武器は棍棒。撲殺系いっぱん羊飼いの俺、スキルXitterで超越者たちと相互フォローになってしまい「力が欲しいか?」とウザ絡みされる

うーぱー

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第2章:騎士学校編

2-7. 戦闘試験開始! さあ、デコッぱちをぶちのめすぞ!

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「それでは戦闘試験を開始する! パレンミラ騎士学校に相応しき力と振る舞いを示すように! 始めッ!」

 魔法で拡張されているのか、どこからともなく声が聞こえてきた。

 案の定、会場中央にいる俺を狙って魔法や矢が大量に飛んできた。

 え。
 待って。
 今、試験官が『パレンミラ騎士学校に相応しき力とを示すように』って言ったよね?
 俺を集中攻撃するの、駄目だろ?

「デバフがかかっているらしいけど、当たったら痛そうだな」

 避ける。避ける。避ける。
 一瞬でドッジボールの最後のひとりみたいな状況になってしまった。

 しかし、飛んでくる魔法の大きさも速度も、まさにドッジボール。

 俺の読みどおりだ。ここ、有利な強ポジだ。
 攻撃は遠距離から飛んでくるので、狙いは甘いし勢いは落ちているから、避けるのは容易い。
 攻撃の速さと弾道を見極めて、処理する優先順位を決める。ただそれだけでいい。
 なんの特殊能力も持たない俺は、逆に近距離で乱戦になる方がヤバかったかも。

 100頭の羊の群れの中を駆け抜けることに比べれば、受験生の攻撃なんて規則的で予測しやすい。

 ……!

 バスケットボール大の火球が勢いよく飛んできた。これは他のとは威力や速度が違う。俺が他の攻撃を避けた先を狙っている。なかなか目が良いやつがいるな。

 効果は少ないかもしれないが、俺はレベル0魔法の水で棍棒を濡らしてから、火球を叩く。
 炎が弾けて幕のように広がり、一瞬、視界が遮られる。

 次の瞬間、左側面――火球が飛んできた方向――から2人の男が駆け寄ってくる。ポ……。デコッぱちの取り巻きだ。
 俺が体の向きを変えると、取り巻きっちは左右に別れた。俺を挟みこむつもりのようだ。

 明らかに後衛魔法使いタイプのデコッぱちから離れて良いのか?

 俺は振り下ろされる取り巻きっちの剣の側面を、それぞれ左右の武器で叩いて、軌道をそらす。そして前方に軽くダッシュ。取り巻きっちたちの間合い外に出ると、そのまま走り、デコッぱちの眼前に急接近。

 デコッぱちがにやりと笑い、杖の先端を俺の顔に向ける。

「ふふっ! 終わりだ貧乏人ッ!」

 俺はさらに加速して、野球のスライディングのように上半身を仰け反って姿勢を低くし、右脚を伸ばして左膝を曲げる。

 ゴウッ!

 俺の眼前――一瞬前まで俺の胴体があった位置――を火球が飛んでいく。

 俺は右手の棍棒で地面をうち、右膝を曲げて左右の踵を近づけ、しゃがむような姿勢になり、一気に立ち上がる。

 短槍を突きだし、デコッぱちの喉の手前で寸止めする。


────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
きたーっ!
ぶっさして! ぶっさして!
わんわんっ! わんわんっ!
(ジョバアアアアアアッ!)
────────────────────
■自分
落ち着け!
おい、明日の朝、起きたら俺、小便まみれになってないだろうな?!
というか『Xitterエクシター』は文字が脳内に流れてくるスキルなのに、なんで失禁したかのような効果音が聞こえるんだ?!
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
あうんっ! あうんっ!
あうううううううううううううんっ!
ぶちのめして! ぶちのめして!
はっ! はっ! はっ! はっ! はっ! はっ! はっ!
(ジョバッ! ジョバッ! ジョバアアアアッ!)
────────────────────
■自分
この効果音、さすがに冗談だよな……。
なんで、獣って、こう、変なところでテンションマックスになるんだ……
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻あんこく魔王
気持ちは分からんでもない。
さんざんじらされたからな。我もわくわくしているぞ。
さあ、ポコッチンをぶちのめせ!
────────────────────
■自分
おっ。凄いな。こんなどうでも良いやつの名前を覚えたのか
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻あんこく魔王
くくくっ。この闇刻あんこく魔王に名前を覚えられるとは、こいつにとっては名誉だったかもしれんな!
────────────────────


 デコッぱちは顔を青ざめさせて仰け反る。
 反応、おっそ!

「は、速いッ! なんだ今の動きは! 申請していない魔道具を隠し持っているな! 卑怯者め!」

「言いがかりはやめろ。お前が遅いだけだ。ほら、降参しろよ」

「くっ! ふざけるな! 貴様のような不正まみれの卑劣なやつに、魔法騎士を目指す僕が屈してなるものか!」

「威勢だけはいいな。……む」

 運悪く流れ魔法が飛んできたため、俺はいったんデコッぱちから離れる。200人近くの乱闘だから、デコッぱちだけを相手にするわけにはいかない。

 少し移動すると、女の子が植物のつたのような物に巻きつかれていた。私物武器検査の時に話しかけてきた聖女ちゃんだ。
 蔓魔法を使っている男の笑い方が不快だし、蔦が胸に巻きついたり、スカートの中に侵入して太ももに巻きついたりしているっぽいし、見ていて気分の良い物ではない。

「ガキ相手にセンシティブな攻撃すんな」

 ドズッ!

 俺は蔓魔法を使っている男のケツに、背後からつま先キックを喰らわせた。

「あひんっ!」

 蔓魔法が消えた。ちょっとだけ吊り上げられていた聖女ちゃんは地面に足から落ちたが、よろめいて尻餅をついた。

「大丈夫か?」

 声はかけるが、手を差し伸べたりはしない。

「あ、ありがとう……」

「礼を言う暇があったら、さっさと立ち上がれ。あと、下着が見えてる。スカート直せ」

「きゃっ!」

 聖者ちゃんはスカートを押さえた。
 母さんみたいな大人の色気あふれる美しい女性ならともかく、お前のようなガキの下着を見て誰が喜ぶんだ。

 女を棍棒で殴るわけにはいかないし、俺はその場を去った。
 手助けはここまで。あとは聖者ちゃん次第。


────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻あんこく魔王
お。やっぱ、こいつと仲良くなる感じじゃないの?
色々と予兆フラグ出てたってんじゃん?
────────────────────
■自分
まじで、これで終わり。
助けたことすら忘れてた。
たしか、もう2度と会わない
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ねー。ボコるのいつー?
なんで今のメスをボコらなかったの?!
早く! 早くしてよおおおおおおっ!
棍棒ッ! 棍棒ッ!
こいつどうでもいいから、さっきのデコっぱちを棍棒でぶちのめしてよ!
やっぱこいつもぶちのめして!
誰でもいいから、ぶちのめして!
────────────────────
■自分
無茶言うなよ。
見ても分かるように、試験会場にいるのは、たまたま魔法の才能があっただけで、戦闘に関しては素人だぞ。
おそらく馬鹿な親が「うちの子は天才」と信じて、なんの訓練も積させないまま温室育ちを送りこんできている。
いくら会場にデバフがかかっているとはいえ、棍棒で殴ったら首の骨が折れるかもしれないだろ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻あんこく魔王
ぶちのめせとしか言われていないのに、ナチュラルに頭部への打撃だと思っているの、草。
平和主義者みたいなこと口にしながら、殺意高すぎんだろ
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
アレルの嘘つき!
ぶちのめすって言った!
やだやだ!
ぶちのめすところ見たいー!
ぶちのめすところ見ないとおしっこ漏れちゃう!
────────────────────
■自分
え? まだ漏れてなかったの?
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ぶちのめしてー! わーっ!
────────────────────
■自分
お前のいったい何がそうさせる……
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻あんこく魔王
こいつ2歳だっけ? 3歳だっけ?
ちっちゃい犬っころだから我慢がきかないだけで、特に意味はないだろ
────────────────────
■自分
ケルリルは1歳じゃないか?
レストが2歳か3歳で、ケルリルが憑依したのはつい最近だし。
ああ、納得した。これは、幼い子ども特有の突発性謎ハイテンションか
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ぶちのめしてー!
あわわわわっ! わうーっ!!
わうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!
────────────────────
■自分
うるさっ……。
(声は聞こえないスキルなのにうるささを感じるレベルって、どうなんだよ)
────────────────────


 戦闘試験がいつ終わるかは不明だ。
 受験生が残り何人になったら試験が終わるか、試験官は敢えて言わなかったのだろう。

 体力は温存したい。
 俺は可能な限り他の受験者には近寄らず、回避に徹した。

 やがて、立っているのは30人くらいになった。そろそろ試験は終了だろうか。

 こうなってくると30人は保守的になる。無理して戦うより時間切れまで残りたいのだろう。

 ……デコっぱちたちがまだ3人とも残ってるし嫌がらせするか。王国の騎士になったら、俺たちの税金で奴等を養うことになるし、それは不愉快だ。
 俺が庶民代表として、あいつを倒して不合格にしてやろう。
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