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かもめ7440

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 夜中、その男は部屋に侵入したのだと―――思われる・・。
        フレーム ビルド
 存外分かり易い“額縁”に『映像』を―――線上に見えてくる<語りえぬもの>。
 いまはそう・・神殿の神秘劇のあとの蛻の殻・・。
 帰宅時間がすなわち、彼女の精神科医的暗黒時間・・。
 気配に気づいた彼女は、無感情な声で告げる―――誰・・・
 連想や飛躍という魔術をひたすらに結ぶ―――。
 出来損ないの禅問答、神話的存在のようにいまは輪郭だけの加害者と被害者。
 侵入者の顔が見えていることにさえ気付かず、じっと見つめた。
 、、、、、、、、、、、、、
 不透明な言葉の中に写しとる・・。
 軌道上に小動物さながらに身体の輪郭を小さくする、女性・・。
 部屋というのは自閉の王国だ、家もまたその擬態・・。
 (経験したことのない混乱を眼にしていた・・。)
 ―――カメラ・ショットが玄関前を映す、くっきりと狭い構図を。
 お願いだから出て行って、と喚いたかも知れない。
 犯罪の格好の標的になった自分のそれが、むしろ助長させるとも知らずに。

 その現場の裏には木々が青々と葉をつけていた。
 そしてそこに彼女の洗濯物が永遠に取り込まれぬことを知らずに干されていた・・。
 家の庭には、ハーブや、ポプリ、レモングラスが冷えた陶器のようにいた。
 おしゃべりな匂いや、厚ぼったい匂いや、ざらざらした匂いや、やけどする匂いがある。 
 ―――それは子供っぽいが辛辣な匂いだった。
 寝室のベッドにはグレープフルーツのような色をした服が置かれていた。
 低いテーブルには本が冷笑的な表情をしていた・・。
 夜の暗い部屋は避けがたい死の予感を孕んでいるように、埃っぽく感じられた。
 部屋は古い洞穴や模型的な地形のsketchを想像させた。

 L字型に建設された城下町の建物。
 住宅の蝟集した場所。
 ―――これといって特別に提起される要素はない・・
 (音も立てずに歩き、次々と覗き穴をのぞいてゆくのだ・・)
 路地裏には下水の臭いがした。単調な生活がそこには拡がっていた。
 誰かに見られてもよかったのではないか?
 隠す様子がない。
 見かけ上の対象にそうするだけの“殺意”があったことは確かだ、
 だが、[「怨恨」というには証拠や証言]に乏しい・・
 犯行時刻は生存していた被害者の知人などの証言から夜。
 与えられた一群のありきたりな知識・・。
 部屋のドアには錠が下りていたので密室だが魔法で空を飛んで逃げた。
 特定の原因が特定の結果を生み、特定の意図が特定の目的を生ぜしめる。
 犯行現場は、つまり事切れたのは玄関。 
 被害者は全身に銀のレースをかけているような華奢な女性。

 波面曲率の変調周波数、―――見えざる手、limit、神の摂理、gimmick、
 広い視野のうちから一定のわくによって限られた部分だけを切り取って映出する。
 [とても苦しげな表情で、自分の胸を押さえる女・・]
 (ふくらし粉を入れたパンのような、理不尽で、不条理な怒り・・)
 二十一時、二十二時、二十三時、二十四時・・。
 それが・・・さいごの・・・きおく―――であったと・・

 明日も当たり前に今日と同じような日々が続いていく、
 それが“永遠の退屈”でも―――望みを失う悲しみよりはよい・・

 >>>イニシアチブ、境界、沈黙の時間―――巨大な虫眼鏡で見ている・・
 その足、切り落とせば・・?
 羽毛の如くかろやかに浮かぶ明暗はげしい前奏曲―――。
 相手の属性、社会、すべての表情が消えた瞬間・・。
 ―――心臓の拍動が、遠のく、イコノロジー・・、
 途切れなく行き交うくらさとあかるさの交錯するふしぎ、
 [回路の「遮断」]・・・

 瞑想さながらの深い穏やかな呼吸をしながら何億という白い矢を射る月の光の中で、
 それが十七世紀ハルトゼーカーという生物学者の精 子の中の小人を想像させる・・
 
 肉体につらぬかれたしめった響きは炎の色彩・・。

 刺し傷から正確な条件下で訓練していたことが窺える。
 それは『紙の切り抜き細工』のように立派な腕前だった。
    タウロス
 ―――牡牛座。
 また、犯人は短刀を武装した人物である。
 その瞬間から黙契のごときものが結ばれていたように、
 腕や肩の筋組織を固くしないリラックスした犯行が可能だった。
 これは傷害致死ではなく間違いなく殺人である。
 玄関と壁に血の痕跡があり、致命傷はその心臓への一突き。
 また相当な手練れ、騎士団や剣士のそれにおける実験例でも同じ傷跡が出来ない。 
 その魔法か、証拠の残らない毒のような刃渡り二十センチ。
 そこから猟奇的殺人色へスライドしている、アルコールや薬物乱用の疑いへと。
 、、、、、、、、、、、、
 意見も述べ指示もあおぐが、これは『モンスターの犯行』ではない。
 ゴブリンは短刀は使わないし、それ以外の凶器を使うモンスターはまずいない。
 (最低、ラッシード王国に、剣を持ったモンスターはいない・・、)
 ただ、この犯行からモンスターを疑いたくなる気持ちはよくわかる。
 だが、城下町に入れば人相が割れる。
 そういうことだ―――。
 相手は殺し屋であり、何らかの扇動目的である疑いが強い。

 シースルー・インヴィジビリティ、
 パーフェクト・ヴィジョン・・。
 ―――疑似的に・・間接的に・・・人を殺す喜び―――
 (中世の時代によく現れた抑圧の象徴である、夢魔の顕現・・)
 ......痴呆めいた狂的なものの深い皺、
 あたかもバクテリアが次から次と分裂し死滅し、
 まるで速やかに速やかに変化してゆくように・・
 (彼は、この部屋で何が行ったのかを事細かに想像する―――。)
 それは『不毛な試み』である、仮に成功しても『荒廃した言葉の世界』・・。
 蜘蛛につかまった蝶・・・・・・・・・・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 顔面に朱を散らした人物が殺した女性・・。
 女性は肩で揃えた髪、鳶色の眼をしていた。
 身長百五十センチほど。
 草食主義者で、きれい好きで、母親と離れて一人で暮らしていた。
 飲食店を経営し、夜遅くに帰る生活リズム。
 [うさぎダービーで一発当てて開店した。繁盛していたらしい・・]
 二十七歳、ボーイフレンドがいたそうだ。
 (疑わしい人物はいたが、そのすべての人物にアリバイがあった、)
 >>>モンスター説はそこから生まれたのだ。
 休日はうさぎダービーを見に行き、温泉に行く。

 (竪琴を掻き鳴らすように・・・拷問―――)
 そして―――それは・・・一切の猶予を許さないものだった。
 がぼっと柔らかいものを吸いこんだ。吐き出そうとした瞬間、
 それは蛇のように咽喉の奥まで侵入していた、血の味―――鉄分・・
 口の中に、気が狂いそうな不潔な味・・
 あさいねむりのさめぎわ・・、
 >>>嬰児がぱっちりと眼を開けている。

 明るい透明な光の垂れ幕ほどの幅と拡がりを持った夜の窓。
 人どおりがまったくない直線的な道路。
 ―――部屋の下天底の垂渦巻・・。

 [異端者のフォーク][ユダのゆりかご][ネズミ拷問][ファラリスの雄牛]
 さざなみとなった、意識―――
 トイウ―――アブラ・・ノヨウナ・・・ヤワラカナヒカリ・・
 遠く仄かにピアノの響く静かさ、
 兎を追う狩人・・・

 身内や知り合いの犯行の可能性はまったくない。
 [怨恨である方がいいのだ。人を殺すことが―――いいとは言わないが・・、]
 ―――肝心要の“精神”の箍が欠けているなど、正気じゃない、
 (しかも、金品に触れていない・・つまり隠す気がない―――、)
 偶然標的にされ、殺人事件に巻き込まれた。
 無分別な、切実な恐怖の効果。
 
 魔女狩りのような―――パニックを生む・・殺人・・。
 
 横行する暴力――無力な法律・・力のない声――救いのない胸糞の悪い世界・・・
 関連、連鎖、接続・・月の下はレントゲン装置・・
 (サイミンジュツをかけられてイテ・・。)
 (それはもうあきれるほど、おなじみの病気・・肉体から離脱した魂・・)
 流動性管理目的のポジションに対する免除規定の適用要件。
 十五分ほどの出来事を想像する、探偵・・。
 強烈な負の衝動が感じられる空間、
 真っ赤な―――真っ赤な・・真っ赤な―――部屋・・
 
 ぐちゃぐちゃに切り裂かれた死体とワンセット・・。
 おかしなところの―――関節を鳴らすみたいに・・、
 被害者の死体の母親はこれを見て気絶した。
 ―――眠りの前に訪れる小さなばらばらに砕けたイメージみたいに。

 『昨日の夜はどこで何をしていましたか?』
 ―――あなたは・・私は・・、
 (あなたは肉や魚や海老を買って―――きましたね・・)
 ずるずると辷らせた。
 足が水に届いた・・。
 それから強く右手を引っ張った。
 「・・・私は―――料理を作って―――次の日の・・・」
 あるいは、
 「・・・私は―――久しぶりに母親の・・顔を見ようと・・」

 ・・・生籬の間隙から忍び込んで、その影は見えなくなってしまった。
 ―――ソウデス、ソウデス、
 ・・・誰かに尾行されているような気はしましたか?
 ―――イイエ・・・タダ・・・
 、、、、 、、、、 、、、、 、、、、、
 ちょっと、いつもと、違うなと、思えただけ・・・。

 >>>少しずつ『手札』が揃ってゆく。
 事前情報と、現場の状況、話し方や趣味、年齢・・。
 歩き方、その夜の足取り、そして恐怖の瞬間さえも―――。
 、、、、、、、 、、、 、、、
 彼女はエネミー・スノウ・リンゼ・・。

 探 偵 は触 れ る 、 ノ ア の 方 舟 の 心 理 。
 木々の揺れる音や葉の擦れ合う音が、音名を伴って洪水のように押し寄せてくる。
   たなぞこ                    うすらひ
 「・・・掌のなかに収められた裏と表の見えない薄氷、」

 たとえば酒場で・・男と女それぞれのグループが詰めかけて、
 じっくり見定めるような男―――。
 
 いくら隠しても、どんなに隠しても、
 私にはお前の心がわかる、手に取るようにわかる・・。
 ―――うまい物が喰いたい、酒を飲みたい、女が欲しい、
 それとまったく同じ、人を殺したいという“餓え”・・
 地獄はどこまでも後ろからついてくる、人の心に・・。
 何もかも覆い尽くしてしまう―――雪のような沈黙・・。
 
 ての――ひ ら・・
 おそろしげなうんめいがくちをひらく・・
 (標的までの距離、入射角、速度・・)
 「鋭利な刃物による殺害・・・」
 、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、
 かすかにその脈搏伝える如き、短刀のふるえ・・・
 それ―――で・・よか―――った・・のでは・・ないか・・・。

 ―――それが官肉の葉のかさなる中に、突き入り―――突き入り進んでゆく・・
 刃渡りは二十センチ前後・・おぼろ染めの瞬間・・
 何かが音を立てようとしたときには、もう、心臓停止・・・・・・。
 あやういバランスの――糖度・・。
 (つめたい雫の感触...)

 ぼやけ-焦点が合わない、霧・・・トランプの札を切り直す―――
 “回復”―――『情報の取戻し』―――【検索】・・
 >>>玄関付近の血のついた手形は犯行場所の証明
 欲求のための発生条件―――彫刻家の肉付け、倫理の欠如、
 (おはじき・・セロファン越しに、)
 謎の解を視覚化する一連の試み・・
 ―――手当たり次第に、任意に、無作為に、バラバラに、
 [胸を刺されて胸を押さえた時の血でドア、壁に触れた]
 全身の血はあやしく波立ち、筋肉は瞞着する前に蒐集した、躍動・・。
 ―――悲鳴はあがらなかったのだ、
 工場に於ける歯車の廻転――試験管を振る研究者の手・・
 ―――そこには吸血鬼といった話が織り込まれている・・、
 [そこから逃走できずに蹲った、だから血の跡は床にもついている]
 ―――血はしかしそこから別の部屋へ移されている、持ち上げたのだろう、
 ここから『男性』だと推察できるが、[「台車を使った」という可能性]もある、
 ―――あるいは魔法で持ち上げた、ということも出来るだろう・・

 どうして『邪魔されたくない』と思ったのだろう、
 どうして『殺すだけでは駄目だ』と思えたのだろう・・、

 ―――この心理は―――イメージチェンジのアドヴァイスを生む・・。

 この殺人はつまり、錯覚と幻覚を利用した手品のようなもの、
 彼の中にいる“神”―――あるいは『本当の恐怖』から逃れるため・・

 >>>でもそれはつまり学歴というinput unit。
 (客観的な情報と主観的な情報によるイージー・ゴーイング・・)
 不自然に抑圧された劣等感は、いつか不自然に爆発せずにはいられない・・。
 [誰の邪魔も入らなかった][移動してゆっくり彼女は料理された]
 見失ってしまった対話・・。
 コウフン―――シテ・・・シマウ・・・
 ランダム・ドット・ステレオグラム、
 ホルマリン漬けの蛙、木乃伊にされた蛇・・・、
 ―――複雑怪奇な人の心の中に住んでいる影のような人物。
 マジック・ミラーで見ているように・・、
 「刺殺の後から、頭部を・・ベンチレーション・ホールし、」
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 レーダーのスコープ上に映る船の動き、
 ・・・・・・情報の大小部分の循環的連結、
 (こわがらないで、ほら貝「の、」鳴ってる)
 西洋で狂気のシンボルとして扱われた月―――月・・。
 ターコイズ・ブルー
 土耳古碧―――。

 私も探偵でなかったら人を殺したかった、
 ―――集中没入の感覚の中で、そんな言葉が出てくる、これが・・『彼』だ、
 精神分析―――本能的衝動・・不規則と変則的な要素・・
      インキュベーション
 ようこそ、孵化―――。

 (見つけた―――)

 それは澄んだ聖者の眼、一切が疑いのない凶行の肯定、強さ、未熟さ、
 醜さ、でもそれこそが、希望の小鳥の世界へゆくための輪廻、因果、
 だからお前がどんなにこれを楽しんで行ったのかがよくわかる・・。
 中心街へと向かう足取り―――目的という名の地図・・。
ドゥアルーカ デュナミス
 悪・・・才能―――、

 『死肉をあさるハイエナ』や『三流品のエゴ』とは違う、
 ―――非公開措置決定の、トラウマレベルのグロ、スプラッター映像、
 (あの騎士団連の阿呆ぶりはすさまじい、これがモンスターの仕業だと?)
 (もしそうなら、生きたまま、そうするはずだ、―――でもこれは、
 死んだ状態での遊戯だ、悪戯だ、―――それとこれとでは意味が違う、)
 ―――乾燥による眼球のダメージ、
 だから興味が出てくる、だからむしろこの人物の仮面性に興味がある、
 (顔に一切傷をつけられないのはコンプレックスがあるからだろう・・、)
 でもクールな一突きと矛盾する、かなり特殊な人格形成―――たとえば性善説を信じる魔物・・。
 でも―――愚の骨頂だよ・・グラフィックなシート、
 ―――お前には何物もない、空っぽなんじゃない―――か・・。

 これは連続殺人の前触れだ、でも目的の中にあるのは人間への深い興味・・。
 「私が人間を殺すのは、詩人が詩を詠うのと同じだ」 
 ハーマン・ウェブスター・マジェット・・・。

 オープンワールドで構築した広大なフィールドの閉塞的行為、
 出したり―――引っ込めたりできる・・邪悪な性質、動物への一時的後退・・

 一パーセントの絶望は時に九十九パーセントの希望を塗り潰す・・。

 《警戒》――[通報]
 ―――まるで穴の底にびっしり敷き詰められた、
 大量の毛虫が潰れる音を聞くように。
 プ ッ ツ   プ ッ ツ 、 、 、
 夢から現実へ―――常闇の胸、なやましい花から花へ・・。
 ・・・認めがたい現場の痕跡、
 時間加速装置の故障―――。
 耳を噛みちぎり・・眼球を引き摺り出し、女性の膨らんだ乳 房を切除し・・、

 ひとつひとつ丁寧に切り取ったとしても、
 どう扱うかで視点は変わってしまう、 
 これは社会の鉄則である。

 「でもこの手の犯人に見られる―――性的暴行の痕跡がない・・」
 斷頭臺のguillotineを待つ心理かい?
 (異常者による猟奇殺人に見せかけることで、動機を隠そうとした・・?)
 ―――でも、私にはわかる、目的はともかく、お前は楽しんでいた・・んだ・・
 超克の配慮なき自己完成という嘲笑的絶望のスローモーションフィルム・・。
 加熱・材料・ケーキ型・小麦粉・・。
    シンフォニー   ベトベン しらべ           
 殺人の交響楽、その歓喜の諧調―――
             いのち   ぼうとく
 常住不断に流転する生命への冒涜・・
 まるで瀬戸物のような声・・熱を忘れた声――
 (移り気な心の容易なスポイル、他者を巻き込む性質・・)
 硝子の歯、金色の歯、思想の歯、抒情の歯――
 ソウカモシレナイ・・ソウデアッタノカモシレナイ・・・。

 だが、[子供が遊んでいた]と判断するのを・・・
 自分が拒否していたという言い方も出来る―――。

 心臓の中に粘土を入れ、
 >>>犯人の手は血まみれだ っ た だ ろ う 、
 露出した頭蓋骨と脳の中に殺した蛇を入れる―――。
 生身よりも生身なフレキシブルをご馳走する・・。
 利己観念のうえに立っている犯罪能力と隠蔽の技巧・・フフ、
 >>>これは鋸歯状のエッジ
 (初めて見る不思議な美しさ・・倒錯の恍惚として鎮まりを待つなかに・・)
 ふっとうまれて―――くる・・ことば・・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 破滅と知りながら走った地獄への階梯で天国の径庭を昇る・・。

 その通りでございます。
 、、、、、、、、、、
 その通りでございます。

 客観的で冷静な人物、殺すことを厭わない、快楽主義者的な一面・・。
 ( 不透明で巨大なディストリビュータの中で重い回転翼が何度も停止するみたいに、) 
 閉じて、見える・・離れてゆく、時間が――
 むべなるかな・・。
 ふっふっふ―――カクジツだ、カクジツだ・・、
 盗賊や暴漢では絶対にない、殺し屋―――あるいは純正の猟奇的殺人者・・。

 でも“完全な心の歪み”なんていうものはない、
 むしろ、『平和の中では居心地の悪い毒虫』みたいなもの・・。

 でもおまえは―――そんなじぶんを・・もてあましている・・。
 撮 影 モ ー ド か ら 再 生 モ ー ド に 切 り 替 わ り 、 
 最 後 に 再 生 し た 静 止 画 が 表 示 さ れ ま す 。
 、、、、、、、、、
 ラッシードの瞑想人・・。

 、、、、、、、、、、、、、、
 ある人がこういう言い方をする、
 仄かに浮かび出てくる影のみを認めながら、犯罪研究者の一面―――。
 記憶を遡及する知性の象徴である鷹/急浮上
 ラッシード王国に新しいタイプの【猛獣】が放たれたぞ・・・・・・・。
 仕事はここまで、だ・・。
 そしてそれは整理戸棚に収められ、誰ももうそれについては考えない日が来る・・。
 物好きな人が、ふと読むかも知れない、空が急速に分厚い鉛色に覆われた一日を。
       、、、        、、
 ・・・そこへとはしごを伸ばし、偶然やつきから見放された女性を思うのだ、不幸だと。

 
    *

 
 うさぎダービーを見終えてから、服などの生活用品を揃えて、
 いざ高台にある、―――月の世界から遠眼鏡で見ているみたいに、
 北に望む自然の丘を利用して築城された古色蒼然とした趣を持ち、
 悠然と街を俯瞰している―――『ラッシード王国の城』へ。
 (これは、火山に備えてのということもあるだろうし、
 軍事的な意味合いも、そこにはあるのだろう・・。)

 1、要塞
 2、政治の場
 3、住居

 、、、、、、、、、  、、、、、、、、、、、、、
 大聖堂裏の小道からと、大通りから上って行く二経路がある。
 頂上まで、平坦な直線のスロープになっていた。スロープは三十度ほどの角度。

 ぐるりと囲む白い漆喰の壁が一瞬波打ったように、咽喉が震える。
     さま
 矢を射つ狭間や、石落としのそれも見える。
 シナリオの構築に関する検討―――。
 からみ合って解きほどすことのできない大きな役所・・。
 また温度も一、二度は違うように見える、体感温度だけではないだろう。

 「城から街を俯瞰すのも、森や草原を見るのも、
 夕方が一番きれいよ。」

 ―――眺望佳絶、
 未来永劫そこでは時間が停まる・・。
 (蜃気楼を見た、世の果ての深刻な奇矯のように、
  ―――刹那にもとの歓楽相に戻す。)

 日・・・々・・・a long time ago...
 一瞬が季節の中に一定の秩序を保っている時、
 経験は即興劇をする、季節感の無限の重なり合いの中に・・。

 鐘楼、薬草塔、鍛冶の塔、囚人の塔、武器庫、
 穀物貯蔵庫が建設されているそうだ。
 (また病院設備もあり、数か月前の流行り病の時には、
 庭の建物を貸し出していたと言う。)
 秘密の地下道の迷路の如くめぐらされ、それを骨董品の陳列台の眼で見ている。
 重層感があるのはそのせいかも知れない・・。
 まだ不安な手さぐりもあるし、効果の誤算もある―――劇的な時間・・・。
 とどまることのないまばゆい光の乱舞。
 ただ真っ直ぐ上に向ってますます無意味に濃く変っていく。
 ―――そんな道がパーッと眼の前に。

 ソリアはとても軽快に喋る。
 そして夢から夢へと渡り歩く、しゃちほこばった権力を透明にして。
 入り口には、ロビーに相当する部分があり、それが吹き抜けとなっていて、
 『謁見の間』へと繋がっているとのこと。
 (階段の吹き抜けが素晴らしく、別に嫌味ではないのだが、
 『封建時代の営造物』と言うのだろうな、と思う。)
 >>>後でお父様とお母様に・・。
 各部屋は分散し、連絡通路となっている形式。
 城の周りには環濠的水路があり、要塞としての一面が見える。
 またソリアが、自分の部屋には隠し通路がある、と教えてくれた。
 [天上人たちの生活][現実の中のお伽噺]
 (低い壁のある、平坦な、白い、切れ目もなければなんの装飾もない、
 非常に長い矩形の窖または地下道トンネルの内部の構図のある付随的な諸点。)
 、、、、、、、、、、
 森の方まで続いているのだそうだ。
 ―――石には石の重さがあり、苔には苔の重さがあり、
 過去は人間の生命の燃焼の再び来ない重さを教える・・

 [シード・リャシァット]
 (城のバルコニーとお姫様・・・)

 //“彼女にも結婚話の一つや二つあるのだろう”
 【scene《脳科学的なフィルターの中の空っぽな言葉》】

 自分が彼女に身分違いの恋をやらかして手ひどく傷つけられるような、
 そんな気持ちがした。そしてそれは、自分の剣の師匠である、
 サペンタエン先生の話を思い出させる・・。
 、、、、、、、、、、、、、
 シードが立ち止まって言った。
 めちゃくちゃ唐突だったので、ピグもソリアもちょっと引いた。
 でも引きながら、彼が何を言わんとしているかを慮った・・。
 相手の孤独を汲み取るゆとりのあるやさしさで・・。

 「自分の剣の師匠が、
 ある国のお姫様を好きになったと聞いたことがあります。
 彼は剣豪と呼ばれるほどの立派な腕前の剣士で、
 たくさんの弟子を持っていました。」
 「はい。」とソリア言う。

 男の腕に抱きしめられれば砕けてしまいそうなほど華奢な胸・・。
 ―――風が過ぎたあとを見るような、寒い虚しさ・・。

 「そのお姫様と将来の約束をして、結婚の話もしていたそうです。
 でも―――ある日、彼の元へありもしない罪状が、突き付けられました。
 国家反逆罪、彼は大臣や、もしかしたら王から、忌避されたのですね。
 身分の低い出でしたから、
 嫌われました・・そこには人柄も、立派な武勲も、無用の長物。
 ありもしない罪をでっちあげられ、這う這うの体で、
 その国から逃げ出したそうです・・。」
 「―――まあ、身分違いで引き裂かれるってことよくあるよなあ。」

 ピグはウンウン肯く。肯きながら、ソリアをガン見する。
 かように意味深な眼つき・・。
 お前フォロー入れろ、という眼をしてる。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 脱衣場に山と積まれている洗濯物を見るみたいに。

 「まあ、そのお姫様も大概よね。私だったら一緒に駆け落ち―――する。」
 
 お姫様を悪く言うパターンに持っていくのも、どうかとは思うが・・。
 調子っぱずれなメロディの口笛の唯一音程を取り戻した瞬間―――。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 水晶のように過去を写し取った表情が・・。
 こごえ
 低声―――は、闇の中を手探りでゆくような覚束なさ・・。

 「―――でも、先生が一番つらかったのは、
 その後、何度かツテを頼りに手紙を出したことです。
 何とか添い遂げたいという旨を、
 つまり自分はあなたのことを愛していると、
 ちゃんと言葉にしたんですね。
 未練がましいと言えばそうかも知れませんが、」

 でも『未練がましい』『女々しい』などの批判的な言葉を口にすれば、 
 即座にシードが激昂するのはわかっ―――た・・。

 「でも、手紙の向こう側のお姫様は、
 あなたが私を裏切っていたことは知っていますの一点張り、
 つまり他の女性がいたと勘違いして、いくら弁解しても、
 何の話も聞いてくれなかった、と。」
 「・・・・・・そ、そうなの。」

 ソリアは何だか、自分と関係ないのに、
 自分がものすごく悪く言われているような気分になってくる。
 水が流れて行き、粘性を帯びてゆく―――そんな、集中力の世界・・。

 ・・・・・・雪がどんどん降っていく、
 ―――積もるかも知れない。

 「お姫様が周囲から何かを吹き込まれたのかも知れない、 
 あるいは元から悪女だったのか、 
 それとも、その手紙自体偽りのものだったのか、
 もしくは―――先生を想って忘れよと言っているのか・・」 
 「―――色んな解釈があるわね。」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」

 鉛のように重たい心と鳥の姿・・。
 ブラインドタッチ――
 ブラインドタッチ――
 
 うそや、いかさまや、まやかしですら、
 うつくしいのだ―――。

 「当時の私はまだ子供でしたけれど、本当に立派な先生が、
 眼に涙を溜めてこう言うんです、
 あれは忘れもしない、先生との最後の修行の日でした、
 最後に先生が自分を指導してくれていた理由を教えてくれました。
 先生は弟子を取らない、そういう人でしたから。
 その先生が言うんです、女というのは、とかく気をつけろと。」
 ピグが言う。
 「・・・まあ、そう言いたくなる気持ちもわかるなあ。」
 「―――いや結局、誰かがどうにかできてしまうようなことには、
 細心の注意を払え、という意味だったと思うんです。
 とりたてて、恋や愛というのは、失敗すると、 
 とても傷が深くなるものだから。」

 あなたに何があったの、と聞くのは躊躇われた。
 それらの一つ一つが、耳から脳に侵入し、音の羅列を刻んでいく。


 「―――でも私はこうも思うんです、
 つまり、先生はそういう宿命の元に、
 ・・・・・・生まれたんじゃないか、と。
 そういう心の底から愛した女性を振り切ることで、
 身分や立場を棒に振れた、
 ひとりで剣の道に邁進することが出来た。
 慕ってくれる弟子も、
 評価されることもない、ひどい状況だったけれど、
 ただ自分自身の剣を見つめている・・、そんな人生―――」

 シードの眼の奥に燃えている意志の強い怒り。
 ―――ソリアは不意に、その国が、どこかわかったような気がした。
 自分の大切な人を傷つけた誰かへの抑えきれない感情・・。
 ふうっ、と息を吐いた。

 「そのお姫様のいたのは、
 このラッシード王国のことです。」
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 こんにゃくと豆腐を口の中に入れたような気分になる。
 「・・・・・・そうですね、そんな気がしました。」
 
 本当は城下町へ入りたくなかった。 
 城へも入りたくなかった。
 でも、ここまで来てしまった以上、引き下がることは出来ない。
 
 「ここへ来たのも何かの縁ですから、
 わが師、サペンタエンに代わって、
 当時の話を調べさせていただきます。」
 「お、お母様じゃないわよね。」
 「違います。風の噂で嫁がれたと聞いた、と言っていました。」
 「じゃあ、シャルル叔母様ね。
 いいわ、ちょうど里帰りしているところよ。
 時間を取ってあげる。」
 
 「・・・・・・感謝します。」とシードが言った。

 【真実】は『脆弱』だ、
 ペ テ ン 師 、 詐 欺 師 、 泥 棒 、 う そ つ き や 、 臆 病 者・・。
 ・・・“切れない鋏”で『傷つけられた』ような《痛み》
 カーソル
 文字位置を動かす、商品陳列用人形・・。
 顫えは、何か激しい心の動揺や錯乱を物語っており、
 それが[何の価値もない「不規則な旋律」]と知りながら、
 パイプや鉄材によって建築の支柱的機能をもたせ始める。
 思い出がゆるやかに旋回し、折からさっと光が薙ぐ・・。
 
 城の入り口前には兵士ではない騎士団の連中がそこにいた。
 兵士と騎士団の違いは、甲冑とエンブレム・・。
 投降よりは死を選ぶという騎士団。
 ―――正確な数字ではないが、二千人ほどいる、と。
 青銅の彫像―――木像・・塑像・・・
 (ちなみに庭に兵の詰め所があり、騎士団は一階に部屋があるらしい。)
 [また大国らしく、宰相や軍師がいて、彼等が直轄していると教えてくれた。]
 彼等はチーズとハムと胡瓜のサンドイッチを食べていた。
 陽よけの天蓋のような屋根が四角に張り出していた。
 それが作る日陰のなかに、ベンチと横長のテーブルが、いくつか配してあった。
 ソリアの顔を見、シードの顔を見くらべながら、会釈する。
 唇の両端がきゅっと斜めに吊り上る―――眉も僅かに・・。
 ―――荒涼たる虚無の上に爽やかに落ちてくる、生命の光・・。
 だが今度は顔を隠していないのですんなりと入れた。
 軟組織の吸盤のついた長い触手のような衆人環視・・。
 一命を奪うほどの強烈な『毒』たりえないが・・。
 知り合いとでも思われたのだろうか。

 話し声がゆるゆると戻ってくる・・。
 ピグが兵士を見ながら言う。
 カンガルーのように手を胸元に垂れながら、
 「おいおい、お姫様のボディラインすごいエロいよ。」
 「ノーパンアッピールかよ、M字開脚かよ!」
 「・・・ウウーン、って変な含みを持たせるなよ、出たのかよ。」
 「やっぱり、お姫様は太腿だよ!って男連れかよ!」
 兵士や騎士団の軽口というのを私は聞いたことがない。
 キス・カール
 巻き毛なびかせている、ソリア。
 ―――でも侍女が言うには、男はみんなHなのだとか・・。
 「アイツ、まさか、お姫様のこれか!!!」
 「これって何? わからないか、あれだよ。
 あれって何、ニョホホだよ。エロエロだよ。
 ぼよよん、だよ。」
 ・・普通に、シードにでこぴんされた。
 手練手管、身につけたカサノヴァ!!!
 やっぱり、マゾなのかなあ、ピグちゃん・・。
 特殊性癖扱いされる、ピグ―――。
 でも関西人的なボケ役という可能性もある。

 [ギディオン=ソリア=チャリントン]
 (でも彼を明るくしようとしているんだな・・・)

 //“嫌な思い出にならなければいいなと思う”
 【scene《アポロンはダフネを愛して追った狩人》】


    *


 ここで、馬のダルビッシュを厩舎に預ける。
 土は重い火山性の土壌の色をしていた・・。  
 王国の馬の世話係をしている夫妻に、よろしくお願いね、と言う。
 毛艶がとてもいいですね、ソリア様、と言われる。

 [馬の世話係のおばさん]
 (賢そうな馬だこと・・)

 、、、、、、、、、、、、、、
 ダルビッシュは水を飲んだあと、
 ―――船底を伝わるうねりの感触を想起させながら、
 眼を細め飼葉をもぐもぐ食べている。
 
 ―――馬は馬を飼育して人の体重を支えた時に開発された。
 (馬は、食肉の動物として飼われていたという証拠もあるのだ。)
 もし馬が人の体重を支えなければ、というのは重要な論点だ。

 (馬の顔が長いのは、飼葉桶に顔をつっこみ易いからだ、という説がある。
 いやいや馬の顔に合わせて作ったのだ、というような話もあるが、)
 それはともかく―――。
 磨耗もしていない白い歯で、みるみる桶の中の飼葉を食んでゆく。 
 途 切 れ る こ と な く 、 ゆ っ た り と 流 れ る 、 牧 歌 的 な 瞬 間 ・・。
 「いい飯だって言ってる。」と、ピグがソリアに言った。
 (ピグは、テレパシーで会話ができるらしい・・)

 ご主人様は『ブラシのかけ方がすこし雑』だとか、
 『ちょっと野草食べたいから解放して。』だとか、
 たまには『ニンジンが食べたい』です、とかピグから聞く・・。
 十字、星形、円、四角、波形の五種類の図形―――。

 それからやっぱりダルビッシュの頭のうえに載って、
 ウェーブラインのある鬣をよしよし撫でている。
 どうもピグとダルビッシュは相当な仲良しのようだ。
 身体が電気にでも一瞬かかったようにくねくねとする。ロデオの合図みたいだ。
 指先が何かを掴みかけているような、心持ちうちがわに曲がった片手。
 「感謝します。」と、シードも言った。
 「でもどうしてダルビッシュは喋らないのかしら?」
 「・・・ダルビッシュは馬だからだよ。誇り高い馬は喋らないんだ。
 昔からそう決まってるんだ。モンスターが現れて、
 動物が喋れるようになったけど、一部の動物は、
 誇り高いから、喋らないんだ。」
 歴史的な話の正確さを保証する視覚的要素のように、
 一瞬、ダルビッシュがこちらに眼を向けてきた。
 馬の敏感な領域は眼、耳、鼻の周りにある・・。

 「・・・自分に似て、自己主張が苦手なんだと思います。」
 シードの取り澄ました表情を見ている、ソリア。
 (試されている・・・)
 直感した。
 いえ、タルトをぬすむトランペット――ね・・

 ―――シードのそれは、嘘だという気がした。
 金魚鉢の中で二匹の金魚がそれぞれの人格を主張するように、思った。
 だが、ピグのいうところの、誇り高い馬という響きは気に入った。
 でも賢そうな馬である、話せば、含蓄のあることを言いそうだ。
 あらゆる細部が明るく照らし出されたような哲学は、馬が話す―――。


    *


 五十メートルを超える城は三階建てだというが、スケールは何から何まで大きい。
 、、、、、、
 無駄に大きいと言えるかも知れない。
 [山城なんかだとそんなに高く作る必要性がない]
 (丘というのがPOINTなのだろうか・・?) 
 >>>物見という性質上、周囲を見渡せるのが、城。
 ―――城の立地条件というのは難しいものだ、何を基準とするかは分かれるだろう。
 それが一瞬黒い息のように吹きつけ、サヴァンナのアリ塚を憶わせる――。
 眼前に、黒々と聳え立つ、
 確固たる信念でつくられた岩の質感の要塞。
 (現代で作る機能的な要素の城とはどんなものだろう・・?)
 一階には食堂があるらしく、よかったら何か食べる、と言われたが、断った。
 後で御馳走になる上、場合によっては宿泊させてもらう、それ以上は贅沢だ。
 城の庭には『初代の王様の像』がある。
 こんな風に石像として立てられるということは、
 きっとみんなに尊敬されていた立派な人なのだろう。
 >>>意識の内部を照らす不協和音を含んだ短い意識。
 マイナーイメージ
 初級幻像・・。
 研究、教育、軍事、貿易、生産などを担う複合施設・・。
 万人の自由を実現する政治的共同体・・。

 (一筋の明暗の交替のように、)
 石碑がある。
 そこには、かの戦士の言葉が刻まれていた。
 時間を含んだ記憶や埋もれてしまった感情・・・・・・・・・
 Eye...漕ぎ出す、その向こうで、きらきらと波打ってる世界。
 夜、暗い海の奥に光を放つ一点の星のような美しい灯台の光さながらの感激。
 >>>箸にも棒にもかからない、毒にも薬にもならない。
 ―――それだったら沸き立つ胸の底に手綱なき奔馬を、だ。
 シードの胸は熱くなった。

 それを信じたい心と打ち消す心と、
 そして常に疑う癖のついている自分への憐れみ・・。
 
 にんげんはつねに・・なにかのえいきょうを・・うけて・・
 かわっていく―――いこうとする・・いきもの・・。

 ―――この城のために戦おう、
 この美しい城は、我々の自尊心だから。

 ―――君も戦うんだろう?
 何処かでそんな声が聞こえた。
 可視の世界の背後に異質の秩序を探し求める、
 骨抜きにされ、後退して、でも勇気を出して、
 ・・・酸素が・・・・・・あるから・・・・・・・燃え・・・る・・・
 “自分”が『昔の自分』なのか『現在の自分』なのか、
 わからないまま、それでも即座に感じ取り、
 ・・・・・・・・・孤独を音に・・・して・・・
 (で、)そんなことばかり何故か・・・・・・。それでまた、
 (で、)自分から離れない、何か、
 心の中で震えてる―――。
 過 去 の 出 来 事 が 時 間 の 裂 け 目 へ と 消 え て ゆ く ・・。
 無意識に、誘うように、発音した、
 微かな吐息が単調な波音になった、
 そして気分は一つの生き方を、
 中途半端ではない真面目な生き方を肯定する、
 気付かない内にどんどん大きくなり―――少しずつ動いて・・る――
 ・・・戦う、真実のために―――。


   *


 巨大スプーンに乗ったチェリーの一五トンの彫刻
 『スプーンブリッジとチェリー』さながらの非日常的感覚で、
 (あるいは、ビッグ・メジャー島の豚が泳ぐ光景・・)
 、、、
 城の庭は見応えがあった。
 (この国はゆさぎたちに操られているのではないか、と冗談で思うほど、)
 ゆさぎたちが完全監修したらしい、
 『モネ風の庭 Monet’s garden』―――。
 
 庭の飛び石の上を渡って泉水の鯉を見にいった・・。
 古いノートをしまうみたいに怠惰な空気や無感動を誘惑に染める。
 流麗な水色の橋、多彩な季節の花・・。

 ゆさぎ曰く『庭というのは、こういうのが一番』なのだとか・・。
 ヴェルサイユ宮殿の庭、キューケンホフ公園、
 ブッチャート・ガーデン、確かに美しい、
 溶けて行くような陶酔感、めくるめく炎の抱擁・・。
 ―――でも張り詰めのないある種の快さを人は求める。
 エクレラージュ・エレガンス
 粋な照明・・。
 でも、最終的にクリスマスは『きよしこの夜』だろう、と。
 (・・・きよしこの夜か、)
 (キヨスウィコ、ノ、ヨォル・・) 

 でもさすがにゆさぎだけに任せられないなと思ったのか、
 どうかはわからないが、
 花壇にも季節の花が咲いている。原色、派手、華美・・。
 カラダガカルクナッタ・・ヨウナ―――
 キガスルノハ・・・ジュウリョク―――ヲ・・ヘラシタカラ・・

 心の奥深い所に刺さっていた棘が―――、
 いつのまにかきれいに抜けていたような気にさせる場所・・。

 また敷地内にある由緒正しき礼拝堂を見学。
 しかし一番気になるのは、礼拝堂にどうして番兵がいるのか、ということ。
 でもそれはすぐに忘れた・・。
 無 果 木 の 葉 か ら わ た し は 無 果 木 の 脳 に な り た い と 思 っ た 楽 園 的 な 倒 錯 。
 ディバイド、ディバイド、ディバイド・・。
 本当にすぐに忘れた―――。

 花やかな煌々としたランプの光が堂にみなぎっているのに気を取られ―――。
 、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、 、、、、、、、
 浮き彫りの施された扉、柱廊に囲まれた通り、段状になった床、
 鐘楼の厚い壁を垂直に貫いている暗い螺旋階段・・。
 どうだろう、軽い柔らかな、いいかおりが、
 おりおり暖かい空気に漂って顔を撫でてくる。
 背中の筋がひき釣るような固苦しさとともに、
 聖堂のステンドグラスが次第に淡紅色を帯びて、
 我々を淡いトパーズのような星にする、またとない・・。

 しかし・・。
 長い行列をつくっておごそかに賛美歌をとなえているシーンは、
 その音のなかに、かずかずの神秘を――。
 厳かな注意や、あるいはもっと厳かな瞑想をそそる多くの事がらが・・。
 ―――織り出された幾節かの歌の魔法みたいに、
 、、、、、、、、、、
 信者でない自分をも鰯にする。
 五感には感ぜられぬ神秘的なあるものに対する感覚。
 雨の日も、曇りの日も、晴れの日も・・。
 矢のように進む時計の針と、円熟へと向かう年齢の聡明・・。
 魂の深淵と宇宙の深淵との神秘なる交換。
 だがそれも肯けるほど、聖像画は目を奪われるほど美しく、
 (予期していた積み木だったが・・)
 値段にすればシュタイン純金貨数千枚とか、数万枚とかいう、
 歴史的な絵画も収蔵されている。
 、、、、、、、、、、、、、
 いつのまにか築いていた堰だ・・。
 
 ピグが、お金っていうのはわかんねえなあ、と乱暴に言ったが、その通りだ。
 常識に囚われるな――。
 取り止めもない断片的なもののようでもあるし、
 筋の通った連続したもののようでもある、美術―――芸術・・
 それが美術評論家の筆によって運ばれていかねばならない・・混沌の外衣の精髄―――。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 アジア産のほっそりした長い尾を持つサル風に言えば。
 頂の方から窪みはじめて陥ちこむ時の断崖的な心象―――転移遅延・・
 (でも、その値段はマネーゲームかも知れないのだ・・)
 ―――剛魔の巨腕・・エパノイス、賛成・・。
 適正な意思決定を確保するための助言、提言・・。
 何度となく道を曲がり、曲がりくねった小径を何度となく歩いて行くような不安。
 ものみな、もえあがるようにめくるめく―――。
 ソリアの滲み出るような品格とかいうものが、お嬢様の冷水的に炸裂する。
 [カーソルを合わせる眼球の動きをコントロールする筋肉、]
 、、、、、、、  、、、、、、、、、、、、、
 呪文に似た単語だ、水色の翅をきらめかせた蜻蛉だ・・。


    *

 ふたたび庭に戻ると、木陰で真昼間からワイン壜を傍らに置いて、
 グラスで飲んでいる男爵姿の、
 五十代と思しき男がいた。アルコール中毒者なのだろうか・・?

 「おお、ソリアか?」
 低いしわがれ声で、相当出来上がっていた。
 コヨーテの鳴き真似でもしそうにフワアァ、と甲高い酒臭息のもつれ。
 ―――食用ガエルの親戚にも見えた。
 「モスギュールのおじ様、またワイン庫の点検と称して飲んでるの?」
 「・・・モンスターの時代、酔えば天の都さ。」
 じれったくなるほど、ゆっくりとした言い方・・。
 モンスターがいなくても同じことを言っていそうだな、とシードは思う。
 ピグが、悪戯っぽくモスギュールとかいうおっさんの頭の上に載る。
 ―――気付かねえな、やっぱり酔ってやがるな、と言う。
 なるほど、完全に詰んだ人間失格者の基本パターン・・。
 ソリアがそれを見て口許をおさえて笑った。
 「ピグちゃん、おじさまをいじめないであげて。」と小声で言った。
 (でも聞こえていないようなので、どうも、その点でもゆるやかな雪崩だ。)
 ―――こいつ、大丈夫か?
 
 でもウィックやらヒックやら言いながらでも人はポエムる、
 ドヨーンと酔っぱらって顔をワイドサイズにしながらでも薀蓄はこねられる、
 「日々発見がある、この芳醇な赤のために、
 どういう美味しい料理があるだろう、
 そしてシェフが心をこめて作ったその料理と、
 本当にどれほど相性がいいのかを日々探らねばならない。」
 
 ―――ソリアほか一名と一匹は眼をパチパチした。
 顔を、ボルゾイにしたり、狐にしたり、した。
 石器時代したり、海底海鼠したり、火山飛び込む馬鹿蝙蝠したりした。
 ―――ぐにゃぐにゃ・・。
 飲兵衛のようだ。他に理屈はいらない気がした。

 「はまぐりとインゲンの酒蒸しなど、どうですか?」
 と、シードが言う。
 「・・・おお、君、料理人かね。
 そうだねえ、私は甘い白ワインがいいと思うよ。」
 、、、、、、
 色んな考え方がある。
 頭上遥かに存在している光点のように。
 ソリアはシードが満足そうに肯いたのを見た。
 「そうですね、柔軟な見方です。」

 そもそもワインというのは、それだけで存在感があるものや、
 相性範囲の狭い特殊なワインもあるのだ。
 また、ワインには様々な歴史があり、知識が必要だ。
 たとえばボルドー1928年が、当たり年のワインだと知っているみたいに。
 (ラベルの読み方、正しいテイスティング、保管する為のガイドラインや
 サーブするときの温度、)
 酸味が強い、香りが独特、子供向けの甘さ。
 [相性的には最悪で、敬遠される。]
 (でもそういうのが好きだという嗜好の人も確実にいるのだ。)
 また国によってワインの違いは明確だ・・。
    、、、、、、、、、、、、、、、、、
 だから料理店でワインの薀蓄をこねている人がいても、
 存外ワインのことを何も知らないということもありうる。
 しかも料理の相性は固定観念の産物で、よっぽどの知識や経験がない限りは、
 ワインと一緒に食べるのが好きだと言っておくのが賢明。
 また『胡散臭い食通』もおり、ネガティブな意見中心で甚だ信用できない。
 >>>食通気取りの基本は自分で料理をしない。
 ***とめどもない野放図の贅沢病=何もしない構図
  
 ―――美味しいものが好きならば・・自分で料理を作る・・
 それが高じて人に食べさせたいと料理人になる―――

 ずっと昔に賢者がおいこいつ嘲弄ってやれ、と、
 有名なワイン研究家に姿を化けて、
 いまのいままで薀蓄をこねていた男を一喝したことがある。
 権威に阿る―――驕る平家は久しからず・・
 でも他人に迷惑をかけず酒を飲んでいるだけなら、
 それもいいだろう、と思った。
 モスギュールという男は美味しそうに葉巻をくわえ始める。
 、、、、、、、、、、、、、
 酒に煙草は厳禁だというのは、
 嗅覚や味覚が非喫煙者より落ちるからだが、固いことは抜きにして、
 ある“特定の型”にはめようとするのは『腫瘍的』だし《排他的》だ。
 酒と煙草を味わうのも、非常に人間的ではないか、と思う。
 でもピグが頭の上に載るのだから、そんなに悪い人間ではないのだろう・・。
 ぶ・ぶ・ぶるっくるぅー、
 ぶ・ぶ・ぶるっくるぅー、とさっきから、
 モスギュールとかいうおっさんをネタにソリアを笑わせているが・・。
 
 「(可愛いよなあ・・・)」
 スウ―――ッ・・と、胸の底が洗われ、途端にチクリと胸が痛くなる・・。
 笑いが波紋のように拡がるから? 葉蔭を揺らすから・・?

 平均台の上でも歩いているようなバランスの悪い感覚・・。
 消えない・・

 ・・・素直になれない、小さな強がり、

 彼女は今も美しくて、少し泣きたくなる・・。
 ズルイヨ・・・ホシニ―――サワルノヲコワガッテイルクセニ・・
 ―――マダ・・ナツノヒトトキヲ・・ミツメテイルナン・・・テ・・


 あんなに傍にいたはずの彼女が、いまはまるで、
 水に眠る―――ものがたり・・。

 幸せそうな君を見ていると心が揺らぐ、
 浅い眠りの夜のような細い道で君の揺れる髪を撫でていた・・。

 僕はひとりしずかに砂の記憶、夜の蟻・・。
 思い出が浮かび上がってきたら手に入れたくなるなんて―――。
 不思議だ、

 ―――そしてもっと彼女のことを知りたいだなんて・・。

 樹木はゆるやかな光の移ろいを見せている・・。
 淡い空に薄い雲が悠ったりと流れる―――。

 僕は思い知ってる、昔、そこに海があったことを・・。

 そしていまなら少しだけわかる、誰にも恋をできなかったこと、
 長い間、空想の彼女を見つめながら、何度も、何度も、胸を痛めたこと・・。

 ―――君は誰に恋をするんだろう、・・・

 僕はそれを黙って見ているつもりだ、
 僕の罪は重く、そしてあまりにも夜を知りすぎている、

 子供だ、花の莟を手折るのを怖がり、
 誇るに足らない無価値なもので自分の弱さを隠し、
 ―――傷つかないように、鍵をかけて、蓋をする―――んだ、
 
 ―――でもねえ、君は・・あの日の風のように笑う・・


    *

            アーティファクト
 「そういえば、あっちに古代遺物のステータスオープンというのがあるわ。」
 (アッシリアの水晶レンズ、カブレラ・ストーン、
 古代エジプトのグライダー・・)
 ・・・古代の力、それは存在の概念は空間の概念の周りを回っている。
 「さっき購入した、スカウターみたいなものですか?」
 「そうね、強力な魔法道具。いまでは作る方が難しいと聞くけど、
 板状のプレートに手を翳すと、天職とか、スキルを教えてくれるの。」
 コレクターに持っていけば、喜んで値段を釣り上げてくるかも知れない。
 「面白そうですね。」
 「じゃあ、試しにやってみましょう。」

 天職:勇者
 技能:全属性適性・全状況耐性[+異常時]
 ・魔法[+複合魔法][+回復]
 ・剣術[+神聖級][+免許皆伝][+十連撃][+物理攻撃力上昇]
 ・高速移動[+近接][+縮地]・先読[+気配感知][+感覚理解]
 ・限界突破[+宿命][+状況異常無効][+運命操作]
 ・格闘[+師範代]・威圧[+英雄][+即死無効]
 ・学問[+教師][+魔法論理][+暗記][+エルフ語][+動物愛好家]
 ・調理[+魚][+特殊調理][+天才料理人]

 ズラズラズラーッと並べられた文字・・。
 表示板を見ながら、明らかに完全超人風、チートなそれを見て、
 「うん・・」とソリアが言った。
 (何だこの表示、初めて見た・・)
 (勇者って表示される人、初めて見た・・)

 いや、というか、突っ込みどころがあまりにもありすぎる系で、
 何処をどう言っていいのかわからない。
 申し訳ないけれど、自分なんてこんな表示だったので余計にそう思う。
 
 天職:白魔法使い
 技能:魔法[+回復][+癒し系]・王女[+美人]・格闘[+護身術]・学問[+魔法医]
 、、、、、、 
 ややもすると、白魔法が使えるだけの美人っていうただの馬鹿、
 とかいう設定に陥りそうである。
 かたや、頭もよくて料理もお出来きになられ、
 (自慢じゃないが、私は包丁すら握ったことがない・・)
 剣術もでき、英雄に、武術は師範代、神様に愛されている、とか・・。
 からだがその響きにつれてゆらゆら動いて、みうちが骨まで冷たかった。
 弓弦を切って放したように言葉を消してうつむく。
 、、、、、、 、、
 トラウマだよ、これ―――。

 しかしシードの意見は違った。
 そこに彼の顔を赤くするような落書きの描いてあるのを発見したみたいに、
 あきらかに不快な感情になったのが見て取れた。
 「これは、いいことしか書かれていませんね。ひどいゴミです。」
 ―――確かにそういう見方もある。
 毀誉褒貶があってこそ、人間である・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 彼みたいな人はむしろ悪いことを書かれている方が、
 リアリティがあると思うのだろう。

 [ギディオン=ソリア=チャリントン]
 (でも気を遣わせたかな・・・)

 //“憎みほど落ち着いて澱みのない口上”
 【scene《後ろからぴったりと寄り添う羽織の手》】

 「ご主人様を罠にはめるやつ、懲らしめる。」
 いささかわざとらしい声の入り江の水の上にわーんと拡がって余韻だ、
 手品師のようにしきり指を振るシード。
 「ああ、これはやっておけ。」
 
 ぺしぺし、とピグがプレートを殴打する。 
 あのー、ピグちゃん、それ、古代遺物なんですけど・・。
 空の小径を、鳥が走るように横切る・・。
    、、、、、、、、
 しかしそう書かれてあるのをみると、
 あのゴブリンの戦闘の謎が解けたような気がした。
 でもふっと、複合魔法というのに眼が止まった。

 「あなた―――あれだけの剣の腕なのに、魔法が使えるの?」
 「使えますよ、子供の水鉄砲みたいなものですが。」

 確かに、普通ならそうなの、で済まされるのだが、
 このハイスペックなステータスを見ると、よっぽどの腕なのだろう。
 もっと素直な言葉が聞きたいと思うのは、馴れ馴れしすぎるだろうか・・。

 「ねえちなみにだけど、魔法ってどういうものだと思う。」
 「どういうものとは?」

 価値から来たところのものについてよりもむしろ、
 われわれを運ぶ事変やわれわれを導く力などから来たところのもの、
 、、、、
 について・・。
 
 ―――見える、見えないも、
 脳の働きなら、あるいは錯覚や誤作動なら、
 その時どうしてそれは生まれ、
 その時それはどうしてそこで巡り合ったんだろう。

 [ちっとも整理されない感動や感激が色とりどりに口にする・・、]
 (真正面から理屈の木刀を振るいながら、後方の真剣とやり合うような感情、)
 まるでスクリーンショットを脳内に保存するかのように、
 あるいは絶対音感を持っている人が自分の中に、

 完璧なドレミファソラシドを持っていて『ある音』を聞いたときに、
 それに当てはめて音名を当てるみたいに・・。
 連続を切断することを欲しない・・。
 何ごとかが企てられていることもないし、
 何ごとかが進行しているということもない。
 、、、、、、、、、、、、、
 自然は無際限なる長さの糸に、
            つむ
 意味もなく縒りを掛けて紡錘に巻くに過ぎない。
 かんで、ごくりと飲みこむ――まるで、口の中に、そういう、
 天の生きもののきれはしがはいっているかのように・・・。

 それは神様の一部であった頃の記憶であるのかも知れない
 その感情がもっとも原初的なエネルギーの断片であったのかも知れない、
 そこから動かなければいけなかった、
 とても単純なシステム、仕掛け装置、心と身体が、
 まったく別のものを求める瞬間のように・・

 ただ、そのときの顔がいつまでもはっきり自分の印象に残りそうだ、
 という予感があった・・。

 「つまり、あなたのイメージよ。」
 片手でしきりにうなじを撫でた。
 入 力 と 出 力 の 相 関 関 係 機 能 を か た ち づ く り 、
 まるで腕を駆け上がってくるように皮膚を撫でる。
 「イメージ・・そうですね、
 たとえば、魔法というのは、ありえないものだと思います。」

 ―――ある人は、魔法を、得体の知れない、何かとてつもない負の霊気とでもいった、
 重く、暗いものだと説明した・・。
 (彼に興味があったのは、年金の仕組みと老後資金の設計、キャリアアップ。)
 [ニーチェはただ忌まわしい妄想に終止符を打ちたい]
 >>>絞りを開け放したレンズ・・、

 「見ていて下さい。」
 息づかいだけが静かに伝わってくる。
 その頬の濃淡のように筋肉がちらと動いた。
 鼻の尖端から唇へかけての横顔の曲線―――。
 [磨り硝子の向こうを見るように、もう一つはっきりしない、]
 (でも理性や感性を総動員させる―――全身的な理解の前触れ・・)
 ―――生活の遠さにも似た筋。

 そう言ってシードは、地面に落ちている落葉を拾い上げ、眼を瞑り、
 ふうと息を吹きかけると落葉が妖精のように踊り始めた。
 ピグがそれを見て、落葉を掴もうとする。猫化!!!
 でも初歩的だが、―――的確な魔力操作。

 「・・・ありえないものが、そこにあるというのは、
 一見ナルシズムのそれかもしれません。
 でもそこに自分専用の地図があります。
 魔法は明・暗、空・充、開・閉などすべてに二極的な要素の組合せ、
 魔法の発動に伴って具象化される現象はだから美しい。
 魔法使いは・・、さっきのヒースもそうですけど、
 ああいうのが本当に望ましいのです。
 既存のものを打ち壊す、それだけが、
 人が魔法を使う最大の理由のような気もします。」
 、、、、、、、、、、、、、、
 シードは人差し指を空にあげて、
 ピグが追いかけている落葉を頭上高く上げると、
 微塵にした、そしてぱらぱらと舞わせた。

 夏の嵐は激しすぎるから怪訝に眉を寄せて振り返る、
 秋は、意味の言葉――。

 「・・・夢を見る能力、それが、すべての基礎です。」
 
 ソリアは改めて思う。
 >>>壊れた吸い上げポンプ
 ・・・呼吸補助(のように、)
 (たとえば、瞼の奥から)けがれをしらぬ太古の湖・・。
 確かにやりすぎな表示だったが、裏を返せば、
 眼の前の人物はこれだけの努力をしてきたということでもある。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 そのしみが壁の白いはり紙だとわかってくる。
 栄達は能力を仮定する。
 人は自分のこしらえた哲学の上に寝るもの。
 さりげなさそうに装って、装い切れなかった嘘が、この人のいいところだ。

 ―――だってそうでしょ、
 子供の水鉄砲みたいな魔法を使う人が、
 そんな立派なことを言うわけがない・・。

 〈意識〉において、“私”はこの言葉の『意味』を了解したと感じる・・。
 一筋の藁しべのように差しのべられた―――。
 ・・・我身のめぐりに浮び出でて、さながらに立ち振舞へかし。
 と、猫がシードの足元にやってきて、じゃれはじめた。
 “い・・い・・い”「・・・・・・とか」(カワイイ?)
 、、、、、、、、、
 ピグが耳元で囁いた。

 「それにしても何だか騒がしいな・・」
  
 と、甲冑を着た騎士団の一人が駆け足でやって来る。
 、、、、、、、、、、、、
 表情の焦慮が尋常ではない・・。
 根拠に基づいたものが示すのはあくまで確率論的な数字だが・・。
 その時、シードは魔法使いのヒースが誰かを探していたことを思い出した。
 どうして油断したのだろ―――う・・。
 (考えてもみればあれだけの魔法使いだ、
 王国に雇われていた可能性は充分にある。)
 ・・・どうしてすぐに、ソリアの身の危険を考えなかったのだろう。

 
 「―――賊です、避難してください!!!」


     *

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