【本編完結】死に戻ったらヤンデレ化した元護衛に捕まりました!~ヤンデレルートって聞いてないんだけど~

ルマ

文字の大きさ
4 / 10

第三話 再び異世界へ、そして花街こんにちは。

 この異世界に再び来て早一週間。
 
 私は今度こそ死ぬ方法以外での帰り道を模索するため、城に向かって歩いて旅をしていた。

 いや、旅って言っても短いんだけどね。旅って何年単位だと思うけど、私は数日だったから。

 城に向かう途中、道中で出会った商団の人達が私を道中まで連れていってくれた。

 商人の皆さんが私の服装を不思議がっていたので、着物と交換で今着ている異世界の服を売って(上着とか色々)みたらなんと結構いい金額に...!

 どうやら、生地がとても良いらしい。

 (アクリル繊維ってそんなに高価なものだったなんて...もう少し着込んで来れば良かった...まぁいきなりだったんだけどね。)

 その自分の服と交換で買って着た着物は一緒に少しだけ旅をした商団の商人に

 「女性の一人旅なら、なるべく華やかではない着物を身に着けていた方がいい」

 という助言の元、私はなるべく地味で目立たない着物を選んだ。

 また、商団の人たちと別れる時に、親切にも女性が「顔は笠をふかくかぶるんだよ」とも言われたので、合わせて女性用の笠も購入した。

 はじめは「どうして笠もなんだろう…?」とか思ってたけど、すぐにその理由が分かった。
 若くて美人な女は昼でも道の途中で襲われるのだ。

 まぁ、今年で二十四歳になる、この世界で数えるとまぁまぁな歳の私は襲われる心配は少ないだろうけど、一応ね。

 (でも、どうして商人の皆さんは私に優しく...いいえ、腫れ物を扱うようにしてくれるんだろう?)

 思い切って聞いてみたところ、私を家出中のご令嬢だと思っていることがわかった。

 どこ辺りがそう見えるのかと聞いたところ、こんなに肌艶や、髪艶があるのはどこかのお偉い家のご令嬢くらいだと言うのだ。

 農民や町民はみな手や肌は乾燥しているそうで、髪は水で洗ったり、温泉がある村や町では温泉で洗うらしいけれど、石鹸が良いものが少ないらしく(どういった石鹼を使っているのか分からない…)髪が軋んでいるらしい。

 
 話が少し脱線したが、そんな家出中の令嬢が外で華やかな着物を着て歩いていたら、狙ってくださいと言っているようなものだと言われた。

 私は別に家出中の令嬢ではなかったが、そこはなんとなく「あははは…」と笑って過ごしておいた。

 ほら、指摘するのも、訂正するのも異世界人である事は変わりないからさ。


 でも一緒に歩いてくれていた商団は途中で寄る場所(商談)があるということで、私とお別れをした。

 あと数日で城というところでお別れだった。

 残りの道中、私がこの城下町にたどり着くまで数日は『おこと』さんという女性と一緒に旅をした。

 道案内を頼んでようやく城下町入を果たしたのだった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 女の一人旅は危険だというけど、まったくもってその通り。
 所々で女性を見たけど、みんな夜には家の中に入って籠っていった。

 すると夜には男性がうようよ歩いて(危ないタイプの人だと思う)家に入れなかった女性(宿をとれなかったんだと思う)を外だろうとお構いなしに、その…あの…色々ヤッていた。いや、強姦の類で、無理やりだった。助けたかったけど、お宿の店主に止められた。「関わったら貴方もあんな目に合うよ」って…。

 (ごめんね、助けてあげられなくて…なんて私は無力なんだろう...。)

 朝その女の人が、道端で着物をかき集めて泣いていたので、ご飯と新しい着物、お宿の人にお金を少し多めに払ってお願いした。
 そしてお宿の人に用意してもらったお湯で濡らした手ぬぐいを持って慌ててその女性に駆け寄った。

 「良ければ、身体を拭いませんか…?」

 「ひっ...!...あ....お、女の人...。」

 泣いて泣いて、怯えていたけど、私が同じ女だとわかったらすぐに縋り付いて号泣した。

 私もやるせない気持ちになって、宿の私が止まっていた部屋に招き入れ、体を綺麗に洗ってあげた。

 聞いた話、住んでいた町が瘴気に飲み込まれ、城下町に住んでいる兄夫婦を頼って城下町を目指し旅をしていたのだという。
 私はその女性と一緒に二人で城下町を目指した。

 ちょうど私は道が分からなかったのでとても助かった。
 女性の二人旅は危険だけど、まだ一人よりずっと心強かったし、寂しくなかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 「桜さんは城下町に行ってどうするんだや?誰か待っとるんばい?」
 
 田舎口調の彼女はそばかすに可愛らしい焦げ茶色の大きな瞳を持っていた。
 名を『こと』と言うらしい。
 この世界の女性は大抵二文字程度で、そこに『お』をつけ『おこと』さん、と呼ぶのだそうだ。

 「ううん、城下町で会いたい人がいるの。待っては、いないかもね…。でも探してみようと思うの。」

 「そうかぁ…もしかして好きな人かぁ?すごく桜さんは美人さんだから、男の方も会えたらうれしく思うに決まっとる!ええなぁ。あたしは大事な処女無くしちもうた…いい男の人と結婚だなんて無理になったなぁ…。」
 
 「そんなことないよ。絶対おことさんのその優しさや明るさに惹かれる男性は多いはず!弱気はだめだよ!」

 「ほ、ほんとかぁ?そんなこと言われるとは思わなかったっぺ、なんかむず痒くなってきたっぺぇ~…。」

 二人で楽しく話しながら向かう城下町はもうすぐそこまで来ていた。
 私のような花の名前は珍しく、特に桜は聞いたことがないらしい。
 まるで芸名のようだと言われた。
 
 芸名とは 遊郭ゆうかく妓楼ぎろうで働いている遊女たちの名前のことらしい。
 遊郭には、「花街」「色町」「遊里ゆうり」などと呼ばれる通りが存在する。

 遊郭には妓楼が立ち並び、遊女が働いている場所のこという。
 私は現代日本に住んでいたので全然分からなくて、おことさんから話を詳しく説明してもらった。

 「遊女は、客相手に夢を売る仕事だっぺ。まぁ、花魁とまでなれば、三回は渡らねぇと相手もされねぇって話だぁ。」

 遊女とは皆様ご存じ、お客様に一夜の夢を提供するのがお仕事だった。

 特にその頂点に立つ花魁は三回程通わなければ相手もできないのだとか。

 (へぇー...花魁って一回目は食事会らしいけど、その食事に手を付けず、目線も合わせてくれないんだって。なのに三回目にはニコニコ話してくれる...ツンデレって事なのかな?)

 ここまでは何となく知っていたが、花街や色町、遊里ゆうりの違いが分からなかったので簡単に説明を受けた。


 花街というのは公に営業が認められており、営業主は役人と深いつながりがある妓楼が立ち並ぶ通りのことらしい。お偉いさまが堂々と通うことができるほどの通りだから、華やかなんだって。

 花街の妓楼で働く遊女は色町や遊里(ゆうり)の妓楼で働く遊女より、容姿や教養のレベルが桁違いに高いらしい。小説や漫画の世界でしか聞いたことなかったけど、実際に話を聞くと、貴族のご令嬢並みに教養があって、しかも話上手、床上手!しかも美人揃い!すごいよね!

 でも、身分がすべてのこの世界では彼女たちがどれだけ頑張っても、望む恋愛や自由っていうのは手に入らないらしい。

 「だからよく『鳥籠の花』って言われてるべ。だからよく花の名前が遊女には付けられるんださ。」

 自由を身請けという方法で手に入れても、好いた相手の場合はすごく少ないらしいし、もし好いた相手だったとしても、後で遊女として恥ずかしいだとか言われて結局幸せになることができない場合が多いんだって。
 幸せになった人は本当に数少ないらしくて、女性はみんな花街に行って売られるのを嫌がるんだって。
 
 そりゃそうだ、朝から晩まで男性の相手をして、しかも借金は減らないで…そんなの超ブラック企業だよ。
 まぁ、望んで花街に行く人もごく稀にいるらしいけど、それは本当に追い詰められている状況下で、それしか道がないからっていう場合なんだと…。
 悲しいけど、それがまかり通っている世界で、時代なんだなぁって思った。
 
 逆に、色町・遊里は私娼ししょうと呼ばれる場所で、公に許可を頂いておらず、個人で営業している妓楼が立ち並ぶ場所のことを言うらしい。だからお偉いさまなどのお客はなかなか訪れず、多くは市民が通うらしい。

 色町、遊里での遊女の教養はそこまで高くなく、三味線が弾ける程度でいいのだという。
 舞を見ても、市民にはあまり受けが良くないのだという。
 市民のほとんどは夜のその行為だけを目的に行くので、無駄なことを省いているのだ。

 需要と供給なのだろうけど、それが人が提供する一夜だと思うと、やっぱりピンと来なかった。

 「今の花街はすんげぇ潤ってるって聞いとるっぺ!でも、やっぱり危ないから近づかない方をおすすめするっぺ。気を付けるんでぇよ?」

 「うん、そうする!ありがとうね!」

 女性にとって花街は危険だよね。
 でも、お偉いさまが沢山行くなら、そこで誰かにお城に連れて行ってもらえないかな。
 でも、怪しまれるかな…。

 そうだ、花街に訪れるお偉いさまにお願いして、そのお偉いさまの所で働くってのはどうだろう?
 お偉いさまに働きっぷりを気に入られてそのままお付き人としてお城に入る!
 で、どう?!

 うん、うん。お城って簡単に「入れてください」で「はい、いいですよ」で入れないもんね…。

 この作戦で行こう!
 花街は危険だから十分に注意して…。
 おことさんには悪いけど、一回行くだけだから…!許してねっ。

 おことさんの優しさを一回裏切ってしまう形になってしまうが、これも帰るためだ。
 だってこの世界で私を待っている人や、私を受け入れてくれる場所なんてないもんね。


 「それにしても綺麗な簪やなぁ…。誰かの貰いものばい?」

 おことさんの目線が髪の毛に挿してある簪にむかった。

 「うん、昔小さい男の子にね。その子に会いたいから城下町に向かっている訳じゃないけど、その子の今の話くらいは聞けたらいいなぁ…。」

 「へぇ~!もしかしたら、運命的に出会えるかもしれねぇっぺよ?」

 「そんなわけないよ~!」 

 この世界は春や夏が短く、秋や冬が長いらしく結構乾燥している。
 春に花を咲かせる桜の木は珍しいらしい。
 だから暁からもらった簪はすごく珍しく、目立つのだそうだ。
 
 (暁からもらった簪…実はずっと持ってたんだよね…。)
 
 地球に帰った後に気が付いたのだが、簪をもってきてしまっていたのだ。
 まぁ、貰ったものだからいいんだろうけど…。
 異世界に行った証でもあるその簪はいつしか毎日髪の毛に挿すようになった。
 
 自分で簪を挿せる様になったんだって言ったら、褒めてくれるかな?ううん、たぶん馬鹿にされそう…。いや、呆れるが正解かな?

 「その人の事、好きなんかぁ?」

 「え?!そ、そんなことないよ!だって、年下だったし…。私のこと嫌って…はなかったと思いたいけど。
 とにかく、そんな感情は持ってないよ。」

 好きでしょう?と聞かれたら、戸惑う。嫌いではないから。
 だって最後まで傍にいてくれて…私の為に走ってきてくれた人だから。 

 「あ!顔真っ赤!」

 「え?!そんな!」

 おかしいな、私そんな風な目で暁を見たことなんてない…のに。
 ずっとおかしな程覚えているのはあの美貌のせいだよ。
 うう、よく性癖が歪まなかったよ私!!

 でも、

 「会えたらいいな…。遠くから眺めるだけでも。」

 「ふ~ん?欲がないっぺなぁ。もっとガツガツ行くべ!母ちゃんが言ってた!女はしおらしく色とか言われとるけど、ガツガツ行くことも時には必要だっぺって!」

 「えぇ~?!おことさんのお母様、結構肉食系…。」

 「?」

 あ、そうだよね、この世界で肉食系女性って意味伝わんないよねぇ…。

 「年下の男性はあんまり聞いたことがないけど、獣人系の妖ならよく聞く話だっぺ。お相手は妖?」

 「うん、妖だよ。あれ?獣人系の妖ってなんで…。まぁいっか。」

 深く聞かない方がいいよね。
 聞いたって関係なもの。私は帰るんだから。

 「にしても、肌艶も、髪艶もあって…すごいっぺなぁ~…。」

 「…その子供の彼からもらった簪が…あまりにも不相応で、ちょっとだけ頑張ってみたんだ。あ!深い意味はないよ!」

 「ふぅ~ん…。ま、そう言う事にしとくっぺ。」
 
 ニマニマと笑いながら言われるそのセリフに居心地が悪くなった。
 
 何度も言うようだが、私はこの世界ではだいぶお嬢様、お嬢様しているらしい。
 髪の艶、肌の艶はお偉いさんのお嬢さんくらいじゃないと保てないんだそう。

 日本に帰って改めて自分の姿を見たときに髪の毛が相当痛んでいたので、その反動なのか髪の毛へのこだわりを見つけた私は髪の毛の美容に拘る様になった。

 (簪が綺麗に映るように…と思ったのが一番の理由なんだよね...)

 暁にもらった簪に似合う女になりたくて(特に深い理由はない…はず!)、ボロボロだった肌も爪も頑張って治して、寧ろ高校時代の友人たちに久しぶりに会うと「すごっ!めちゃめちゃ綺麗になったね?!」と褒められる程綺麗になった。

 顔はどうしようもないので諦めた。生まれて育ったこの顔で頑張ろう…と。
 メイクで頑張ったけど、鼻は高くならないし、目ももっと大きくなんてならない…。

 でも、友人立ちは「可愛いよ」だとか「綺麗だよ」と言ってくれる顔立ちだ。
 うん、わかってるただのお世辞だってね…例えただのお世辞と分かっていても、心を慰めるくらいには信じてもいいでしょ?
 じゃないとやっていけないんだよ、現代はSNSがあるから美人の画像が溢れかえっていて、私の顔はきっと下ではないけど、中でもないだろうと自信を無くす程にはSNSの美人画像は多い。
 いや!親に悪いよね!顔の話はやめよう…!

 私は顔以外で体系や肌、爪、髪に情熱をかけた。
 いやぁ…なぞの情熱だけど、一回あそこまでボロボロになると反動がきたんだよね。
 女なのにこんなボロボロだなんて、いやだなぁ…ってね。

 だって、一回でも暁に「似合ってる…馬子にも衣装」って言われた簪も…私から見たら全然似合ってなかったから。

 だから今度こそ…「すごく綺麗だよ」と言わせたかった。

 ううん、深い意味は何もないんだよ?そう、ただ、お世辞でも綺麗…だとか、美しいは言えないだろうけど、馬子と呼ばれない程度にはなっておきたかった。
 なんでこんなに頑張っているのか分からなかったけど。

 「まぁ、その。会うことはないだろうから、無駄な行為だけどね。」
 
 あんな狐美少年の隣にこんな不細工でボロボロ不健康女がいたんだから、あの侍女さんたちが怒るのもなんとなく理解できた。

 「そんなことないっぺよ。神様におら祈っとくぺ!この桜さんの素敵な体を見ればみんな男なんて一撃必勝間違いなしだっぺ!」
 
 「そ、そうかな?」

 私は自分の体をさわさわと触る。
 あんまり魅力的じゃないと思うんだけど…。

 体に関しては、胸だけが大きい着物が似合わない女に育った。
 なぜか高校を卒業するまでにDカップと呼ばれるほどまで育ったのだ。
 
 え?小さいって?そんな漫画や小説みたいな大きさに育つなら、世の中の貧乳の女性が困ってないのよっ!え?今度は貧乳女子に謝れって?もぅ!微妙な大きさなのは本人が分かってるのよ!
 
 Eカップまでもう少し…って感じの大きさのせいで、服を着ると体の上半身だけ太って見える。いわばぽっちゃり体系に見えるのにコンプレックスを感じ、ジムに通っていた。
 けど、胸は小さくならず、ただの邪魔な脂肪として存在し続けた。
 
 解せぬっ!なんでこんなに胸があるのよっ!肩が痛いっ!!

 貧乳だと気にしている友人の前で肩を回していたらすごい睨みを食らった。
 申し訳なかったけど、私は着物が似合うその体系が好きだったので本気で「羨ましい」と言ったら、「変わってるね、現代で着物好きの人って少ないのに。」とあきれられた。
 始めは「嫌味なの~?」と少し怒っていたが、私の本気度が伝わったらしく、若干引かれたのは言うまでもない。

 着物に合う体系って難しいよね…。暁がくれたこの簪に似合うのはやっぱり着物なんだけど、私の体系はあんまり向いてないっぽい。
 
 こんな体系だから着物もまともに貸してもらえなかったのだろうか…。

 「胸が大きすぎて、あんまり着物に似合わないよ。むしろおことさんみたいに着物に似合う素敵な体形にあこがれるよ。」

 「え?!おらの体を素敵だなんて…。桜さん変わっとるっぺ!桜さんの体形は…言っちゃあれかもしれんばい…あ~…。」

 「え?言ってよ~!気になるよ。」

 「花街にいる遊女みたいだっぺ。あ!これは嫌味じゃないっぺよ!遊女になるのは女にとっては嫌な話ばい。でも、遊女の女たちは同じ女として、姿(容姿)は羨ましい憧れだっぺぇ。だから、桜さんの体も羨ましいっぺよ。
 おらなんて、胸は無くてあばら骨が少し浮き出とるし…尻は平…。加えてそばかすだっぺ!白くてすべすべもちもちの肌に、ど~んと出た胸!まあるいお尻…。羨ましいっぺよ。」

 「着物に似合うのが一番だと思うんだけどなぁ…。ありがとう。でも、おことさんも十分魅力的だよ。」

 そう、私の体は着物に似合わない体形をしている。 
 ぽっちゃり体形をどうにかすべく、ジムに通っていたらいつのまにかお腹に括れができて喜んでいた私だが、どうやら着物には寸胴体系が似合うらしく、私は全く真反対に向かって努力していたことに気が付いた。
 気が付いた時にはすべてが手遅れだったのだ…。
 まぁ、おなか周りに布を巻けばどうにかなる!別にいいのよ!ぽっちゃりからなんとか痩せれたんだから…?
 
 と思って再び鏡の前で、もう一度ジムに行く前に着ていた服にそでを通して姿をみた。
 結局その姿はあまり変わってなかったのだ。いや、太ももは細く…なった? 
 あれ?胸のせいで太って見えるな。これ胸が原因だった?どう胸をしろっていうんだっ?!
 と後で胸を自分で持ち上げて嘆いた。

 微妙なサイズのせいで下着にも困って、しかも洋服すら似合わず(太って見える)、着物にはもっと似合わない…すべての原因であるこの胸、どうにかして!!と___。

 「えへへ。ありがとうだっぺ!…にしてもよく髪をそこまで伸ばしたっぺなぁ。やっぱりどこかのお嬢さんか?」
 
 「ううん、そんな大層なところの家じゃないよ。髪は…。あれ?おことさんは伸ばさないの?」

 ここの世界の人は女性は髪を伸ばすものって言ってた気がしたんだけどな?

 「ん?何言うとるんばい。仕事の邪魔にならないくらいまでしか伸ばせないっぺよ。伸ばせるのはお嬢さんか遊女か…遊女だって鬘(かつら)で補っとるっぺ。」

 えええ!!!私この髪の長さでも家出中のお嬢様説、濃厚になってたのぉ~?!
 
 私の髪の毛は長い。

 一回目のこの世界に召喚された時の髪の長さは背中の真ん中辺りしかなかったが、今では腰より長く、お尻辺りまで伸びた。
 簪で留める時に綺麗にまとまる長さが丁度それぐらいだったからね。
 まぁ、シャンプー代やリンス代、ヘアオイルとかはもうとんでもない値段になる。
 ジムや美容のためにバイトを増やし、大学生なのでもちろん課題や勉強にも追われ、忙しい毎日を送っていた。
 異世界での辛かったことを思い出さないようにわざと忙しくしてたのかもしれないと今ならわかる。
 
 「そ、そうなんだ。あ、いや、そうだよね。知ってる知ってる~…。」

 「…ま、そういうことにしとくっぺよ。」

 たははは~…。となんとかそこをやり過ごす。

 こうしてこの世界の人と穏やかに会話できる日が来るなんて…ちっとも思わなかった。

 一回目に召喚されたとき、お城に軟禁されて、そこで働いていた侍女さんたちに虐められていた記憶はやっぱりまだ辛くて、ふとした瞬間に思い出して胸を苦しめる。
 でも記憶の中の狐の子を思い出すと、あったかい気持ちになれるから、やっぱり「嬉しいこと半分、辛いこと半分」なんだなと思う。

 暁はきっと大人になっているだろうか…。
 あの私を虐めていた侍女の誰かと一緒になったのだろうか。
 
 なんだかその人はやめてほしいな。
 暁のために一生懸命になれるのはすごく素敵なことだけど、虐めに一生懸命になる人はちょっと…。
 まぁ、私がどうこう言える立場でも関係でもないので、もう何も言うまい。
 彼のことだ、済々して過ごしている頃だろう。
 私のことはきっと「あんな女もいたな」程度に記憶しているに違いない。

 子供の暁は可愛かったなぁ…。でも彼はもう立派な大人になっているころだろうから、あの可愛い狐の子はいないはずだよね。残念だなぁ…。

 あんな別れ方をするくらいなら、一回はあのふわふわのしっぽに抱き着いてみたかった…。
 ううん、ダメ。だって尻尾はお尻?に近いから怒られそうだし、動物って尻尾を触られるのを嫌がるって聞いたことがあるもの。
 それじゃあ…あのもこもこの耳を触るくらい…。

 あ、だめだ、絵面が良くない。
 警察呼ばれちゃう。
 自分があの美少年をもふっている想像したら私の顔にモザイクが付いた。
 うん、これ朝に流れる逮捕の瞬間の動画だね。
 やっぱり触れなくてよかった。
 あの尻尾に抱き着いたら私が今頃ショタに目覚めてしまっているころだろうからね、ありがとう私、偉いぞ私、よくぞ耐えた。
 おかげで私は成人男性が恋愛対象のままだよ!


 あ、ここの世界も八年経ってるんだって。
 働かせてもらっているお店の先輩に聞いた。
 「本物の巫女様が死んで消えてから八年経っているけど、次の巫女様はまだ現れていないらしい」って。

 まさかまだ現れていないとは・・・。
 前は私が巫女って言われていたけど、まだ巫女なわけないよね?
 え?もしかしてまだ巫女だったりするのかな?
 やっぱりお城に行って、葵にあって、二人で帰ろう。
 私には荷が重すぎる…。

 それにたぶん私ここで死んだんだし、巫女じゃなくなってるはずだよね。死んだら次の人になるって侍女の人達が言ってた記憶があるもの。
 大丈夫、大丈夫…大丈夫でしょっ!(自信なくなってきたな…)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 城下町につくと、おことさんをおことさんのお兄さん夫婦の家まで送り届けた。
 城下町は瘴気に侵されている世界とは思えないほど活気づいている。
 道行く人が皆、妖だったり人だったりして面白い。
 いろんな妖がいるが、みんな人型が多い。
 結婚できるって聞いたけど、形が似てるからできるんだろうなぁ…。と思った。

 「ここまで本当にありがとう!今日は兄ちゃんに頼んで泊めてもらうっぺか?」

 「ううん、大丈夫!お金はあるし、それよりここまで道案内してくれてありがとう!これはほんの気持ちだけど、受け取って。」
 
 少しのお金と、高く売れた現代日本のお洒落用の指輪。
 それをおことさんの手に握らせた。
 
 「売ったらいいお金になると思う。」

 「え?!こんなに受けとれんばいっ!むしろ助けてもらったのはあたしだってぇのに!」

 「いいからいいから!じゃあね!」

 ふふふっと笑って手を振って走り出す。
 慌ててこっちに手を振り返しながら、おことさんが大声でありがとう!と返してくれた。

 いい人に会えて本当に良かった!


 一応お城の前に行くと、門番さんがいた。
 うん、色んな貧しそうな恰好をした人がその門番さんにしがみついて、「どうか私の言葉を国王陛下に!」と叫んで頼んでいるが、蹴り飛ばされて追い払われている。
 やはりここは普通に入ることが難しいらしい。

 「こうなったら、やっぱり花街でお偉い様にあってお仕事をいただくしかない!働き口さえ見つけられたらそこでしばらく頑張って...そのままお城に行こう。」

 ここまでどうにか来れたんだから、きっとどうにかなるさ!
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 そうして城下町まで何とかたどり着いた私は、すぐに花街に向かった。
 
 すぐに危なさそうな男性に痛いほど腕を掴まれ、そのまま引っ張られるようにずんずんと歩かれている。

 (うん、甘く見てたよねこの世界を。いい人に会えたら悪い人にも出会ってしまった…。)
 
 いい仕事先を紹介するって言いながら、私を売り飛ばしてお金を取ろうって算段が目に見えるもの。
 やばいよこの人。目がぎらぎらしてるし…。
 ううん、この妖って言った方がいいのかも?
 私の仕事紹介人(?)を名乗って私を引っ張って歩いているこの人物は妖だ。
 耳がとがっていて、目は一つ。体は人間に近い。

 「あの、もしかして私を妓楼に売るんでしょうか…?」

 「あぁ?お前だいぶ肝が据わってるなぁ。お前くらいの年の女はみんな泣いてビビるぜ?
 まぁいいか…そうだよ!お前に紹介する仕事は遊女だ!
 でも安心しな!ただの遊郭じゃお前さんは勿体ねぇ…!お前を売る場所はこの遊郭でも一、二を争う人気店『隠世屋』だ。あそこの店は人間しかいないのが売りだからなぁ!お前くらいの美人を売ればだいぶ金が入るぜ!ま、せいぜい頑張ってくれよ?」

 途中からすでに本音漏れてる…。
 仕事の紹介から売り飛ばすに変わるのに約五秒だったよ…。

 てか、私の歳って、もう二十四歳なんだけどな…。
 この世界に来たらだいぶ年齢を若く見られる。

 (どうやらこんなに肌艶がいいのは令嬢以前に若い証拠なんだとか?)

 この世界の二十四歳の市民を見たけど、言っては何だけど、老け顔だった。

 疲れているのも原因だとおもう。

 この世界で人間の女性はみんな二十二までには子供を産むんだって、遅くても二十三歳!
 私は二十四…うん、行き遅れだね。

 ビビっていないのは仕方ない。一度死んだような目にあっているんだから、死ぬよりはましだと思ってる。
 大丈夫、何事も死ぬよりはマシなはずだ。

 「さ、ついたぞ!おい、楼主ろうしゅを呼んでくれ!上玉を連れてきたぜ!禿にしちゃ歳がいってるが、詰め込めば何とかなるはずだ!」

 店についてしまったらしい。
 抵抗したってどうせどこかで別の人に捕まるんだろうからそのまま大人しく着いてきてしまったけど、大丈夫じゃないよね…。
 豪華な店の裏口につくと、寡黙そうな男たちに声をかけた。
 私の姿を一目すると、寡黙そうな男の一人が中に入って行って、お婆さんを連れてきた。

 「あぁ?どの娘だい?ここは上玉しか育てない店だよ?
 ん~…?この娘かい?顔を見せな。胸と尻はあるんだろうね?」

 私の笠を勝手に取られると、楼主ろうしゅだというお婆さんは私の胸とお尻を遠慮なく揉んだり押したりして弾力を確かめている。
 ぞわぞわする感覚がなんだか嫌だ。

 抵抗もせず、大人しく受け入れていると、満足したらしく連れてきた一つ目の妖を見てにっこりと笑った。
 
 「こりゃあ上玉じゃないか!しかも胸も尻もあるし、顔もいい。ちと年齢が禿にしてはいっちまってるけど、教養を詰め込めば新造としてすぐにでもいけそうだね!
 おい、あんた文字は読めるのかい?囲碁や将棋は?舞はや楽器は?」

 「は、はい!私文字は一通り読めます。囲碁や将棋は少しだけ。舞や楽器はできません!」

 おばあちゃんの家で遊んだ囲碁や将棋の記憶はあるけど、そこまで強いわけじゃない。
 でも、ルールや遊び方は知っているから大丈夫だと思う。
 文字は高校生で召喚されてこの異世界に来た時に勉強した。
 というか、普通に答えてしまった…。

 舞や楽器は無理!そんなの知らない!
 囲碁や将棋なんてみんな遊んでいればできるだろうし、文字はみんな常識的に読めるだろうし…私は平均的だと思う。

 そう思って店主を恐る恐る見たら店主が驚いた表情をしている。
 
 「そこまでできるならあとは舞と楽器だけだね。今育ててる禿の中で一番早い子でもまだ文字の練習中だっていうのに…。文字も遊びも知っているなんて…あんた家出中の令嬢かい?いや、楽器と舞を知らないんだからそんなことはないよね…。」

 (そう言うモノなの?!え?じゃあ文字も囲碁も将棋も知らないの?そっか…遊びなんてしている暇ないもんね。私ってやっぱり恵まれてたんだなぁ…。)

 面倒な奴じゃ無いだろうね?とじっとりと見られるが、私はただ困った顔しかできない。

 「ふんっ、まぁいいさ。どうせここで売られたら生まれた場所なんて関係ないんだからね。
 こいつはこれぐらいさ、受け取な。さぁ、あんたはこれからここで働くんだよ。」

 

 一つ目の妖にお金を渡すと、一つ目の妖は嬉しそうにどこかへ行ってしまった。
 どうやら満足いくお金の量だったらしい。結構重そうだったなぁ…。

 私の働き口は、妓楼になってしまった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 「ようござりんすか、ここでは廓言葉くるわことばを学びんす。
 ここ遊郭では各々の出身地や育ちがバレねえように、『廓言葉』と呼ばれる言語を使いんす。まだ馴染みがありんせんと思いんすが、早う覚えて次の教養を学べるようにしんしょうね。」

 「「あい」」

 早速私は難関に立ち向かっていた。
 忘れていました『廓言葉』。

 (全然大丈夫じゃなかった…難しい。ふとした瞬間に元の口調が出てきてしまう...!)

 廓言葉とは、出身がバレない様に遊郭で使われる遊女特有の言葉遣いだ。
 
 (どうしよう…。私本当にこのままだったら遊女になっちゃうよ?!おことさんの言うこと聞いておくんだった…!)

 しかも私以外の禿のみんなは十二、三や歳を取っていても十五歳くらい。
 
 いやいや、明らかに私年齢外れてるじゃん!!

 え?私が童顔なだけ?私はここでは十八、九に見えるらしい。どんだけ若く見えるのよ。
 どんな魔法?信じられないんだけど?!日本の美容って結構すごかったの?
 どうやら、肌の張りから判断されているらしい。あぁ、こんなところで自分の行動が仇になるとは…一生の不覚!!

 十七、八歳の女は新造と言って遊女の新人になるらしい。
 私は数か月禿として教養を詰め込み、そのまますぐに新造として売られるのだという。


 本気マジで…?年齢違うじゃんっ!?
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 この「隠世」という遊郭で働き始めて早二か月がたっていた。
 桜の咲く春の季節は過ぎ、今や青々と緑の木が生い茂っている夏になった。
 だがもうすぐに秋になるのだという。
  
 いや、やばいよね。全然お城に入れないんだけど。前進もしてなければ、後退もしてないけども…。
 お店の中からは一歩も出られないし…。

 「桜、髪の毛を結ってくれんすか?」

 「もちろんでありんす、山吹どん。」

 私が禿(遊女の前の役名)として働いていると、私は次第と次の売れっ子になるだろうとか言われ始め、ついには花魁の技見て覚えるために花魁の『山吹』さんに付くことになった。

 (『山吹どん』って呼んでいる)

 花魁とはこの遊郭で一番の売れっ子をいう。
 山吹さんはすごく綺麗で優しくて、色っぽくて、でも時々乙女のような初々しさがある…もう完璧な人!
 山吹さんは二十六歳なんだって。私は二十四歳だけど、ずっと山吹さんの方が大人に見える。


 山吹さんは少し身請けが遅れていて、このままお店の経営側になるんじゃないかって言われているし、本人も経営側の人間になりたいそうだ。「恋愛で振り回されるのはもう、散々なの」だとか。

 一度は上がった身請け話だが、たちまち消えてしまったらしい。
 色々あったんだろうなぁとおもう。
 彼女が経営側の人間になると一人遊女が減るので、私が追加されるんだそうだ。

 いやぁ…。やばいよね。
 うん、私何してるんだろ。全然大丈夫じゃないよね。

 私はなんか呑み込みが早いらしく楽器や舞はお手の物になった。
 昔習い事でダンスやピアノをしていたせいで、リズム感があったらしい。

 囲碁や将棋はこの世界と一緒だったので、案外簡単に覚えた。
 文字はすらすら読めた(八年前勉強した賜物だね)し、書けた。

 うん、やばいね。私が遊女として売られて完全に出られなくなる日まで遠くないね。
 あのおばば様(楼主のことを「おばば様」呼びしている)なら私を売るのに躊躇ない人だよ。
 
 「桜、こっちに来な。窓辺でお客に三味線を弾いておくれ。」

 おばば様に言われ私は店先で三味線を弾く。 
 お客様がみんな私を見て「桜だ。」と喜ぶ。

 私の簪を見て、私はいつの間にか「桜」と呼ばれるようになった。
 うん、私の本名も「桜」だけどね!この名前から私は逃れられないのかな?!いや、逃れるつもりもないんだけどさっ…!

 もっとこう...煌びやかな名前ってなかったのかな…。

 名前に求めても無駄か、本人の顔が煌びやかな顔じゃないものね。

 名は体を表すっていうけど、私はずっと「桜」なんだろうなぁ…。

 そう思いながら三味線を弾いていると、馴染みのお客様…「ゆかり様」と通称呼ばれているお客様が私に「いつ遊女になるんだい?」と聞いてくる。

 「ふふふ、わっちは幸せ者でありんすなぁ…あなた様が待っていてくれて。」

 「お前のような美しくて御淑やかな女が儂は一番好きなんじゃ。遊女になる前に一回遊んでみたいものよ。そうしたらお前も本番で怖がらずに済むだろう?どうだ?」

 三味線を弾き終わった所で、酒臭い息を吹きかけてきながら格子のような窓がある部屋にいる私に五十歳は過ぎているであろうおゆかり様(馴染みのお客)であるおじ様が声をかけてくる。

 「そのお言葉嬉しゅうござりんすが、まだわっちは固い蕾でありんす。わっちに必要なのは水でも土でもございんせん。ただ暖かな時間が必要なんでありんす。
 どうか花開くその時までお待ちおくんなんしえ。花開けばあなた様もすぐ分かるでありんしょうから。その時に…。」

 花魁の山吹どんが教えてくれたお決まりの台詞を微笑みながら言う、外面と違って内心は首を全力で横に振っていた。

 (無理無理無理無理っ!!!どうしようっ!お客を取るようになったら一生ここから出られないよ!)

 もう心の中では涙を堪えていた。

 (それに私、複数多数人の相手はできないっ!無理!生理的に受け付けない!
 いや、そういう仕事をしている人を決して馬鹿にしているのではなく、ただ私がその立場になることができないってだけ!
 え?遊女になるんだから受け入れろ?なる気なかったんだってば!!)


 こうして私は何日かに一回窓辺に座らされ、三味線を弾いてお客を呼び込む仕事をさせられていた。
 この仕事をさせられる遊女は「期待をされている、期待の新人だ」と周りのお客様にお知らせしているのと同じことらしい。
 私は逃げられない場所に捕まってしまったのだ。

 あぁ、前はお城に閉じ込められ、虐めに耐えた。

 そして今回は遊郭に閉じ込められ、妓楼で遊女になって男に侵される運命だというのかっ!

 神様!私が何したっていうんですか?!
 次生まれ変わるなら顔がいい男に生まれ変わってやる!
 ううん、人がだめなのかも…本当に桜の花にでもなってやろうかっ!
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 とある日、私がここにきてもうすぐ三か月目に入ろうという時だった。
 今日から私は新造(新人の遊女)として売りに出されることが決まってしまった日でもあった。

 バタバタと店の廊下で足音が鳴った。
 こんなに騒がしいのはここに働いて三か月だけど、初めてだ。

 水揚げと呼ばれるものを今日行うということで、私は遊女の髪形で髪を結い上げられ、遊女の着物を着せられていた。
 私の最初のお客様はあの酒の息をかけてきたあの五十過ぎのおゆかり様らしい。

 私は練り歩き(将来の花魁候補を見せびらかす行為)をするかどうか悩まれたが、私は全力で拒否をした。
 てっぺん目指してどうするのよ?!私は帰りたいのよ!
 の気持ちで断った。
 
 なので私は練り歩きもせず、お披露目の後(先程終わらせた)、水揚げをしますとおゆかり様に連絡を入れ、おゆかり様がいる揚屋(水揚げ…処女を奪われる部屋)に向かうことになっていた。

 私は処女ではない。もう二十四歳だし、大抵彼氏持ちのみんなは分かってくれると思う。
 彼氏がいたし、そういう雰囲気になったら私だって嫌がるわけにはいかなかった。

 その行為は、気持ちよかったような…?何も感じなかったような?気もする。
 男性に比べて女性は感じづらいんだろうか?

 まぁ、処女だと思わせるためにも、演技十割でいきましょう。
 血は…出ないけど、なんとか誤魔化せる筈だよね。
 私は処女の時血が出たタイプの人間だが、出ないタイプもいるらしいし…。

 え?『もう諦めモードだね』って?

 だってここから出られないのに、どうやって逃げろっていうの?

 足抜けしたっていう人を見たけど、捕まって『棒叩き』っていうのにあって…そのまま3人くらいのお客を一斉に相手させられて…また棒叩きをして…って繰り返されてた。

 見ていられなくて、助けようとしたら花魁の山吹どんに止められた。
 足抜けした子は男と約束したところで待っていたが、勇気が出なかった意中の男は来なかったのだという。
 男は家で震えて、「ごめん、ごめん…」と泣いて謝りながらもその約束の時間を過ぎても会いに行かなかったそうだ。

 約束の場所で薄着一枚で待っていた遊女は捨てられたのだと気づくのに時間はかからなかったそうだ。
 そのままお役人に見つかり、妓楼に連れ戻されたらしい。

 そのお客は店を出禁にされた。

 「どうして愛する人との約束の場所に行かなかったの...?」とも思うかもしれないが、駆け落ちというのは本当に命懸けなのだという。

 きっと覚悟の重さが違ったのだろう。それが悲劇を呼んだのだ。
 
 男の人が泣きながら、最後は開き直ったかのように「お前が遊女なのが悪いんだ!お前がこの俺を誑かしたんだ!!」と叫んだ。

 その言葉を聞いた瞬間、苦痛に耐えながらも、口を一文字にして悲鳴一つも上げなかった彼女は…。
 遂にその顔に絶望を浮かべた。

 これが現実なのだと見せられた瞬間、『逃げる』という選択肢は私の中でかき消えた。

 愛が人を救うだなんて嘘なのかもしれない。
 愛とお金はどちらも必要で…そしてそこの間に信頼ができない限り、その価値は釣り合わない。
 そう誰かが言った。
 私はその台詞を聞きながら、その男が走り去っていくのを見た。

 その子は?って。
 精神を病んで、そのまま首を吊って死んでしまったそう...。
 誰も気に留めていないようだったけど、私はその子のお部屋に花を手向けた。
 それしかできなかった。

 (好きでも、なんでもない男の人を相手にするのかな…?嫌だなぁ…。
 私だって、どうにか帰りたいよ。)

 ううん、弱気になるな!葵に会うんだ!そして…仲直りして、二人で帰ろう。
 お客様はお偉い人、体で篭絡なんてできないけど、なんとかするんだ。

 だって葵は体を張って、心を壊しながら旅をした。
 なんで嘘をつき続けたのか分からないけど…私だって体でもなんでも売ろう。大丈夫、死ぬわけじゃないんだから。

 大丈夫…大丈夫…。

 蹲っていたら、また狐の子が上着をかけてくれないかなぁ…なんて。
 ありえないんだけど。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  

 「桜、大変だよっ!」

 慌てて部屋に入ってきたおばば様は慌てているようだ。

 「どうしたんでありんすか?」

 「あんたのお客が今日来れなくなっちまったのさ!だからあんたの水揚げを別の日にしようかと思ったんだけど…」

 「え?!本当でありんすか?!」

 先程まで落ち込んでいたが、この報告に内心私は狂喜乱舞する。

 (ありがとう!ありがとう!神様!先程は恨み言を言ってごめんなさいっ!)

 覚悟は決めていたけど、やっぱり嬉しい。
 どうせまた何日か後には同じことをしなくちゃいけないんだけどね。
 それまでにまた少し覚悟を固くして…。

 ん?『だけど…』って何?

 「だけど…?」

 「実は遊女の菖蒲あやめのおゆかり様がとんでもないお偉い様を連れて店に来たのさ!花魁の山吹は違うお客を相手にしているし、みんな手が空いてなくて…!桜、ちょっと相手してきな!」

 「えぇえ?!でも、わっちまだ水揚げが…それにわっちの水揚げのお相手は山吹どんのおゆかり様の三助様じゃ…。」

 あの五十歳のおじ様のお名前は三助様。山吹どんのおゆかり様で、新造の水揚げをいつもしてくれているお方なのだとか聞いた。
 山吹どんの水揚げも担当してくれたのだとか?

 そんな深い繋がりがあるおゆかり様を差し置いて、その男の人で大丈夫なのだろうか?
 繋がりが悪くなっちゃうんじゃ…?
 
 そんな私の心配を差し置いて、おばば様は今まで見たこともない超絶にんまり顔で嬉しそうに語る。

 「あのおゆかり様よりずっと高い位のお方だよ!!あっちにはうまく言っておくから!大丈夫、心配いらないよ。あの三助様も話を聞けば納得いただけるようなお方さ!」

 「え?そんなに高位な方...は、ちょっと...。」

 私の声なんか聞こえていないおばば様はそのにまにま顔でとんでもない事まで言い出した。

 「このお方に気に入られたら最高だよ…ウヒヒヒヒ!水揚げする気はないらしいけど、まぁもてなすくらいで構わないよ。まぁ?そのまま抱かれても構わないけどね、とにかくいいね、何とかするんだよ?!」

 「え?え~?!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 バタバタと騒がしいのはどうやら予想していなかったお客様が来るからだ。
 禿たちが頬を朱色に染めて何やらコソコソと盛り上がっている。

 「どのお客が来るのか聞いてるでありんすか?」

 話途中の禿の子たちには悪いけど、声を掛けさせてもらった。
 私が今回おばば様に言われてお相手するお客様が待っている部屋まで案内してもらうためだ。

 (あの三助様よりお上のお方って誰よ?!あの三助様も結構上の位って聞いてたんだけど?!
 どんなオジサマなのよ?えぇ…水揚げまで持ってけって…それ規則的に大丈夫なの?)

 禿ちゃんたちがその朱色の頬をもっと赤く染めて、きらきらとした目で言ってきた。

 「朧様でありんす!羨ましいでありんすぅ…。お姉さま方が皆忙しいとははいえ、あの美男を相手にできるだなんて羨ましいでありんすよ!」

 「うんうん!あの誰もが心奪われる唯一無二のその美しすぎる相貌…!その相貌だけではなく、身分は近衛兵一番隊、隊長でござりんす!」

 「しかもしかも!!朧様は今国で一、二を争う大金持ちでありんしょう?!いいなぁ…。」

 私が「おもてなし」しなくてはいけないお客は『超絶お金持ちで、美形近衛兵一番隊隊長様』らしい。

 え、えぇええ?!
 これならあの息がお酒臭いおじさまの方がよかったよ!?

 なんでそんなご立派なお方が来ちゃうかなぁ?!

 私、新人なんだよ?なにかご無礼なことしちゃうかもしれないじゃん!
 というより美形っていつの話?!今はきっと立派なオジサマだよね?

 どんなに美形でも、好きでもない人に抱かれるのは嫌だな…。
 でも、禿のみんなはキラキラとした目で羨ましそうに見てくる。

 いつも可愛いと思っていたけど、今日はこの可愛さが圧を持っているように感じるのは私気のせいではないはず...。
 
 (うっ、そんな目で見られても…。代わってあげたいよ…トホホ。)

 「そ、そうなんでありんすか…。ありがとう、お部屋を案内してくんなんし。」

 「はい!朧様が…うふふっ!あの朧様がお待ちでありんす!」

 嬉しそうにいつもより軽い足取りで案内してくれる。
 
 私は逆に重い、重すぎる足取りでその部屋に向かった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 重たい頭を下げながら、部屋に入る。

 「ようこそ隠世屋へおいでくださいんした。」

 山吹どんが教えてくれた通りに、礼儀良く部屋に入る。
 部屋に入ると、言うように指示された言葉を口から放つ。

 薄暗い部屋には雰囲気を醸し出している橙色の明かりがふんわりと部屋を照らしている。
 その部屋にはお客の、『朧』様が待っていた。

 「朧様、長らくお待たせいたしんした。
 お姉さま方は支度に手間取っておりんして…新造ではありんすが、わっちがお相手いたしんす。今夜はどうぞ楽しんでおくんなんし。」

 「おおきに、忙しい時に来てもうて、悪いわぁ。名前はなんて言うはるんや?」

 声が予想よりも若くて一瞬戸惑ったけれど、すぐに気を持ち直して顔を上げて挨拶をした。

 「はい、名を『桜』と申しんす。」 

 そこには私がずっと夢で見ていた少年とおんなじ色をした狐の妖がいた。

 美しすぎるその相貌はまるで絵画だ。
 胸板は着物で隠れているとはいえ、少し張っていて、鎖骨や首元は男性らしくしっかりと太い。
 だが、その妖艶な美貌は男性特有の角ばった感じではなく、柔らかい線も併せ持っていた。
 満月の色よりも濃いその黄金色の瞳が私の瞳と合う。

 (どうしてだろう…。
 あの子の顔の面影があるような気がする…。
 ううん、きっと気のせいだよね?)

 にしても、若い...!
 水揚げのお相手は大抵四十~五十程度のお客様だから…これは若い!

 あ、今日は水揚げじゃなくて、ただのおもてなしをすればいいんだよね。
 いや、でもおばば様は「そのままGO!」って言ってた気も…。
 
 相手が私が知っているあの子もよく浮かべていたとおんなじ顔をしていたが、私を見た瞬間その顔がゆるゆると崩れ、驚きに変わっていく。
  
 「っ...!」

 ゆらゆら揺れていた尻尾がぴたりと止まって、耳がピンッと高く立っている。
 あ。あの尻尾抱き着きたいなぁ…。なんて一瞬思ったが、すぐに私は気を取り直した。

 (見つめすぎちゃった…!)

 見つめすぎているのがバレて怒ろうとしているのでは?と思って慌てて謝った。

 「ごめんなんし、懐かしい色でありんしたのでつい見つめすぎんした。素敵なお色をしているのでありんすね。」

 すぐに近づいて、お酒を持つとお猪口に注ぐ。
 なんか目線を注がれていることに気が付いて、すぐに私も朧様を見た。

 「なんでありんしょうか…?」

 「いや…。ただ似ている人を思い出しただけや。すまへん、綺麗な色言うてくれてありがとうな。俺の大切な人も褒めてくれた色やからうれしいわぁ。」

 「そうなんでありんすか。朧様に大切にされているお方はきっと幸せ者でありんしょうなぁ。」

 「どうやろか…もう八年も前のことや。」

 酒をくいっと呷る。
 すごいペースで飲んでいくが…大丈夫なのかな?

 やんわりと止めてみたが、「今日は大切な人に似てるあんたがいるから、勧められたら勧められた分だけ飲んでもうたわ。すまへんすまへん…。でも、少し酔わせてくれまへんか?」
 と酒で潤んだ瞳で言われたら、もう止められなかった。

 あ、安心して、私の心は鋼でできているから、押し倒したりはしてないわ。

 え?そんなの聞いてないって?
 すごく妖艶で引き込まれそうったんだよっ!仕方ないじゃんっ!!

 私が酒を勧めると飲んでしまうらしいので、お酒を注ぐのやめ三味線を私が弾き始めると、耳が少しヒョコッと動いた。

 うん、妖なら動物系が優勝だね。もこもこしてて触り心地よさそう…自分でそう思ったりしないのかな?

 顔はすごく綺麗だし、美人だからドキドキはするし、さっきもすごく…こうなんか胸に来た。
 
 (だけど、なんだかあの子に似ているせいで、うっとりと見惚れることはないかな。)

 やっぱり人間離れしている美形のせいってこともあるけど、私にとってここは異世界だし、ゲームとおんなじ世界だから、どうしても2次元って感じが拭えない…。

 あ、もちろん現実なんだよ?
 そうなんだけど、特に妖を見ると余計にそう思っちゃうんだよね…。

 「俺のこの色を『懐かしい色』言うたけど、どこで見たんや?」

 少し頬がお酒で酔っているのか赤くなっている。
 ふんわりとした口調で聞いてきたのはあの最初に言った『懐かしい色』のことだ。

 「私の少しの間傍にいてくれた子供の色でありんすよ。朧様とおんなじ狐の妖でござりんした。」

 答えたら不思議そうな顔をされた、耳が片方倒れて、頭をコテンッと傾げる。

 「狐の妖の子供?おかしいわぁ…この色の狐の妖は数人しかおらへん…。しかも子供なんていたかやぁ…。何て名前の子や?どないな子なん?」

 あれ?おかしいなぁ…。
 でも狐の妖の朧様が言うんだから間違いないのかなぁ?
 名前…名前…そうだ私名前知らないんだ。
 
 「え?そうでありんすな…。実はわっち、その子のこと何も知らないんでありんす。
 名前も、出身地も…。お別れの前に名前を聞こうと思ってたんでありんすが、急な別れでござりんして、結局そのまま…。
 それまでは『暁』って呼ばせて貰っていたんでありんすよ。だから何も知らなくて…優しい子供だったのは確かでありんす。」

 どんな子と言われても…私はあの子について何も知らないし。
 嫌われていた気もする。最後少しは近寄れた気もするけどね。

 「あか…つき?『暁』って呼んどったん?」

 「はい、そうでありんす。」

 驚いたような顔をされた。
 何をそんなに驚いているんだろう?私変なこと言ったかな?
 口調はちゃんと廓言葉なはず…。

 「…なんで『暁』にしたん?」

 名前の由来かな?
 その目が真剣なので、若干圧されつつ私は答えた。

 「そうでありんすね…。恥ずかしい話ではござりんすが、実はわっち夜寝て、朝起きるのが怖かったことがありんす。
 朝が来るのが怖いのではのうて、明日が来るのが怖うござりんした。
 でも、その子と出会ってから明日が怖うのうなったので、『暁』にしたんでありんす。
 本人には嫌われてた気もするんでありんすけどね。」

 いきなり男らしい血管がうっすら浮いている筋張った手が私の腕を掴んだ。
 三味線がテテンッと音を鳴らして止まる。
 慌てて朧様を見ると、黄金の目が潤んでいる

 「嫌ってなんかあらへんよ。…ずっと愛しとる。」

 「え?」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 朧様にいきなり言われたその台詞に私は固まってしまった。

 (『愛してる』って...どういうこと?)

 「ここにおったんやな?探してたんやで、。」
 
 尻尾がゆらゆらと嬉しそうに揺れる。
 その目が嬉しそうに細まって、私を見つめている。
 口角が上がると、少しとがった牙が少し見えた。

 この笑い方…数回しか見たことないけど…。
 それに『異世界人様』って…まさか…!

 「あ…暁なの?」

 その美しい相貌が感極まった顔でコクコクと頷くと、ぎゅっと抱き着いてきた。
 首筋に顔を埋められ、背中に腕を回される。その力強さと、包容力は男性特有のものだ。
 フゥっと息が首にかかってきてぞわっとする。
 お酒の香りがする。

 でもただ私は混乱していてそれどころでは無かった。

 (朧様が暁で、暁が朧様?
 え?どういうこと?)
 
 「よかったわぁ、こないなとこにおったんやな?ずっと探してたんやでぇ…。その後は、消えた聞いてからずっと泣いて…会いたくて会いたくて…。」

 すりすりと頬に頬ずりされると、耳が当たってふわふわだ。

 (えっ、当たってますが大丈夫でしょうかっ!?)

 「こうして会えるなんて夢のようやぁ…!もう夢でもかまへん、なんでもかまへん…ようやく会えたんやから!夢なら覚めへんで…ずっとこのまま俺の腕の中にいてくれ…。」
 
 嬉しそうに私の頬に手を添えて、幸せそうに笑う。
 お酒のせいで夢だと思っているらしい。

 (暁...?この人が暁...!)

 だんだんと私もこの青年が暁なのだと理解し始めると嬉しくなる。
 こんなに大きくなって…!よかった!あのまま立派な大人になれたんだ…!
 私のせいでトラウマが残ってたらどうしようって…。
 嬉しいな!私のこと嫌ってたんじゃなくて!私のことを…

 あ…れ?

 『愛してる』ってどういうこと…?

 あ、あれだよね?ここの世界では親しくなったら「愛してる」って言い合うのかも!
 そうだよね。私の世界の常識はここで通じるとは限らないもの。
 
 「暁、大人になって…!幸せ?体調は?生活はどう?」

 「ん、全部平気やでぇ。今、すっごく幸せやぁ…。」

 私にまた抱き着いて、ブンブンと尻尾が揺れている。
 よかった…幸せだって…!
 トラウマはなさそうだし。
 そうだ、お水持って来よう。こんなに酔っぱらって…。

 あ、こんなお店に来るなんて、も~…。
 でもおゆかり様と来たらしいから、不可抗力かもしれないし、人付き合いは大切だからね。
 もう大人なんだし、変に何かを言うのは余計なお世話だよね。

 お水を持って来ようとその腕を解いて立ち上がろうとした途端だった。

 「どこ行くん?また俺を置いてどっかへ行くの?誰?誰に会いに行くん?またあの女なん?幸せやったのに…今幸せやったのに!」

 がっ!と私の足元にしがみ付いた。
 
 様子がおかしい。やっぱりお酒に酔ってるんだ…!
 あ、そうだ!お城に連れて行ってもらえないかどうか聞いてみよう!
 でも、まずはお水を…。

 「お水を取りに行くだけだよ。あ、いけない!廓言葉が、えっと…水を取りに行くだけでありんす。」

 その手を放してもらおうと、添えてやんわりと退かそうとする。

 「なんで離れようとするん…?こんなに愛しとるのに…。そうか、分からへんのやな?もう離れられへんよう溶け合ってしまおう?そうや、そうしたら離れられへんもんな?大丈夫、良うしてやるで。」

 溶け合うってどういうことかな?
 なんか合体ってこと?ん?合体…?
 もしかして、やっぱりトラウマになってたりする…?

 「なにを言ってるんであり…んぅ?!」

 様子がおかしいから屈んで顔を覗き込もうとした瞬間、口づけされた。
 頭の中はパニック状態だ。

 「んぅ、あぅ。」

 何度も重なるようなキスをされると、次第に息継ぎができなくなる。
 息をするタイミングが分からない。

 しっかりして、桜。
 相手はあの子供だった暁よ。夜だって…その私も経験は少ないけど、ないわけじゃない!

 お酒で相手は酔っぱらってるんだから、目が覚めたらきっと相当後悔するんじゃないかな?
 だって、あんなに最初嫌がってた異世界人だよ?

 まぁ、最後は嫌いじゃなくなったらしいけど…。
 とにかく場合を見計らって、この場をやり過ごすのよ!
 相手は子供!泣かせないように、傷つけないように…。

 思考ではしっかりとプランを立てているのに、嬉しそうに何度も何度もキスをされると、タイミングがどんどんと取れなくなっていく。

 暁の肩に乗っている手がぎゅっと丸くなる。
 やばいっ、どうしようっ!?
 いつ反抗すればいい?どうしたら傷つけずに済むの?やっぱりトラウマになってた感じ?
 でもこれ以上は…っ。

 息継ぎが難しくなっていくと、新しい酸素を求めて口が勝手に緩んでいく。
 唇をぬるりとしたものがなぞってくる。たぶん暁の舌だ…時が付いた時にはたまらず口を薄く開けてしまった。
 ら、ぬるりと分厚い舌が入ってきた。

 「んぁ?!」

 何とかその舌から逃れようと自分の舌で押したら、絡めとられてしまった。
 ヌルヌルと舌を絡めとられ、上顎を舌先でなぞられる。
 すると今まで感じたことがないような刺激が腰に向かって走った。

 びりびりとするその感覚が何て名前なのか私は知っていたが、たかがキスごときで…。
 え?本当に?

 だめっ!こんなのありえないっ。感じるわけない…。相手はあの…。

 次第にその舌への抵抗ができなくなっていく。
 ぐちゅぐちゅと口の中で鳴る音がどうしてか頭の中で反響する。
 びくっと肩が勝手に魚のように跳ねた。
 いつの間にか掴まれていた腕と、腰に添えられた手がゆっくりと屈んでいた私を押し倒す。
 部屋にある褥に丁度上半身が乗った。
 
 やだ…っ、この感覚、おかしくなってく…っ。

 慌てて手でそのを押した。
 すると思ったよりも大きくて、広いその肩幅に驚く。

 苦しくて、この感じる感覚から逃れたくて目を開けると、その黄金色の瞳が一つに重なって見えるほど近いことに気が付いた。
 
 「っはぁっ。はぁ…はぁ…」

 口から口が離れると、美しい相貌の男の…朧の口から突き出された舌が私の舌と銀の糸で繋がっているのが見えた。
 トロリとしたその粘着質な銀の糸はゆっくりと重力に従って私の口の中に落ちてくる。
 ぷつんっ…と切れると、朧の口がゆっくりと動いた

 「のんで?」

 おねだりをされながらスリッとお腹の上を撫でられると、勝手に喉がその混ざり合った唾液を飲み込んだ。
 コクンっと私が飲み干すと、口がだらしなくまた開いてしまう。
 口の中を見られていると思うとなんだか恥ずかしい。
 ぼぅっとしてくる…。
 
 いいえ、意識をしっかり…!
 相手はあの暁よ。
 そうでしょう?あの夜部屋の隅で震えてた少年よ。

 「あか、つき…」

 「あはっ。物欲しそうなかおやなぁ…嬉しいで。」

 もの欲しそうな顔…?

 その手が私の髪の簪を抜いて解いていく。
 結うのにあんなに時間がかかったのに、崩すのは早いのね…。なんて場違いなことを考えた。
 なんとか意識をどこか別の所に集中して。
 何とか後ろに下がる。

 すると褥の上に完全に乗った形になってしまった。
 いや、なんで自ら皿の上に乗ったのかね?っていうどこかのエロ漫画のセリフが頭によぎった。

 「なぁ何考えとるの?集中してや。」

 足と足の間に朧の足が入ってくる。
 慌てて足を閉じようとすると尻尾がしゅるりと肌けた太ももに巻き付いた。
 ふわふわな感覚に感動してしまう。

 そうそう、このしっぽに触れたかったんだよ!でも望んでいたのはこういうタイミングじゃないけど…。

 「ふ、ふわふわ…。」
 
 「何言うてはりますの?早う一つに溶け合ってしまおうなぁ?」

 え?っと思った瞬間帯を取られる。
 胸元がはだけると、私のコンプレックスのただの脂肪の塊...名付けて胸が出てきた。 
 慌てて胸元の着物を合わせようとすると、両手を暁の手で押さえつけられる。

 暁がその胸を見て顔を近づけると、息を吹きかける。

 「可愛ええ胸しとるな?あ…先端が固く立ってるで?どうしたんやぁ?」
 
 「…っどうもなってないもん!」
 
 力を込めてなんとか反抗しようとする。が、記憶の中のあの小さな細い少年の腕は現実では男らしいたくましい腕に変わっていて...。
 うんともすんとも動かない。

 暁が舌を突き出して唾液がつぅ~...っと胸の先端に落ちる。
 その感覚が先端に触れるとたまらず腰が跳ねた。

 目線が交わると、顔が熱くなる。

 (ど、どうして...!?相手はあの暁...。子供でしょう?)
 
 ふっと笑われると、その胸の先端を舌でべろりと舐められる。
 
 「んぅ…っ」
 
 ゾクッとする感覚がまた腰辺りにたまる。足が勝手に軽く曲がって、指先が丸くなる。
 焦らす様に舌でコロコロと飴を転がすように舐められ、ずっと声を我慢しながら耐えていると、途端に口の中に先端を含くまれた。

 ぢゅぅっと吸われると胸を押し付けるように上半身を弓なりにしなってしまう。
 歯でコリコリと遊ばれると、途端に潰される。

 「あぁっ!んぁ、やっ!」

 声がっ…!出ちゃうっ…!!
 
 腰にたまる感覚がだんだんと強くなる。
 言うならば小さな静電気から、確かな電流に代わった感じ。

 ずっと焦らされていた胸の先端に、まるで待ち望んでいたかのような感覚が訪れたように、体が勝手に悦んでしまっているのがわかる。
 いつの間にか押さえつけられていた手は離され、空いているもう一つの胸を片手で揉まれている。

 だめっ。嘘嘘嘘?!
 こんなの知らないっ!
 暁はまだ記憶の中では子供で、こんなっ…。
 やだっ、おかしくなるっ…! 

 こんな感じ初めて!やだっ、だめっ!!

 元カレには寧ろ「なんか感じないの?反応薄くて萎えるんだけど」って言われてフラれたんだよ?!
 なんでこんなに感じ…ううん、感じてなんかいない!
 感じるわけない…!

 シーツにしがみ付きながら、その足先にまで響く、熱いのか寒いのか分からない感覚を嫌でも受け入れてしまう。足先が丸くなり足に勝手に力がこもって、下腹の中が切なく動いているのが自分でもわかる。
 脳内に流れ込むその強い電流が脳裏をじりじりと焼いていく。

 「やっ、だめっ!なにかっ、へんなかんじ…っ!とまっ…んっあぁぁ!!」

 ガクガクッ!!と体が水揚げされた魚のように跳ねた。脳内が白く焼かれた瞬間に、頭の上を涼しいような感覚が走る。

 ガクッと腰が元の場所に落ちると、
 股にトロリとしたものが溢れたのが自分でもわかった。

 びくびくと自分の意志とは裏腹に動くその足が勝手に擦り合わさろうとするが、朧の足があるせいでそれは憚れた。
 
 「あぁ…はっ、んっ!」

  前に合わさっていた着物が開けられ、ショーツの代わりに履いている(?)下着の代わりの湯文字(ゆもじ)と呼ばれるものが出てくる。
 いわゆる紐パンみたいな感じ。腰辺りに巻いて、着物を着たときにラインが綺麗に見えるようになる優れもの。
 これ解かれたら、濡れてるってバレちゃうっ!

 シュルッと紐を解かれる。
 慌てて、力の入らない手で、その手を止めようとする。
 が、そんなのは本当に何の効力もなかった。

 じっと見られているのが分かるから、もうそこを隠すのもあきらめ、そうそうに手で顔を覆った。
 顔くらいは隠したい。

 私、今だらしない顔してる…!!
 本当にあの暁なの?
 だってあの子供だった暁だよ?なんで私を抱いてるの?

 私の膝を掴んで閉じないようにされている。
 その手が優しく太ももを撫でてくる。
 その感覚すら私に快楽をゆっくりと伝えてくる。 

 「みな…いで…。」

 「綺麗な色してはって…美味しそうどすなぁ…。」

 いきなり美味しそうと言って股元に顔を寄せたと思うと、恥部をべろりと舐められ、そのまま口を付けられた。
 舌がじゅるじゅると水音を鳴らしながら恥部を舐めるから、耳まで侵されている気分になる。

「へっ?あっ!やだっ、口付けないでっ!やっ、あぁ!ん~~~っ!」

 舐められるなんて初めてっ…!やばいっ、無理っ。
 この音やだっ!響かないでっ…!!
 そんなとこやだっ。腰勝手に動いちゃうっ…!! 

 腰がいやらしく動いてしまう、口に手を当てて、声を我慢するので精一杯になる。
 慌ててその元を見ると、金色の髪が下腹部分に散らかっている。

 耳が私の太ももに少し触れるが、すごくサラサラしている。
 モコモコではなかったようだ。

 中ににゅるりと入ってくるその異物がぴちゃぴちゃと遊ぶように動く。
 どうやら人よりも少し舌が長いらしく、奥近くまで入ってくる。
 
 ずりずりっと舌に力を入れて私が反応がいいところばかり狙って責めてくる

 「はぁっ!あぁ!!やっ、そこばっか…!んんっ!!」

 気持ち良すぎて足が勝手に閉じようとするが、頭があるせいで閉じることができない、動けば動くほど気持ちいところを舐めてくるのでその快楽を受け入れるほかない。

 だが、高まっていくその快楽は私をずぷずぷと快楽の沼に沈めてくるのは間違いなかった。
 
 (イッたばっかなのにっ。
 だめだって…!このままじゃ本当に…!
 あっ、そこ、弱いとこ!)

 芽を知っていたのかどうなのか…くいッとすこし被っている皮を剥くとそこには赤く充血して、確かに立っている芽が出てきた。
 指でぬめりと一緒に撫でてくる。
 コリコリされると腰が勝手にそれに合わせてびくびく跳ねる。

 なんとかその行動を止めようと手を伸ばし、その手を掴む。
 と言っても添えるくらいといった方がいい程力が入らない。

 下の泉が溢れる入口から口が離れると、少し顔を上げた。
 その美しい顔の口元が少し濡れていて、色っぽい。
 その黄金の瞳が私と合う。
 その舌がゆっくりとその芽に向かうのが見える。
 
 いいえ、らしい。

 「ダメッそこは本当にっ、弱いのっ!おねがい暁…!」

 その目が意地悪そうに細まった。

 「嫌や」

 短い返事とともにその舌先が芽にあたると、熱くて溶けてしまいそうになる。
 ちゅぅっとキスをされると、舌先でその芽全体を舐めて擦ってくる。
 その舌の小さな凹凸がその芽を擦ると、強すぎる快楽の電流が一気に流れる。

 (暁の舌がすこしザラザラしてるせいで気持ち良すぎる…!
 やだ、我慢しても声でちゃうっ!)

 少し尖っている八重歯がその芽を甘噛みした。
 ビクっ!!と体が跳ねる。
 その顔を触ってしまうが、強く抵抗できない。
 
 だってこの子は、あの小さな子供だった私の夜を明けさせてくれた、『暁』なんだもの。

 顔を触ったら爪や指で傷つけそうだから、またシーツを掴む。
 この子には傷をつけたくない。

 そんな私の気持ちとは裏腹にどんどんと高められていく快楽の電流は、私の体を犯し続けていた。

 「やらっ、そこっ、よわ…!だめ、イっちゃう、またイッちゃうから、とま…~~~あぁぁあ!!」

 脳裏がまた白く焼かれる。
 体がビクビクと水揚げされた魚のように跳ねる、その感覚がくる間隔が先程よりも短くなっていた。

 その芽から口を離すと、私の愛液が溢れ出ている場所に目をくれた。
 自分でもわかる、その中が欲しくて欲しくてパクパクと動いているのを。

 「はぁ…はぁ…。あぅ…。」

 指でそこの入り口を何度も撫でてくるから、たまらず腰がいやらしく動く。

 「こないに濡れとるで?糸引いてもうて…やらしい子やなぁ?」

 「んぅ!」

 ぐちゅっと指を一本入れられ、そのまま抜かれれば、透明な糸がその細くもしっかりとした節がある男性特有の指に纏わりついている。

 目を離せない。
 その指を私に見せると、うっそりと笑った。

 顔が一気に熱くなる。慌てて目を背けるとまたその切なくなっている入り口をぐちゅぐちゅと触れてくる。
 
 「ひくひくとヒクついてそないに気持ちええんか?嬉しいわぁ…そのままぐずぐずに溶かししたるからなぁ…おきばりやす。」

 ゆっくりと中に何か細いものが入ってきたのが分かった。
 暁の指だ。
 グチグチと動くその指が中で蠢く。 

 「痛くないようにせぇへんと…気持ち良うしたる。」

 「やっ、だめっ、イッたばっかなのっ!な…かっ、かき、まぜないでっ!」

 泉のように湧き出る愛液は、暁の指によく絡む。
 太ももの内側はもうトロトロになった愛液が付いている。
 
 中に指が...中はあんまり感じなかったタイプだし、大丈夫なはず…。
 そもそも私は感度が低い女なんだから…。

 一瞬気を取り直そうと、快楽で焼き切れ始めた脳内で一生懸命に思考を回し、理性を保とうとする。

 (あ?!そこ、変な感じする...。え?嘘でしょ、やだっバレない様に…。
 やだ、体が勝手に跳ねて…だめ、バレちゃったかも!そこは…)

 「誤魔化さんでええんやで?たぁんと良うしてやるからな。…ここやな、集中して?」

 指が私が一瞬違和感を感じた一か所を集中的に弄ってくる。
 ぐちゅぐちゅとなる音が部屋に反響する。
 抵抗もできず、口元を覆っていた手すら、次第にシーツを掴んでその快楽の感覚に集中してしまう。
 
 「思ってること、口に出してええんやで?気持ちええか?」
 
 「気持ちよくなんか…なぃ…。んぅ、あぅ、あっ!はぁっあ…!」

 「早う気持ちよくなって欲しいから、イイところ探してもええか?」

 「え?やっ、だめっ、そんな同時に!」

 指を中で動かしながら、胸をパクっと口に入れられた。
 開いている手で芽をコリコリと弄られる。

 「あぁっ!すぐイッちゃうっ、むり、ぁあ゛あぁ!!ンッ~~っね、も、イッたからとまっ、や、だ…イッてる、イッてるっ!!!んっ~~~あぁぁっ!!」

 イッているのに、止まることなく愛撫される。
 ずっと地に足がつかない感覚で、快楽のてっぺんから降りられないせいで、怖い。
 シーツにしがみついているけど、私、どこにいるのかさえ分からない。
 ずっとイッてる感覚が続いているせいで、頭がおかしくなる。

 お腹の奥、途端に中がぎゅうっと熱くなると何かが溢れ出た。
 中から溢れ出るそれは世にいう「潮吹き」だ。

 やだ...潮なんて初めて吹いちゃ…。
 嘘、暁の前でなんて粗相を…!

 「やっ、暁ごめんなさ…粗相を…」

 言葉がうまく出てこない。
 どうしよう。嫌われたかも。
 ううん、もともと嫌われてたと思ってたんだから…。
 はやく、暁に水を飲ませて酔いを醒まさせないと、後悔しちゃうよ。
 私はどうなってもいいけど、暁が傷ついて悲しむのは嫌。
 だって暁はまだ子供…。

 (子供…?)

 「潮吹いちゃったんやな?気持ちよくなってええこやなぁ。」

 そのこの世の者とは思えないほどの美しい尊顔の顔がまた近づくと、キスをされる。
 優しく頭を撫でられるのを受け入れてしまう。

 おかしいな…どうしてこんなに大きくなって…。

 目の前でキスをして、体に触れてくるのは記憶の名ではまだ幼い子供ののはず..。
 だというのに、体に快楽を与えてくるこの美丈夫は間違いなくのものだ。

 ふわふわと揺れる黄金の尻尾が部屋の明かりで照らされていて、太陽っていうよりは今は満月の色に似ているなぁなんて思った。

 夢の中ではまだ柔らかい子供の手が、いつの間にか現実では男の人の手に代わっている。
 腰やおなか周りを撫でられると、びくっと反応してしまう。

 口の中に入ってくるその舌も、私は嫌じゃなくて…。
 シーツにしがみついていた手が自然と暁の肩に添えられる。

 (キスってこんなに気持ちいいんだ…。)

 キスに夢中になっていると考えていたことまでどんどんと靄がかかって分からなくなっていく。
 愛液があふれ出る泉の入り口に何かが当てられたのが分かった。
 ぬぷぬぷと浅い当たりで出し抜きされている太くて熱い…硬いもの。

 処女ではないのに、おかしいな…入り口が狭いのだろうか、何度も出し抜きされると勝手に出ていかないでと言わんばかりに締め付けてしまう。
 キスされているせいで声を出せない。

 「んぅ、ぁん、ん~~!」

 ズブズブと入ってくるその熱くて硬いものは暁の核心に違いなかった。
 入ってくるその感覚は久々で、少し痛みを伴っている。
 気持ちよくて動いてしまう、腰が上がらないようにしっかりと抑えられているから、逃げられるわけもなく、その核心を受け入れてしまう。
 
 (太いっ…え?苦しっ…!入口痛いかも…ううん、なんか全体的に引き延ばされる感覚がっ…!
 こんな太いなんて聞いてないっ!熱いっ、だめっ、奥は…!)

 比べるなんて最低な行為だが、一、二回ほど経験したことのあるあの圧迫感と比にならないほど苦しい。

 個人差があるのは知っていたが、ここまで太いのはある意味凶器なのではないだろうか?本当の処女なら今頃泣いているに違いない。
 処女だったら大泣きしているか、その痛みで気絶しているかもしれないと大げさだけど思う。
 ぎちぎちに入ってくるその熱くて硬い核心が、処女ではないというのに、中を押し広げながら奥まで入ってくる。
 
 え?まって…!?まだ奥に入ってくる…!無理無理無理!!
 そんな奥ないっ…!!

 奥だと思っていた場所を通り越し、その奥の壁を押し上げながら、まだ入ってくるその核心はゴツッと何かにあたって止まった。子宮口だ。
 奥に触れた瞬間に、押し広げられていた痛みよりも深い…体に今までとは違う腰が重くなるような快感が襲った。
 たまらずキスをしている口から声が出る。

 「んぅ~~ぁ!!!」

 口が離れると、たらたらと銀の糸が繋がっていて、重力と一緒に口の中に降ってくる。
 キスでその銀の糸を切られると、私は口に入ったその唾液をコクンと飲み込む。
 その唾液がのどに入っていく瞬間すら気持ちよく感じるのだから、どうしようもない。
 
 「奥まで入った…ようやく繋がって…。」

 下腹がその暁の核心の形が分かるほど、ぽこっと膨らんでいる。
 お腹の上から触られると、ゾクゾクとした感覚が子宮にそのまま届く。
 すこしゆるりと腰を持たれて動かされると、ゴツゴツと子宮口に擦り付けられる。
 その瞬間、熱い電流が激しく体に流れる。

 「だめっ、この感覚、しらなっ!やぁ、動かないでっ!」

 こんな深い感覚私知らない!
 やだっ、入ってるだけで中のいいところ全部当たってる…!
 奥だめっ、ずっと熱を持ってて…。
 溶けちゃうっ!!

 「あかん。しっかり感じて?」

 耳元でそっと囁かれる。
 その声はテノールよりも少し低い心地よい低音で、その声すらお腹の奥に響く。

 もこもこの金色の耳が私の頬に触れると、首元に噛みつかれた。
 ぬるっという感覚が首に感じると、ぢゅっと吸われて痕をつけられた。

 腰を持たれて、ゆっくりと前後に動き出す。
 前後に動くとなかの探し出されたイイ所が全部擦れる。
 一番奥をぱちゅんっぱちゅんっと水音を含めながら何度も穿たれる。

 「あっ、あっ、あっ…!!」

 その規律よい動きに合わせ、乾いたパンパンッと合いの手がなる。
 部屋に反響するその音は、私が快楽に狂うのを助長しているようだ。
 体から汗が出て、汗で髪の毛が額にへばりつく。

 こんなに美しい人を相手に、私が...汗まみれで口からいつもよりも粘着質になった唾液が垂れる女が抱かれているのだろう。

 「あぁっイク、イクっ!とまっ、~っ!!」

 「俺もイきそっ…んっ!!」

 「~~~ぁぁぁあっ!!」

 ガクガクガクっと今までで一番深い快感が脳裏を焼く。
 腹の奥で熱い何かが吐き出されると、その熱が中を焼いて、溶けていく。

 はぁはぁと息切れが止まらない。
 心臓がバクバクと音を鳴らしている。

 奥に出された熱がぐりぐりと子宮口に擦り付けられるように擦られる。
 その感覚すら快楽になってイッたばかりの体が痙攣を起こす。

 目の前の記憶の中の少年の面影を残している、その美しすぎる相貌を持つそのが上着を脱いだ。
 息切れをしているのは彼も同じなのに、なんだか余裕そうだ。

 「もう一回…ヤろうや?」

 はいもいいえも言えずにその口を塞がれる。
 体には傷の後のような皮膚が少し強張っている線がいくつもあるのが見えた。

 その傷を撫でていると何を勘違いしたのか、嬉しそうに「もっと俺に触れて?」と抱き着いてきた。

 尻尾がぶんぶんと振られていて、やっぱり犬みたいだなぁ…と思った。
 まぁ、犬だなんていったら怒られそうなので言わないけど。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 途中で意識を失って、目を開けたら見たこともない豪華な部屋で目を覚ました。

 え?ここはどこ?私は…桜って名前の女だね。

 お決まりの台詞は半分冗談で、半分本気だ。
 自分のことは覚えているのに、場所が本気で分からない。

 暁は…?全部夢だったの?

 体を起こそうとしたら、腰のや股に残る違和感にあれは現実だったのだとつたえてくる。

 今着ている着物は上等な布が使われているのだと一瞬で分かるほどの逸品。
 いつのまに着替えさせられたのだろう…?

 「あ、簪…どこに…。あ!よかった!」

 簪がないことに慌てたが、枕元に置いてある木箱を少し開けたら、暁がくれた簪が入っていた。
 よかった、壊れてない…。

 簪を抱きしめてほっとしていると、夜のことを思い出した。

 あんな子供だと思っていた暁が大人になって…それで私を抱いて…。
 え?私、お酒を飲ませて襲わせたの?

 恥ずかしくて死にそうだが、その前になんだか罪悪感が酷い。

 (私なんてことを…!しかも廓言葉も飛んで…。廓言葉を教えてくれたお姉さま、出来が悪い妹分でごめんなさい…!)

 あぁ、私警察に自首しよう。未成年に手を…って未成年なのかな?

 でも今頃暁はお酒から目を覚まして私との夜をめちゃめちゃ後悔していそう…。

 だって異世界人嫌いだったもんね。
 あれ?『愛してる』って言われたんだっけ?
 いや、あれは嫌いじゃないってことを伝えるための…。

 ん?なんか訳分かんなくなってきたぞ?

 「とりあえず…ここどこなの?」

 妓楼ではないと思うんだけど…。
 どこなんだろう。私遊女になったんだから勝手に出てきちゃいけないんじゃないの?
 足抜けって恐ろしい罪なんじゃ…。

 もしかして捕まったのかな?っておもったけど…。

 「でもなんでこんなに豪華なの…?」
 
 豪華な部屋はお城で居候させていただいたあのお部屋よりも豪華だ。
 え?お城よりも豪華っていいの?

 部屋の中には桜の絵や、桜が刺繍されている美しい羽織が飾られている。
 褥も褥の下にふかふかのマットレスみたいなのが二つも重ねてられていて、まるで骨組みがないベットみたいだ。
 部屋に飾られている花も桜…。

 「桜だらけ…!綺麗…。」
 
 化粧台があるから女性用の部屋なのだろう。本棚もある!あんまり女性の部屋には本棚がないって聞いてたのに…!

 「わぁ!詩集や絵、和歌などの本から、文字の手習い書まである。」

 刺繍の本もあるじゃん!素敵!前異世界に来た時に刺繍が好きになったんだよね。
 あれから日本に帰ってもしばらく刺繍は趣味でしてたっけ…。
 あんまりしなくなったけど、刺繍したくなってくるなぁ!

 いけない、いけない…!
 他人の部屋を物色するなんて泥棒なの?
 窓をみつけ、近づくと、格子のようになっていた。
 その隙間からは美しい庭が見える。

 「うん、妓楼ではないのは確かだわ…。」

 
 ぐぅぅっ

 お腹が鳴った。
 
 「だめだぁ…。お腹空いちゃった…。出歩くのはよくないだろうけど、廊下に誰かいないかな?」

 私は廊下に顔を出した、誰もいないようだ。
 
 「うぅ...、ごめんなさいっ少し歩くだけだからっ!」

 ひらひらと春でもないのに桜の花びらが部屋の窓の格子の隙間から舞い込んだ。

 花弁が床につくと淡く黄金に一瞬光ったが、そんなことには気が付かず、食事を探しに廊下に完全に出た私は部屋の戸を閉めた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

一妻多夫の獣人世界でマッチングアプリします♡

具なっしー
恋愛
前世の記憶を持つソフィアは、綿菓子のような虹色の髪を持つオコジョ獣人の令嬢。 この世界では男女比が極端に偏っており、女性が複数の夫を持つ「一妻多夫制」が当たり前。でも、前世日本人だったソフィアには、一人の人を愛する感覚しかなくて……。 そんな私に、20人の父様たちは「施設(強制繁殖システム)送り」を避けるため、マッチングアプリを始めさせた。 最初は戸惑いながらも、出会った男性たちはみんな魅力的で、優しくて、一途で――。 ■ 大人の余裕とちょっと意地悪な研究者 ■ 不器用だけど一途な騎士 ■ ぶっきらぼうだけど優しい元義賊 ■ 完璧主義だけど私にだけ甘えん坊な商人 ■ 超ピュアなジムインストラクター ■ コミュ力高めで超甘々なパティシエ ■ 私に一生懸命な天才年下魔法学者 気づけば7人全員と婚約していた!? 「私達はきっと良い家族になれます!」 これは、一人の少女と七人(…)の婚約者たちが、愛と絆を育んでいく、ちょっと甘くて笑える逆ハーレム・ラブコメディ。 という異世界×獣人×一妻多夫×マッチングアプリの、設定盛りだくさんな話。超ご都合主義なので苦手な人は注意! ※表紙はAIです

獣人たちから溺愛され過ぎてます

間木
恋愛
気がつくと異世界でひとり倒れていた葛城梨花。 偶然出会った狼の獣人アルベルトと行動を共にしながら色んな獣人たちと出会い、成長し、ついでに溺愛執着されていくお話。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

一般人のふりをする御曹司が、私にだけ妙に懐いてきます

星乃和花
恋愛
地味で目立たないOL・相沢澪には、人に言えない趣味がある。 それは、御曹司・財閥・富豪が登場するコメディ小説を読むこと。 特に大好物なのは、ヘリ移動、やたら広い家、常識のズレた金持ち仕草――そしてライオンなど大型動物との暮らしである。 そんな澪の前に現れたのは、自称“世間知らずの一般人”こと高瀬恒一。 だがこの人、どう見ても一般人ではない。 緊急時はヘリで移動し、やたら距離感が近く、しかも大きな猫まで飼っている。 周囲が引くなか、なぜか澪だけは「まあ、そういうこともあるか」と受け止めてしまい――そのせいで高瀬に“理解者”認定され、どんどん懐かれることに!? 規格外な彼と、隠れ御曹司オタクOLの、爆笑多めでちょっと甘いラブコメディです。 (完結済ー本編9話+後日談)

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。