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第10章:スキル初体験編
10-1. 教会イベント終了
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司教が説明を続ける。
「ジュモーリ巡礼路を北上し、北の地ゴティアンサンにある、聖マルシェロ大聖堂を目指しなさい。そこで、聖マルシェロが熾した不滅の炎によって鍛えられた聖剣を受け取るのです」
なるほど。
つまり、ゴティアンサンにたどり着けないようなやつには到底、魔族討伐は無理だから足切りか。強力なモンスターが出没する地域まで独力で行ける者にのみ、
新たな聖剣をくれる。
司教の合図で、僧侶が地図を用意する。
僧侶は机に地図を広げた。
詳細な地形は描かれていないし距離も分からないし、主要な都市と街道が描かれただけの、概略図だ。
「ありがとうございます。ですが、地図は不要です。ゴティアンサンの聖マルシェロ大聖堂にはチーズを寄付しに何度か行っています。崩落事故や水害で道が使えなくなった場合の迂回路も頭に入っています」
「ほう。それは、徳を積まれているようですね」
俺は、地図には描かれていなかったが、短縮ルートと迂回路があるので、教えてあげた。俺たち以外にも聖戦に赴く若者はいるからな。
ということで、聖女候補より俺の方がたくさん聖職者たちと話すことになった。俺の発言を僧侶が書きとどめ、地図に情報を追記した。
最終的に、情報への感謝らしく、教会特製のもっちりしたパンをもらった。焼きたてらしく温かい。
教会でやることは完了した。
村への迎えは仰々しかったのに、聖堂から出たら、それっきり。
司教が軽く頭を下げて奥に消え、それで終わり。
とりあえず、もっちりパンをちぎって、4人で分けて早速食べる。なんだろう。小麦が多いだけでなく、何か特別な酵母を使っているのか、美味しい。
俺たちはパンを食べながら、広場の端にある木陰へと移動した。
来たときはあまり気にもしなかったが、自分たちと同じような背格好の若者が、あちこちでうなだれている。
スキルを授からなかったのだろうか。まあ、ショックだろうな。
広場に馬車がやってきた。見知らぬ司教に導かれて、はつらつとした表情の若者がやってくる。
もしかしたら彼らもメイたちと同じように、神託によって選ばれた者たちなのだろうか。
「ねえ」
「ん?」
「あの大司教の人、人間?」
俺は首を振って周囲を素早く見てから、声を小さくする。
「お前、ぶちのめされるぞ。あそこまでの高齢者は村にはいなかったが、人間は歳を取るとああなるの」
「えっ?」
「ヨッシュの親戚にヨハンおじさんがいるだろ。あの人が、メイが赤ちゃんを生んで、その子が赤ちゃんを産むくらいまで長生きしたら、大司教様みたいになる。人間は長生きすると、髪の毛が真っ白でしわくちゃになるの」
「そうなの?! 私とお兄ちゃんの赤ちゃんが赤ちゃんを産むまでヨハンさんに長生きしてもらわないと。お兄ちゃん、今すぐ、しよ!」
「待て。色々とおかしい」
ソフィアとサリナがじと目で俺を見てきたから、俺は声をやや大きくしてメイを押しのけた。
「ちなみに、お前も手洗いうがいを徹底しているし、野菜を食べているし運動もしているから、大司教様と同じくらい長生きできるかもしれないぞ」
「えー。あんなにしわくちゃ――」
「ストップ」
俺はメイが失言する前に、口を手で塞いで黙らせた。
さて。
前庭を出てしまえばゆっくりと立ち話はできなくなるので、ここで話しておくか。
メイに「余計なことは言うなよ」と釘を刺してから解放する。
俺は3人の正面になるように、立ち位置を変える。
「提案してもいいか?」
俺は左右の一差し指を2本立て、右腕を横へ水平に伸ばして体から遠ざけ、左肘は曲げて左手を体にくっつける。この動きで、3人の気をひく。
「俺たちには、遠い目標と、近い目標がある。遠い目標は、魔族を倒すこと。1体でも多くの魔族を減らし、世界に平穏をもたらす。これは異論ないな? だが、それは遠すぎて今すぐにどうしたらいいのかは分からない。そこで、遠い目標に近づくために、先ずはすぐに達成できそうな現実的な近い目標を設定する」
俺は右腕を下ろすと、左手をピースにして揺らす。
没頭と言うほどではないが3人とも興味を持ってくれているから、話しやすくなった。
こういうところで現代知識というか、教養というか、日本で培ったものが活きてくるな。
「近い目標は、今夜の寝床の確保だ。これは、3つ選択肢がある。先ず、王都内の宿に泊まる。宿を拠点にして王都を散策するのもいいかもしれない。みんなここには初めて来たし、珍しい物を見学したり、おいしい物を食べたりしよう。もちろん、これはお金が減る」
俺は3人が想像力を膨らませるための時間を、少しだけ待つ。
「2つめの選択肢は、城壁を出て都の周りで宿を取ること。すぐ外に建物がいっぱいあっただろ? 多分、というか、確実に宿がある。俺たちみたいな旅人相手に商売をする人が絶対いるからな。ただ、城壁の中よりかは安くて済むが、治安は悪い」
俺は特にメイの様子を窺う。ついさっき不審な男に襲われたばかりのメイは、治安の悪い場所には泊まりたくないだろう。
「最後の選択肢は、今すぐ都を出て森まで行ってレストと合流して野宿。これは、特に説明は要らないかな。野宿は今まで繰り返してきたからな。ただ、これは道中にアーサーさんから聞いたんだけど、この辺りの森には小屋があって、国王様から任命された森林管理人という人が住みこみで森を守っている。だから、薪を拾ったり狩りをしたりしたらいけない」
俺は3人が考える時間を少し待つ。
「ジュモーリ巡礼路を北上し、北の地ゴティアンサンにある、聖マルシェロ大聖堂を目指しなさい。そこで、聖マルシェロが熾した不滅の炎によって鍛えられた聖剣を受け取るのです」
なるほど。
つまり、ゴティアンサンにたどり着けないようなやつには到底、魔族討伐は無理だから足切りか。強力なモンスターが出没する地域まで独力で行ける者にのみ、
新たな聖剣をくれる。
司教の合図で、僧侶が地図を用意する。
僧侶は机に地図を広げた。
詳細な地形は描かれていないし距離も分からないし、主要な都市と街道が描かれただけの、概略図だ。
「ありがとうございます。ですが、地図は不要です。ゴティアンサンの聖マルシェロ大聖堂にはチーズを寄付しに何度か行っています。崩落事故や水害で道が使えなくなった場合の迂回路も頭に入っています」
「ほう。それは、徳を積まれているようですね」
俺は、地図には描かれていなかったが、短縮ルートと迂回路があるので、教えてあげた。俺たち以外にも聖戦に赴く若者はいるからな。
ということで、聖女候補より俺の方がたくさん聖職者たちと話すことになった。俺の発言を僧侶が書きとどめ、地図に情報を追記した。
最終的に、情報への感謝らしく、教会特製のもっちりしたパンをもらった。焼きたてらしく温かい。
教会でやることは完了した。
村への迎えは仰々しかったのに、聖堂から出たら、それっきり。
司教が軽く頭を下げて奥に消え、それで終わり。
とりあえず、もっちりパンをちぎって、4人で分けて早速食べる。なんだろう。小麦が多いだけでなく、何か特別な酵母を使っているのか、美味しい。
俺たちはパンを食べながら、広場の端にある木陰へと移動した。
来たときはあまり気にもしなかったが、自分たちと同じような背格好の若者が、あちこちでうなだれている。
スキルを授からなかったのだろうか。まあ、ショックだろうな。
広場に馬車がやってきた。見知らぬ司教に導かれて、はつらつとした表情の若者がやってくる。
もしかしたら彼らもメイたちと同じように、神託によって選ばれた者たちなのだろうか。
「ねえ」
「ん?」
「あの大司教の人、人間?」
俺は首を振って周囲を素早く見てから、声を小さくする。
「お前、ぶちのめされるぞ。あそこまでの高齢者は村にはいなかったが、人間は歳を取るとああなるの」
「えっ?」
「ヨッシュの親戚にヨハンおじさんがいるだろ。あの人が、メイが赤ちゃんを生んで、その子が赤ちゃんを産むくらいまで長生きしたら、大司教様みたいになる。人間は長生きすると、髪の毛が真っ白でしわくちゃになるの」
「そうなの?! 私とお兄ちゃんの赤ちゃんが赤ちゃんを産むまでヨハンさんに長生きしてもらわないと。お兄ちゃん、今すぐ、しよ!」
「待て。色々とおかしい」
ソフィアとサリナがじと目で俺を見てきたから、俺は声をやや大きくしてメイを押しのけた。
「ちなみに、お前も手洗いうがいを徹底しているし、野菜を食べているし運動もしているから、大司教様と同じくらい長生きできるかもしれないぞ」
「えー。あんなにしわくちゃ――」
「ストップ」
俺はメイが失言する前に、口を手で塞いで黙らせた。
さて。
前庭を出てしまえばゆっくりと立ち話はできなくなるので、ここで話しておくか。
メイに「余計なことは言うなよ」と釘を刺してから解放する。
俺は3人の正面になるように、立ち位置を変える。
「提案してもいいか?」
俺は左右の一差し指を2本立て、右腕を横へ水平に伸ばして体から遠ざけ、左肘は曲げて左手を体にくっつける。この動きで、3人の気をひく。
「俺たちには、遠い目標と、近い目標がある。遠い目標は、魔族を倒すこと。1体でも多くの魔族を減らし、世界に平穏をもたらす。これは異論ないな? だが、それは遠すぎて今すぐにどうしたらいいのかは分からない。そこで、遠い目標に近づくために、先ずはすぐに達成できそうな現実的な近い目標を設定する」
俺は右腕を下ろすと、左手をピースにして揺らす。
没頭と言うほどではないが3人とも興味を持ってくれているから、話しやすくなった。
こういうところで現代知識というか、教養というか、日本で培ったものが活きてくるな。
「近い目標は、今夜の寝床の確保だ。これは、3つ選択肢がある。先ず、王都内の宿に泊まる。宿を拠点にして王都を散策するのもいいかもしれない。みんなここには初めて来たし、珍しい物を見学したり、おいしい物を食べたりしよう。もちろん、これはお金が減る」
俺は3人が想像力を膨らませるための時間を、少しだけ待つ。
「2つめの選択肢は、城壁を出て都の周りで宿を取ること。すぐ外に建物がいっぱいあっただろ? 多分、というか、確実に宿がある。俺たちみたいな旅人相手に商売をする人が絶対いるからな。ただ、城壁の中よりかは安くて済むが、治安は悪い」
俺は特にメイの様子を窺う。ついさっき不審な男に襲われたばかりのメイは、治安の悪い場所には泊まりたくないだろう。
「最後の選択肢は、今すぐ都を出て森まで行ってレストと合流して野宿。これは、特に説明は要らないかな。野宿は今まで繰り返してきたからな。ただ、これは道中にアーサーさんから聞いたんだけど、この辺りの森には小屋があって、国王様から任命された森林管理人という人が住みこみで森を守っている。だから、薪を拾ったり狩りをしたりしたらいけない」
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