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12 乙女の友情は有り難い・2
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「大神様」
「三葉、弘城と呼んで」
「……弘城、様」
こんな時でも変にマイペースな弘城に調子が狂う。
「あなたが大神家のご当主ね。私、河菜歌子と申します。三葉さんのクラスメイトですわ」
「はじめまして、歌子さん。どうぞお見知りおきを」
優雅に頭を下げる弘城に歌子は胡散臭そうな視線を向けてそっぽを向く。どうやら弘城の容姿は、歌子には通用しないようだ。
「うら若き乙女を誘拐するだなんて、大神家も地に落ちましたわね。まあお着物の趣味は、評価してもよろしいですけど……」
歌子が三葉の着ている振り袖を手に取り、じっと見つめる。
「京友禅の新作ですわね。華やかで三葉さんによく似合ってますわ。でもこの柄と帯でしたら、結び方は花文庫よりふくら雀の方がよろしいわ」
「ご指摘、ありがとうございます」
三葉と同じ歳である歌子の容赦ない指摘にも、弘城は真顔で頷いてみせる。
「それで、大神様は三葉さんにどんな制約を持ちかけたのかしら」
「婚約者になってほしいとお願いしただけですよ」
「どうせ断れないように、上手く仕向けたのでしょう?」
辛辣な歌子にも弘城は動じた様子もない。
「よく分かったね」
「どこの本家も似たり寄ったりですから」
「けれど三葉さんは意思が硬くてね。まだ了承は得ていないんだ」
するとどこかほっとしたように歌子が息を吐く。
「やっぱり三葉さんは、私が見込んだだけのことはあるわ! けれど三葉に何かしたら、たとえ大神家のご当主でもただじゃおかないんだから」
歌子は女学校に入ってできた初めての友人だ。女子特有の派閥には属さず、あちこち飛び回っては噂を集めてくる。情報通で女学校に通う生徒の話を知りたければ、まず歌子に聞けと言われるほどだ。
何にでも首を突っ込む歌子だが、本人の性格故か彼女を相手にすると何でもぺらぺせらと喋ってしまう。そして歌子も無闇に噂話を広めたりせず、相談に乗ったり、時には家同士のいざこざまで収めるので教師達からも頼りにされていた。
歌子曰く「入学式から気になってた」と彼女の方から声をかけてきたのを切っ掛けに、三葉は問われるまま羽立野家での暮らしを話したところ、どういう訳かあれこれと世話を焼いてくれるようになったのだ。
「このまま大神家を利用して、ご実家から家出しちゃえばよろしいのよ。なんでしたら、この男からお金を引き出してすぐに逃げるとか? きっと金庫にはお金がいっぱい入ってますわよ。三葉さんが逃げるなら、私お手伝いしますわ」
本人を目の前に堂々と犯罪教唆をする歌子に、三葉もどう答えればいいのか分からない。
「私としては、婚約者に逃げられるのは困るんだけど」
流石に弘城が口を挟むと、歌子がくるりと振り返って一つ条件を告げる。
「でしたら三葉さんが学校に通うことを許可してくださいな。お約束くださるなら、逃げるようにお誘いはしません」
無茶苦茶な要求だが、弘城は特に怒った様子もない。それどころか、歌子の要求に頷いたのである。
「かまわないよ」
あっさり承諾されて歌子も拍子抜けしたのかぽかんとして弘城を見ている。
「……何を考えているか分からないけれど、三葉さんは私がお守りしますわ。三葉さん、この男に不埒な真似をされたら迷わず私の家にいらしてくださいね」
「え、ええ」
歌子に手を取られた三葉は、彼女の勢いに押されて頷いてしまう。
「不埒だなんて。婚約者なのだから、多少は……」
「無垢な三葉さんに何かしたら許しませんわよ!」
混ぜっ返す弘城に歌子が食ってかかる。
「歌子さん、落ちついて。弘城様も黙ってください!」
このままでは収拾がつかなくなると慌てる三葉の背後から、水崎が声をかける。
「皆様、お茶の用意ができましたので客間に移動されてはいかがですか? 栗羊羹もご用意しましたよ」
「栗羊羹!」
好物の甘味に歌子の目が輝く。
「じゃあ折角ご用意くださったのだから、お茶にしましょう」
水崎の助け船に感謝しつつ、三葉は歌子を促して部屋を出た。
「三葉、弘城と呼んで」
「……弘城、様」
こんな時でも変にマイペースな弘城に調子が狂う。
「あなたが大神家のご当主ね。私、河菜歌子と申します。三葉さんのクラスメイトですわ」
「はじめまして、歌子さん。どうぞお見知りおきを」
優雅に頭を下げる弘城に歌子は胡散臭そうな視線を向けてそっぽを向く。どうやら弘城の容姿は、歌子には通用しないようだ。
「うら若き乙女を誘拐するだなんて、大神家も地に落ちましたわね。まあお着物の趣味は、評価してもよろしいですけど……」
歌子が三葉の着ている振り袖を手に取り、じっと見つめる。
「京友禅の新作ですわね。華やかで三葉さんによく似合ってますわ。でもこの柄と帯でしたら、結び方は花文庫よりふくら雀の方がよろしいわ」
「ご指摘、ありがとうございます」
三葉と同じ歳である歌子の容赦ない指摘にも、弘城は真顔で頷いてみせる。
「それで、大神様は三葉さんにどんな制約を持ちかけたのかしら」
「婚約者になってほしいとお願いしただけですよ」
「どうせ断れないように、上手く仕向けたのでしょう?」
辛辣な歌子にも弘城は動じた様子もない。
「よく分かったね」
「どこの本家も似たり寄ったりですから」
「けれど三葉さんは意思が硬くてね。まだ了承は得ていないんだ」
するとどこかほっとしたように歌子が息を吐く。
「やっぱり三葉さんは、私が見込んだだけのことはあるわ! けれど三葉に何かしたら、たとえ大神家のご当主でもただじゃおかないんだから」
歌子は女学校に入ってできた初めての友人だ。女子特有の派閥には属さず、あちこち飛び回っては噂を集めてくる。情報通で女学校に通う生徒の話を知りたければ、まず歌子に聞けと言われるほどだ。
何にでも首を突っ込む歌子だが、本人の性格故か彼女を相手にすると何でもぺらぺせらと喋ってしまう。そして歌子も無闇に噂話を広めたりせず、相談に乗ったり、時には家同士のいざこざまで収めるので教師達からも頼りにされていた。
歌子曰く「入学式から気になってた」と彼女の方から声をかけてきたのを切っ掛けに、三葉は問われるまま羽立野家での暮らしを話したところ、どういう訳かあれこれと世話を焼いてくれるようになったのだ。
「このまま大神家を利用して、ご実家から家出しちゃえばよろしいのよ。なんでしたら、この男からお金を引き出してすぐに逃げるとか? きっと金庫にはお金がいっぱい入ってますわよ。三葉さんが逃げるなら、私お手伝いしますわ」
本人を目の前に堂々と犯罪教唆をする歌子に、三葉もどう答えればいいのか分からない。
「私としては、婚約者に逃げられるのは困るんだけど」
流石に弘城が口を挟むと、歌子がくるりと振り返って一つ条件を告げる。
「でしたら三葉さんが学校に通うことを許可してくださいな。お約束くださるなら、逃げるようにお誘いはしません」
無茶苦茶な要求だが、弘城は特に怒った様子もない。それどころか、歌子の要求に頷いたのである。
「かまわないよ」
あっさり承諾されて歌子も拍子抜けしたのかぽかんとして弘城を見ている。
「……何を考えているか分からないけれど、三葉さんは私がお守りしますわ。三葉さん、この男に不埒な真似をされたら迷わず私の家にいらしてくださいね」
「え、ええ」
歌子に手を取られた三葉は、彼女の勢いに押されて頷いてしまう。
「不埒だなんて。婚約者なのだから、多少は……」
「無垢な三葉さんに何かしたら許しませんわよ!」
混ぜっ返す弘城に歌子が食ってかかる。
「歌子さん、落ちついて。弘城様も黙ってください!」
このままでは収拾がつかなくなると慌てる三葉の背後から、水崎が声をかける。
「皆様、お茶の用意ができましたので客間に移動されてはいかがですか? 栗羊羹もご用意しましたよ」
「栗羊羹!」
好物の甘味に歌子の目が輝く。
「じゃあ折角ご用意くださったのだから、お茶にしましょう」
水崎の助け船に感謝しつつ、三葉は歌子を促して部屋を出た。
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