眠り姫の憂鬱~私が視えるのはお前だけかよ?!~

ほりとくち

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5.抜け出した肉体

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「危険だから部屋に戻っていなさい」

 ぴしゃりとお父様が言った。
 しかし遠ざかる足音は聞こえず、代わりにパタパタと雫の落ちる音がする。

 ああ、また泣いている。
 可愛い私の天使が泣いている。
 妹に対して醜い嫉妬の念を抱いていたのも忘れて、私はいつの間にかまた呪文を唱えていた。

( 花吹雪 )

 魔力の少ない私が唯一得意だった魔法だ。
 近くの花びらを空中に舞わせるだけで、何の役にも立たない魔法だけど、イレーヌはこれを大層気に入ってくれていた。

 泣かないで、可愛い笑顔を見せてちょうだい。

 ベッド脇の花瓶には、毎朝メイドが新しい花を生けてくれる。
 その瑞々しい花びらは、絶望の底にいる私を慰めてくれる数少ない癒しだ。

「……わぁ……!」

 イレーヌが感嘆の声を上げる。
 どうやら無事に魔法は発動したらしい。

 この魔法は何度も見ているはずなのに、イレーヌは毎回、こうして新鮮な反応をくれる。

 ああ、その笑顔が見たい。
 そう願っても、私の視界はイレーヌを捉えることができない。
 せめてもっと近くに来てくれれば、そう思いつつも伝える術を持たないことが悔しい。
 ああ、私にすべてを見通せるような力があれば……。

(そう、例えば 千里眼 みたいな)

 あ、れ……?
 そう思い浮かべた途端、ふわりと意識が浮く感覚がした。
 なにこれ、なにこれ、なにこれ!
 私の体はベッドに横たわったままなのに、精神だけが浮遊しているかのようだ。

 動ける。
 一番の感動はそれだった。
 久しぶりの自由!
 精神体だけとはいえ、体のすみずみまで思うがまま動かせることがうれしくてたまらない。

 歓喜のままに、思わずその場でくるくると飛び回る。
 空を飛ぶのは初体験だけど、高揚感のおかげか、今の自分が精神体だと自覚しているためか、恐怖心はなかった。

 そうだ、イレーヌ!
 我に返って、愛しい妹にふわりと近づく。
 無数の花びらに囲まれるさまは、さながら花の精のようだ。
 あまりの愛らしさに、そうっと手を伸ばす。
 しかし私の指先はイレーヌの身体を当然のようにすり抜けてしまい、触れることは叶わなかった。

「お姉様……!お姉様の魔法だわ!」
「そんな、まさか……!」

 泣きながら笑うイレーヌに対して、両親は顔を真っ青にしている。
 お前たちが見捨てた娘は、まだこうして魔法を使えるんだぞ。
 そう言ってやれた気がして、少しだけ胸がすっとした。

 そういえばセオルは……?
 どんな反応をしているのか気になって振り返る。

 あれ?

 私はすぐに首を傾げた。
 周囲の反応からして、私の精神体は視認されていないはずだ。
 それなのに、どうしてだろう。
 彼とはまっすぐ目が合っているような気が……。

「は?」

 目を大きく見開いて、呆けたような顔をして彼が私を見ている。
 思わず溢れたであろう動揺の声は、先程までの甘ったるい声と比べるとずいぶん低い。

 セオルと目が合ったことへの戸惑いと驚きから体の制御がうまくいかず、私の精神体はふわりと浮かび上がった。
 その拍子に、寝間着の裾がめくれ上がりそうになって、とっさに両手で押さえる。
 しかしなぜか余計にバランスが崩れてしまって、気づくと視界が反転していた。
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