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第4話
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桜華国 とある豪華な屋敷の庭
「これで私と籍?を入れてくだいませんこと?!」
十二歳にも満たない幼い少女が、綺麗な伝統着に身を包み、数歳上だと思われる青年に、本人にとっては意味もまだ理解しきれていないであろう難しい言葉で約束を取り付けようとしていた。
親から言うように言われたのか、それとも子供の本心か…。
少女が真剣に差し出す両手には、子供が持っていいとは思えないほどの大きい宝石がゴロゴロと乗っていた。
「嫌や。断る。」
求婚してくれている少女に求婚された方の青年は地球の日本の言語に合わせると関西方面の訛り口調に酷似している話し方で、バッサリとその求婚を断った。
「~~~!」
涙をこらえ、少女は宝石を抱きしめて唸り声をあげた。泣き声が出ないようにこらえているようである。
「まぁ!龍輝様。私の娘は貴方様の従妹。貴方様のことを、これから先支えていけるのはうちの娘しかいないでしょう。さぁ、意地を張らずに!」
少女の母親らしき人が何とか説得させようとしてくるが、青年は気にもせず、もう一度はっきりと断った。
「嫌や、断る。天地がひっくり返ってもあらへん。」
それも先程よりも強めに聞こえるよう、語気を強めて、冷めた顔で言い放った。
この歳の少女相手に対して情けも慈悲もない。
晴れ渡る空、まだ暑い日差しが差し込む豪華な庭で大人と子供が複数人集まっていた。
ここは、桜華国。
『日夜 龍輝』
十九歳の彼のお披露目会を開催していた。
今日は彼の成人前の十九歳(桜華国での年齢)の誕生会である。
(この国では、二十歳が成人とされる。)
彼の家『日夜』家は、ここ桜華国の王族の親戚であった。
彼には姉が一人、腹違いの弟と妹が一人ずついた。
彼は正室に生まれた念願の男の子。
この国では王の次に地位を持つ家に生まれた待望の男ということで、期待も大きく、それに応えるだけの才能が彼にはあった。
「かっこいい…!」
「素敵…!どこから見ても絵巻物から出てきたようなお方…」
ほぅ…とため息をつく少女達が、『龍輝』を熱いまなざしで見つめている。
容姿は、長い黒髪を後ろで三つ編みにして流し、癖のある柔らかな前髪、長いまつげ、末広二重のその赤い瞳。右目下には黒子がひとつ。白い肌、高い鼻。
絵巻物に出てくるであろうその完璧な容姿は、周りにいる少女たちを虜にするには十分すぎた
「龍、だれを選んでもええんやで?」
龍とは、青年の愛称であり、家族以外は呼ぶことを許していない愛称でもあった。
「父上。来てくださるとは思いませんでした。」
「長男の誕生会だ。俺が来ないわけないやろ?で?この中に気に入った女はおるか?」
「いえ、ここに将来私を支えてくださるようなお方はいらっしゃられないように見えます。私は日夜家の男児。それに見合った女性を娶りたいのです。」
父親がやってくるとすぐに口調を改め、礼儀を正した。
赤色の瞳は暖色系だというのに、冷たい感じを放っている。
口元は穏やかに笑みをたたえたままだが、目が笑っていない…というのだろう。父と息子の間に交わす笑みとは思えない笑い方だ。
龍輝は、明るく話している血がつながっているだけの父親をその冷たい目のまま見つめ返した。
(母上とは幼馴染の情で結婚し、正妻へ置いたが、初恋の女官を側室へ向かい入れ、俺以外の男児をあちらにもう一人つくった…。なにより父上は俺よりもあちらの方を可愛がっていらっしゃる。)
龍輝の父は、国王の忠臣の一人であり、裏では優秀な狩人だ。
多くの経験を積むため、辺境地に何度も出されていた経験からか口調が訛り口調になった。
見た目も整っており、容姿は龍輝によく似ていた。
彼は、幼馴染の婚約者の翡翠と呼ばれる別の国の姫(彩陽国の姫)を予定通り娶り、
男児が産まれるや否や翡翠を差し置いて、狩人の時よりずっと好きだった女(当時翡翠の専属女官だった)、雨恩を側室に向かい入れ、男児を1人、女児を1人産ませた。今はまた一人妊娠中との話だ。
(翡翠母上は姉の『暁音』姉上と、俺を生んだ後、用無しだといわんばかりに離れの屋敷の一室に入れられ、出てくることはほぼない状況…。正室とは言え、召使いや下女達に下に見られている時もある…。)
隣で笑って、「大きくなった。時期にお前も俺と同じ仕事をするようになるんだ。」などと言っている父親を見て、内心軽蔑をしていた。
(どうせ、俺を跡継ぎにするつもりなんてないに決まっとる。なら俺は俺で生計を立てるだけや。)
父親だとも認めたくないその男を見て、何度も立てていた誓いを改めて心の中で誓う。
(俺は絶対恋なんてもんに溺れたりせぇへんぞ。)
恋なんて結局、周りを不幸にするだけだ。
周りを巻き込んで、さんざん振り回しておいて、最後には自分だけが幸せになる。
そのあとのことも何一つ考えない…。
「恋と愛」とやらがこんな結末を迎えるのなら、こんな傍迷惑なことがあるだろうか?
(こんなやつと親子だなんて、お断りや)
残暑が残る九月、龍輝がまだ狩人になって間もない時の話であった。
___________________
屋敷 書庫 雹華
ギルドの従業員として働くため、私は書庫に来ていた。
藍斗お兄様が「勉強するなら、書庫に行くといい」と勧めてくれたからだ。
昔従業員を目指した人が家にいたらしく、その時に購入した教材が残っているそうだ。
その人は難しさのあまり結局諦め、狩人になったそうだが…。
(狩人になりたくなかった事情があったらしい)
その難しいと先祖が諦めたその内容を絶賛勉強中の私だが、私はその従業員の教材に目を丸くしていた。
(勉強が、めちゃめちゃスラスラ頭の中に入ってくるのはどういう仕組みなの…!?)
教材が簡単なわけではない、文字も日本語とはかけなはれているし、錬金の勉強に関しては、数式や特別な錬金言語と呼ばれるもので記載されている為、すごく難しいはずなのだが…。
(読んでいくと全部日本語に翻訳されていくし、文字を書こうとすると、その文字になる…!え?なにこれ、一つになった雹華ちゃんの頭が良すぎるおかげなの?それともこういう仕様付きの世界?)
文字や言語は国ごとに違うらしく、発音や、数字の書き方、金の単位もすべて違う。
そのすべての文字と言語を読み書き、数字と金の単位理解ができないと従業員の資格(依頼書の発行・処理に加え、経理、客人の対応など)の試験にはまず受からないそうだ。
(国によって言語も文字も違うから、当然文化や礼儀作法も違ってくるのね。ここは地球と同じかも...言語は並び順とある程度の単語を覚え、それ以外の例外の穴を埋めていくことさえできれば、もう大丈夫そう。)
翻訳や、文字変換されるというのは語弊があるかもしれない。
翻訳はされるのだが、文字の上に小さくルビが振られている状態に見えるといえばいいのだろうか。ここの乙女ゲーム世界の文字は消えずに、文字の上に小さい日本語の文字で翻訳されている。
それに似て、文字変換も最初に変換したい文章(言語を頭の中で指定して)を考えつつ、その文章を日本語を書いていくと、手が勝手にその言語に変換してくれるというものだ。
ただし、本を読み、文字の形やその単語を覚え、文章の並び順をきちんと頭で覚えないと変換されることはなく、そこだけ空白になってしまう。
だが、それさえある程度覚えてしまえば、書き読みができてしまうのである。
(これがこの世界の勉強方法なら、みんな簡単に従業員になれると思うんだけど、違うのかな…。)
単語帳と、数字の形を覚えたら誰でも受かるような…。
(きっと他のところで躓くのかもしれないし、ここで慢心してはいけない…。すべては約束の為!)
主人公に出会うまでに東支部狩人ギルドに就職しなければならない。
何故こんなにも私が早くギルドに就職したいのか不思議に思った人も多いのではないだろうか?
だって今はゲームが始まる二年も前だから、それこそ主人公が来た時に間に合えばいいでしょ?って思う人もいるはず。
でもこの二年間が一番何よりも大切だと声を大にして私は言いたい。
(東支部狩人業専門ギルドはお化け屋敷状態だから、早く就職しなくては…)
ゲームの中で梅娘ギルド長が従業員を何よりも求めていたのは、建物の老朽化で困っていたからだ。
主人公が暗殺者として入隊した際、最初に放った言葉は「すみません、ここは廃墟でしょうか…?」であった。
従業員さえいれば、建物の再建を行えるのだそうだ。
何故従業員がいなければ再建ができないのかはゲーム内では詳しく掘り下げられなかったが、梅娘が言うんだから間違いない。
ある大雨の日に屋根の一部が崩落し、一部の部屋が使用不可になり、雨漏りがひどくなる。
(そのせいで、だいぶ人数がまた減ってくんですよね…。)
梅娘もこれにはお手上げらしく、そこには立て看板で『立ち入り禁止』と書かれ、開かずの間になったとゲームでは説明があった。
主人公がギルドを直そうと頑張っていくのだが、どうしてもぶつかってしまうのが書類の手続きだった(おそらくこの書類の手続きに従業員…もとい、事務員が必要だったのかもしれない)。
その時は南支部のギルドにいた老婆(だいぶ歳を召された)の従業員が手伝ってくれたのだが、その時に請求された金額が馬鹿にならないほど高い。
(手続するだけの紙にそこまでお金をかけたくはないよね…。結局主人公は払ってたけど。)
そのせいで建物の大きさは2番目に大きいといわれていたにもかかわらず、一番小さくなってしまうという話だったはずだ。
(主人公がいながらこの有様…。本当に乙女ゲームなんですよねってクレームがあったとかなんだとか…。)
まぁ、裏社会のギルドなんだから、建築物そのものが違法なのかもしれないけど…。
その違法の建物を立て直すからって、あの金額は本当に馬鹿にならなかった…。
ゲームで頑張って貯める主人公のお金がそこで使われるので、なかなか攻略対象との物語攻略が進まず、イライラしたと地球の友達、早紀が言っていた。
「主人公のお金は、攻略キャラとラブラブになれる課金アイテムを購入していただく資金源にしていただき、サクッと世界を救っていただきましょう。」
課金アイテムとは、東部狩人業専門ギルドに所属している、リチェという錬金士の女性が売ってくれるアイテムのことである。
このアイテムがあるとなんと、ムフフのことや、イヤ~ンなことが起き、一気に攻略対象との好感度が上がるのだ!
すごい!やばい!絶対違法だ!の三段階のアイテム。
全年齢対象版だと、画面が暗くなり、『一夜を過ごした…』の文字で解説が入り、明るくなると、もういつも通りの健全画面に戻っているという仕組みだった。
十八禁版だと細かすぎるほど濃厚で嬉しいと噂だった。
(もちろん私のもとの体は二十歳。一応年齢は大丈夫とはいえ、十八禁版は考えたことなかった…雹華ちゃんと一つになったこの世界では私の体は現在十八歳になったばかり…そんな話はごめんなさいをしたいところ。)
乙女ゲームの中とはいえここはある意味現実。真っ暗画面なんてことはないだろうし…。
もうここは主人公に申し訳ないけど、攻略対象の藍斗お兄様の餌食になっていただきましょう。
(世界の為なの許してね。)
そのほかは私がサポートするから...主人公。
こうして今日も勉強しながら、来るべき未来に思いを馳せ、夜が明けていくのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試験会場(秘密結社 中央支部狩人ギルド 本部)
試験当日
「広い…!!」
今まで見ていた桜華国ではなく、アルバザンデ王国(イタリアイメージの国)に私は来ていた。
高く、石造りの家々。石畳の道。
街中には花と緑、そして、レモンの木が点々と植わっている。
街にベランダには洗濯物などは干されておらず、街の外観のため、必ずある中庭に干しているらしかった。
確かにそのおかげか、街は驚く程美しい。
その街の中で協会のように大きい建物の前に私はいた。
そう、こここそ試験会場にほかならない。
あれから三か月があっという間に過ぎ、試験会場である中央支部に私たちは来ていた。
協会のように大きいその建物は白く、ステンドガラスが輝いている。外の柱には像が彫られており、鳥の彫像のようだ。
中央支部のギルド長の腕輪は『鳥』のはずなので、鳥をあしらった彫像が多くあるのかもしれない。
入口の前で受付を取る。試験を受けるための申込用紙を見せると、二度見されたのち、番号札を渡された。
「三十六番です。試験開始十分前に放送が入ります。三十六番の個室に入り、試験を受けてくださいね。」
受付をしてくれているのは中年に見えるブロンド髪で美しい緑の瞳を持つ女性だ。
この人がこの中央支部の従業員なのであろう。私の先輩だ。中央支部の従業員は四年前に交代したばかりだと聞く。
何か考えた後、何かを勘違いしたのか
「若いうちに一度試験の感覚をつかむのはいいことよ。今回はだめだろうけど、二年後頑張るのよ。」
と流暢な桜華国語で話してくれた。
ふふっと軽く笑って流しておいた。
(受からないと思っているのね。…子供のうちに感覚を掴んで、二年周期で受けに来る人もいるって聞いたことがあるけど、私もそれに見えたのでしょうね。)
そのままお礼を言った後、中庭をそのまま進んだ後見えてきた大きな建物の中に入ると、一気に人が増えた。
この全員が属性を持つ能力者だなんて…。
結構堂々と歩いているんだと感心してしまう。
「お嬢様、離れませんよう、ここでは様々な言語が飛びあいます。中には言語が通じないとわかっていて、からかってくる低俗な輩もいますので、お気を付けを。」
「ええ、分かったわ。今日は来てくれてありがとうございます。柚猫がいれば心強いです。」
にこっとほほ笑むと柚猫は胸を抑えた。
(胸を抑えて…具合がよくないのかな?)
「ねぇ、ところでこの仮面は何なんですか?」
「お嬢様、それは絶対に、えぇ、絶対に外さないでくださいませ。」
私の顔には全面を覆う仮面が付いていた。
黒い仮面に青い美しい模様が入った仮面は、不思議と暑くも息苦しくもない。特に視界も問題なく見えているから構わないのだが…。
(これを付けていれば逆に目立っているような気がする…目立たず生きていきたいんだけど...)
これは目立たないようにと藍斗お兄様が、私にくれたもの。
何故これを付けなくてはいけないのか聞いてみたが、「絶対に外しちゃだめだ」とのことだった。
(理由になってないわ…。まぁ、能力遺物らしく、暑くも息苦しくもないけど。)
「これを付けてるせいでなんだか、目立っている気がするんだけど…たくさんの人にも見られているし。やっぱり外しちゃダメでしょうか?」
先程まで胸を抑えていた柚猫は途端に真面目な顔になったかと思うと、私の肩を掴んだ。
「お嬢様は自覚がないのです。私の可愛いお嬢様に羽虫でも付いたらどうします?その仮面は絶対に外さないでくださいませ。」
「羽虫…?そんなのが飛んでいるの?」
「はい、先程からブンブンとこちらを見やがっ…ゴホン見つめてきています。お嬢様は何も知らずに綺麗なままでいてくださればよかったのに…。本当に試験を受けられるんですか?お嬢様は大変良くできた、素晴らしいお方ですけど、その…試験は本当に難しいので。あの…」
いつも以上に饒舌な柚猫。
言い淀む理由は分かっていた。
試験を受ける人数は先に聞いていた。
今年前半期では、四千人が受けるのだそうだ。
そんな人数が入る試験会場があるだけで驚きなのだが、そこで受かるのはなんと一人程。毎年は零人なんだそう。
解答用紙は返却されず、九割以上点数を取ることが各科目の合格だ。
こんな子供が受かるはずはない。と言いたいのだろう。
落ち込まないでいいんだぞ、と暗に言ってくれているのだ。
狩人の家に生まれ、狩人として働けない私。
(恥になってしまうのだけは避けなければ…。柚猫はそれを心配してくれているのよね。お兄様の部下なのに私のところに今日ついてきてくれて…。)
「大丈夫。私、絶対に家の恥にならぬよう、受かってきます。」
「そんな!そうではありません…!お嬢様は今でも私たちの素敵で、完璧で、美少女で、何もかもが可愛らしい雹華様です!恥だなんて、そんなことはありません。」
すごい剣幕で否定された。
「そ、そうでしょうか?」
「はい!絶対に…!」
『試験を受ける者は番号ごとに個室へ移動してください。その後、開始の鐘の合図と同時に問題に取り組んでください。試験時間は六時間です。途中退室は許されません』
放送が協会中に響いた。すべての国の人が分かるように様々な言語で後から同じことを繰り返し言っている。先程の女性だ。
(凄いわ。なんか日本の空港のみたいね。)
私が先に受け取っていた番号札を見る。三十六番の部屋はどうやら一階の奥部屋らしい。
「頑張ってきますね。」
「お嬢様…。絶対に無理だと思ったら途中退室してくださって構いませんからね!」
部屋の前で待っています!と柚猫が真剣な目で言ってくるものだから、剣幕に負けて、頷くことしかできなかった。
___________________
試験会場 三十六番号室 扉前
柚猫side
お嬢様…。私の可愛いお嬢様…。
(先程からお嬢様を見ている男や女どもを殺してしまいたい。)
お嬢様は傾国の美女と呼ばれた奥様瓜二つのお顔立ち。
幼いころからその鱗片を見せるその顔立ちはもう、天女!
だというのに…。人体実験だなんて最低なことに巻き込まれ、お嬢様の人生はめちゃくちゃになってしまった。
お嬢様はあのまま美しく優しく、清らかに大人になり、狩人になっても情報専門の、特に甘い罠の仕事は絶対にさせずに、明るい清らかなお嬢様のままお育てしようと決めたのに。
(すべてはあの日から…。)
私が、乞食で金を恵まれるのを道端で待つただの餓鬼だった頃。
両手で椀を持ちひたすら地面に頭をこすりつけ、金を待っていた。
両親に捨てられ、兄弟には見放され、私には何もなかった。
身体中には垢がへばりつき、髪の毛には泥と虫の糞と汗で固まった皮脂の塊が張り付き、骨と皮だけの状態でその日も私は待っていた。
本の中で出てくるような綺麗な涙を流し、ただただ痩せている哀れな子供とは違い、現実の私はただただ汚いゴミのように黒く、動物のようにそこで唸るだけの存在。
あの日、金を恵んでくれるのを待っているのか、ただ、このような地獄のような日の終わりを待っていたのか、今でもわからない日。
のどが渇き、太陽の光すら私を嫌うかのように、熱く背中を焼き、私を責め立てる。それでも私は待っていた。
(早くお金来ないかな。お金はとってもきれい。私を裏切らないし、私を貶さないから)
私を捨てた母親の顔、兄弟の顔を思い出す。
涙も出てこないほど、どうでもいい家族。
ぼーっと待っていた時だった。
ジャラッ
ズシッと椀が細い腕では支えきれないほどいきなり重くなったと思った時、私は失礼なことを思った。
(たまにいるのよね、石や泥を入れるやつ。)
本当に憐れんで金をくれるのは一部のみ。
他は面白がって石を入れるもの、泥水を入れて飲んでみろと嘲笑う輩達…。
こんなに重くなる場合は後者の方だ。
顔を上げ、一応礼を言う。そうすれば相手も満足して消えていく。
そう思い、顔を上げようとしたとき
「だいじょうぶ?」
子供の声がした。
椀の中には金貨がいっぱいに入り、その椀を持つ私の手には優しい柔らかな手が添えてあった。
切なそうに見つめてくるその美しい青い瞳に私は吸い込まれそうになった。
白くて美しい肌、長いまつげによってできた影が儚く瞬きによって動く。
とっさに目をそらして戸惑うように声を出した。
「あ…、ありがとうございます」
殻からの喉から出た声は掠れ、汚い音と化した。
恥ずかしい。
初めて羞恥心を覚えた瞬間だった。
(こんなに美しい人の前で、こんな汚い私だなんて…。いいえどうせ笑いに来ただけ。)
「ねぇ、おうちにかえらないの?きょうは、「暑い日」なんだよ?」
「家が…ないので」
ただ純粋に心配してくれているのだと、疑り深い私でもそれは分かった。
「じゃぁ、一緒にわたしのおうちに、きませんか?お兄さまもきっとゆるしてくれるわ。」
「私は…すごく汚くて、みじめなので、相応しくないと思います。」
(どうせ行ったところで、他の使用人に虐められて死ぬだけだとわかっている。なら、ここでこのお金を持って逃げる方が…。)
「?」
キョトンとした顔で見つめてきた素敵で美しい小さな天女は、私の顔を触っていったのだ。
「とってもきれいよ?だってこんなにも綺麗なひとみ、してるもの」
ニコッと眩しい笑みで前髪で隠れていた私の隠された目を褒めた。
右目が黒なのに、左目が黄色で、動物か妖怪のようだと捨てられたこの目。
「動物みたいで、気持ち悪くありませんか…?」
「いいえ、と~ってもすてき!それに私は猫が大好きなの!あなたはきらい?」
「い、いいえ。嫌いじゃないです。」
どちらかというと、猫は好きな方だった。
自由でしなやかで...私とは違う、そんな生き物。
「ねぇ?いっしょにいきましょう?…そうだ、名前は?」
「名前なんてありません。」
晴れているのに、雨がポツポツト降ってきた。
晴れ渡る空に、降る雨…。そこに佇む美しい幼子。どこか違う世界のようで見とれていると、
「じゃあ、つけてもいいですよね…そうねぇ、柚猫!どう?あなたにすごく、にあうわ!」
「柚猫…」
「ねぇ柚猫。私ね、あなたの目、と~っても好きよ。」
大量の金貨の入った椀、今まで一度も手放したことのない...その金を恵んでもらう為の椀を私はその日周りの目も気にせず、すとんと落とした。
お金よりもずっと価値のあって、美しくて、綺麗なもの。
「貴方のお…お名前は?」
落ちた椀と金貨を必死に集めて、私の手元に戻してくれる幼い天女。
まわりの奴らが落ちた金貨を狙っている。
でもそんなことも気にならない。
「私?私は…」
___________________
試験会場 三十六番号室
『試験終了時間です。お疲れ様でした。」
放送とともに、用紙が光って消えていった。
風の能力らしい。
(すごく簡単だったけど…。大丈夫かな?)
一昨日、「錬金士の資格三級以上」という条件を満たしてきた。
その時にお兄様に「天才だ」と驚かれた。
そのほかの試験は全てこの本部にて用紙で行われる。
料理や掃除に関する知識も紙で回答した。
(実践じゃないのが不思議だけど、よく考えたら四千人も一斉に掃除や料理されても困るものね。)
合格発表は番号札の裏に焼き印が出てくるのだそうだ。
番号札の裏には、今回私が受けた試験名が書かれており、その横に合否の印が押される欄がある仕組みだった。
ジュワッ
焼ける音が聞こえ慌てて机に置いてあった番号札を見てみると、結果が刻まれていた。
(これは火の能力…。魔法みたいで面白い。)
この世界のいいところだと思う。
ここの世界でもこの属性の能力は御伽噺のような扱いらしいし、珍しいから...。
見ていてワクワクしちゃう。
その番号札の印を見て周り等気にせず喜びの声を上げた。
「受かった!」
___________________
試験会場 三十六番号室 扉前
「柚猫!」
昔のことを思い出していた時、お嬢様が部屋から出てこられた。
あれから六時間。
「お嬢様!大丈夫でしたか?お腹がすいていらっしゃるでしょう?」
手持ちで食べられる焼餅を買っておいた。
でも冷えてしまっていることに気が付くと、慌てて、買い直さなければいけないと思い、謝罪を口にする。
「申し訳ありません、冷えてしまいました!買いなおしてまいります!いえ、ここにお嬢様をおひとり残すのも…。」
「柚猫。私は大丈夫だから、落ち着いてください。結果を聞きたくないのですか?」
きっとお嬢様は落ち込んでいらっしゃるに違いない。多くの者が部屋から出てきたが、受かっている様子な人は誰もいない。
どうお慰めすればいいのか...。下手なことを言えば逆に傷つけてしまう。
「お嬢様…、二年後も機会はございます。今回は…」
「受かったわ。」
「え?」
「すべて受かったの。」
あの日のように眩しく笑うお嬢様がそこにはいた。
「全部、応援してくれた柚猫のおかげです。ありがとう。証明書を受け取って…」
手を差し伸べて
「一緒に帰りましょう?」
その手を迷わず取ると、友人のように二人で歩き出した。
お嬢様が持っているその番号札には合格の文字。
じわじわとくる気持ちを今度こそ隠さず気持ちのまま声を出した。
「今日は、お祝いですね!」
こっちを見た顔は仮面が着いているけれど、握った手に力が籠った。
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「私?私は…雹華いっしょに帰りましょう?」
手を取られ、二人で馬車に乗ったあの日。私が初めてお嬢様と出会った日。
あの時私は確かに『救われた』のだ。
(お嬢様は、本当にまっすぐ育たれた…。これからも、どうか健やかに…)
もうこれ以上お嬢様が、苦しむことのない、悲しむことないよう、私が周りの羽虫共を排除しなくては。
(羽音を立てる蠅どもめ、お嬢様を見るな無礼者。)
だから今日も今日とて、お嬢様の周りの虫どもを睨んでいるのです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試験会場(中央支部狩人業専門ギルド 本部)
雹華side
受付の女性が驚きながら証明書を渡してくれた。
その時だ、とある人が声をかけてきた。
「おや、お前さんか。最年少で受かった天才児とは。ほう?東雲の家紋だね。」
老婆がキセルを吹かせながら私の服の袖をつかんだ。
私が声を出す前に柚猫が驚いた顔をした。
「あ、あなたは…!中央支部狩人業専門ギルド ギルド長、『マダム・アドリーシャ』!」
(誰だっけ…?いや、これって前にも…?)
「これで私と籍?を入れてくだいませんこと?!」
十二歳にも満たない幼い少女が、綺麗な伝統着に身を包み、数歳上だと思われる青年に、本人にとっては意味もまだ理解しきれていないであろう難しい言葉で約束を取り付けようとしていた。
親から言うように言われたのか、それとも子供の本心か…。
少女が真剣に差し出す両手には、子供が持っていいとは思えないほどの大きい宝石がゴロゴロと乗っていた。
「嫌や。断る。」
求婚してくれている少女に求婚された方の青年は地球の日本の言語に合わせると関西方面の訛り口調に酷似している話し方で、バッサリとその求婚を断った。
「~~~!」
涙をこらえ、少女は宝石を抱きしめて唸り声をあげた。泣き声が出ないようにこらえているようである。
「まぁ!龍輝様。私の娘は貴方様の従妹。貴方様のことを、これから先支えていけるのはうちの娘しかいないでしょう。さぁ、意地を張らずに!」
少女の母親らしき人が何とか説得させようとしてくるが、青年は気にもせず、もう一度はっきりと断った。
「嫌や、断る。天地がひっくり返ってもあらへん。」
それも先程よりも強めに聞こえるよう、語気を強めて、冷めた顔で言い放った。
この歳の少女相手に対して情けも慈悲もない。
晴れ渡る空、まだ暑い日差しが差し込む豪華な庭で大人と子供が複数人集まっていた。
ここは、桜華国。
『日夜 龍輝』
十九歳の彼のお披露目会を開催していた。
今日は彼の成人前の十九歳(桜華国での年齢)の誕生会である。
(この国では、二十歳が成人とされる。)
彼の家『日夜』家は、ここ桜華国の王族の親戚であった。
彼には姉が一人、腹違いの弟と妹が一人ずついた。
彼は正室に生まれた念願の男の子。
この国では王の次に地位を持つ家に生まれた待望の男ということで、期待も大きく、それに応えるだけの才能が彼にはあった。
「かっこいい…!」
「素敵…!どこから見ても絵巻物から出てきたようなお方…」
ほぅ…とため息をつく少女達が、『龍輝』を熱いまなざしで見つめている。
容姿は、長い黒髪を後ろで三つ編みにして流し、癖のある柔らかな前髪、長いまつげ、末広二重のその赤い瞳。右目下には黒子がひとつ。白い肌、高い鼻。
絵巻物に出てくるであろうその完璧な容姿は、周りにいる少女たちを虜にするには十分すぎた
「龍、だれを選んでもええんやで?」
龍とは、青年の愛称であり、家族以外は呼ぶことを許していない愛称でもあった。
「父上。来てくださるとは思いませんでした。」
「長男の誕生会だ。俺が来ないわけないやろ?で?この中に気に入った女はおるか?」
「いえ、ここに将来私を支えてくださるようなお方はいらっしゃられないように見えます。私は日夜家の男児。それに見合った女性を娶りたいのです。」
父親がやってくるとすぐに口調を改め、礼儀を正した。
赤色の瞳は暖色系だというのに、冷たい感じを放っている。
口元は穏やかに笑みをたたえたままだが、目が笑っていない…というのだろう。父と息子の間に交わす笑みとは思えない笑い方だ。
龍輝は、明るく話している血がつながっているだけの父親をその冷たい目のまま見つめ返した。
(母上とは幼馴染の情で結婚し、正妻へ置いたが、初恋の女官を側室へ向かい入れ、俺以外の男児をあちらにもう一人つくった…。なにより父上は俺よりもあちらの方を可愛がっていらっしゃる。)
龍輝の父は、国王の忠臣の一人であり、裏では優秀な狩人だ。
多くの経験を積むため、辺境地に何度も出されていた経験からか口調が訛り口調になった。
見た目も整っており、容姿は龍輝によく似ていた。
彼は、幼馴染の婚約者の翡翠と呼ばれる別の国の姫(彩陽国の姫)を予定通り娶り、
男児が産まれるや否や翡翠を差し置いて、狩人の時よりずっと好きだった女(当時翡翠の専属女官だった)、雨恩を側室に向かい入れ、男児を1人、女児を1人産ませた。今はまた一人妊娠中との話だ。
(翡翠母上は姉の『暁音』姉上と、俺を生んだ後、用無しだといわんばかりに離れの屋敷の一室に入れられ、出てくることはほぼない状況…。正室とは言え、召使いや下女達に下に見られている時もある…。)
隣で笑って、「大きくなった。時期にお前も俺と同じ仕事をするようになるんだ。」などと言っている父親を見て、内心軽蔑をしていた。
(どうせ、俺を跡継ぎにするつもりなんてないに決まっとる。なら俺は俺で生計を立てるだけや。)
父親だとも認めたくないその男を見て、何度も立てていた誓いを改めて心の中で誓う。
(俺は絶対恋なんてもんに溺れたりせぇへんぞ。)
恋なんて結局、周りを不幸にするだけだ。
周りを巻き込んで、さんざん振り回しておいて、最後には自分だけが幸せになる。
そのあとのことも何一つ考えない…。
「恋と愛」とやらがこんな結末を迎えるのなら、こんな傍迷惑なことがあるだろうか?
(こんなやつと親子だなんて、お断りや)
残暑が残る九月、龍輝がまだ狩人になって間もない時の話であった。
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屋敷 書庫 雹華
ギルドの従業員として働くため、私は書庫に来ていた。
藍斗お兄様が「勉強するなら、書庫に行くといい」と勧めてくれたからだ。
昔従業員を目指した人が家にいたらしく、その時に購入した教材が残っているそうだ。
その人は難しさのあまり結局諦め、狩人になったそうだが…。
(狩人になりたくなかった事情があったらしい)
その難しいと先祖が諦めたその内容を絶賛勉強中の私だが、私はその従業員の教材に目を丸くしていた。
(勉強が、めちゃめちゃスラスラ頭の中に入ってくるのはどういう仕組みなの…!?)
教材が簡単なわけではない、文字も日本語とはかけなはれているし、錬金の勉強に関しては、数式や特別な錬金言語と呼ばれるもので記載されている為、すごく難しいはずなのだが…。
(読んでいくと全部日本語に翻訳されていくし、文字を書こうとすると、その文字になる…!え?なにこれ、一つになった雹華ちゃんの頭が良すぎるおかげなの?それともこういう仕様付きの世界?)
文字や言語は国ごとに違うらしく、発音や、数字の書き方、金の単位もすべて違う。
そのすべての文字と言語を読み書き、数字と金の単位理解ができないと従業員の資格(依頼書の発行・処理に加え、経理、客人の対応など)の試験にはまず受からないそうだ。
(国によって言語も文字も違うから、当然文化や礼儀作法も違ってくるのね。ここは地球と同じかも...言語は並び順とある程度の単語を覚え、それ以外の例外の穴を埋めていくことさえできれば、もう大丈夫そう。)
翻訳や、文字変換されるというのは語弊があるかもしれない。
翻訳はされるのだが、文字の上に小さくルビが振られている状態に見えるといえばいいのだろうか。ここの乙女ゲーム世界の文字は消えずに、文字の上に小さい日本語の文字で翻訳されている。
それに似て、文字変換も最初に変換したい文章(言語を頭の中で指定して)を考えつつ、その文章を日本語を書いていくと、手が勝手にその言語に変換してくれるというものだ。
ただし、本を読み、文字の形やその単語を覚え、文章の並び順をきちんと頭で覚えないと変換されることはなく、そこだけ空白になってしまう。
だが、それさえある程度覚えてしまえば、書き読みができてしまうのである。
(これがこの世界の勉強方法なら、みんな簡単に従業員になれると思うんだけど、違うのかな…。)
単語帳と、数字の形を覚えたら誰でも受かるような…。
(きっと他のところで躓くのかもしれないし、ここで慢心してはいけない…。すべては約束の為!)
主人公に出会うまでに東支部狩人ギルドに就職しなければならない。
何故こんなにも私が早くギルドに就職したいのか不思議に思った人も多いのではないだろうか?
だって今はゲームが始まる二年も前だから、それこそ主人公が来た時に間に合えばいいでしょ?って思う人もいるはず。
でもこの二年間が一番何よりも大切だと声を大にして私は言いたい。
(東支部狩人業専門ギルドはお化け屋敷状態だから、早く就職しなくては…)
ゲームの中で梅娘ギルド長が従業員を何よりも求めていたのは、建物の老朽化で困っていたからだ。
主人公が暗殺者として入隊した際、最初に放った言葉は「すみません、ここは廃墟でしょうか…?」であった。
従業員さえいれば、建物の再建を行えるのだそうだ。
何故従業員がいなければ再建ができないのかはゲーム内では詳しく掘り下げられなかったが、梅娘が言うんだから間違いない。
ある大雨の日に屋根の一部が崩落し、一部の部屋が使用不可になり、雨漏りがひどくなる。
(そのせいで、だいぶ人数がまた減ってくんですよね…。)
梅娘もこれにはお手上げらしく、そこには立て看板で『立ち入り禁止』と書かれ、開かずの間になったとゲームでは説明があった。
主人公がギルドを直そうと頑張っていくのだが、どうしてもぶつかってしまうのが書類の手続きだった(おそらくこの書類の手続きに従業員…もとい、事務員が必要だったのかもしれない)。
その時は南支部のギルドにいた老婆(だいぶ歳を召された)の従業員が手伝ってくれたのだが、その時に請求された金額が馬鹿にならないほど高い。
(手続するだけの紙にそこまでお金をかけたくはないよね…。結局主人公は払ってたけど。)
そのせいで建物の大きさは2番目に大きいといわれていたにもかかわらず、一番小さくなってしまうという話だったはずだ。
(主人公がいながらこの有様…。本当に乙女ゲームなんですよねってクレームがあったとかなんだとか…。)
まぁ、裏社会のギルドなんだから、建築物そのものが違法なのかもしれないけど…。
その違法の建物を立て直すからって、あの金額は本当に馬鹿にならなかった…。
ゲームで頑張って貯める主人公のお金がそこで使われるので、なかなか攻略対象との物語攻略が進まず、イライラしたと地球の友達、早紀が言っていた。
「主人公のお金は、攻略キャラとラブラブになれる課金アイテムを購入していただく資金源にしていただき、サクッと世界を救っていただきましょう。」
課金アイテムとは、東部狩人業専門ギルドに所属している、リチェという錬金士の女性が売ってくれるアイテムのことである。
このアイテムがあるとなんと、ムフフのことや、イヤ~ンなことが起き、一気に攻略対象との好感度が上がるのだ!
すごい!やばい!絶対違法だ!の三段階のアイテム。
全年齢対象版だと、画面が暗くなり、『一夜を過ごした…』の文字で解説が入り、明るくなると、もういつも通りの健全画面に戻っているという仕組みだった。
十八禁版だと細かすぎるほど濃厚で嬉しいと噂だった。
(もちろん私のもとの体は二十歳。一応年齢は大丈夫とはいえ、十八禁版は考えたことなかった…雹華ちゃんと一つになったこの世界では私の体は現在十八歳になったばかり…そんな話はごめんなさいをしたいところ。)
乙女ゲームの中とはいえここはある意味現実。真っ暗画面なんてことはないだろうし…。
もうここは主人公に申し訳ないけど、攻略対象の藍斗お兄様の餌食になっていただきましょう。
(世界の為なの許してね。)
そのほかは私がサポートするから...主人公。
こうして今日も勉強しながら、来るべき未来に思いを馳せ、夜が明けていくのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試験会場(秘密結社 中央支部狩人ギルド 本部)
試験当日
「広い…!!」
今まで見ていた桜華国ではなく、アルバザンデ王国(イタリアイメージの国)に私は来ていた。
高く、石造りの家々。石畳の道。
街中には花と緑、そして、レモンの木が点々と植わっている。
街にベランダには洗濯物などは干されておらず、街の外観のため、必ずある中庭に干しているらしかった。
確かにそのおかげか、街は驚く程美しい。
その街の中で協会のように大きい建物の前に私はいた。
そう、こここそ試験会場にほかならない。
あれから三か月があっという間に過ぎ、試験会場である中央支部に私たちは来ていた。
協会のように大きいその建物は白く、ステンドガラスが輝いている。外の柱には像が彫られており、鳥の彫像のようだ。
中央支部のギルド長の腕輪は『鳥』のはずなので、鳥をあしらった彫像が多くあるのかもしれない。
入口の前で受付を取る。試験を受けるための申込用紙を見せると、二度見されたのち、番号札を渡された。
「三十六番です。試験開始十分前に放送が入ります。三十六番の個室に入り、試験を受けてくださいね。」
受付をしてくれているのは中年に見えるブロンド髪で美しい緑の瞳を持つ女性だ。
この人がこの中央支部の従業員なのであろう。私の先輩だ。中央支部の従業員は四年前に交代したばかりだと聞く。
何か考えた後、何かを勘違いしたのか
「若いうちに一度試験の感覚をつかむのはいいことよ。今回はだめだろうけど、二年後頑張るのよ。」
と流暢な桜華国語で話してくれた。
ふふっと軽く笑って流しておいた。
(受からないと思っているのね。…子供のうちに感覚を掴んで、二年周期で受けに来る人もいるって聞いたことがあるけど、私もそれに見えたのでしょうね。)
そのままお礼を言った後、中庭をそのまま進んだ後見えてきた大きな建物の中に入ると、一気に人が増えた。
この全員が属性を持つ能力者だなんて…。
結構堂々と歩いているんだと感心してしまう。
「お嬢様、離れませんよう、ここでは様々な言語が飛びあいます。中には言語が通じないとわかっていて、からかってくる低俗な輩もいますので、お気を付けを。」
「ええ、分かったわ。今日は来てくれてありがとうございます。柚猫がいれば心強いです。」
にこっとほほ笑むと柚猫は胸を抑えた。
(胸を抑えて…具合がよくないのかな?)
「ねぇ、ところでこの仮面は何なんですか?」
「お嬢様、それは絶対に、えぇ、絶対に外さないでくださいませ。」
私の顔には全面を覆う仮面が付いていた。
黒い仮面に青い美しい模様が入った仮面は、不思議と暑くも息苦しくもない。特に視界も問題なく見えているから構わないのだが…。
(これを付けていれば逆に目立っているような気がする…目立たず生きていきたいんだけど...)
これは目立たないようにと藍斗お兄様が、私にくれたもの。
何故これを付けなくてはいけないのか聞いてみたが、「絶対に外しちゃだめだ」とのことだった。
(理由になってないわ…。まぁ、能力遺物らしく、暑くも息苦しくもないけど。)
「これを付けてるせいでなんだか、目立っている気がするんだけど…たくさんの人にも見られているし。やっぱり外しちゃダメでしょうか?」
先程まで胸を抑えていた柚猫は途端に真面目な顔になったかと思うと、私の肩を掴んだ。
「お嬢様は自覚がないのです。私の可愛いお嬢様に羽虫でも付いたらどうします?その仮面は絶対に外さないでくださいませ。」
「羽虫…?そんなのが飛んでいるの?」
「はい、先程からブンブンとこちらを見やがっ…ゴホン見つめてきています。お嬢様は何も知らずに綺麗なままでいてくださればよかったのに…。本当に試験を受けられるんですか?お嬢様は大変良くできた、素晴らしいお方ですけど、その…試験は本当に難しいので。あの…」
いつも以上に饒舌な柚猫。
言い淀む理由は分かっていた。
試験を受ける人数は先に聞いていた。
今年前半期では、四千人が受けるのだそうだ。
そんな人数が入る試験会場があるだけで驚きなのだが、そこで受かるのはなんと一人程。毎年は零人なんだそう。
解答用紙は返却されず、九割以上点数を取ることが各科目の合格だ。
こんな子供が受かるはずはない。と言いたいのだろう。
落ち込まないでいいんだぞ、と暗に言ってくれているのだ。
狩人の家に生まれ、狩人として働けない私。
(恥になってしまうのだけは避けなければ…。柚猫はそれを心配してくれているのよね。お兄様の部下なのに私のところに今日ついてきてくれて…。)
「大丈夫。私、絶対に家の恥にならぬよう、受かってきます。」
「そんな!そうではありません…!お嬢様は今でも私たちの素敵で、完璧で、美少女で、何もかもが可愛らしい雹華様です!恥だなんて、そんなことはありません。」
すごい剣幕で否定された。
「そ、そうでしょうか?」
「はい!絶対に…!」
『試験を受ける者は番号ごとに個室へ移動してください。その後、開始の鐘の合図と同時に問題に取り組んでください。試験時間は六時間です。途中退室は許されません』
放送が協会中に響いた。すべての国の人が分かるように様々な言語で後から同じことを繰り返し言っている。先程の女性だ。
(凄いわ。なんか日本の空港のみたいね。)
私が先に受け取っていた番号札を見る。三十六番の部屋はどうやら一階の奥部屋らしい。
「頑張ってきますね。」
「お嬢様…。絶対に無理だと思ったら途中退室してくださって構いませんからね!」
部屋の前で待っています!と柚猫が真剣な目で言ってくるものだから、剣幕に負けて、頷くことしかできなかった。
___________________
試験会場 三十六番号室 扉前
柚猫side
お嬢様…。私の可愛いお嬢様…。
(先程からお嬢様を見ている男や女どもを殺してしまいたい。)
お嬢様は傾国の美女と呼ばれた奥様瓜二つのお顔立ち。
幼いころからその鱗片を見せるその顔立ちはもう、天女!
だというのに…。人体実験だなんて最低なことに巻き込まれ、お嬢様の人生はめちゃくちゃになってしまった。
お嬢様はあのまま美しく優しく、清らかに大人になり、狩人になっても情報専門の、特に甘い罠の仕事は絶対にさせずに、明るい清らかなお嬢様のままお育てしようと決めたのに。
(すべてはあの日から…。)
私が、乞食で金を恵まれるのを道端で待つただの餓鬼だった頃。
両手で椀を持ちひたすら地面に頭をこすりつけ、金を待っていた。
両親に捨てられ、兄弟には見放され、私には何もなかった。
身体中には垢がへばりつき、髪の毛には泥と虫の糞と汗で固まった皮脂の塊が張り付き、骨と皮だけの状態でその日も私は待っていた。
本の中で出てくるような綺麗な涙を流し、ただただ痩せている哀れな子供とは違い、現実の私はただただ汚いゴミのように黒く、動物のようにそこで唸るだけの存在。
あの日、金を恵んでくれるのを待っているのか、ただ、このような地獄のような日の終わりを待っていたのか、今でもわからない日。
のどが渇き、太陽の光すら私を嫌うかのように、熱く背中を焼き、私を責め立てる。それでも私は待っていた。
(早くお金来ないかな。お金はとってもきれい。私を裏切らないし、私を貶さないから)
私を捨てた母親の顔、兄弟の顔を思い出す。
涙も出てこないほど、どうでもいい家族。
ぼーっと待っていた時だった。
ジャラッ
ズシッと椀が細い腕では支えきれないほどいきなり重くなったと思った時、私は失礼なことを思った。
(たまにいるのよね、石や泥を入れるやつ。)
本当に憐れんで金をくれるのは一部のみ。
他は面白がって石を入れるもの、泥水を入れて飲んでみろと嘲笑う輩達…。
こんなに重くなる場合は後者の方だ。
顔を上げ、一応礼を言う。そうすれば相手も満足して消えていく。
そう思い、顔を上げようとしたとき
「だいじょうぶ?」
子供の声がした。
椀の中には金貨がいっぱいに入り、その椀を持つ私の手には優しい柔らかな手が添えてあった。
切なそうに見つめてくるその美しい青い瞳に私は吸い込まれそうになった。
白くて美しい肌、長いまつげによってできた影が儚く瞬きによって動く。
とっさに目をそらして戸惑うように声を出した。
「あ…、ありがとうございます」
殻からの喉から出た声は掠れ、汚い音と化した。
恥ずかしい。
初めて羞恥心を覚えた瞬間だった。
(こんなに美しい人の前で、こんな汚い私だなんて…。いいえどうせ笑いに来ただけ。)
「ねぇ、おうちにかえらないの?きょうは、「暑い日」なんだよ?」
「家が…ないので」
ただ純粋に心配してくれているのだと、疑り深い私でもそれは分かった。
「じゃぁ、一緒にわたしのおうちに、きませんか?お兄さまもきっとゆるしてくれるわ。」
「私は…すごく汚くて、みじめなので、相応しくないと思います。」
(どうせ行ったところで、他の使用人に虐められて死ぬだけだとわかっている。なら、ここでこのお金を持って逃げる方が…。)
「?」
キョトンとした顔で見つめてきた素敵で美しい小さな天女は、私の顔を触っていったのだ。
「とってもきれいよ?だってこんなにも綺麗なひとみ、してるもの」
ニコッと眩しい笑みで前髪で隠れていた私の隠された目を褒めた。
右目が黒なのに、左目が黄色で、動物か妖怪のようだと捨てられたこの目。
「動物みたいで、気持ち悪くありませんか…?」
「いいえ、と~ってもすてき!それに私は猫が大好きなの!あなたはきらい?」
「い、いいえ。嫌いじゃないです。」
どちらかというと、猫は好きな方だった。
自由でしなやかで...私とは違う、そんな生き物。
「ねぇ?いっしょにいきましょう?…そうだ、名前は?」
「名前なんてありません。」
晴れているのに、雨がポツポツト降ってきた。
晴れ渡る空に、降る雨…。そこに佇む美しい幼子。どこか違う世界のようで見とれていると、
「じゃあ、つけてもいいですよね…そうねぇ、柚猫!どう?あなたにすごく、にあうわ!」
「柚猫…」
「ねぇ柚猫。私ね、あなたの目、と~っても好きよ。」
大量の金貨の入った椀、今まで一度も手放したことのない...その金を恵んでもらう為の椀を私はその日周りの目も気にせず、すとんと落とした。
お金よりもずっと価値のあって、美しくて、綺麗なもの。
「貴方のお…お名前は?」
落ちた椀と金貨を必死に集めて、私の手元に戻してくれる幼い天女。
まわりの奴らが落ちた金貨を狙っている。
でもそんなことも気にならない。
「私?私は…」
___________________
試験会場 三十六番号室
『試験終了時間です。お疲れ様でした。」
放送とともに、用紙が光って消えていった。
風の能力らしい。
(すごく簡単だったけど…。大丈夫かな?)
一昨日、「錬金士の資格三級以上」という条件を満たしてきた。
その時にお兄様に「天才だ」と驚かれた。
そのほかの試験は全てこの本部にて用紙で行われる。
料理や掃除に関する知識も紙で回答した。
(実践じゃないのが不思議だけど、よく考えたら四千人も一斉に掃除や料理されても困るものね。)
合格発表は番号札の裏に焼き印が出てくるのだそうだ。
番号札の裏には、今回私が受けた試験名が書かれており、その横に合否の印が押される欄がある仕組みだった。
ジュワッ
焼ける音が聞こえ慌てて机に置いてあった番号札を見てみると、結果が刻まれていた。
(これは火の能力…。魔法みたいで面白い。)
この世界のいいところだと思う。
ここの世界でもこの属性の能力は御伽噺のような扱いらしいし、珍しいから...。
見ていてワクワクしちゃう。
その番号札の印を見て周り等気にせず喜びの声を上げた。
「受かった!」
___________________
試験会場 三十六番号室 扉前
「柚猫!」
昔のことを思い出していた時、お嬢様が部屋から出てこられた。
あれから六時間。
「お嬢様!大丈夫でしたか?お腹がすいていらっしゃるでしょう?」
手持ちで食べられる焼餅を買っておいた。
でも冷えてしまっていることに気が付くと、慌てて、買い直さなければいけないと思い、謝罪を口にする。
「申し訳ありません、冷えてしまいました!買いなおしてまいります!いえ、ここにお嬢様をおひとり残すのも…。」
「柚猫。私は大丈夫だから、落ち着いてください。結果を聞きたくないのですか?」
きっとお嬢様は落ち込んでいらっしゃるに違いない。多くの者が部屋から出てきたが、受かっている様子な人は誰もいない。
どうお慰めすればいいのか...。下手なことを言えば逆に傷つけてしまう。
「お嬢様…、二年後も機会はございます。今回は…」
「受かったわ。」
「え?」
「すべて受かったの。」
あの日のように眩しく笑うお嬢様がそこにはいた。
「全部、応援してくれた柚猫のおかげです。ありがとう。証明書を受け取って…」
手を差し伸べて
「一緒に帰りましょう?」
その手を迷わず取ると、友人のように二人で歩き出した。
お嬢様が持っているその番号札には合格の文字。
じわじわとくる気持ちを今度こそ隠さず気持ちのまま声を出した。
「今日は、お祝いですね!」
こっちを見た顔は仮面が着いているけれど、握った手に力が籠った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「私?私は…雹華いっしょに帰りましょう?」
手を取られ、二人で馬車に乗ったあの日。私が初めてお嬢様と出会った日。
あの時私は確かに『救われた』のだ。
(お嬢様は、本当にまっすぐ育たれた…。これからも、どうか健やかに…)
もうこれ以上お嬢様が、苦しむことのない、悲しむことないよう、私が周りの羽虫共を排除しなくては。
(羽音を立てる蠅どもめ、お嬢様を見るな無礼者。)
だから今日も今日とて、お嬢様の周りの虫どもを睨んでいるのです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試験会場(中央支部狩人業専門ギルド 本部)
雹華side
受付の女性が驚きながら証明書を渡してくれた。
その時だ、とある人が声をかけてきた。
「おや、お前さんか。最年少で受かった天才児とは。ほう?東雲の家紋だね。」
老婆がキセルを吹かせながら私の服の袖をつかんだ。
私が声を出す前に柚猫が驚いた顔をした。
「あ、あなたは…!中央支部狩人業専門ギルド ギルド長、『マダム・アドリーシャ』!」
(誰だっけ…?いや、これって前にも…?)
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