕む――それが彩愛の企みだった。
「彩愛は素晴らしい策士だよ。俺はこれから、彩愛と二人で羽立野家をもり立てていく。だから父さん達は安心して死んでくれ」
言葉は支離滅裂で、明興の浮かべる笑顔は狂気そのものだ。実の両親を生け贄にすることに微塵の躊躇もなく、むしろ誇らしげですらある。
「嫌よ! 彩愛様、どうして! 私はあなたに憧れてたのに!」
「ええ桃香。私もあなたが大好きよ。あなたの醜い感情は、生まれたてのシエキには丁度良い餌になったもの」
「だったら」
「でもね、もういらないの。欲しいものは全部手に入ったから」
穴の淵から数匹のシエキが這い出て、桃香の着物に噛みついた。そして暗い穴の中へと引きずり込もうとする。
「やめて! 命だけは助けて!」
桃香の絶叫が倉の壁に反響する。
「安心しろ桃香。お前はシエキとして生まれ変われるんだ。永遠に俺達の役に立てるんだぞ」
「いや……いやよ! 死にたくない!――」
泣き叫ぶ桃香の喉に、一匹のシエキが噛みつく。
するとその目からみるみるうちに光が失われ、床に崩れ落ちた。その姿は、まるで糸の切れた操り人形のようだった。
「桃香!」
三葉は思わず叫んだ。
「無駄よ。彼らの魂は、もう私のシエキが喰らったわ。……あらあら、こんな立派に成長するなんて。想像以上だわ」
どこか恍惚とした顔で彩愛が呟く。
穴の底から暗がりを裂くように、更に黒く巨大な影が現れた。
蛇の形をした黒い骨は、関節をを軋ませながら穴の縁を這い上がろうとしている。
血と腐臭の入り混じった風が吹き上がる。
「さすが羽立野の血ね。神を手放した間抜けでも、血だけはご立派だったみたい」
「これが神排の力か。素晴らしいぞ彩愛」
彩愛の肩を抱いて、明興が狂ったように笑う。
常軌を逸した光景に、三葉はただ唖然とする。
0
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる